異世界セカンドライフ&勇者人生 ~スローライフが送りたいので『古代竜(エンシェントドラゴン)』は自重して貰えませんか?~

あずま悠紀

第1巻

『お疲れさまで~す!今日もよろしくお願いします!』

(うん?なんか最近、俺の扱い雑じゃね?)

「おー、勇者くんいらっしゃーい」

『どうも!あ、またお菓子頂いても良いですか?』

「はいはいどうぞ。あー、それとももう自分で作ったりする?」

『んーそうですね、材料とかまだ揃ってないんですよ。そのうちやってみようかなって思います』

「ふむ、ならまずはその身体を鍛えなきゃだね。筋トレでもしてみたらいいんじゃない?」

『筋トレですかぁ?僕そんなに力が無いんであんまり意味無い気がしちゃいますよねぇ。むしろ筋肉質になって余計重くなって動かせなくなっていくイメージしか沸かないですもん』

「そっちの筋力云々の問題ではないんだよ、体力作りをするべきなんだって」

『はあ~。まあそういう事であれば頑張ってみますけどぉ。あー、それより今日はどんな用件で来たんでしょうか?』

「うんそうだねえ。とりあえずは今日持ってきた分を見てもらって、それから話を詰めるとしようかね」

「ほらこれだよ」

『えっとなんすかコレ。本?みたいなんですか?結構古臭いような』

「そうなんだよね、ちょっと読んでみてくれないか。私だけ読むんじゃ信憑性が薄いかもしれないからさ」

『わかりました』ペラッペラッッ

(何だこの本。何か文字書いてるみたいだけど、全然読めやしないんだけど)

「やっぱり読めるわけはないかなあ?」

『いやちょっと待って下さい。何か読めてきます。あーなるほど、これはあれですよね』

「お?分かるのかい?」

『はい、たぶん分かりました。僕も前世で読んだ覚えあります』

「おお、マジで?どれぐらいまで読めるんだい?その本は」

『うわっすごい古い言葉ですね。しかもこんな言語聞いたことありませんよ』

「そうなのか?でもキミが読めてるなら大体同じだろう?それで内容を教えてもらえるかしら?」

『えっと確かですね、昔昔ある所に女の子が生まれてきた。名前はリゼっていう子だった』

「うん」

『ある日お父さんとお母さんがその国を離れなければならなくなった』

「うんうん」

『そのリゼには兄弟がいたけど離れたくないと言ってついて行かなかったんだと』

「へぇそうなんだ」

『そして二人は旅立った』

(え、何急に子供向けの物語みたいな語り口になってきた?)ゾワッゾワ

『数年後リゼ達は村に帰ってきたんだ』

『その時村人達が出迎えに来てくれた。でもそこにはあのリゼの兄弟の姿が無かった』

「あ、嫌な予感がしてきた」ダラダダッ(←冷や汗)

『兄弟は魔物達に襲われたらしいんだ。そこで死んでしまったそうだ』

ザシュッ ズバン!!

(ちょっ!?今物騒な効果音鳴ったよね!)ガタッ!!

(まさかこれ絵本とかじゃないよな?実は戦闘描写のあるゲームブック的なアレじゃないのか?)ゴクリ!

(こいついきなり雰囲気変わりすぎだって!!)ビクビク

『その後村は荒れ果ててしまったけれど、リゼは村を守り続けるために立ち上がったのだ!』ザッシュン!!! ブチィ!バァアアン!ドォオオン!グシャアッッ!!!

(うわああ!もう絶対おかしいよこの流れ!この音全部現実に起こったものじゃねえだろ!?誰か俺の知らない所で変なものを読ませてないよな?)ガクブル

「おや?もういいんですか勇者くん」

(え?もしかして今ので終わった?)

「どうもすいません、続き読みたいですか」

(聞きたく無い、絶対に!)ブンブン!

『あーいや良いです。大丈夫でs』

「え、もういらないのかい?そうか、それじゃ今日はこのへんで帰ろうか」

(ほっ!良かったぁ~。もうあんなのはもう二度と勘弁願いますってば。それにしても、結局あの本なんだったんだ?)スッキリサッパリィ ー後日ー

(あ、なんか忘れていた気がする。えーと何だったかな?ん?んんん?何だかとても大事なことだったような)

ペラッペラッ

『あ、勇者くん今日も来たね』ニコニコ

『ど、どうも、えっと何か言いかけませんでしたか?』ドキドキ

『いや、何でも無いさ。それよりちょっと見せて欲しいものがあるんだけど良いかい』

『え、あーいいですけど、あんまり期待されちゃうと見せられるものでもないですよ?僕』

「んーじゃあお言葉に甘えて見させて貰おうかな。とりあえずこの本なんだけど」パサリッ

『はい、それです、その本がどうかしたんですか?』

「これね、この間勇者くんに見せて貰った物語が気になったので、知り合いの研究者に解析して貰っていたんだ。それがもうそろそろ終わる頃なんじゃないかなあって思ってね。一応私なりの答えを出しておくから確認してみてよ」

『え、それじゃあ僕の話した内容が事実かどうか分かるってことですか?』キラキラ

「まあそうだろうね。でもまだ確証があるわけではないし、あくまでも私の考えとして受け取って欲しい」

『分かりました!ありがとうございます!!』ワクテカ

「それで、結果は出ましたか?」ドキドキ

「うん、これを見てくれる?」ペラッ

『あーなるほど確かにこれだとそうなっちゃいますよね』

『えっとどういう事なんですか?私にはさっぱり分からないのですが』ヒソヒソ

(あれ、何かこの声どこかで聞いたことがあるような?)

「うんうんそうだねぇ、普通だったらこれが一番正解っぽいんだよねぇ」

(やっぱりそうですか、でもそれってまずくないですか?)ボソボソ

「でも勇者様が言う通りだったら、私は大変なことをしてしまう気がしますよ?」ボソリ

(あれ?俺が?ってことはあの人?いやまさかそれはありえないよ。あの声の感じだと俺の事を知ってたわけではなさそうだし。でも俺の名前を呼ぶくらいだし顔見知り程度だったのかなぁ)モヤッモヤ

『それで一体どういう意味なんでしょうか?』

『えーっとですね、これはまだ研究途中で結論が出ている訳ではないんですけど』

『ふむふむ』

『リゼっていう子は本当にいたんですけども、この子の子孫は誰もいないということになっているんです』

『へ?なんですかその矛盾。そんな事ありえるんですか?』

『いやーだからこればっかりはまだ確定的な証拠は無いんではっきりと断言はできないんですよ。もしかしたらそういう設定になっているだけで実は存在しているのかもしれない。ただそういう風に考えると説明がつく事もあって、もしかしてって思ったんですよ』

『ふむふむ。例えばどんな所ですか?』

『あ、そうだ。リゼの両親なんですけども』

『ええそうみたいです』

(まあ当然そうなんだろう。その二人がいなきゃこの子が産まれなかった訳だし。もしかしてそこから先が問題なのか?俺にはさっぱり分からねえ)

『あ、そうだそうだ。このリゼと両親の間に兄弟が居たという話を聞いた覚えはないかな』

『いえ、そういう話は聞いた事がありませんが。どうしてです?』

『あーそれっておかしくないですか?リゼって一人っ子なんじゃないの?』

『まあそうでしょうね』

『うん。だけどもしその子が生きていたとしたら?』

『え?』

(おい嘘だろ?こいつ何言ってるんだよ。俺は今までずっと一人で生活してたじゃないか!誰にも迷惑かけた事なんて無かったぞ?そもそも俺には友達すらほとんどいなかったっていうのに!)

『その兄弟は魔物に襲われてしまったんですよね』

(そうだ!でもその魔物だってあいつらは皆退治してくれているんだ。そんな奴らと関わり合いになることなんてあるはずが無い。そんな事は起こり得ないはずだ)

『ええ。そして村人は助けに行く事もできなかったんですよね』

(そうだよ!そのせいでその兄弟も亡くなってしまったっていう事なんだろうけどさ。そこまでする必要は無かっただろう!なのに何でだよ!!)ムカムカッ!(←怒り)

ザシュザッシュバァアアン!!!

(なに怒ってんだ俺は?そんな事をしても意味無いんだ。だってあの時の俺達は何の力も無い只の子供なんだからさ。でも、あの人達は何もできないって言っていたんだ。それなのに何で?)

ザシュザシュドオオオオン!!!

『なあ、君さ、これってもしかしなくても俺のことじゃないよな』

『いや、あのですね』

(そうだ、俺はリゼ。お前はあの日の兄弟の生まれ変わりなんだ。だからこんなにも苦しかったんじゃないのか?)

「あの、聞いてる?ねえ勇者くん?」

『ああ、すみませんちょっと考え事をしていて』

(きっとそうだよ!それ以外考えられ無えよ!だってそうじゃなかったらおかしいもん!!)

『そうか、なら良いんだ。でもこれから先の話を聞かせる前にこれだけは伝えておく。もしも仮に、君の話が本当だったとしても』

(もういい!もうやめてくれ!それ以上何も言うんじゃねえよ!!もう聞きたくない!!頼む!俺に話しかけないでくれ!だってこのままだとこの人は俺を殺すつもりなんじゃないか?そうなんだろ!?)ビクビク

『君はリゼじゃあ無い。そしてリゼももう死んでいてここに居るリゼとは関係がない。その辺だけは勘違いしないように気を付けて欲しいんだ』

(ほ、良かった。何だ分かっていたのか)ビクッビクッ!

(じゃあさっきのは何の話だったんだ?もしかすると本当に俺を誰かと勘違いしてるって可能性もあるかも?)

『う、はい』

(そうだよね。そうだよ、だってこの人の前世って確か40歳ぐらいだって言ってたじゃんか。そりゃあ子供だった俺と間違えてもしょうがないよな。いや待てよ、ひょっとしてあの人俺と似たような格好してたりとかしてね?)

(まさか!?そんな事は無いよな、いやいやいや無いよ。いくら何でもそれこそ無理ゲーってものだぜ。いやマジ勘弁)

(よし!決めた!この人と関わる事があった時はもっと慎重になろう!だって危ないのは明らかにこの方だし!絶対何か変なフラグ立ってそうな感じするし!)

「ん?どうかしたかい?顔色悪いよ?」

(うわぁ!び、ビックリした。いつのまに来てたんだよ。俺全然気づかなかったよ)ガビーン

「いえ何でも無いです」

(あー怖えー。もしかして何か気付いちゃった?俺がこの人に殺されて死んだ事になっちゃってること)ドキドキ

(もうこうなったら早く終わらせよう、これ以上変なことに巻き込まれないように。でももうこれで最後だろうし、これっきりにして下さいねってお願いしよう!それがいい!それがお互いのためになる!)スッ

(ふうーなんとか無事に終われそうだ。もう二度と会いたく無いなぁ。それにしてもこの人も変わった人だったな。いや、でももしかしたらあれって本当の事で本当は凄い強いって事もあるのかな?)チラリッ

「ん、んん?」ギクリ

(あ、目が合った。あーでもなんか微妙な反応だな。なんか疑われてる?)ドキドキ

「そ、それじゃあそろそろ帰ります」ドキドキ

「え?あ、はいお疲れさまです」ニコッ

(うおっ。あ、あぶねえぇえ。いきなり笑いかけられて心臓飛び出るかと思った。そうかこういうのに弱いんだ俺の心臓。だから最近あんまり動かなくなってきていたんだな。今度からはなるべく表情に出さないようにしないと。特に笑顔になんて注意しとかないともれなく死亡確定コースまっしぐらだよこれ)ダラダラ

(でも結局のところ何だったんだろうな。よく分からない本を見せてきただけだったし、何か言いかけて止めてたけど。何か俺に用事でもあったのかな?)ウーン

『それじゃまた来るよ』

『ええいつでもいらっしゃいませ』ニコニコ

『勇者様はどうされましたか?』コソコソッ

『あーいや、別にいつも通りのようだから気にならないよ』ヒソヒソ

『あ、そうなんですか。てっきりさっき話して居たことと関係しているのかと思っていましたが、大丈夫なら安心ですね』ボソボソッ

『そうだね、とりあえず今は心配なさそうだ』ヒソヒソ

「さてと、今日の所はこれでおしまいっと」パタリ

(ふうぅ、何とか帰って貰えたけどやっぱり怖いんだよなあ。何か妙な威圧感あるし、でもあんな優しい人がまさか俺を殺そうとなんてしないよな?まあ俺が何かヘマさえしなければ大丈夫だろ)

「あれ?この本、表紙に書いてあった文字が違うな。何だろう?新しい物語かな?」

ペラッペラッ

(へーやっぱりこういう内容なのか。あの時見た物語は)ペロッ

(って事はこれが答えなんだろうな。でもこれどういうことなんだろ?)

ピカーン!(頭の中に電球が出る音)

「も、もしかしてそういう事なのか?」

『勇者様』ニッコリ

『勇者殿』キラキラ

『え?何ですか突然。急に声をかけられるような事をしましたか?』キョトン

『いえいえ、少しこちらのお部屋をお借りしたいと思いまして』ペコッ

『いや、別に構わないけど。ここで何をするつもりなんだい?』ハテナ

『それはですね。先ほどもお伝え致しましが、勇者様のお力についてご相談があるんです』ニコリ

(うん?どういうことだ?もしかしたらこの人が例の研究者なのかな。だとしたらこれはまずいか?だってこの人、俺の秘密を知っている可能性が高いってことだもんな。だけど俺にこの人と敵対できるだけの能力は無いぞ?でも、それでも一応は俺の身の安全の為にはここを通しておく訳にはいかないよな)

『あの、俺には何の事だかさっぱり分からな』グゥウー(←腹の虫の音)

『ああそういえば朝食を食べていませんでしたね。私ったらすっかり忘れていました。勇者様にお話ししようと思っていた事が予想外だったので少々興奮気味になっていまして』フムフム

『ではせっかくなので食堂に参りましょう。あそこは食事だけなら誰でも利用できるようになっていますので。よろしかったら勇者様もそのようにされてみては?』

『え、ええ、それはもちろん。じゃあそうさせて頂くことにします』スタタタッ

(は?え?ちょ、ちょっと待ってよ。これってどういう展開なの?)ポカーン

(どうして?どうしてこうなるんだよ!確かに腹は減っているし朝からなんにも食べていない。でもこの人と二人だけで飯を食うなんて嫌な予感しかしない。それにもし本当にこの人の目的が俺の力についての事なのだとしたら俺は一体どうすれば良いんだよ!俺は一体どんな風に振る舞えば良いんだ?分からない。全く想像もつかないよ!だってこんな状況今までの人生であった事無いもん!!こんな事になるくらいだったらとっとと逃げていれば良かったよ!!畜生!こんなはずじゃ無かったんだ!あの人はただあの時見せたかった本を俺に見せたかっただけのはずなんだ!!俺は只の偶然が積み重なった事故みたいなもんで巻き込まれた被害者なんだ!!!)ワナワナ

(そうだ!きっとあの人の知り合いのはず!!よし早速確かめに行くぞ!!)ダッ!

