第17話、筋トレ

「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ……ふぅぅ」

「ちょっと。晩ご飯……って、何してんの?」

「腕立て……っと」


 俺は腕立てを中断し、立ち上がる。

 うん。まだまだ余裕だ。基礎的な体作りは、公爵家にいたころも毎日やっていた。

 レイは、何やら怪訝な目で見ている。


「いきなりの腕立てね……あんた、トレーニング方法変えたの?」

「変えたというか、これからは筋トレメインでいく。もちろん、レイとの勉強や魔力操作の鍛錬も続けるぞ」

「今更だけど、あんたって真面目よね。ほら、ご飯」

「ああ」


 今日はルイさん特製の野菜シチューだ。

 栄養たっぷりで身体にもいい。勉強疲れと腕立て疲れで三杯もおかわりしてしまった。

 食事を終え、片付けをしようとするとルイさんが言う。


「ここはぼくに任せて、きみは勉強するといい」

「でも」

「いいって。大事な受験生に手伝いなんてさせられない。それに、聖王国へ行けるのはきみのおかげでもあるからね。ゆっくりしてくれ」

「お、俺のおかげ?」

「ああ、言ってなかったね。実は、うちの商会に支店を出す計画があってね……資金的な問題だったんだが、きみのくれた『ドラゴンの牙』を競売に掛ければ、なんとかなりそうなんだ」

「そうなんですか?」

「うん。聖王国の土地、建物は高くてね……あそこに支店を出せれば、うちの商会は安泰なんだ。それに、聖王国支店の店長はぼくだしね」

「ルイさんが、支店長!?」

「ふふふ。これも全てきみのおかげさ。もし、うちの支店が出たら御贔屓に」

「兄さん、ご飯の後に商売の話やめてよ。リュウキ、ちょっと休んだら試験勉強するわよ」


 レイは、荷車の幌を閉め、魔導カンテラを付ける。

 ちなみに、荷車はレイ、俺とルイさんはテントで寝る。


「まぁ、そういうことで。きみとレイは試験勉強を頑張ってくれ」

「わかりました。でも、何か手伝えることがあったら言ってください」

「ああ、ありがとう」


 片付けをルイさんに任せ、俺は勉強のためにレイのいる荷車へ入った。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌日から、本格的に筋トレを始めた。

 身体強化を使わない筋トレ。


「で、こんなものでいいの?」

「ああ、ありがとう」


 レイに、俺が持てそうな岩石を運んできてもらう。その岩石を大きな籠に入れて背負い、俺は歩きだす。

 馬車はゆっくり走り出し、俺は馬車に付いて行く。

 まずは軽めの岩石。慣れてきたら徐々に重しを追加する。


「ふぅ、ふぅ……けっこうキツイぞ、これ」


 足腰を鍛えるにはもってこいだ。

 レイは、馬車から俺を眺めつつ言う。


「身体を鍛えるのはわかるけど……あんな古典的な方法でいいのかな」

「いいんだ。こういう地味な鍛錬は必ず身に付くって、体術を教えてくれた先生が言ってた」

「ふぅん」


 歩き始めて三十分。

 重さにも慣れて来たので石を追加……だが、急に足が重くなった。


「はぁ、はぁ……はぁ、はぁ」

「ほらほら、遅れてるわよー」

「レイ、馬車のペース、少し落とそうか?」

「駄目。最初から甘やかしちゃ身に付かないわ。ほらリュウキ、置いてくわよ!」

「わ、わかって、る……」


 まだまだいける。

 足腰、この程度でへばるな。

 神童と呼ばれていた頃、俺はその魔力に相応しい人間になるため、鍛錬を繰り返してきた。 

 武器の扱い方、身体強化、身体を鍛える。全部、やってきたことだ。


「負け、るか……!! レイ、石を追加!!」

「お、やる気満々ね……倒れても起こさないからね!!」


 さらに石を追加。

 だが、俺は止まらない。

 足に力を込めろ。歩き方を意識しろ。身体に一本の芯を通せ。

 歩け、歩け、歩け───……来た!!」


「お……ペース、上がってる」


 レイが驚く。

 体術を教えてくれた先生が言っていた。

 限界を超えると、一時的に疲労が消えることがある。

 だが、おかしい。

 全く疲労を感じない。

 それどころか、身体のエネルギーに変わり何かが燃えている気がする。


「───……そうか、『闘気」が」


 今の俺は、闘気で動いていた。

 全く疲れない。だが、筋肉を酷使しているのがわかる。

 いける。これなら鍛えられる!!


「レイ、石追加!!」

「え、でも……もう百キロ以上」

「大丈夫!!」

「……知らないからね」


 さらに石を追加。

 だが軽い。まだまだ歩ける。


「お、おお?」

「ちょ、リュウキ!?」


 俺は馬車を追い越した。

 歩ける。歩ける。歩ける───……!!


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


「……あんた、バカ?」

「………」


 野営する場所で止まり、闘気を解除すると同時に俺はぶっ倒れた。

 全身疲労。もう声も出ない。

 ああ、そうか……闘気を解除すれば、疲労が一気に襲ってくるのは当然だよね。疲労が消えたわけじゃなくて、感じなかっただけだし。


「…………」

「兄さん、晩ご飯こいつの口に無理やり詰め込んで。あとはテントに放り込んで」

「え、でも」

「駄目。食わないと筋肉は疲れたまま。ちゃんと回復させないと」

「あ、ああ」


 俺は無理やりメシを流し込まれ、そのまま気を失った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る