第14話、出発
手当をしたが、レイは動きにくそうだったので、僕がおぶることにした。
おぶると、レイは恥ずかしそうに言う。
「その、武器が重いだけで、あたしはそんなに重くないからね」
「わかってる。それより、腕は?」
「……折れてる。けっこう痛いかも」
「大丈夫なのか?」
「ポーション飲んだから怪我は治ったわ。でも、骨はすぐにくっつかないわね」
「……大丈夫なのか?」
「大丈夫よ」
オーガの森を出て、城下町へ戻る。
そろそろ日が暮れそうだ。町に戻ったらすぐに宿へ帰ろう。
城下町へ到着し、レイを家へ送る。
「あ。あたし一人暮らししてるの。家は商会の方じゃないわ」
「いや、腕折れてるだろ。一人じゃ」
「いいから、大丈夫」
「でも」
「いいから!」
「わ、わかった」
レイが頭をゴツゴツ叩くので、案内に従ってレイの家へ。
城下町外れの、小さな煉瓦作りの平屋だ。
中に入ると、簡素な椅子テーブル、ベッドしかない。
とりあえず、椅子に座らせる。
「い、たたた……ああもう、装備、外しにくい」
「手伝うよ」
「……変なトコ触ったら斬るから」
「……」
い、今さらだけど……女の子の家、なんだよな。
背中の鞘付きベルトを外し、双剣を床に置く。
汚れ、血が付いた服を脱ぎたいのだろうか。でも、骨折した腕は添え木で固定し包帯を巻いているので、服を脱ぐのはかなり難しい。
やばい。どうすればいい。
「……あ、そうだ」
僕はバッグからポーションを取り出す。
そして、エンシェントドラゴンの牙をほんの数ミリ削ってポーションに入れた。
水に溶かせば万能の霊薬……効果あるかな。
「その、レイ。これ飲んで」
「ポーション? あのね、骨折はポーションじゃ」
「いいからいいから。ほら」
「……まぁ、喉乾いてたからいいけど」
レイはポーションをごくごく飲む。
「ふぅ、おいし……あれ」
レイは骨折した腕を振る。
「あ、あれ? 痛くない……な、治った!? え、ポーションで!?」
「よかった。効いたようだ」
「……あんた、あたしに何を飲ませたの?」
「えっと……これ」
エンシェントドラゴンの牙を見せると、レイは青ざめた。
「ま、待って。まさか……ドラゴンの牙!? 兄さんが王都でオークションに出すって言ってた、ドラゴンの牙じゃん!! まさか、これの出処って……あんたなの!?」
「ま、まぁ……龍の森近くの平原で拾った」
「うそ!? あ、あたし……の、飲んじゃった。ここ、国宝の、万病の霊薬を」
「あー、待った待った。別にお金請求しないから」
「え、じゃあ……」
なぜか身体を抱き、顔を赤らめる……いやいや、待て待て!!
「そ、そういうのもない!! えっと、そうだな……じゃあこうしよう。僕に冒険者についていろいろ教えてくれ!! それと、聖王国魔法学園の入学試験の勉強も!!」
「……え、そんなのでいいの」
「僕は勉強と鍛錬がしたいんだ。だからお願い!!」
「……わかった。じゃあ、聖王国までの一か月。あたしがいろいろ教えてあげる」
「ああ、頼む」
「それにしても、ドラゴンの牙……ね、見せて」
レイにドラゴンの牙を見せる。
まだまだいっぱいあるドラゴンの牙。全部見せたら卒倒するかもな。
◇◇◇◇◇
翌日。ギルドに依頼完了の報告をした。
そのままギルドを出ると、大きな馬車が止まっているのを見た。
「おーい、二人とも。準備ができたから出発するぞ」
「兄さん……まったく、今日は出発しないかと」
「まぁまぁ。荷物の確認は終わった。明日でもいいけど、天気もいいし今日がいいだろう?」
「……リュウキ、いい?」
「ああ。僕はいつでも出発できるよ」
「じゃあ乗った乗った。さぁ、聖王国へ出発だ!」
大きな馬車には、僕とレイ、御者のルイさんしかない。
普通、商会の馬車ってもっと護衛とかつくと思うんだけど。
「優秀な護衛がいるから、うちの商会は護衛代がかからなくていいねぇ」
「悪いけど、身内でもお金取るからね」
「おお、厳しい。すまんねリュウキくん。こんな妹だが、仲良くしてほしい」
「はい。レイにはいろいろ教えてもらいますので、こっちからお願いします」
「お、言うわね。悪いわね兄さん、兄さんは馬車よろ~」
「むぅ……レイ、たまには交換してくれよ?」
馬車は走り出す。
生まれ故郷の国を出て、中央諸国の聖王国クロスガルドへ向かう。
エンシェントドラゴン、僕は頑張るよ。
お前にもらった『闘気』を使いこなす。
ぼくには、まだまだ知らないことがある。スキル、魔法も覚えられるかもしれないし、冒険者としてもっと高みに上れるかもしれない。
「……へへ」
「ん、楽しそうね?」
「まぁな。僕、国を出るの初めてだから」
「……あのさ。その『僕』ってのやめた方がいい。いいとこのじゃないんだしさ」
「……じゃあ、『俺』とか?」
「うん、似合ってる似合ってる」
こうして、『俺』の冒険は始まった。
知らないことを知り、弱い自分を鍛える旅が。
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