『あれ?勇者様どちらに行かれるんですか?』

ビクッ!ギクギクッ

(しまった!!つい勢いで走って来ちまった!こっちに来るってことはあの人は多分まだここにいるって事だよな。ヤバイ!)

「い、いや何でも無いんだ。ちょっと用事を思い出してね」ワタワタ

『ああそうなんですか』ホッ

「そうそうそうなんですよ」

(あぶねえ、もう少しで死ぬところだったぜ)ガクブル

「そ、それでさっきの話なんだけど、何か困る事でもあるのかい?」

(俺の事を疑っていたわけじゃないのか?だとするとこの人が言っているのはこの前の続きという可能性の方が高くなって来た。だとしたら俺が殺されるってのはまず無いはずだ。だって俺の持っている能力の話をしたとしても結局何も出来無いんだからな)

『ええ実は、その、何と言いますか、私はそのー、ううっ、すみません!正直に申し上げたいのですが、どうも緊張してしまいまして上手く説明できないのですよ』アセアセ

『あーそういう事だったのね。だったら別に気にする事は無いよ。ゆっくり自分のペースで話してくれれば』ニコニコ

(この人ってひょっとして見た目以上に子供っぽいんじゃないだろうか。だってあの人はあの時も凄く冷静に俺を見極めようとしてた気がする。俺の正体を知っていたならあの時に言ってくれても良かったんじゃ?それなのにわざわざあの後に来たっていう事は、ひょっとしてひょっとするんじゃないか?)

(でもひょっとしてじゃ無いかもな。あの時見せてきた本の事とかを考えるとその可能性も捨てきれないよな)

(いや待てよ。ひょっとしたらあれ自体が嘘だってこともあり得る。だって俺を誰かと間違えているのかもしれないし、それにそうでもなければわざわざ俺に近づいてくる意味がわからないよな?そもそもこの国と魔王軍は戦争状態にあってお互いを警戒し合っているんだし、そんな中わざわざ他の国に単身乗り込んで来てしかもこの城に居るって時点でもう怪しさ爆発だよな)

(よし分かった。ここは慎重に行動しなきゃいけないよな。だってもし俺の考えが当たっていてこの人が本当にこの世界の敵側なのだったら絶対に俺に危害を加えようとするに決まっている。そうならない為には下手なこと言わない方がいいな。それに万が一に備えていつでも対応できるように身構えていた方が良さそうだ。だからとりあえず普通に対応させてもらった方が賢明な判断と言えるよな)

「んーまあ、とりあえず君の話を聞いてみるしかないかな」

「ありがとうございます!」ニッコリ パァッ ドクン ズキューン

「じゃあ案内してくれるかな?」ニコニコ パァッ

『はい、分かりました!』ニッコリ

「それじゃあさっそくだけど」ニコニコパカラッパラッ ペラッペラ

(うん、何てことの無い日記帳か。それにしても表紙の文字は違うのに内容はほぼ同じみたいだな。ということはこれはこの前見た物語を書いた本なのかな?まあそんな事は今となっては関係ないか。問題は俺の命がいつまで続くのかってことだけだ)

パラッ ペラペラ ペラッペラ

『あのー勇者様』チラリッ

「何だい?」ニコッ チクリ

(やっぱり俺の顔が気になるよな。俺としてはあんまり見られたくないんだけど、でも俺も今だけは出来るだけ愛想良く接しておかないと)

『その、大変不勉強ながら勇者様の名前をお伺いしても良いでしょうか?』ドキドキ

(うーむ、やっぱりそうか。それならもう俺の事は勇者様としか呼べなくなるよな。それだとやっぱりちょっと不便か?俺の名前を教えるべきか?それとも教えないままにしておいて適当に偽名を名乗るか?いやいやそれじゃあ逆に怪しまれてしまう。それならどうするのが正解なんだ?やっぱりちゃんとした偽名を考えた方が良いか?)ウンウン

「えーとね、俺の名前は、あれ、おかしいな?俺の名前なんだろ?」

ウーンウーン

(俺、名前、無い、無いよ!そうだよ、無いんだよ!俺には名前が無かった!今まで忘れて居たこともすっかり頭の中からすっぽ抜けてたよ。でも、どうしよう、このまま俺には名前がありませんなんて言って良いのか?でも俺にはこの名前以外に適当な物が考えられないんだよなぁ)

「あの、勇者様?」オロオロ

(あ、しまった!変に心配させちゃったかな?ここは取り敢えずごまかせば良いのかな?)ハテナ

「ああ、いやその何て言うか少し忘れてしまっただけなんだ。えーっと名前はそう!俺が覚えていないだけできっとそのうち分かるようになると思うから。まあその時になったらまた教えることにするよ」アハハッ

(我ながら苦しいか?)

「そうなのですか?」キョトン

『勇者様』スッ

『勇者様』

「どうかしたの?」

(あれ?なんか二人揃って急に俺に向かって手を差し出して来たぞ?何かの儀式的な物でもするつもりなのか?もしかしたら俺にも名前を授けてくれるつもりなのかな?それだったらありがたいけど流石にそこまで都合の良い展開にはならないよな。だってあの二人にとって俺はあくまでただのお客さんであって、俺がただあの人達の知り合いに似ているだけの他人だってのはあの時の話で分かってるんだから)フゥ

(だけどあの二人はあの時からずっと俺のことをリゼだと勘違いしているはず。でも俺はそれを肯定しなかった。だって否定しなければリゼの知り合いに会ったなんて思わないだろうから。そしてあの二人がその勘違いに気づくような事も多分無い。だってリゼはあの日以来ここに来て居なかったんだから。あの人ならまだしもあの人にそっくりってだけなのに俺がその本人だなんて普通思う訳が無い)

(あの時はたまたま俺をそのリゼって奴の関係者だと思っているって感じの返事をしただけだったんだろう。多分。それならこのタイミングで突然俺に手を差し伸べる理由は無いよな。だったらきっとあれだよ。多分お腹が減って死にそうな俺の為に食べ物を分け与えてくれようとしているんだよ。あの二人は優しいからきっとそうに違いない)グギュルルルー

(そう考えると腹の虫が大暴れしてやがってうぜえ。俺の胃袋はそっちのけに勝手に自己主張し始めやがって。全くどうしてくれんだよ!この場の雰囲気ぶち壊しじゃねえか!でも確かにそろそろ本気で限界かもな。この二人の好意を利用して悪いとは思ってるが仕方ない。それにお腹が減ったせいか気分が悪くなって来ちまった。今は取り敢えずあの二人の手を掴んでこの城にある食堂に早く連れていって貰おう。そして何か食べさせて貰えば多少はましになるはず。その後にこの人の目的が何なのか確かめさせてもらおう)

(それにしても何でこんな事になっちゃったんだろうな。ただこの人の書いた物語を読んでみたかったってだけなのに、なんでこんな目に遭わなくちゃいけないんだ?この人と出会ってからの俺は散々すぎるぞ)グスッ

「あのさ、お願いがあるんだけど」モジッ

「はい、何でしょう?」ニコニコ パアッ キラキラッ

(うぐっ、眩しい。何なんだよ、一体。この笑顔を見ただけでこっちまで幸せになりそうになるって反則過ぎるよな。俺じゃなくても思わず心を許して頼み事をしそうになっちまう。でも今の俺にとってはそれも計算の内だよな。この人相手に下手に誤魔化して騙そうとするのはまず無理だ。だから俺の望みを伝える為にも下手に下手に出るしかないんだ)

「えっと、さっきも言ったんだけどお恥ずかしながらお腹が空いてしまって動けなくなってしまったんです。そこで図々しい事だと承知していますができれば何か食べ物を食べさせていただけると嬉しいのですけれど」

オドオド

(よし、これでこの人はきっと優しくしてくれるはずだ)ドキドキ

『そう言えば昨日の夜は何も口にしていなかったものね。うっかりしていたわ』クスッ

「では食堂へ急ぎましょう」ニコリッ

『それが良いですね』コクリ

「はい、すみません」ペコリ

(あー良かった、これでこの人はきっと俺を食堂に連れて行ってくれるよな。そうすれば後はもう適当に言いくるめてこの人を帰せばミッションコンプリートだよ。それでこの話は終わる。だけど問題はその前にこの人から情報を引き出さなければならないっていうことだ。だからまずは食堂に行かせないように話を持っていかなきゃいけないよな)チラッ

(さて、それじゃあその前にもう少し聞き出してみるかな)

(ふむ、そうするとどうやら彼女はこの城の使用人みたいなもんか?でもあの格好は侍女服に見える。と言うことはやっぱり使用人の中の偉い人だったりするのかな?でもさっきの感じじゃそんな事も無いみたいだし。だったら何なのだろうか?よく考えたらもしかして彼女も魔王軍側の人間だったりしないよな?それならちょっと警戒しないといけないんだけど)

「あ、あの」ソワソワ

『何でしょうか?』ニコッ ピカーン ドクン ズキューン

(うおっ!?またか!またこの顔だよ!だからそれはやめて欲しいのに、そんな事されると心臓がおかしくなりそうだ)ドッドッ

「あ、えっと、ちょっと気になってたんだけどさ、君達はその服装とかってどこの所属とかそういうことなの?」

ドキドキ

(よし!これでどうにかこの質問には答えることが出来る筈だ。そう、俺の目的はただそれだけ。それ以外に興味は無い。だから正直に教えてくれればすぐにここから解放するから頼むよ。もしこれが答えられない様な機密的なことだったとしても何とかしてごまかすから!)ドキドキ

(だからここはもう単刀直入に行くべきなんだよな?どうせこの人に本当の事がバレるくらいならもうこの際嘘をつくしか方法は無いと思う。うん。大丈夫。きっとこの人ならこの程度なら上手く切り抜けられる。俺の知ってる限りならこの国でこの人以上の適任は居ないからな。ここはもう頼るしか他に方法は無いんだ)

「私はここで働いているだけの只のメイドですよ」

ニコッ

(な、何てこった。そんな簡単なことなのか。そんなの誰でも知ってることなのか。くそ、これは俺の考えすぎだったということなのか。いや待てよ?もしかしたら俺はまだこの人のことを信じ切れていないのか?俺の知らない情報を何か握っている可能性が残っているのに、それを確認しようともせずに切り捨てようとしたってのか?)

「え?いや、そうじゃなくて。俺が知りたいのはその」オロオロ

「?」キョトン キョトン スッ

「ああ!違うんだよ!ごめん、何でも無いんだ!」アタフタ アワワ(危なかった!本当に危かった!どうやら俺の判断力は今完全に鈍ってしまって居るようだ。このままこの人を問い詰めたりしたら俺の命にかかわりそうだ。それに俺にこの人を完全に信じる事は出来ないだろうけど、それでも俺があの二人についての情報を持っているって事は知られちゃいけない。絶対にその事だけは知られてはいけないんだ。もしもこの人が俺の知っているあのリゼなら俺は今ここに居ないはずの人間なんだからな)

ハア ハア

(落ち着け、俺。まだ慌てる時間じゃないぞ。焦る必要なんか無い。どうせ後数年はこの人とは会うつもりなんか無かったんだからな。ここは少し落ち着いてこの人をどう説得しようか考えるとしよう)

「い、いやその。そうだ!お姉さん達の名前を聞いても良いかな?い、一応は俺の名前を聞いたんだからさ、君達がその」ダラダラ ハハハ

「あら、私としたことが。申し訳ありません。私の名乗ってませんでしたね」

「ええ、そう言えば私もそうですわね。では改めて自己紹介を致しますわね」

「私は『アルメイダ』と申す者よ」

ニコニコ パアッ

(あれ?そういえば二人共名前って全然違うよね?じゃあやっぱりこの人達は俺の知ってるあの人達とは別物だったんだ。良かったぁ~)ホッ(だけどどうしてだろうな。俺がその名前を知らなかっただけでこの二人が偽名を使っている可能性も無くは無いのに何故かこの二人からは悪意なんて微塵も感じることが出来ないんだよな。もしかして俺に正体を隠しているだけなのかも知れないけど。でもそれなら俺の事なんて無視して殺せば良いはずなのにこの人達の言動はあまりにも優しすぎる)モヤモヤ

(この人達を信用しては駄目だ。俺はそう自分に言い聞かせているはずなのに、それなのに俺はどうしてこの人の手を振り払えないんだ?それどころかその手を離さないで欲しいと思っているなんておかしいよ。こんなのは俺らしくない。俺の知ってる俺だったらもっと冷静でこんなことにはなって無いはずだ。俺はこんな簡単に騙されるほどバカで間抜けでお人好しなはずがないんだ)

(だからこの人は俺のことを知っている可能性が高い。俺のことを知っていて俺に何かさせようとしているに違いない。それこそこの前見た物語のように世界を滅ぼそうとしていたりするんだろうか?だとしたら俺がこの人達の言う通りにした途端に俺に何かを仕掛けてくるって可能性も考えられるな。だったらこの手を早く振りほどかなくっちゃいけない。そうしないといつ何をされるか分からないんだからな)グッ

