第45話、訓練と特訓

 筋力トレーニング部門。

 現在、俺とレノと新入生数名で走り込みをしていた。

 ここはその名の通り、身体を鍛える場所。冒険者たるもの身体が大事ということで、とにかく鋼の肉体を作ることに特化した部門だ。

 筋力トレーニング部門の歴史は古く、専門のトレーニング機器やグラウンドもある。

 まずは軽い走り込み。そして本格的な筋力トレーニングに入る。

 走り込みを終え、呼吸を整えるつつ整列。

 筋力トレーニング部門の教師、マキシム先生がニカッと笑った。


「今年も大勢来てくれて嬉しいぞ。ふふふ、鍛えがいがある!!」


 浅黒い肌。ムッキムキの身体はシャツを引き千切らんばかりに膨らんでいる。

 

「先輩のように、そして私のように、凄まじい筋肉を目指して精進しろよ? では、筋肉開始!!」


 筋肉開始? とは誰もツッコまない。

 先生は上級生の指導。俺たち新入生には先輩が指導する。

 二年生の先輩、エイジャス先輩はウンウン頷く。


「さ、一年生のみんな。今日は下半身を重点的に鍛えるトレーニングをしよう。女子はエイシャが教えるからそっちに移動して!」

 

 女子を教えるのはエイシャ先輩か。あっちで手を振ってる。

 俺とレノは、エイジャス先輩の元へ向かった。


 ◇◇◇◇◇


 放課後、俺はリンドブルムと離れ小島にいた。


「『闘気精製ドラゴンスフィア』───『黄金槍』!!」


 俺は『龍人変身』形態で『闘気精製』した黄金の槍を何本も作り、リンドブルムに向かって投擲する。だが、リンドブルムは口を開け、黄緑色の闘気を吐き出し一瞬で塵に変えた。

 俺の左腕は、闘気を生み出し物質に精製する左腕。だが、今のリンドブルムにはまるで通用しない。

 俺は右腕に力を込める。闘気を込めると腕は巨大化、さらに伸びるようになった。


「『龍人掌ドラッケン』!!」

「おおー」


 巨大化した右の拳がリンドブルムを襲う。

 だが、リンドブルムはその手を片手で受け止めた。


「まだ弱いし、闘気の込め方が甘い。人間は倒せてもドラゴンは倒せない」

「くっ……」


 すると、限界を超えたのか俺の変身が解けてしまった。

 がっくりと膝を突き肩で息をすると、リンドブルムが俺の頭をポンポン叩く。


「でも、よくなってる。リュウキがパパの力を引き出せる限界値を100%だとすると、25%は引き出せてる。『龍人変身ドラゴライズ』は四分の一クォーターってところだね」

「…………」

「もっと強くなって。お兄ちゃんに、殺されないように」

「……そのお兄ちゃんって、どんな奴なんだ?」

「…………」


 リンドブルムがうつむいてしまう。

 あまり触れてはいけないことのようだ。だが、リンドブルムは言う。


「パパが産んだ八体のドラゴン……わたし以外みんな、パパのこと嫌ってた」

「パパが、産んだ?」

「うん。たまご」


 それ、ママなんじゃ……ツッコむべきなのかな。


「パパ、わたしたちのことすごくかわいがってた。わたしもパパが大好き。でも……ほかのみんなは違った。パパは強いって思ってるけど、無益な争いを好まなかったパパのこと、嫌ってた。で……ある日、お兄ちゃんの一人が、他のドラゴンと大喧嘩しちゃって、そのドラゴンが一万の軍勢を率いて、パパのところに来たの」

「い、一万……」

「そのとき……わたしが、傷付いちゃったの。パパ、本気で怒った。ひとりで、一万の軍勢を焼き尽くした。わたし、怖かった。お兄ちゃん、お姉ちゃんも怖がってた。だけど……同時に、その力を欲しがったの」

「え……」

「その戦いで、パパはすっごく傷ついた。寿命も削って、いつ死ぬかわからなかった。ある日、パパがいなくなった……どこかにいっちゃった。そこでリュウキと出会ったの」

「…………」

「わたし、パパに謝りたかった。ごめんなさいって……」

「…………」


 俺は、リンドブルムの頭を撫でた。

 この子は、責任を感じているんだな。


「お兄ちゃん、お姉ちゃん。きっと、パパの死を感じてる。パパの力欲しがると思う……だからリュウキ、パパの力、守って」

「……お前は、欲しくないのか?」

「いらない。わたしは、パパの力より、パパの力を受け継いだリュウキが好きだから」

「……ありがとう」


 この子のためにも、俺は強くならないとな。


「よし!! リンドブルム、もう一回頼む!!」

「うん。リュウキ、死なないでね」

「お、おお……」


 特訓は、門限ギリギリまで続いた。

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