第23話、闘気の拳

 平均、1000~3000の魔力量。

 平均、3000~4000の攻撃力。


「ふぅ~ん……」


 ミランダは、それぞれの名前、魔力量、攻撃方法や武器、ユニークスキルなどを確認する。

 豊作。この一言しかない。魔力量、攻撃力共に高水準だ。現在、学園に通っている上級生でも、これほどの実力を持つ生徒は全体の六割くらいしかいない。

 中でも突出しているのは六人。


「キルト。この子は別格ね……アピア、レイ、プリメラは同格ってところかしら。あと二人もいい線いってる。キルトは膨大な魔力とスキルがいい相性みたい。ユニークスキルじゃないみたいだけど……まだ十五歳よねぇ? まぁいいわぁ。それと、アピアちゃんは才能の塊みたいな子ね。レイちゃんは才能と努力の子。プリメラはスキルに依存した強さ。まぁ、強いのに変わりないし……」


 他の生徒も、なかなか悪くない。

 今年の受験生は総勢千名。全員合格でも構わないとミランダは思っている。

 経験を積めば、いい冒険者になれるだろう。


「クラスの振り分け、面倒くさいわぁ」


 アマンダは、受験生の技を見ながら小さく呟く。

 そして……最後の一人。


「……んん?」


 リュウキが舞台に上がり、魔力量を測定する。


『魔力量・85』


 今までの受験生たちが優秀過ぎたのか。

 魔道具の故障、ミランダは本気でそう思った。


 ◇◇◇◇◇◇


「ぷ……ぎゃぁぁっはっはっは!! ま、魔力量……は、85ぉ? おいおい、雑魚が何しに来たんだっての!!」


 キルトが叫ぶと、周りの受験生も笑いだす。

 笑いは伝染し、受験生の大半が俺を嘲笑った。

 そうか。これ……『魔力』を計る魔道具だ。『闘気』は計れない。きっと、俺の中にある搾りカスのような魔力に反応したんだ。

 すると、レイが叫ぶ。


「あり得ない!! 魔道具の故障よ!! もう一回計りなさいよ!!」

「は、はい」


 審査員がもう一度測っても、魔力量は85のままだ。

 

「おいおいおい、これ失格じゃねぇの!!」

「そうだそうだ!!」「キルトさんの言う通りよ!!」


 ブーブーと、「帰れ!! 帰れ!!」とのコールが巻き起こる。

 レイが何かを叫ぶが声が掻き消されて聞こえない。

 アピアも心配そうに俺を見ていた。

 俺は全てを無視し、ミランダさんに聞く。


「あの、攻撃力を計っていいですか?」

「いいけどぉ……大丈夫?」

「はい……あの、本気でいいんですか?」

「ええ。そうじゃないと、試験にならないから」

「……わかりました」


 ド肝抜いてやる。

 俺はゆっくり聖岩に近づき、そっと手を当てる。

 ひんやりツルツルした綺麗な岩だ。

 俺は拳を構え、静かに集中する。


「スゥ───……」

「ぎゃぁぁっはっはっは!! 何しても無駄だ無駄!!」


 全身に闘気を纏う。 

 温かな闘気が全身を包み込む……その闘気を、右手に集中。

 全ての闘気が右腕に集まった。服の下で、腕に鱗が生えている感覚がする……これ以上はまずい。

 

「……えっ」


 ミランダさんは何かに気付いた。

 圧力と言えばいいのか。目には見えない『力』が、集まっていく。

 エンシェントドラゴンの力を、目の前にある聖岩に……叩き付ける!!


「『真龍拳エンシェント・BREAK』!!」


 『龍拳』よりも強い、今の俺に出せる最強の拳。

 力を溜めるのに時間がかかる弱点があるけどな。

 すると───……聖岩に、亀裂が入った。


「うそ」


 ミランダさんが言うと、聖岩が砕け散った。


「っつ……っはぁ、いてぇ」


 拳から血が出ていた。

 だけど、やった。壊してやったぞ。


『攻撃力・測定不能』


 こうして、俺の入学試験は終わった。


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 聖王国クロスガルドにある豪華絢爛な教会。

 ここは、真龍を祀り崇める『クロスガルド・エンシェント教』の総本山。『真龍聖教』という宗教を普及する、歴史ある教会である。

 この『真龍聖教』の枢機卿、リンドブルムはベッドから飛び起きた。


「今のは───……」


 間違いなく感じた『闘気』

 懐かしい闘気だった。もう、感じることはできない闘気。

 

「───……パパ?」


 リンドブルムは裸だった。

 十四歳ほどの少女にしか見えないが、エンシェントドラゴンによって生み出された伝説の『八龍』の一体にして、人の世界で暮らし、エンシェントドラゴンがいかに素晴らしいかをヒトに教えている。

 裸のまま窓を開け、クンクンと匂いを嗅いだ。


「……うそ、パパ? パパ? パパの匂いっ!?」


 リンドブルムはポロポロと泣きだした。

 こうしてはいられない───……すると、ドアがノックされ、侍女が入ってきた。


「リンドブルム枢機卿、今日の予定は「ごめん今日はお休み!!」……え?」

「わたし、行かなきゃ!!」


 リンドブルムはローブを掴み、教会の最上階にある私室から飛び出した。

 

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