「そ、そうなんだ。ありがとう、えっとじゃあ次はお嬢さんの番かな?」

ドキドキ ビクビク スッ

「私は『サキュバス』の『エルシーラ』と言います」ニコニコ

「そしてあなたの恋人よ♪」ギュウ ガバッ

「うげぇっ!ち、違いますよ!そんなんじゃないんです!誤解してください!」ブンッ グエッ

「あははは、冗談よ。うふふっ、可愛くて仕方ないわね」ニコニコ ナデェ

(くぅー!なんなんだよこの人は!?なんでこんな時に限って俺の心を見透かすような発言をしてくるんだよ。いつもみたいにからかい半分なら俺だってこんなに狼慌てたりしないのに)ムスゥ

(だけどどうすればこの人を出し抜くことが出来るんだ?いや、それよりもまずこの状況の打破が先決だ。とにかく食堂へ行くことをなんとか止めなければ、ってもう既に食堂の方に向かって歩いて来てしまっているじゃないか!ええい、こうなったら奥の手を使うしか無いな)ギリッ

「お、お願いだから、ちょっと止まってくれないか!お、俺、もうお腹が限界に近いんだ」オロオロ

『まあ!そうだったのね』ピタッ

『そうだったのですね』コクリ

「うぐぐ、た、助けてくれ!」プルプル

(ふふ、よし!何とか立ち止まった。このままこの人の気が変わる前にさっきの部屋に急いで戻ってもらう様に説得できればそれで問題は無いんだけど。そうはいかないだろうな。でも今のこの状態なら何とかいけるんじゃないか?)ドキドキ

「あのさ、お姉さん達ってこの城のメイドさんなんだよね?」

『そうだが?』キョトン

「あ、いやだから、食堂まで連れて行って欲しいんだけど、駄目、かな?」ウルル チラッ

(どうか、どうか頼むよ。食堂には行きたくないんだ。もうこれ以上余計な事をしないでください。お願いします)チラッ

『そう言えばお前はまだ朝食をとっていませんでしたね。すっかり忘れていましたわ』ウン

(おお!やったぜ!何とかこの人を食堂に行かせずに済むみたいだな)ホッ ドヨドヨッ

(良かった。本当に良かった。でもこれでようやくこれで終わりだ。後は適当に話を逸らしながら適当に話を誤魔化して適当なところで帰らせるとするか)

「ああ、ごめんなさい。私とした事がつい忘れていたの。じゃあすぐに準備させるから、貴方も一緒に食べていってもらえませんか?そうして貰えるなら案内いたしますわ」ニコッ

「あ、はい。それは構いませんが」キョトン

(いやいや、別にご飯食べるだけならそれで十分だろ。何言ってんだろうな、この人は。俺の目的はそんな事じゃ無いんだから、だからそんな無駄なことはやめて早く解放して欲しいんだけど。それにしてもどうしてそこまでして俺に絡んで来るんだよ?)

『まあま、せっかくの誘いなのだから素直に従うべきだぞ?』ニコニコ

「ええっと。本当にいいのか?」

ドキドキ

「もちろんですよ」ニコ

(いやいやいや!絶対に罠に決まってるって!!何なんだよ!もう俺にはどうしたらいいのか分かんねえよ。一体これから俺にどうしろってんだよ。誰か教えてくれよ!)

(でも俺にはこの人から逃げられる自信は無いんだ。例えここで逃げ出したとしても、きっとすぐに見つかって連れ戻されてしまうのは目に見えている。だとしたらここは諦めるしか他に選択肢は無いということだ。ならこの場ではなるべく波風を立てない方が得策と言えるだろう。幸いにもこの人にとっての俺は勇者の仲間の一人らしいから、きっと下手なことはしてこないだろうしな)

(それに俺もこの人に聞きたいことがある。あの二人がどうしてあんなところにいたのかとか、何故俺の前に現れたのかとか色々と聞きたいことが山ほどある。この人達の言っていることの真実を知る為にも俺はどうしても聞かなきゃいけない事があるんだ。それを聞くまでは俺はまだ死ぬわけにはいか無いんだ)

(俺の知っている二人は確かに悪いやつじゃ無かった。あの人達に何かをするつもりも俺には何も無かった。だから俺の知らないこの世界の出来事のせいで俺の大切な人たちが俺の目の前に現れてくれたのだとしたら。俺に出来ることはまだ残っているはずなんだ。まだ俺の知っている二人がこの世界に居ると言うことは、まだ俺がやるべき事は残っていてくれているという証拠なんだ。それならばまだ希望はあるはず。それに今は一人じゃない。あの人と一緒に居るから、大丈夫。そう自分に言い聞かせながら、俺はこの先の道を突き進んで行くとしよう)

ゴクッ スタッ

「あの、お待たせしました。お部屋のご用意が整いましたのでこちらにどうぞ」

ペコリ

「はい、ありがとうございます」ニコニコ トコトコ スタスタッ ガチャ

「ではこちらでお寛ぎ下さいませ」ペコペコッ スタタッタ カチャリ

「ありがとうございましたー」フリフリ スッ スック フワッ

(ふぅ。なんとか無事に終わったようだな)スゥッ(い、いやまだだぞ!ここからだ。俺の知りたい事を聞いてこの人達の出方次第で俺の取る行動を変える必要がある)スッ

(まずはあの人だ。あの人が本当の事を話してくれなかったら俺は逃げるつもりだからそのつもりでな。それじゃ早速聞いてみようか)ジー コテッ

「あ、あの。一つお姉さんに聞きたいんですけど」オソルオソル モジッ

『はい。何でしょうか』ニッコリ

「あのですね。ひょっとしてこの城に魔王軍が侵入しているって情報があると思うんですけど」ボソ

「ええ。知っていますよ」ニコニコ

「へえ。でもこの城に侵入するなんて無理だとおもうんですけど、どうやったんですかね?」ハテ?

(あれ?意外だな。この人達はこの城の関係者のはずなのにまるで他人事のように言うなんて。それならどうしてこの人達はこの国に入ってきたんだ?)

ハア ハア

(もしかしたら俺は今、とんでもない地雷を踏み抜いてしまったかもしれない。だけどそれでもこの二人に聞かないと、俺が知る限り俺の世界の二人に関する情報を持っている可能性があるのは目の前にいる二人だけだ。だから俺は勇気を出してその質問をぶつけてみたんだ。もしも答えてくれないのなら俺はすぐにこの城を脱出しようと思っていた)

(そしてその答えは意外なものだった。いや俺の予想を超えた返答が返ってきたんだ。だってまさかその答えが)

「それは私がこの城に入った方法のことですか?それとも、どうやってあなたをここに呼んだかのことですの?それともどちらも関係なく私個人についての事なのかしら」ニヤ

「うっ」ドキッ ギクリ

「あ、えっと、全部ひっくるめたことです、はい」ドキドキ ダラダラ

(ど、どういうことだ!?なにこの意味ありげな発言は!やっぱりこの二人は普通にこの国のお姫様だったりして!だとしたらこの国に侵入した手段が問題って事になるよな。そして俺を呼んだ理由もそれに関係することになるのか?)

ドキドキ ヒヤァ

(ってことはつまりは俺があの人達の為に何かをしてあげると約束したことが原因ということだよな。でも一体何をさせられるっていうんだよ。まさか命を差し出せとか言わないよな!?そんなの絶対嫌だからな!)

ビクビクビクビク ドキドキ

(あー!もう!心臓に悪いな!もういいや。どうせいつかバレる事だし先にバラしちゃおう)ガバアッ

『どうやら観念するしかないようだな』クスッ

『ふふっ、ようやく素直になりましたね』

ガバッ グイッ ドスンッ

(うぐっ!こいつ!急に手を伸ばしてきたと思えば今度は足を引っ掛けて俺を床に押し倒してきたのか。くそ、こんな時に力じゃ全然敵わない。だったら!)ダッ バッ

『む?』ピタッ

『あら?』パチン ググッ

『ぐ、貴様。何の真似をしているのだ?』ギロッ ゾワゾワッ

(うぐぐ、こいつは本気でキレかけているな。でもこうなった以上仕方が無い。このまま黙っているわけにはいかないんだ。だから、ごめんなさい、師匠!俺はまだ、死ねないんだ。俺の命より、大切なものが、出来てしまったんだ。だから、だから、お願いします。もう少し、もう少しだけで良いから、我慢していてください。必ずいつか、ちゃんとお礼を言いに行くから、だから今は、少しの間だけでも、この世界で頑張っていきたいんです!)

ドキドキ プルプル

(頼む!どうか、俺の事を見逃してくれ!そうしないと俺には時間がないんだ!もうあまり余裕は無いんだよ。それにここでこの人に見捨てられたりした日には俺はこの先生きていけるか分からないんだ!頼む、頼むよ。頼むから、俺の邪魔をしないでくれよ!)ウルウル

「お、お願いします。ちょっとで、ほんの少しでも良いんで俺に時間をください。お願いします。本当にお願いします」ペコッ プルプル

『ほう。そこまで必死になってまで私に懇願するか』フッ

「はい。もう何でも言う事を聞きますから。俺のできる事であればどんなお願いも聞く覚悟もありますから。本当にお願いします。後生だから。お願いします。俺に時間をください」

ポロポロ

「なんでも、本当に、なん」ポロボロ ギュッ

「え」

(な、何してんだこいつ?な、何してるんだ、いきなり、何、俺の手を、何握ってるんだ?俺の、手を握って、それから、抱きしめてる?)

(何してんだ?どうして、どうしてそんな事をしているんだ。俺の事なんて見放せばよかったじゃないか。それなのにどうして?)

スッ ナデ

『まったくお前はどうしてそういつも私の言うことをきいてくれないのか』

ナデナテ

(は?いや、いやいやいやいや!そんなのおかしいって!どうして俺の頭なんか撫でてるんだよ!そんなの、どうして、俺が子供扱いされてるみたいじゃんか!俺には、もう時間が、残ってないんだよ!それどころかもうすでにほとんど残って無いんだよ!もうすぐ、もうすぐ消えていくんだ!そうなったらもう二度とこの世界には戻って来れないかもしれないんだぞ!?)ワナワナブルル ポロポロ グスッグスッ

「お、俺の話聞いてたよね?な、何で泣いてんの?あんた一体何考えてるんだよ!」グズッグス

「ああ、そうだな。私は確かにこの国の王だ。しかしそれと同時にこの城に住むたった一人の少女だ」フフッ

「な、なに、いってんの、ば、かなの?わかん、な、わからん、だろ、そんなの、おれ、しらな、知らねえよ、そんな、こと」ゴニョゴニョ モジッ ゴシ ポカーン

(はあ?はあー?はあぁーーーーーー!!!???え?はあ?いや、え?な、何を言っているんだ?え?いやいやいや、ちょっと待って、落ち着け、俺、落ち着こう。とりあえず状況整理だ。まずはこの人がこの城に住んでいるってのは確定事項として、でもお姫様なのかそうでないのかの判断は保留中と、うん。まあいいか、どうでもいいし、それはどうでも良いんだよ、うん。それで、今の状況についてなんだけど、何故かこのお姫様に俺は今、頭を撫でられています。で、その状態で抱きつかれて、泣かれました。で?でででで、結局これどういうことだ!?)キョロ

(あれだ、これはきっとあれだ。この人はあれなんだ、実は寂しかったんだろう。この人は一人なんだ。一人だから人恋しいんだな。そう言えば俺がここに来る前の日も夜中に俺の部屋に来たんだ。この人も多分俺と同じなんだ。一人ぼっちが怖いんだ。俺と同じように)チラリッ

(だったら俺はこの人に寄り添うべきだ。そして一緒に居るべきだろう。たとえこの人が誰であろうとも。俺はもう決めた。だから)

「なあ、アンタ、名前はなんていうんだよ?」ハア ハア

(さっきまでの俺の考えは全部間違っているのかも知れない。本当はただ俺とこの人は同じだっただけの話だったのかもしれない。だってこの人がこんな風に甘えてくるのなら、それはきっと俺に対して好意を持ってくれているんだからな。俺はそれを受け止めなきゃいけないんだよな。だったら俺がすることは一つだ)スッ ニカッ

「これから宜しくな。俺の名前は『白銀竜(シルバードラゴン)』。長い名前だけど気にしないで欲しい。そして今日から俺とお前は一心同体だ。俺はこの世界を救いたいと思っているし、そして俺と一緒にいてくれればお前にも必ず幸せになる方法があるはずだ」キメッ

(だから俺はこの人のそばにいる。そしてこの人との繋がりを大切にしていく)キラーン パアッ

(へへっ。なにカッコつけちゃっているんだろうな俺は。自分でも恥ずかしくて死にたくなってきた。だけどそれでも良いんだ。これが今の俺が出来る唯一の事だからな)

グイグイ

(あー!もう!なんなんだよこの気持ちは!なんなんだよちくしょう!!俺が何をしたっていうんだ?どうして俺がこの人達の為に何かをしてあげようと思っただけでこんな展開になっているんだよ。それに何?なんであの二人はあんなに平然とした顔でいられるんだよ。まるで何事も無かったように。俺だけが取り乱してるみたいじゃないか!もういいよ。分かったよ。だったら好きにすればいい。この二人を俺の師匠達と思って頑張ればいいだけだろ!)

『おい。いつまでそこで呆けているつもりなのだ?そろそろ行くぞ』ニヤニヤ ニヤニヤ

『ほらほら行きますよ。いつまでもそんな所にいないで』ニヤニヤ ニヤニヤ ムカァ ムカムカー

(こいつらは一体何をそんなニヤニヤした目つきでこっちを見てきているんだ?一体俺を馬鹿にしているのか!?それともまさか俺が照れまくっていることに気が付いてその反応を楽しまれているというのか!?いや!絶対後者だ!そうに決まっている!くっそ!絶対その態度後悔させてやるからな!見ていろよ!?絶対仕返ししてやるからな!絶対に覚えてやがれよ!?)

ビシッ

(よし、落ち着いたぞ。冷静になった。これでこの二人の相手を出来る)ドヤァ

(ふふふ、覚悟しておくが良い。もう手加減などしてやるものか。俺のありとあらゆる知識を駆使して貴様らの事を骨抜きにしてやらぁ!覚悟しろぉー!)

