第16話、お勉強

「へぇ、基礎的な知識はあるのね」

「まぁ、ずっと勉強してたし」

「なら、過去問を解き続ければ筆記は大丈夫ね」


 レイに勉強を教わりながら過去問を解く……よかった。公爵家で学んだところがけっこうある。

 揺れる馬車の中で勉強するのは少し辛いけど。


「あとは、実技ね。リュウキ、魔力操作に自信は?」

「昔はあったけど、今は微妙……」

「あなたの魔力量、あたしとは比べ物にならないわ。しかも、なんというか……『濃い』のよね」

「濃い?」

「うん。魔力がサラサラな水だとしたら、あなたのは『ねばっこいヘドロ』みたいな、濃厚というか、ギトギトというか」

「あの、その例えやめてほしいんだけど」

「あはは。ごめんごめん」


 ギトギトの魔力なんて言われて嬉しくはない。

 というか、俺のは魔力じゃない……『闘気』だ。

 せっかくなので、物知りなレイに聞いてみる。


「なぁレイ。『闘気』って知ってるか?」

「とうき?」

「ああ。ドラゴンの魔力だ」

「闘気……ドラゴンが持つ魔力のことね。人間とは比べ物にならない総量で、どんな魔法も楽々使用できるって。闘気で身体強化を使えば、それだけでA級冒険者になれるって聞いたこともある。まぁ、そもそもドラゴンなんて中央諸国にしかいないし、よくわからない。中央諸国なら、いろいろわかるかもね」

「……じゃあさ、エンシェントドラゴンって知ってるか?」

「始祖龍でしょ? おとぎ話にも出てくるじゃない。始まりのドラゴン、全てのドラゴンの父、ドラゴンの敵」

「……敵?」

「ドラゴンを滅ぼすドラゴンって聞いたことある。ま、作り話だろうけど」

「…………」


 エンシェントドラゴン、お前は何をやったんだ。

 レイに「そのエンシェントドラゴンが俺に闘気をくれた」なんて言って、信じ……信じないな。

 その後も、夕方まで馬車の中で勉強した。


 ◇◇◇◇◇


 馬車を街道脇に止め、野営の支度をした。

 テントを組み、かまどの準備をするだけ。

 料理などは、ルイさんが担当してくれた。

 俺とレイは、軽く組み手をする。武器ナシの徒手空拳でだ。

 驚いたことに、レイは格闘技もすごかった。


「いい? その馬鹿みたいな魔力を全開にした身体強化だと、一撃一撃なら最強に近いパワーを出せるけど、速度で翻弄するのには向かないわ。以前のコボルト退治の時、馬鹿みたいに剣を振ったり、力任せに地面を叩いてコボルトを吹き飛ばしたでしょ? あんな闘いじゃ、不意を突かれたら終わり。身体強化は漣のように、美しく丁寧に」


 レイが身体強化を使う。

 静かで淀みのない強化だ。身体全体を魔力で覆っている。


「あたしの魔力が『100』だと仮定して、これが『50』の身体強化。さ、あんたも」

「……ぬっ」


 身体に蓋を造り、空けるイメージ……すると、闘気が俺の身体を覆い尽くす。

 レイは、ルイから虫眼鏡のような物を借り、俺を見る。


「しんっじられない……なにこの魔力量」

「ど、どう、だ……めちゃくちゃ、押さえてる、ぞ!!」

「全然だめ。ってか、なにこの魔力。あんたの魔力が『100』だと仮定したら、『1以下』の身体強化よ? それであたしの『90』以上の強化をしてる」

「う、ぐ……っぷはぁ!!」

「うきゃっ!?」


 我慢できず、闘気を解放した。

 闘気が一気に噴き出し、レイの持つ虫眼鏡が砕け散った。


「あんた、魔力操作クッソ下手クッソ、クソすぎてマジでクソ」

「…………」

「ってか、そんなトイレ我慢してるような状態で動けると思ってる?」

「…………」

「あんたに繊細な魔力操作は無理ね。だったら、ギトギトの魔力で身体強化して問題なく動けるようになればいいってことね。じゃあ、あんたはこれから筋トレしなさい。魔力に負けない身体づくりをしなきゃ」

「わ、わかった。あとレイ、お前口悪すぎるぞ」

「あらそう? あ~お腹へった。兄さん、ご飯まだー?」


 レイはルイさんの元へ。

 俺は、レイに言われたことを反復する。


「繊細な魔力操作は、無理か」


 昔、大賢者クラスの魔力を持っていたころは、魔力操作は得意だった。

 だが……今この身体に流れている『闘気』は全く別物だ。蓋を開ければ大氾濫する洪水だ。その蓋を素手で押さえながら調整するのは難しい。

 だったら……闘気という激流に耐え抜く身体を作るしかない。


「筋トレか……地味だけど、それが闘気を使いこなす道だな」


 俺はさっそく腕立て伏せを始めることにした。

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