第三章

第21話、入学試験

 聖王国クロスガルドへ到着して数日後……ついに、聖王国魔法学園の入学試験当日となった。

 ルイさんが、入学試験手続きを全てやってくれた。

 ホクホク笑顔でこんなことを言っていた。


『いや~……オークションにドラゴンの牙を登録したら、もう大反響さ! くぅぅ~……白金貨五千枚からのスタートなんてありえなくないか!? スタート価格を聞いた時は盛大に吐いちゃったよ!!』


 本当に吐いたのかはわからないが、その場にいなくてよかったとは思う。

 俺は、動きやすい冒険用の服に着替え、腰にミスリルソードを差す。

 部屋のドアがノックされ、レイが入ってきた。


「準備、できた?」

「ああ」

「じゃあ行くわよ。待ちに待った入学試験へ!!」


 試験勉強はバッチリ。

 実技もイケる。新しい技も開発したし、自信はある。

 問題は、実技試験の内容だけどな。

 ルイさんに出発の挨拶をしに行くと、ルイさんもおめかししていた。


「兄さん、何カッコつけてんの?」

「お前な……まぁいい。実はこれから不動産に行くんだ。ふふふ、新しい店の候補を決めてくる。それと、卸業者に挨拶もしないとな」

「そういや兄さん、業者といろいろやり取りしてたわね」

「まぁね。ここで商売するなら地盤を固めないと。ふっふっふ。ドラゴンの牙を出品した若き商会の青年として、少し有名になってるんだ。昨日だけで、十を超える業者が挨拶しに来たよ」


 すると、レイが俺に耳うち。


「調子乗ってるわね……そろそろ、痛い目に合いそう」

「聞こえてるぞ。全く……実の兄に言うセリフか?」

「でも、マジで気を付けてよ? あたしもリュウキもいないんだから」

「わかってる。護衛を冒険者ギルドで雇ったから大丈夫だ」

「え、そうなの?」

「ああ。たまたまA級冒険者が空いててな」

「A級冒険者!? わぁ、会いたいかも」

「おい、そろそろ行かないと」

「あ、そっか。じゃあ兄さん、気を付けてね!!」

「ああ。リュウキくん、レイ、合格したらパーッとやろう」


 ルイさんに別れを告げ、俺とレイは聖王国魔法学園へ向かった。


 ◇◇◇◇◇


 聖王国魔法学園。

 俺とルイは、巨大な正門を見上げていた。


「ここが、聖王国魔法学園……」

「入学試験は……お、あっちで受付してる。行くわよ」

「ああ、わかった」


 受験票を取り出し、受付へ並ぶ。

 大きな看板に『受付を済ませた受験生はこちら』という案内看板があったので進むと、大きな講堂へ出た。

 受付をした順から座っていいようなので、適当に座る。

 俺の隣はレイ。講堂内は静かだったので、ボソボソ言う。


「けっこう強そうなのいるわね」

「みんな冒険者なのかな」

「さぁ? でも……あたしの相手になりそうなのは、あんまりいないかも」


 レイはスッと目を細め、周囲を見渡す。

 確かに、あまり───……。


「…………」

「ん、どうしたの?」

「…………な」

「リュウキ? おーい?」

「…………」

「緊張してんの?」


 バカな。

 なんで、あいつが……あいつらが、ここにいる。


「……キルト、プリメラ」

「は?」

「……なんで、あいつらが」


 俺の視線の先にいたのは、義弟キルト、元婚約者プリメラだった。

 俺には気付いていない。

 だが……プリメラの距離は、キルトに近い。まるで愛し合っているような距離だ。


「リュウキ、どうし「悪い、静かにしてくれ」……え」


 俺はレイの口をそっとふさぐ。

 ゆっくり離すと、レイは小声で言った。


「……どうしたのよ」

「……義理の弟と、元婚約者がいる」

「えっ」

「どうして、この学園へ……」


 頭をチラつくのは、イザベラの醜い顔だった。

 頭を切り替え、試験に集中する。

 問題用紙、解答用紙が配られ試験開始。

 まずは筆記───……うん、予習したところばかりだ。筆記は何とかなりそうだな。

 