(さてと、じゃあそのついでと言っては何だが、あの時の約束についても少し考え直してくれるといいな。なんせこちとら命の恩人であり人生の先輩なんだ。そんな相手に対して何の見返りも無く願いを聞き入れろというのはあまりにも失礼ってもんだ。だから、ちょっとくらいわがまま言わせて欲しいね。俺はこの世界でのんびり冒険者をやりたいだけなんだからな!それにまだ師匠達との決着もついちまってないんだ。このまま何も言わずに別れてしまうなんてのは、俺には耐えられない。だから少しだけでも、本当に少しだけでも良いから俺の願いを聞いてくれないかな?なあ、俺の可愛い弟弟子たちよ)ウインク パチン ガサガサ

(さて、あいつらがどんな表情をするのか楽しみだな)ワクワク ドキドキ ゴソゴソ

(おっ!これはなかなか美味そうだな!)

(それにしてもここは随分と良い場所だな。魔物たちも殆ど出て来ないし、しかもこの山は空気も澄んでいる。とても綺麗な湖があるし、自然が豊かで、動物たちが沢山いて。それにここら一帯の気候も安定している。良い土地だよ本当に)

スウッー

『『『ギャオー!!』』』

バサバサッ ブワワッ ピューン

(それに何よりここにはたくさんの人間が住んでるんだもんな)クスッ スッ

(本当に人間達は皆笑顔で生活している。毎日忙しなく働きつつもちゃんと笑って過ごしている。本当に羨ましい限りだ。きっと彼等が住んでいるこの国では犯罪も起きないだろうな。みんな優しい人たちばっかりだし。この国は本当に恵まれた環境にある。だからこそこの国の民の事をもっと知っておきたいんだ。そうじゃないとせっかく助けに来てくれたというのに、ただ迷惑をかけてしまっただけになっちまう。それは何だかな。それだとあまりにも格好悪いよな。だからさ、お願いだ。もう少しで良いんだ。ほんの少しでも良いんだ。時間をくれないかな?そうしたら、そうしてくれたら俺は、きっともうこの世界には帰ってこれないかもしれないけど、俺は必ず、また、会いに来るから)ウルッ ギュー

(はは、やっぱり駄目だなぁ。つい感情的になっちゃった。でも大丈夫だよな。うん、この人達なら信じれる)

『ああ!そこだ!』

「おお!凄いな。本当によく見えるもんだな」パチパチ

『はは、これぐらいなら私だって余裕ですよ。これぐらい朝飯前です。でも流石は『古代竜(エンシェントドラゴン)』ですね。その視力と気配察知能力はまさに一流と呼ぶにふさわしい。いやまぁ私が教えているのだから当然といえば当然なんですけどね』フフン

「そうだぞ、私は『白銀竜(シルバードラゴン)』なんだからな。お前がどれだけ強くなろうと私の弟子である事に何の変わりもない。だからそんなに謙遜するんじゃ無い。胸を張って自慢すると良い」フッ

『そうそう!その通りなんですよ!私は『白銀龍(プラチナドラゴン)』の『アルティナさん』の唯一の生徒でもあるのです。この『黒雷鳥(ブラックサンダーバード)』である私がここまで成長できたのは全て『お師匠様』の教えがあってこそなんです。つまり『白銀竜(シルバードラゴン)』は私のお師匠様なわけなんですよ。お分かりいただけましたでしょうか?』ニコニコ

「おい、調子に乗るな『アーニャ』。いくら弟子と言えど今は授業中なのだから少し自重して欲しいのだが」

(まったく、お前はすぐに張り合う癖を止めろといつも言っているのにこの子は全然言うことを聞かないな。困ったものだ)ハア ハアッ ピィッ! バッ! シュタッ ダッ! ズボッ

「はい?今なんか聞きなれない鳴き声聞こえなかった?」キョロキョロ スウゥ ググッーー!!

(ふむふむ、成る程な。この子の種族名ってそういう事なのか。へえ、それは知らなかったな。でも、だからといってこの子をここで放っておくのは、この子が可哀想だな。だから、とりあえずはうちの城で預かってあげるとするかな。そしていつかその子が独り立ちできるようになった時にその時改めてこの子の意思を確認することにしよう)ウン スヤスヤ スー スー

(この寝顔を見れば誰にだって分かるさ。きっとこいつはこの子のことを本当の家族のように思ってるに違いないな。この子の方もまんざらではない様子だし。はあ、それにしてもどうしてこんなに俺の周りには面倒ごとばかり起こってくるんだろうな。でもまあ良いや。こんな風に誰かと楽しく過ごすこと自体久しぶりの事だったからな。それもこれも全てあの二人のおかげだな。本当に感謝してもしきれない。だから俺は絶対にあの二人の為にもこの世界で生き抜いて見せる!そして必ずこの世界の真実を突き止めてやる!だから俺がいなくなった後もしっかり頑張れよな!お前たち!)ビシッ パアッ

(へへっ。こうして見るとまるで兄弟みたいな二人だな。本当に微笑ましい光景だ。俺が死んでしまった後どうなるのか不安に思ってしまうほどにな。でも俺が死ぬなんてまだまだずっと先の話だろうな。まだ若いのに早死なんてしたくはないからな。それまでは出来る限り長生きしないとな)ニッ ニコッ

(しかしあれだよなぁ。本当にこの子達、特に男の方の態度は俺としては許せないところがあるんだよな。なんで俺がこの子に優しくしてあげてるのにあの子は俺に対してそんな偉そうなんだよ。いやいやおかしいよね。むしろ俺は君の命の恩人といっても過言では無いんだぜ?だったらその辺りちゃんと礼儀を尽くさないとその方が逆に問題になると思うんだけどさ?それにそもそもさっきから君は何を言ってるんだ?この子とか弟弟子とか訳わかんないよ?それに何より、一番分からないのはその『アルティ』?だったかな?その呼び名についてだけどさ、俺は『お師匠様』って呼ばれたい派なんだよな!だって俺一応男なんだしさ?女の子を『お師匠様』呼びするっていうのは何というかこう色々とロマンあるよな!あ、勿論『師匠(せっしゃ)』『姉御』、『先生』でも全然かまわないんだけどね!というわけで!さっさと俺の弟弟子になりやがれ!いいな!?)

ビシィー

『ギャオォーーン!!』バサバサッ

『『ギャオーー!!!』』ブワッ ドタドタッ ザッザッ ピューンッ! ドッドドド

「うーん。やっぱり良く見えないな。もう少し視力が良くなればなぁ」

(あ、あーん!やっぱり『アルティナ』には敵わないわぁ。悔しいわぁ。あんなのどうやって勝てって言うのぉ。あの化け物ぅ)チラッ ギロッ

(ひいっ!あ、あの女、絶対あたしのこと睨んできてるんですけどぉ!?怖いんですけどぉ。マジ勘弁してくださいよぉ。あ、あの視線がこっちにまで向いて来てるんですけどぉ。ヤバイです!こっち見ないでぇ)ゾクッ

(それに『ルシア』に至ってはこっち見てすらないのに、なんで私には殺気まで飛んできてるんですかね?おかしくないですかねぇ。私は何もしていないはずなのに。これじゃ私がいじめているみたいじゃ無いですかぁ。納得いきませんよぉ)シクシク ガサガサ

『ははは、まぁ、そう落ち込むんじゃ無いですよ『レイナ』殿。貴方は十分素晴らしい能力を持っているんですから、もっと自信を持ちなさい。そうじゃないとこの先には進めなくなりますよ?』フッ

『でも、やっぱり私はあなた達に負けるのが怖くて』グスッ

『はぁ、まったく。一体何処まで子供なのでしょうか。貴女達は一体どこまで自分に厳しい性格をしているのでしょうか。まったく呆れて物が言えないとはまさに今のこの状況を指す言葉でしょうね』

(『レイカ』殿がそんな事を思っていただなんて、私は全く知りませんでした。まさかそれほどまでに追い詰められていたという事なのですね。それはあまりにも心苦しい状況ですね。確かに『レイカナ』の種族名はこの子と同じ『聖鳥』なので、この子も本来はこの子の妹に当たる子なんですよね。それにこの子の気持ちを考えるとこの子がこの山を下りたくなるのは当たり前の話ですね。私としても正直『セイリュウ』である『アルティナ』が一緒に付いて行けば万が一の心配もなくなるという面ではこの子を連れて行くという判断は決して間違ってはいないと思っていましたが、この子がそこまで追い詰めてしまっているのだとしたらやはりこの山で『アルティナ』と別れた方が良かったという結論しか出てきませんね。ですがそれは同時に、この子のこの先の人生が大きく変わってしまうということになりかねないんですよね。それならばこの子が望むとおりにしてあげることがこの子にとって最も幸せにつながる道だというのもまた一つの正解ではありますよね。まったく、こんな時に私の判断ミスが出てしまうだなんて、一体どこの世界に間違えずに答えられる選択肢などあり得ると言うのでしょうかね)

(この子を連れて行く事は決定事項だ。だが、このままでは流石に問題がある。この子が私の足手まといになっている事実が分かれば確実にその事がこの子の負担になって、この子はいずれこの世界を見限ることになる可能性が高いな。それはまず避けなければな。だが私が傍にいてフォローしてやるのが一番この子の成長を促す為の方法としては有効か。それにこの子は元々『聖獣』としての特性がかなり強いはずだ。この子は間違いなく今後強くなる素質を十分に持ち合わせている子であるに違いないだろう。であればこの子のこれからの為にも私の傍に居ることで成長を促しながら鍛え上げてあげる方が良いだろうな。そして私がその成長に最後まで付き添うことでその成長を助けてあげるというのも決して悪くは無い考えかもしれないな。うん、やはり私は間違っていなかったようだな)ウンウン

『そういえば、お兄さんはこの子の名前は決めたんですか?』

『あ、そう言えばまだ名前決めていなかったな。どうしようかな』

『おやおや。まだ名前をお付けになっていないだなんて随分とお忙しい身だったのですね。てっきり私はもう既に名前がお有りかと思っていたのですが』クスクス

『そ、そんなんじゃねえよ!』アセアセ

「おおお!おめえら!そこで何をやっている!このクソガキども!!さっさとそこから出やがれ!ぶっ殺してやる!!」

「げっ!」ビクンッ!

「ふむ。どうやら来たみたいだな」スッ スゥ ググググゥ グイッ!

「「きゃっ!」」

(なっ!何だこれは!?身体が動かないぞ!!)

スウウゥゥゥー バタンッ ドサッドサドサドサァ ドスン

「おい!どうなってんだ?どういう事だよ!俺の部下がいきなり気絶しちまったんだが?」

「おい、お前。少し質問をさせてもらっても良いか?」

ギロッ ゴツ ドガッ! スチャ ズズズ ピピピピピ ピッピピピピピピピ ガチャリ ズバッ! ザグッ スウッ ザシュッ! ドスッ! ゲシッ グッ! ザグッ! ザシュッ! ザシュ! ザグッ! ザグッ! グッザグッザグッザグッ! ザグッ! ズバッ! スッ ザシュッ! ザシューザシューザシューザシューザシュウ! ズッザッシュッ! ザッ! ブシャッ! ボタタッ ベチョ ヌラァ

「ああ、別に俺は何もしていないから安心してくれ。それよりもお前が俺達を殺そうとした奴だな?それで合ってるよな?一応念のためにもう一度だけ聞く。お前が、俺達の目の前で今さっきこの二人を殺したやつなんだな?そうだろ?そうだと言えよ」ジィイィー ゴゴゴ ゴクリ

「ひっ!あ、あぁ、その通りだ!その二人の死体は俺がこの手で殺したんだよ!これで満足だな?だから見逃してく―――ぎゃあぁあーーーー!!!腕がぁあーーーー!!あぁあぁーーー!!」

(な、なんだ!?何が起こっているんだよ!?急に右腕が痛い!熱い!燃えてるように熱くて堪らない!そして俺の腕が切られた所から変な汁みたいなのがどんどん流れて来てる!何で俺の腕から血が流れてるんだ?どうしてなんだ?)

(なるほど。どうやら本当にあの女達が言っていた通りにこいつがこの村の連中を殺していたみたいですね。でも一体どんな能力なんですか?この男の体からは血の一滴も出てきませんし、そもそもこんな一瞬で人間を真っ二つにする能力など、いくらこの男が異常なほどの剣の使い手であっても絶対にあり得ない話だと思うのですが)

『お兄ちゃん?』

「大丈夫だ。ちょっとこいつには用がある。少しだけ我慢できるか?」

『分かったわ。待ってるわね』

「良い返事だ」ニコッ

(それにしてもまさか『レイカ』に嘘を吐かれていたとは思ってもいませんでした。『アルティ』が居なくなってからの彼女は私の中では既に死んだ存在として処理されていたものですから、彼女が生きて動いている事すら想像もしていませんでしたね。まぁ、生きていたことは純粋に嬉しかったのですが、でもまさかここまで成長していたなんて驚きましたね。流石にこれは想定外でしたが、まあ、これも運命と言う事で受け入れておきましょう)フッ

「うぅ。な、何をするつもりなんですか?一体私に何をする気なんですか?助けてください!私はこの国の王女ですよ?私を助けるということは即ち国を救うことにつながりますよ?だから、ね?分かるでしょう?」

ペタペタ

「あ、あれぇ?可笑しいなぁ。確かに切った筈なのに傷が塞がっちゃってるんですけどぉ?これじゃ私が犯人だと思われちゃうじゃんかぁ。困るなぁ、それは非常に不味いなぁ。はぁ。仕方がないなぁ。本当はこの力をこの国に見せる訳にはいかないんだけど、ここでこの女が死ねば私には関係ないしねぇ。うん。仕方ないよねぇ。だって、私はただ自分の身を護るために正当防衛をしただけだもんねぇ。私は全然悪くないんだよね。じゃあ殺そうっとぉ」ニッコリ ジャキンッ

(ふふ、全くこの男はバカな男ですね。まぁでもこのくらいの器しかないからこそ私はこいつを殺さない選択をとったのですがね)ニヤッ

(この男は自分の身可愛さに私を殺すことしか出来ないんですよね。まぁ私に返り討ちに遭うことしか出来無いくせに私を殺すだなんて、そんな大それたこと出来ると思っているだなんて本当に愚の骨頂でしかありませんけど、この男が愚かな事は置いておくとして、私にとっては都合の良い展開に進んでいるようですね。さて、それではお楽しみといきますか。それにしても私にもまだまだ人を見る目があったのだと改めて確認することができて、私自身嬉しいですね。この様な愚物を簡単に見抜くことが出来なくては『アルティナ』を育てるという役割は担えないでしょうし)クスクス パチン バサッ ゴォオオオッ! ズズズ バシャンッ ドカンッ ドガン ガシャッン バシャバシャ バシンッ

「おほほっ。あらやだなんですの。貴方様のような下等生物が私の前に現れるなんて、一体どれだけ身の程知らずな事をしているのかしらね。というよりどうやってここに来られたんですかね?もしかしてまた私の愛娘に手を出してくださったとかそういうお話でございまして?」クスクス

「ほう。それがこの国を治める女王の態度か。実に面白いものだな。それに相変わらず貴殿の見た目は全く変わって無いようだな。まあ俺も人のことを言えないがな。それで今回はその言葉をそのまま返させて貰おうじゃないか。何故俺の娘にお前らは手を出そうとしたんだ?俺には全くもって分からないことだ。お前達は何かの病気を患っているのではないか?それとも余程の世間知らずなお嬢様なのか?もし後者ならばお前は親失格だな。お前の子供はいずれ大きな過ちを犯してしまうに違いない。今から心配だな」スゥ スゥー

「なっ!なっ!ななっ!!私の可愛い可愛い『ルリア』を侮辱するとは!許されざる暴挙ですわ!あなたには即刻死んで頂かないとなりませんわ!その命、ここで終わらせてやりますわ!」スウゥー バシャッ ボコンッ ドガァーンッ!!! バガアァアンッ ガラァ ガラァ

(ふむ。流石にあの女の能力は厄介そうだな。この国で一番の魔法使いだと言っていたからそれも当然だろうが、やはり問題は俺の能力がどこまで通用できるかだが。俺の力なら大抵の魔法はこの力で何とかなってしまうのだが、如何せんこの力自体が未知の領域な上に相手の持つ魔法が俺にとって有効ではない場合が大いに考えられる以上俺一人で対処するのは正直言って厳しいところではあるが)

バサバサ ピタ

「お兄ちゃん。私、まだ我慢できたよ?だから今度は私を頼っても良いんだよ?お兄ちゃんに言われた通りに私はこの人を絶対に殺すまで攻撃はしない。だけどこの人はきっと私の事も殺そうとすると思うんだ。だからね?その時の為に今のうちに練習しておきたいことがあるの。協力してもらえるかな?」ニコ ギュウゥー スウウゥゥ

「ん?それはどういう意味なんだ?まさか俺も一緒に戦ってくれっていうんじゃないだろうな?俺はお前の為だけを思ってこの国の連中と戦った。そしてそいつらを片付けた後にこうしてお前の元にやってきたわけなんだ。だから、もしも万が一の時は俺に任せてくれれば問題ない。だから俺が居なくなった後でも安心してそこで見ているといいぞ。それにもう直ぐお前が望む相手がお前の前にやって来る。そうなればお前の出番は一切無くなってしまうからな」

ニコッ

(全くこの子は何時の間にこのような強さを手に入れていたのだ?もしかしたらこの子は俺よりも強くなるんじゃないか?でも今の俺にはこの子にはまだ教えることは出来ない。いや、教えてはいけない。だって俺が死んだ後のことは彼女には関係が無いはずだ。俺が生きている限りは彼女の安全は必ず保障しなければならない。でもそれはあくまで俺の都合だ。この世界にはこの世界のルールがあり秩序が存在する。だからこそこの世界で生きていられるのは自分勝手な行動を取る事は決してあってはならないし許されることでもない。それをこの子の前で言うのは流石の俺であっても躊躇してしまう。いやまあ、この子に限って言えば大丈夫なのかもしれないがな。それにしても『ルリア』には俺が知らない内にこの世界には無いような知識を持っていた。それは俺が知っている常識とは違う。この世界を形作っている法則をまるで覆してしまいかねない、そんなとんでもないモノを持っているように思えた。この子が一体何処からそれらの知識を得ているのかが少し気になるところではあるけれど、それでもこの子に関しては特に気にすることではないんだろう。まあ今は取り敢えず俺の大切なこの子の無事を確保することが優先されるから、その為に必要なら俺の秘密を全て打ち明けても別に良いんだが、流石に全てを晒け出すことは無理だからそこだけは許してくれ。まぁでもこの子を無事に育てていく為だったらどんな手段でも使って見せるがな)

(お兄ちゃんが私と一緒に戦いたいとかじゃない?でも私達でどうにかできる?でもお兄ちゃんは私をこの人の手から守るために私と離れたんでしょ?じゃあお兄ちゃんが居る場所がこの人の手の届かない所なんでしょ?)

(えぇ?お兄ちゃんってばこの人と二人っきりで話し合おうとしているんだ?どうしてなんだろう。でもそれは私の事を心配しているからだよね。それにこの人も何か怪しいし、それにこの人が『ルリ』を連れて行くって言ってたから私もついてきたんだし、この人のことを調べなくちゃ)フフッ

(この人、私がここに来たのを見て凄く驚いた顔をしていたよね。それなのに私はこの人に殺されそうになったの。つまり、私がここにいる事が予想外なはずなのにこの人から殺意を感じたのはそのお陰でもあるはずなの。だとしたらこの人の目的は何なんだろう?そもそも私と『アル』とお母さん以外に私達の居場所が分かる存在なんていない筈なのになんで私達に気付かれずに私達が住んでいる場所に来れたのかな?それに私が狙われる理由も分からないし。うぅ、考えていても答えが出そうにないなぁ。どうしよう。このままじゃ、この先不安でしか無いんだけど。それに『ル』がこの国を出て行ってしまったこともお兄ちゃんがこの国に帰ってきたことと関係がある気がするし、それにお姉さんは何かをこの国に隠している。それが何だか良く分かんないけど、多分間違っていないよね。じゃあ一体それは何なのか。それは私にはとても分かりそうにないよ。お兄ちゃんに聞きに行きたいんだけど、それは流石にまずいよね。でも聞かないまま放置しておくというのも危険すぎる。うーん。ここは思い切ってお兄ちゃんのところに行った方が良いのかも)

(ん?もしかして『リーザ』もこの城に戻って来ているのか?というか、『ルリア』はここに居るんだから当然戻って来ていることに決まっているな。それにしても、この城の警備の奴等は何をやってるんだ?この城は簡単に侵入出来るようになっている訳では無いんだが、その割には簡単にこの場まで来られたんだがな。もしかするとこの国の上層部は相当腐りきっているのかもしれ無いというか絶対そうだろ。これは『アイ』にも伝えておいた方がいいかもな。まぁ、それよりも今はこっちの問題の方が先だな。取り敢えず俺が今一番しなくてはならない事は『リーザ』を連れて戻ることだな)

「お前は確かあの男の弟子だと言っていた女ではないか。それにその男の側に寄り添うようにして歩いている幼子は、あの時私を殺しに来て私に一撃を食らわせた少女。という事は、貴様達はまさか、その男に洗脳されたのか!?」

(やっぱりこの男が例の研究者なの?確かにこの魔力量は明らかに異常。もしかしてあの時の男が本当にお兄ちゃんなの?それにこの人の言葉を聞いた限りでは何やらお兄ちゃんに対して色々と勘違いをしていて、それについて物凄く怒っていることがよく分かったけど。だけどこのお姫様の様子が明らかにおかしいのは何でだろう?まるで誰かに操られているみたい。もしかして本当にお兄ちゃんはこの国にいる間にこの国のお姫様も虜にしてしまっていたりするの?でもそれだとこのお城が無傷のままなのが不思議だし、それにこのお城にはこの人以外にもたくさんの兵隊さんがいるのも見える。この人は魔法に長けていてお兄ちゃんの力は魔法の力だって自分で言っていたから、もしかしてこのお姫様にも魔法を使っているって考えるのが普通だと思う。ならお姉さんの様子がおかしかったのも納得が出来る。だってこのお姫様なら自分の意思に反してお兄ちゃんの為に働くように暗示をかけられていてもおかしくはないもんね。なら、取り敢えず今は、その事に気付いてないフリをして、この人がお兄ちゃんの敵であると仮定して対応しないとダメだね。それがお兄ちゃんの為にも、そして私の身を守る為にも必要な行動なんだから、頑張らないと)

ピキッ ゴオオオォォッ! ドバァンッ! ボガァァァアンッ! バギバキィッ! メリッ ドッカアアアァァーンッ! ズダアァアンッ! ガアアァアァアンッ! グワアアアアアアアアン!! ガララララッ!!

「お兄ちゃん?私、この人と話したいの?だから少し待っていて貰える?」スウウゥゥゥ バシュバシュ バシャシャ

「おぉ、良いぞ。だがくれぐれも無理だけはしないで欲しいな。流石の俺もそこまでは庇ってやることは出来ないからな。だがもしも危ないと感じることがあった時は迷わず俺を頼れ。それでいいな?」ナデナデ

「うん♪わかったよ!」

ニコッ

(ん?あれ?何だ?さっきまで俺のことを殺そうと魔法を使っていたはずの魔法使いの女は何故か魔法を解いて大人しくなってしまい。それに他の兵達も同じようだな。何故だ?一体何をしたというのだ?)キョロ

(あ、そういえば俺、一応はあいつらが魔法を使って来た時に抵抗した方が良かったんだよな?今度からはもう少し気を付けることにしよう)

「おい。もうお前らに用は無いんだ。さっさとここから立ち去ればこれ以上は何もするつもりも無い。だからこの国からとっとと出て行け」

シッシ!

(お?おおお!この子凄いな。まさかこんな簡単にこの人達を退けちゃうなんてね。でもまぁそれもそうか、この子の能力は俺が思っている以上だからな。それにこの子にとってはまだ全然本気では無かったのかもしれない。この子に全力を使わせた場合果たしてこの世界にはどれほどの影響が出てくるんだろうな。正直全く想像できないから俺にとってはそれだけでも十分な収穫だったと言える。まぁそれはこの子が成長した場合に起こる変化であってまだこの子の実力がどれだけあるかを正確に判断することは俺には出来ないがな。でもこの子に勝てる存在なんぞ俺の知っている中で言えば、精々神族ぐらいのものだろうな。まあそれでもこの子の場合はこの世界でもかなり特殊な方になるんだろうが)

「あ、あなたが、この国の王子様なんですか?それならば、是非とも私と結婚してくださいませ!!」バッ ペコリギュウッ

(へ?え?あ、あぁ、俺の嫁?マジか!?いきなりそんなことを言われるとは思ってもみなかった。でも俺に求婚してくるということは、この人は『アルリエス』ではないんだよな?じゃあいったい誰が?この世界で結婚を申し込んで来るような奴なんていないはずだから。というかもしこの世界に居たとしても俺はこの子以外の人間と結婚するつもりはさらさらない。だからこの子と結婚出来るわけがないんだが、そうなると本当に誰が?)ドキドキ

(えぇ?私ってばどうしてお兄ちゃんじゃなくて、お姉さんと戦わないといけないの?お兄ちゃんと戦うつもりだったのにどうして邪魔をするの?お姉さんにお兄ちゃんを倒すことなんて出来ないはずなのに、どうして私の前に立ち塞がってくるの?それにどうしてお兄ちゃんに告白するような言葉をこのお姉さんは言ったの?それは絶対にあり得ないはずなのに、なのにお兄ちゃんはこのお姉さんの事を好きになっちゃうの?もしかしてお兄ちゃんって本当はロリコンでマザコンでお姉ちゃんに妹属性とかがあってそれを全部兼ね備えているからお兄ちゃんがお兄ちゃんになっているの?お、落ち着こう。まずは落ち着いて冷静になろう。じゃないとお姉さんに殺されちゃうかも)ビクビク

(ふぅーん。やっぱり『アル』が言っていたのは本当のことだったみたいだな。しかもあの『リーザ』をここまで成長させたっていうんだからやっぱりただ者では無いということか。あの子は確かに才能はあったが、まだまだ精神面に関しては未熟だと思っていたんだがな。どうやらそれは間違いだったみたいだ。この子を弟子にした時から薄々感づいていたけどやはりあの男は自分の子供に対して過保護過ぎると思う。この子には確かに『古代魔法』を教えているみたいだしその点は俺も認めてやらなければならないが、それでもこの子が本気を出せて無い状態というのは一目瞭然だ。

この子が全力を出したらいったいどうなるというのか私にも分からない。だからこそこの子はもっと色々な可能性を持っているはずだとそう私は考えていたのだがそれは違ったみたいらしいな。おそらくこの子が『リーザ』がこの先成長していったとしてもその限界値という奴は今の『ルリア』が『古代魔法』を使い始めたばかりの時のあの子と大して変わらない程度だと、この国の者達は考えているんだろうな。

まぁそれは私にとっても嬉しい誤算な訳だけれど。でもまぁそのせいであの男があんな暴走をしたみたいなんだけどな。それにしてもあの男のこの娘への愛情というか執着心というか、そういうところだけは本当に異常だと思う。いくら自分の子供の為とは言えあそこまでするかと私としては少しドン引きしてしまうな。だがまぁあの男のおかげでこの子は間違いなく強くなった。だから感謝の気持ちは一応はあるがな)チラッ スッ

(うむ。やっぱりこの女からは何も読み取れないな。この様子だと俺のことが気に入らないと思っているわけではなさそうだが、俺に恋焦がれているというわけでも無さそうだよな。となるとやっぱり洗脳されているのが原因なのか?いやしかしそれならそもそもこんな風に直接接触してこないだろう。となると考えられることはこの子の魔力量を見て怯えていたという線が濃厚か?だとしたら何でこいつは俺のことを見ているんだ?この女から感じるのは恐怖というよりも困惑しているようにしか感じない。いや待て、だとするとこの子が俺に攻撃しようとしなかった理由はそこにあるのかもな。俺の力がどれ程の物か測り切れずにいたのかもしれないな。

それでこの女の実力を見極めようとしていたのかもしれないな。もしそれが正解なのだとしたら俺は今すぐここから逃げた方が良いな。この子に警戒されてしまうのはまずい)サッ

「すまない。俺は少し用事が出来てしまった。お前達との話はまた後日聞かせてくれ。だから今日はこの辺で帰らせてもらう。だから今日の事は許して欲しい」スッ スゥゥ スッ スタスタスタ

(ん?お兄ちゃん何処か行っちゃったの?なら追いかけないと!早く追いつかないと!)ダッ タッ スゥッ タッタッタ

(お兄ちゃん!どこ行ったの?お兄ちゃん、ねぇ、お兄ちゃんったら!)ウルッ

(は?どういうことだ?どうして俺の気配が消える?)ピキーン シュイン! パシッ! ガキィィン! ザワザワ ピカッ ズオォオオォォン!!