 筆記が終わり、次は実技……さぁ、どんな課題かな。


 ◇◇◇◇◇


 実技は、学園の訓練場で行うようだ。

 筆記後、すぐに試験会場となる訓練場へ……というか、訓練場広いな。

 まるで闘技場のようだ。中央に巨大な舞台があり、舞台を囲うように観客席がある。

 その舞台の上に、巨大な透き通る宝石が鎮座していた。

 でかい、デカすぎる。全長十メートル、幅も同じくらいありそうだ。

 全員の注目を集める巨大宝石。すると、訓練場の門が盛大に開き、一人の女性が現れた。


「今年の受験生は……ん~、豊作ねぇ」


 男子は目を反らす者が大半だった。俺も反らす。

 それくらい、現れた女性は……その、格好が怪しい。

 肌の露出が多い。肩がむき出しで、胸の谷間が見えている。スカートも短いし、深いスリットが入っているため……その、見えそうだ。

 女性は男子の反応に満足したのか笑顔だ。女子は嫌悪しているが。


「ふふ。はじめまして。私は実技試験官のミランダよ」

「み、ミランダ!? え、S級冒険者の!?」


 レイが叫ぶと注目され、レイは縮こまる。

 ミランダさんは、クスクス笑う。


「ふふ、嬉しいわねぇ。さ~て、実技試験の説明をしま~す。まず、一人ずつ魔力量を測ります。そして、みんなが気にしているこの巨大な宝石……『聖岩』に、全力で攻撃しちゃってください。すると、攻撃力が表示されます。一定の攻撃数値を超えればクリアとなりま~す!」


 なんというか……簡単だった。

 もっと難解なのを想像していた。

 すると───挙手する受験生がいた……キルトだ。


「オレからやっていいですか?」

「いいよ~? 最初だから緊張すると思うけど、がんばってね。ああ、やり直しはできないから」

「はい。フフフ……」


 キルトは、別の審査員から魔力量チェックを受けた。

 すると、魔道具にキルトの魔力量が表示される。


『魔力量・35000』


 この数値に、受験生たちはどよめく。


「さ、三万!?」「大賢者レベルじゃねぇか」「なんだあいつ」

「どこの貴族?」「ね、チェックしておこう」「すっげぇ」


 くそ……元は、俺の魔力だ。

 ミランダさんが感心していた。


「すごいねぇ。一般人、平民の魔力は平均して30~50くらい。貴族でも平均300くらいなのに。いや~すごいわぁ」

「で……攻撃していいんですか?」

「うん。ああ、結界張るから舞台に上がって」


 キルトは舞台に上がり、両手を宝石に向ける。

 静かに詠唱を始め───……叫んだ。


「地水火風魔法、『エレメンタルノヴァ』!!」



 キルトの正面に四色の魔法陣が展開。地水火風の属性を持つ、極太の光線が発射。

 宝石に直撃した。

 驚いたことに、宝石には傷一つない。キルトが舌打ちをしたのが聞こえた。

 そして、魔導画面に攻撃力が表示される。


『攻撃力・12000』


 再びどよめく。

 1万超えが凄いのか、俺にはわからない。


「すごいすごい! 新入生は500を超えればすごい方なんだけど……きみ、完全に規格外だね! 実技、文句なしの合格だよ!」

「ありがとうございます」


 キルトは、尊敬の視線を浴びていた。

 間違いなく、新入生最強レベル。

 そして、ついに。


「……ん?」

「!!」

「……は、くはは!! あれぇ? あれれ、なんでここに?」

「…………」


 キルトが俺に気付き、ニヤニヤしながら近づいてきた。

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