「お兄様!」

ピカーン バァンッ! シュンッ! ドカァアァン! ズゴゴゴゴッ! ドガァアアァン! ドッカアアァァアン! ゴガァアアァアンッ! ボコォンッ スパッスパパパッ

(なんだ?俺がこの場から姿を消したと思った瞬間突然現れた謎の鎧を纏った女が俺を攻撃してきたように見えた。俺が消えたことに気が付いて慌てて飛び出したみたいだが、それにしても何が起きたんだ?それに俺がさっきまで居たところにはまるで爆弾が落ちて来たかのようなクレーターのようなものが出現していたな。一体なんだったのだ?)キョロキョロ

「お兄様!」ダキッ スックリムギュウゥゥゥゥゥゥウウゥゥウゥウゥゥ スリ スリスリィ スリスリ

「ああ、お前か。お前は何でこんな所にいるのだ?お前達は確か城の中に居るようにと言った筈だぞ?」ジロッ ギラギラッ

「あ、あのお姉ちゃんに、逃げられて、そ、それで、それで」オロオロ スッ

(お兄ちゃんが、怒ってる?どうして?もしかして私が、私の魔法を失敗しちゃったから?それで、怒っているの?お兄ちゃん、そんなの、ヤだよぉ。そんなの嫌なのぉ)グスングスングスンズピーーン!グワッ

(ふぇ!?う、う、うぅ。な、なんで、お、お兄ちゃん?お兄ちゃんが急に強くなってるの!?う、ううん。でも、大丈夫。だって、お兄ちゃんは、いつも私を助けてくれるんだもん。だから、お兄ちゃんが、今、凄く強い人になったとしても、それはきっと、私を助ける為になってくれているだけ、だよね?)ニコッ キュルン

「あぁそうか、それは残念だったな。だが俺はあいつらの事をお前達に任せていたんだが何かあったんだな?それにしてもあの魔法を喰らいながらも俺のことを探しに来るほどの余裕があったのか?俺としてはそれは想定していなかった。これは本当に驚いたぞ」マジ

「お兄ちゃん」フルフル

「なんだ?どうかしたか?」

「えへへ、なんでも、ない、よ」

ニコニコ ギュム

「ふふっ、お前は本当に俺のことが好きなんだな」ポンポン

(お兄ちゃんが、笑った?お兄ちゃんが、あの笑顔を見せて、くれた。もしかして、もしかして、あの時と一緒なの!?でも、どうして、どうして、この人は私と同じ力を、持って、いるの?この人は、いったい、誰、なの?)ビクビク

「おい、貴様、何をして居るんだ。それは僕のものだ。早く僕に渡せ」

スタスタ トコトコトココチ スッ バッ ジャキンッ スラッ ヒュバッ! シャキィイイン

「お兄ちゃんは、誰にもあげないの!あなたには、絶対に、絶対にあげないんだから!」プンスカ!プクーッ!フンッ!フンスゥ プンスコ

(こいつが『リリス』とかいうやつか?さっきの攻撃を見る限りはなかなかの腕前を持って居そうだな。だが、どうしてこいつはここに居るんだ?まさかとは思うがまだ諦めていなかったということなのか。それとも他に狙いがあるというのか。それか、もしくはただ単にこいつとこの子は繋がっているのか。どちらにしろこいつの行動が意味不明過ぎるのは間違い無いな)

ビビビッ ビリビリッ

(この子、凄い力だ。でも、この子からは、殺気が全く感じられない。本当にこの子、戦うつもりが、無いの?だったら私も、戦わない、方がいいのかな?)スッ

(この子、私と同じくらいの、強さを持っているのかもしれない。それに私もまだ本気を出さずに済むみたい。でもこの子がもし本気で向かって来たら私、どうなっちゃうの?わ、分からないけど、やっぱりこの子には本気を出したくない、かも。だけど、それは無理な話だよね。この子も私を殺そうと思えばいつでも殺すことが出来たはずだから。だから私もこの子を、殺さない様に、するしかない、と思う)ドキドキ ガサゴソ

(こいつはさっきから何故こんなところに一人で居るんだ?こいつはさっきの爆発にもまったく反応して居なかった。だがそれはありえないだろう。こいつはさっきあの爆発で俺が死んだと思っていたのかもしれないがそうでは無かった。あの攻撃で死んだ奴らは一人として居なかった。それなのに何故この少女はこの場所に来れたのだ?そしてあの男がこの女の子に近づいても特に気にしている様子が無いように見える。というかこいつ等はいったいどういう関係なんだ?親子では無いみたいだが。だとしたら兄弟って訳でも無いみたいだし)

ジーー

(この男の強さは底知れないほどだ。正直ここまでとは思って居なかった)スッ

(あの爆発の中で生き残っただけでも驚きなのだが、その威力を全てあの男に吸収されてしまっていたようだな。あの男が居た位置からあの男の気配は全く感じることが出来なかった。それにあの男の魔力量から考えてもおかしいのだ。あんな膨大な魔力を持つ人間が存在するなんて聞いたことも無かった。だとすればこいつは何者なのだろうか?)

ジッ ガキィィィン!

(俺が剣を振り下ろした瞬間この子はその動きに合わせて短刀を突き出した。俺はそれに対してわざと攻撃を受ける事を選んだ。その一撃を受けたことで俺は相手の力量を測ることを試みた。その結果俺はこの子がこの国の最強と言われる『七英雄』の一人だということを知った。しかもこの国には他にも俺と同等の力を持つ者が何人も存在しているのだという。俺にとってはそれを知ったのはかなり大きなことだった。なぜなら俺の力はその者たちからすると脅威に値しないのだと分かったからだ。つまり俺は今この国に喧嘩を売るべきではないということになる。それならば俺にこの国に逆らう理由は無くなった。だからこそこの子がこの場に来たのもそれほど問題ではないと考えた。この子に敵対する理由が無くなってしまったのだから。それなら俺も少しこの子の話を詳しく聞いてみたいと思った。この子が何を目的に動いているのかをな)チラッチラッ ニヤニヤ シュピィイン ドカァァアン!!ズオォオオォオン!!!ズバズバァァァアアン!!ドガガァアァアン!!ドッカアアァアァアァアン!!ドッカァアァアァァアアァアン!

(このお姉ちゃんは私よりも強くて頭もいいんだよ!でも優しいお姉ちゃんで私のお願いを聞いてくれるの!それにね!お姉ちゃんにはお兄ちゃんがいるんだけどとっても綺麗なお兄ちゃんなの!だからね!私はそんなお兄ちゃんのお手伝いをするためにここに来たの!でもお姉ちゃんには内緒でお話ししよう!って思ったからこっそりとお城に行こうとしたんだけど失敗しちゃった。うう、ごめんなさい)

ウルウル

(ふふふっ。何度言っても同じです。この人は絶対に譲らないのです。例えあなたでも私の意思を曲げることは出来ないのですよ。でもあなたの力は強すぎるのです。このままでは他の方たちにも被害が出てしまう可能性があるのです。でも安心してください。私がちゃんと考えて行動していますから。だからもう少しだけこの人に我慢してもらって欲しいのです。大丈夫。必ず貴方の元に彼を届けますから。それが彼の願いでもあるはずなんですから)ニコォォ

「ん?」ピクッ「何やっているの?リリス」コテ?

(なんだか今一瞬嫌な予感がしたんだがなぁ?いや気のせいであってくれよ?まさかなぁ。まぁ今はそれよりリリスの事の方が先だな)チラッ スッ「おい、そろそろどいてくれないか?邪魔だぞ?」

イライラ

「あ、はい。お兄様すみません。すぐに退きます」トットコトコトココチカチー キュキュゥウゥウゥゥン トットコトッコトッコトココココンコココン

(お姉ちゃんは何をしようとしているの?どうしてこのお兄ちゃんにあんな顔をさせているの?お兄ちゃんは笑ってないとダメなの!私に笑いかけてくれた時のようなあの笑みを見せないといけないの!)キッ ジトー

(うぅ、なんかお兄ちゃんの事が嫌いになりそうな感じだよぉ。お兄ちゃんと会える日はまだまだ遠そうだよぉ)ガックシ ザザザー ドサドサッ(やっと追いついたぞ!貴様、僕の命令を無視するだけでなく僕の獲物まで横取りするつもりなのか!?お前みたいな雑魚はそこで這いつくばっていてればいいんだ!お前は僕の為に生きる奴隷で道具なのだからな!)グワッ

「い、痛いの、やだぁ、グスッ、お兄ちゃん助けてぇ」シクシク

(あぁまた始まった。本当に困ったものよね。リリスは相変わらず自分の考えばかり優先させて、周りを見ようとはしていない。それにリリスはまだあの人の力を理解していないのでしょうね。でも、それも仕方が無いことなのでしょう。あの時の私達が今の私達を見たら私だって同じような態度を取ったかもしれないもの。だけどあの時はそれでも良かった。あの頃はお互いにお互いを必要としていたんだもの。でも、あの人と離れることで私たちはようやく気がついたわ。私達はもう既に一人で生きていくことが不可能な存在になってしまっていたんだということを。だけど私には出来なかった。どうしても怖かった。自分が一人でいるという現実を直視することがとても怖くて恐ろしかった。だから私は全てを忘れてただ逃げる事だけに全力を費やしていたのよ。そしてその代償がこの体たらくというわけね。情けない話よね。でもそれで私はある一つの決意をしたの。そう。絶対に死なないということだけを誓って生きていこうと)チラッ

(ふふっ、やっぱりリリスはまだ昔の癖から抜け出せないみたいね)クスッ

「貴様!僕を無視するとはいい度胸だな!僕を誰だと思っているんだ!僕の名は、」

「知っています」スッ ペラッ「貴様如きの僕への口出しは無用だ!」バンッ

(僕は誰だ!?そうだ。この王国で一番の剣士『剣聖』の称号を与えられた者だ!そしてあの方は僕の王!いや僕だけの王様だ。それなのにこいつらはまるで僕がこの国の全てを支配していると言わんばかりの顔をしながらのうのうと過ごしやがって。なんなんだこいつは。この女に至っては一体何様なつもりなんだ。そもそもこいつは本当にこの国の住民なのか?だとしたらこいつはただのバカじゃないのか?いやこいつはきっと頭がおかしいに違いない)チラッ

(なんだ?こいつは?何故こいつからは殺気も威圧感も何も感じられないんだ?それにさっきの攻撃の感じだとこいつ自身も大したことの無い相手だというのにどうしてこいつはこんなにも堂々としていられる?普通だったら恐怖で怯えて泣き叫んでいてもおかしく無いというのに)ジーー

「な、なんだよ。なにガンくれてんだよ。文句あんのかよ。お前なんてさっきの爆発で吹っとんでしまえばよかったのに。そうすりゃこの女の子も僕を裏切らずについて来たはずだ。それをこの野郎め。よくも僕達の計画を邪魔してくれやがったな。許さない。絶対許さないからな」ゴニョゴニョ ヒソッ(この男。どうにも違和感がある。こいつは確かに何かしら特別な能力を秘めているはずだ。それなのになぜこいつは俺に攻撃して来ようとしない?俺を侮っている?だとすればそれは間違いだな。こいつは明らかに俺を警戒して近づいて来ないようにしているはずだ。そしておそらく俺の実力を完全に理解したうえでこの男はこんな態度を取っている。それなのにこいつは何もして来ようとして来ない。それなら俺が取るべき道はこれしかない)スッ パラッ ペラッペラ

「え?」ドキリッ(こいつ。何故だ?何故こんなに動揺している?)スッ

(あの人の言葉は間違っていないのです。私達はあの人の事を知らな過ぎる。あの人は強い。強すぎるのです。私達にはあの人がどんな人物かなんて全然分からない。あの人は自分から進んで話す方では無いので私もあの人から詳しいことは聞いてはいません。ですがそれでも分かる。私達じゃ到底敵わないほどの強大な力を持っていて、それにこの世界の誰もが知っている伝説的な存在で。だからと言ってこの世界が彼の力を軽んじる理由にはならないのです。この国は今、かつて見たことがないほどに荒れています。あの爆発で国の半分は消し飛んでしまいました。それだけの力を持つ彼が私達に牙を剥いた時私に止めることが出来る自信は正直言って全く無いのです。それでもこの国がここまで混乱する理由だけははっきりしています。この国の国王であるこの男がこの国の実権を握り好き勝手なことをする。そんなことが許されるとでも思っているのでしょうか?それなら私もこの国に対してそれなりの行動を取らなければいけなくなるのです)ギロッ ズガァァアアン!!ドカッドッカーン!!!

(何だよ。何だよこれ?俺の魔法を全部受け止めたっていうのか?そんなことできる奴がいるはずがねえ!俺が使える最高の攻撃をあっさりと防ぐとかいったいどんな化物だよ。クソッ。どうして俺はこんな化け物にケンカを売っちまったんだろうなぁ?どうしてこんなことになるってわからなかったんだよ)ハァ ブワッ

(何が起きた?一瞬目を閉じたと思った次の瞬間。突然この場にとてつもないプレッシャーが襲ってきたぞ。これは間違いなくヤバイ。今まで出会ったことのないぐらいとんでもない化け物が今ここにいる!でもだからと言って引くわけにはいかねぇ!だってこの俺の最強魔法を全て受け止められちまったんだぜ?この程度で逃げ帰ったりしたら後で仲間や国になんて言われっか分かったもんじゃない!だからここは絶対に退いちゃいけない場面なんだ!)

ゴクッ

(ははっ、何てな。そんな事は分かってたよ。でもな、俺はここで死ぬわけにはいかないんだよ。何が何でも生きて帰んなきゃならない。だって俺はこれから結婚を控えてる身なんだ。ここで死んだりしたら悲しむやつらがいるんだ。だから負けらんねぇ。死んでたまるかよ!)

「行くぞ!お前なんかに俺の命を奪われてやる訳にはいかねえん、だぁぁぁああ!!」バッ

(なんだ?あいつは急に逃げて行きやがったぞ?なんだ?まさか逃げたんじゃないだろうな?いや、ありえないか。それにしてもあれはまるで別人だな。何があった?まさか俺の最強の攻撃を受け止めた時に頭でも打ったのか?それにしたってあり得なさすぎるだろ。俺の攻撃をあんな風に受け止めれるなんて普通だったら考えられねぇ)

ドタッタッタ

(くそっ、なんだってんだ!?一体全体どういう状況なんだ!?何でいきなりあいつらはケンカをし始めた!?しかも、あの『魔導師』が使った攻撃は何だったんだ?あれだけの力の差があってまだ戦う意思が有るってのかよ?意味がわかんねぇ。一体あいつらは何が目的なんだ?そもそもなんであいつらはこんなところに来てんだ?いくらこの国が腐っていたとしてもわざわざ危険に飛び込んで来るなんて正気の沙汰じゃ無いだろ)ザッ

(う~ん?なあ?さっきの戦いを見てお前らも少しは理解出来ただろ。こいつはもうお前らがどうこう出来るレベルを超えたバケモンなんだよ。お前らにこいつと戦える勇気があるのか?俺は無いぞ!命を賭けても勝ち目が見えないような戦いなんて誰が出来るんだって話だよ。俺達が生きて帰れる方法はこいつをこのまま逃がす事だけだ。こいつが何処に行こうと、何処に消えようともうこの国にこいつを止めれる人間はもう居なくなったんだ。だったら、こいつから逃げる方がずっと楽に決まってるだろ。でも、この二人は違ったみたいだ。いや、正確にはこの『剣士』だけなのか?)チラッ

(はぁ、マジかよこいつ。あの化け物の一撃を受けておきながらあの程度のダメージしか受けていないってか。一体どんだけの防御力を持ってんだよって感じだがそれよりもこの化け物をどうにかする方法を考えないとな。まあ無理だろうけど。この国にいるやつは誰もこいつに勝てない。この国の連中がどれだけ束になってかかろうともこいつの前に膝を屈してしまう未来が見えてしまうな。だからこいつは絶対にここから逃がしてはいけない)グッ

(ん?何?なんで?この子達は?さっきの男の人と戦ってた人の仲間じゃないのかな?なんでさっきの人を追いかけて行かないの?)キョロキョロッ

(この人達。さっきの人に追いかけられている。さっきの人はきっとあの子の知り合いなんだと思う。だけどその割には全く信頼していなさそうな顔つきだね。何かしらの事情は有るのかもしれない。だとするとあの子がこの人を庇ってこの二人を相手にしようとしているってことなのかな?でもそうはさせたくないな。私はこの二人の事も信じたいって思っている。きっと良い人に違いない。だからこの二人がこの男の子に酷いことをしない様に見張らないと。大丈夫だよ、私の勘は良く当たるから!それにさっきも助けてもらったんだもの今度は私が守る番だよね)ギリッ

「ちょっとあなた達!一体何をするつもりですか!?どうしてこんなところで喧嘩をしているの!?止めなさい。そんなにやりたいなら外でやりなさい!」

(なんだ?こいつ。どうして急に現れたんだ?こいつも俺と同じか、それ以上の強さを持っているな。さっきの男よりもこの女の方が数段上なのは間違いがない。それなのにこの女はこの俺に対して警戒心を一切持っていないだと?)サッ(さっきの攻撃の時、明らかに俺は全力を出していたはずだ。それでいてこの女に一切の手応えを感じなかったということは、この女の力は俺以上だという事になる。それにこいつはさっきまでそこにいなかったはずだ。転移系のスキルか?しかし転移なら必ず魔力の動きが感知できるはずだ。それなのに何も無かったのはこいつはおそらく別の能力を使っている。それもかなり厄介なタイプの)

パタッ

「おいお前、さっきの攻撃を喰らっても無事でいられたんだ。それだけの力を持っていたってことはやっぱりただもんじゃ無いな。悪いが今は時間がねえ。また今度ゆっくり相手してやるからとりあえず今日は見逃して貰えねえか?」

(こいつ。本当に人間か?それにしてもこいつも俺と同じように攻撃が当たらなくて焦ったという顔をしているな。この女が俺以上の強者だってこともこいつは分かっているはずだ。でもその上で俺に対して逃げようとしてきやがった。おそらく俺と戦うことがまずいって事が本能的に理解できているからこんな行動を取っているんだろう。もしこれが逆の立場だった場合俺は同じ行動をしていたと思う)

(はっ、ふざけたことを言うな。そんなの俺の勝手だろうが!そもそもそんなに簡単に見逃すと思っているのか?俺は俺の大切な人を守るためならどんなことだろうと絶対にやってやるぞ。この国は今、とんでもない危機に晒されている。その原因がこの国にあるのか無いのか、それを確かめなければ俺は一歩も引けねえんだよ)ギロッ ブワッ

(なっ、何が起きたんだ?急に目の前の男が威圧感を放って来やがった?こいつはまだ何か奥の手を隠せているというのか?それなら尚更このまま引き下がれない。でもどうやってこの状況を切り抜ければ良い?この場から逃げ出すためにはこの化け物相手に一瞬でも怯んではならない。でもどうすれば)ゴクッ

(なんだ?俺に何が起きるって言うんだよ。いや、待てよ。確かあの化け物はさっき『剣聖』の事を俺の獲物だと言っていた。つまりはそういう事だよな?だったらここは一先ずこいつの相手をするフリをして時間を稼ぐのが一番の近道になるな。この男は俺より弱いんだ。ならここでこいつを始末しておく必要があるよな)

(よし、今だ!俺の能力を発動させる!『俺がお前を殺す!』発動!)バッ

(俺の固有能力である俺が殺すを使えば確実に俺の一撃でこの化け物を倒すことが出来るはず。それにしてもこの能力。今までに試したことが無かったけれどまさかここまでの力を秘めていたとは驚きだ。でもこれならば俺の攻撃を防げた理由にも説明がつくしな)ニヤッ

(な、何?あいつ何したの?どうしていきなり私達の体が勝手に動いて行くの?あいつは別に攻撃らしい攻撃なんか何一つしていなかったじゃない。でもこれは違うわ。こいつは絶対に危険な力だって直感がそう言っている!だからこいつは放っておけない。それに今の状況じゃどう考えてもこいつに勝てる気がしない!だったら、やるしかない)ダッ

「『炎獄』」ボッ

「なっ、なんで俺の周りに突然あんな大量の火の玉が現れたんだ?くそっ、一体何が起こってんだよ!『空間跳躍』!!」

ドガァァァン スゥ シュィィン

「ははっ!ははは!なんだよ!この能力は?ははははは!何なんだ?こいつは!凄いじゃないか!!こいつは間違いなく大当たりだよ。俺の固有能力を使えるっていう時点で期待が持てたんだけど。ははは!こいつは間違いなく俺にとって必要なものだ!俺はやっと運に見捨てられていなかったようだ。ありがとう、お前のお陰だ。俺は今とっても嬉しい気分だよ。これからも宜しく頼むぜ?相棒!」

(『火柱』!)ドドォーン シュィィン

(『爆散』!)ドカン

(くそっ、こいつ!なんて強さなんだ。それに一体どこにこれ程の力が眠っていたんだ。『剣士』のやつを瞬殺してしまったかと思ったら急にあの女が現れやがって!そしてあの化け物が『魔法』をぶっ放したかと思ったら次の瞬間にはあいつらの姿が消えていやがる。それにしてもなんて野郎なんだ。『剣士』を倒せたのもこの化け物の力があったからだ。なのにこの化け物には全くと言っていいほど攻撃を当てることが出来ねえ。一体全体なんなんだよこいつら。なんなんだこの異常なまでの力の奔流はよぉ)ザッ

(ふぅ。さっきの攻撃は危なかった。あれをもろ喰らいしたらいくら何でも無傷ではいられなかったはずだ。いや、それともあれが奴の攻撃だったのか?あれはおそらくただの目くらましに過ぎないのだろう。恐らく本命の狙いはこの後に待っているはずだ。だからこそ今は少しも油断してはならない。この俺がこの男を本気で殺しに来ている事ぐらい、こいつなら理解出来るはずだ)

(ちっ!なんだよこいつは!本当に人間なのかよ!さっきから俺の攻撃は尽く避けられて。いや、そもそもこいつの動きが見えていることすら怪しいもんだぞ!?こんな事があってたまるかってんだ。それに、この男の持っている能力も全く意味がわかんねえ。こいつ自身が使った攻撃とさっき『剣聖』に放ったやつで合計4回も能力を使っているんだぞ?それが全部効かなかったってどういうことだよ。それにさっきからこいつは一度も『空間跳躍』を使わねえ。こっちはもう限界に近いってのに、余裕ってわけか。舐められたもんだなぁ、おい)ギリ

(なんだ?急にあの男の纏う空気が変わったぞ?何かするつもりなのか?だとしたらこれ以上好きにさせておくわけにゃあいかねぇ。俺は絶対に負けられない。ここであの女に勝つことができなければ俺は一生あの女に頭を下げるしかなくなってしまう。それだけはなんとしても阻止しなければならない)

(俺に勝とうだ?馬鹿なんじゃ無いのか?こいつは。俺の攻撃を受けても一切ダメージを受けていないだと?確かに俺の一撃で死んでいる可能性はあるだろうがそれでも無傷なはずが無いだろ?こいつはいったいなんで傷ひとつ無い状態で立っているんだ?何か特殊なスキルでもあるのか?それとも何らかの耐性を持っているのか?それとも別の何か?分からない。この男の正体が全くわからない)ゾクッ

(くそ、この化け物め!こいつはまだ何か奥の手を持っているというのか?でも、だからといって引くことは出来ないんだ。俺には、いや、俺達には必ず成し遂げなければいけない目的があるんだ!例えどれだけ無様であろうとも必ずこの女を倒して見せないといけないんだ!)

(俺にだって意地ってものがあるんだ。俺達はな、『剣聖』に一度見捨てられたことがある。そのせいもあってあの女の人はかなり俺たちに対して厳しい態度を取っていたんだ。俺だってその気持ちは痛い程わかるよ。俺だって自分のことを心の底から愛してくれる人に、たとえ相手が俺を好いてくれていたのだとしても。いらないとまで言われてしまう辛さって言うのは嫌って程知ってるんだ。そんなの耐えられるか?少なくとも俺は絶対に耐えられない。俺はこの世界で唯一俺のことを分かってくれるこの子のためだけに戦っている。その子がもし他の女のものになってしまったなら。俺は多分正気を保つことはできないと思う)ギロッ

(こいつ!まさか、この女はあの女の人の大切な存在って事か?だったら尚更この場で逃す訳にはいかないな。俺は何があってもこいつだけは逃がしてはならない。だってそうだろう?もしこいつを逃してしまったら俺は永遠にあの存在を失ってしまう事になるんだからな。それこそ生きる希望が一切なくなって。きっと絶望の中で死んでしまうことになる)ギリッ

(なんだって?今度はこいつも俺に向かって攻撃をしてきた?でもそれはあくまで目くらまし程度。さすがにこれだけの時間があれば十分逃げおおせる事が出来るはず)

(いや、こいつはこのまま逃げたら追ってくる可能性が高い。俺の能力を理解して攻撃してきていることから見てもその可能性は非常に高いと思って良いはずだ。俺が逃げようと思っていることはバレている。だったら俺はどうするべきだ?どうすれば良い?)ゴクン

(この距離で逃げればまず俺の能力で逃げられてしまう事は明白。ならば、攻撃するしかないが。俺の攻撃は当たらなかったのに。何故だ?俺の能力は完全に封じられていると言うことなのだろうか?そんなの、あまりにも酷過ぎやしないか。俺はここまでやって、何も為せずに終わってしまうのが許せないんだ)

ギロリ

(なっ、急にこいつ。何をしてやがるんだ?もしかしてこいつは今度こそ『火柱』でも使ってくるつもりなのか?だとしたらそれを受けるわけには行かない!今ここで死ぬような事になったら俺に未来はねえ。こいつが俺の攻撃を防げる確証も、避けれる確証もないが、とにかくこいつはここで殺さなくちゃならねえ!俺はまだ、あの方に頭を撫でてもらう権利すら与えられてねえんだ!こいつに殺されたら俺は一体どうなる?いや、そもそも殺されるってことが有り得るか?だが、それを考える前に今は全力を出すしかねえんだ!頼む!こいつを止めてくれ!)バッ バッ ババッ

(来た!)

バッ

(よし、今だ!『空間跳躍』発動!)シュィィン

「『空間跳躍』!」スゥ

「えっ?な、なんで。あいつの姿が突然消えた?そ、それにしてもあの男の能力はなんなんだ?私の攻撃を避けれただけでも信じられないのに、あいつが使っていたあの能力はなんだ?まさか、あいつが使えるのは『空間跳躍』?それともそれに似た効果を発揮するスキルとか?だとすると私じゃ絶対に勝てなくなるんだけど)ブル

「『空間切断』!そして、もう一回『斬撃波』」ザグッ

「『炎獄』!くっ、まだ、か。なんであいつがここにいるのよ。もしかして『炎柱』の『魔法』を転移系の能力で回避されたっていうの?それは流石にちょっと予想外だったわね。だけど、もうあんたは終わりよ!さっさと、くたばりなさい!私はこれからリゼを探さないといけないの!邪魔をするんじゃないわよ!!」

ズババ

(ちぃっ、またこれか。どうやら俺の攻撃は全て無効化されるらしい。どうせだったらそのまま殺してくれれば楽に死ねるのに。この女はそれさえもさせてくれないみたいだ。まぁいいさ。俺の攻撃が通用しなかったんだ。もう俺はこれ以上戦うつもりはない。それに、俺はこいつを殺す事が出来なかったんだ。これで満足だ。それにしてもこいつ本当に強いな。正直言って今の俺の力をもってしても倒す事は不可能だと思うレベルだ。こんな奴がまだいたんだな。いや、むしろこいつ以上の強さを持った敵はいくらでもいるかもしれない。俺がこれから生きていくためにはもっと強くならないとダメってことだ)スゥゥゥゥゥゥゥゥゥン(くそぉぉぉぉ!!)

(なんだ?急に男が地面に頭をつけ出したぞ?しかもなんだ?この男はまるで祈るかのように目を閉じてるんだぞ?まさかこいつの能力には土下座みたいな能力でもあるのか?もしそうであれば、確かに厄介ではある。なにしろ相手から攻撃を喰らった時以外、こいつは絶対に負けることが出来ないんだからな。そして逆に言えばこいつの攻撃を一度も食らわずに勝てばいいってわけでもあるんだが。くっ、流石にそれは難し過ぎるぞ。でもこいつの能力さえ分かっていればなんとかなりそうな気もするが。そもそも攻撃を当てさせないなんて能力があったらその時点で詰みだからなぁ。いや、待てよ?確かこいつ、『剣士』、『剣士王』の攻撃を受けきっていた。つまりあの二人と同等の力を持つということか?もしかするとこいつの持つ特殊な力は物理防御に特化しているのか?)

(ふぅ、良かったぁ。ようやくあの女の人が帰って行ったみたい。結局あの女の人の話ってなんだったんだろう?俺のことを呼びに来ただけって感じじゃなかったんだよな。何か別の目的があってわざわざ俺を探しに来ているように見えたけど。でもそれにしたっておかしいところがある。あの人は俺に話しかけていただけで、俺と会話をしていたわけじゃない。ただ一方的に俺を責め立てて。最後には泣いてしまったんだぞ?それが意味するところとはいったいなんだというんだ?)ウーン

(いや、今は考えても仕方がないな。だってこのあとどうすれば良いか、全く分からないんだから)チラッ

(はっ、そういえばここはどこだ?なんか森の中っぽいが、どうして俺こんなとこにいるんだ?俺があの女と戦っている間ずっと気絶していたって言うことなのか?だとしたらまずいな。あの女の狙いがリゼなら。多分もうそろそろこっちに来るはず。もし仮に俺のことを見逃してくれたとしても、この状態は非常に危険だ。なにしろこの体はまだ生まれたばかりの赤ちゃんなのだから)キョロキョロ

(お腹も減ってるし喉も乾いてて。ああ、やばいな、このままじゃ俺は間違いなく飢え死にしてしまう。でも、あの女に見つかったりしたら今度は何が待っているかわかったもんじゃないから迂闊に動こうにも動けない。でもそうはいってもなにかしら食料を見つけないと俺の命に関わる。だって水だって飲みたいんだ。俺はこのままあの女に捕まってあの女が望む通りに俺の大切な人とかいうのに会わされたりしないといけないんだからな。だからとりあえずここから離れないといけないな。でも何処に行ったらいいのかさっぱり分からないし。あの女の人の言葉を聞く限り俺の事を狙って来ているのは間違いないし。くそ、ほんと、どうすりゃ良いって言うんだ!俺はどうすれば正解だって言うんだ!)ウルウル

(んっ?あれ?な、なんかあそこに女の子がいるんだけど。俺の気のせいかな?あんな場所に一人でいるだなんて危ないと思うんだけど)

スッ

(あっ、やっぱり気のせいじゃなかったみたいだ。よかった。俺以外に誰かがいてくれたってことで安心したよ。でもこの子なんで俺の方を見て固まっているんだ?まあ理由は良くわからないけれど取り敢えずは近づいてみるとするか)テクテ トタ

(って、おいおい、嘘だろう?こいつまさかの獣人の女の子じゃないか!)

(くそ、こいつマジで俺に何するつもりなんだよ。俺の大事な人を攫うつもりだって言ってたのはそういう事だったのか。くそ、油断してたぜ。まさかこいつがそんな奴だったなんてな。だけどそんなことして一体どうするっていうんだ?こいつがリゼの事をどうしようが関係ないっちゃあ関係ねえが。それでも俺がリゼを守れていない時点でこいつは敵になるんだ。でも一体俺をどうやってこいつに引き渡すつもりだったんだ?だってこいつ、リゼの事を知ってるんだろうし。俺を引き渡したところできつい折檻がまっているに決まってんじゃねえか)

(な、なんだよこいつ。俺の顔をじろじろと見やがって。もしかして俺が怖がっているのを楽しもうとか思っているのか?ふざけんじゃねぇ。お前みたいな小便垂れに誰がびびるかよ。そもそも俺より圧倒的に強いやつが何ほざいてやがんだ?俺が怯えるとでも思ってやがるのか!)ギロッ(な、なんだこいつの目は。俺の方を見ているようで、全然見てねえな。こいつはまるで何も見ようとしていない。こいつの心はきっと真っ黒な虚無で覆われているんだな。こいつは今自分の感情に振り回されている。でもそんなことは許されないから必死になって心を凍らせようとしている。そんな奴は俺が絶対に認めねえ。なにがなんでもこいつは救ってやる。俺を舐めるんじゃねえよ!俺は『炎神王(フレイムロードキング)』だぞ!俺の目の前に出てきた以上、お前には容赦はしない!必ずこいつの全てを奪い尽くして俺の手元においてやるまでだ!その為だったら、たとえこいつが何をしようと構いやしねえさ!例えそれでこの世界が俺の敵に回ったとしてもな!)ギロリ

「キャア! 」バタン ドテッ

「うぅぅ、イタタッ」サスリサスリ

「あら、ごめんなさいね。私ってちょっと力が強すぎるから加減ができないみたいなのよ。それに私達『獣人族』の体は『人間』よりもかなり頑丈で丈夫だから怪我は無いわよね? 大丈夫よ!あなたのことを殴ったり傷つけたりする様なことは絶対にしないと誓うわ!約束します! あなたを傷つけたりは絶対にしません!」(なんだ、こいつは。急に地面に頭をつけ出したかと思ったら、また顔を上げたかとおもったらいつのまにか私に近づき手を掴んできた?そして私の瞳をじっとみつめてきたぞ。なんなんだこいつは?まるで私の心に語りかけてくるみたいに、でもその視線は優しく包み込んでくるようだ。不思議な感覚。私は何故か抵抗できずにされるがままになってしまうぞ)ゾクッ

(えっと、もしかしてこれってもしかしなくても告白ってやつなのだろうか?いや、もしかしたらこいつのことだからもしかしたら私のことを奴隷として扱いたいだけかもしれない。だけど一応こいつに聞いてみたほうが良さそうだな)ジィー

(うん?な、なんだ?この女俺のことをずっと見ている。さっきまでは普通に俺の手を握っていただけだったはずだが。今はなんかもうしっかりと手まで握られている。一体何が起きてるって言うんだ?こいつ俺のこと好きなのか?それにしてもなんでこんなにこの女は嬉しそうな顔をしているんだ?よくわからないが取り敢えず話を戻さないと。俺は今こんなことを聞いている場合ではないのだ。今はただ生きる為の行動をするべき時なのに。でも俺の本能はなぜかこの場に居続けることを望んでしまっているようなんだが)ウゥン

(もしかするとこれはこいつの作戦か?それとも本気なのか。もし本気で言っているなら俺はこいつと一緒に行動すべきじゃないな)ウーン

(んっ、んっー)グイグイ

(ってなんだこいつ!?突然立ち上がってきたぞ。まさか本当にこいつは俺のことが。な、なんてことだ。こいつまさかとは思っていたがやっぱり俺のことを性的な目で見てきているだと?なんてことしやがるんだこいつ。も、もしこれが俺ではなくもっと可愛い男の奴なら確実に食われて終わっているところだぞ。俺の貞操の危機だ。こいつの目がそれを物語ってやがる)

(でもこいつの力はとても強力だ。もしもこいつが何かの理由でリゼの事を殺さなかったのであれば俺の大切な人を殺しに来た可能性は高いな。そうすると、こいつの狙いが分からないが俺はここでこいつと戦って勝つ必要があるわけか。それは少し厳しい気がする。俺だってこの女の力は嫌という程味わっている。しかも今の俺ではこいつに勝てないだろう。だからこそ逃げる必要がある。こいつは俺の邪魔をしようとしている。それが分かるからこそ全力で逃げないといけなかったんだ。それに俺にはリゼを守らないといけない理由がある。だからこいつとは一緒にはいられない)ウウン

(こ、こいつ急に立ち上がりやがって、な、なんだ。もしかして私についてこいとでも言いたいんじゃないだな?)ビクビクー

(な、な、なんだこの馬鹿でかい気配は。こ、こいつのことなんか知らないぞ?な、なんだよこいつは!こいつも俺のことを好きだって?ふざけんな!冗談も大概にしろ!こ、この俺がこの俺の事が大好きだってぇえ?なに言ってんだよお前!そ、そんなこと信じられるはずがないだろ!お、俺は騙されないからな。こ、こ、この俺様のことを好きとかいう気持ち悪い女め。お、俺はお前みたいなやつは大嫌いだ!そ、そんな女はこっちから願い下げだ!もう二度と話しかけてくんな!俺がそんな女に付き合ってられるはずがないんだ。俺の大切な人をこっちから襲うような奴は俺の一番嫌いな奴だからな!)ブルルル プル

「あーあぁぁ。俺の大切な人を殺そうとした女に言われたくないなぁあぁあ。俺だってなぁあ。好きで殺しに来てるわけじゃねえんだからよぉお。仕方ねえじゃねえかぁあ。あの時のあの人はあの人であってあの人じゃなかったんだからよおお」ボソボソ チラッ

(こ、こ、怖いぃいいいい!)ガタガタ

「そ、そ、そ、そそそ、そ、そうですか。な、な、な、な、なるほど。わ、分かりました!き、気をつけるように、し、しましゅ!」(な、なんだこいつ、一体何を考えているんだ。わ、わからない。だが、な、なんで私にあんな言葉を言ってきたのだろう。こいつのことは知らない。こいつがいったい何者でなぜここへ来たのかも分からない。それでもこいつがとても恐ろしい相手である事だけは分かる。だ、だってそうだろ。こいつの視線に私は抗えないんだぞ。まるで自分の心を見透かされているかのように。こいつの心の底にある深い深い闇が私の心を覆い尽くしてくるみたいだ)ドキドキ ススススコツッコツン

(こ、今度はなんで近づいてくるんだ。まさか私のことを攫うつもりなんじゃあ)

(こ、こいつ。急に近づいてきて一体俺に何のつもりだ?な、なんとなくわかっちゃいたがこいつの俺を見る目はマジだな。こいつ本気で俺を攫おうとしてやがる。く、く、クソ!このままではまずい!俺にはリゼがいるんだ。こいつの目的がリゼを攫う為だったら尚更こいつに付いていく訳にはいかない。な、なんとかしないと!)

(おいおい、一体こいつ何をするつもりなんだ?な、なんかいきなり俺のことをジロジロと見てきやがって。でもなんだろう。この感じは覚えがあるぞ。確かこれはあいつらが『魔の森』に来る前、俺は毎日こんな目線で監視されていたのか。この俺のことを物でも見るかのようなそんな感情の無い目。あれをされると俺は何故か心の中に黒い塊が出来てしまう。それがだんだんと大きくなり、やがてそれが憎しみに変わる。こいつは今、まさにそんな感情を抱いているに違いないんだ。そしてそれは俺の事を敵だと認定したという事に他ならないんだ)ゴクリ

(え?えええ?え?ええええ?え?ええええ?も、もしかして私は告白されているのでしょうか?え?えええ?いや、待ってください!こ、こんな時に私みたいなのは駄目ですよね。ごめんなさい。今はあなたと一緒にいる場合ではないのです。あなたは私が絶対に守り抜きますから!)

ギロッ ギロリ ガクッ

(ま、またこの感じだ。な、なんなんだこの感覚は?わ、私の心がこいつの瞳に見つめられていると、ど、どうも力が抜けていってしまう。まるでこいつと私の間には何か不思議な見えない糸で結ばれているみたいだ。それにこいつと私の目線が合っているだけで私はどんどん自分が小さくなって、しまいにはこいつに屈してしまいそうになる)ジィー

(こいつはリゼを殺すと言っていた。ならばここでこいつを倒さないと俺は大事な人の命を救うことが出来ない。だけど、どうやって?こいつは俺の持っている技が効かない。いやそもそも攻撃が全く通らないかもしれない。だけどだからと言って逃げる事は出来ない。俺がこの世界で生き残っていくためにはこいつよりも強くないといけないからだ。でも今はこいつのことよりも早くこの部屋から逃げ出さないと)

(な、なんだこいつ。一体どこから現れたんだ?さっきまでこいつの存在すら俺には感知できなかったはずだぞ。なのに今目の前に突如として現れやがった。それにしてもなんて迫力のオーラだよ。俺はこいつを知っているのか?どうして俺がこんなにも怯えなければいけないんだ?)ビクン

(ああああ。ダメですぅうう。これ以上こいつの顔を見ていたらおかしくなってしまいそう。もう私耐えられません。こ、ここはひとまず退散しましょう!うん。その方がいい気がします。だってこいつって多分普通じゃないもの。なんかそんな気がするんですよねぇ。だから私は逃げようと思います。さようならです!)スタコラ

(ふむ。これは一体どういうことだ?な、なんでこいつは急に現れたのだ?そして急に私に対して怒りだしたんだ?こ、これはやはり私はこいつの気に触るようなことをしてしまったのだろうか?いやでもそれしか考えられんな。こいつが現れてからずっと私には殺気が纏わりついているんだからな。でもどうして殺気を放っているのに私はこんなに恐怖を感じているんだ?こんなのはおかしいではないか。それに私に敵意を向けてくる奴に殺されかけたことなど今まで一度でもあったか?んーー、もしかしてこれはあれか?これは俗に言う一目惚れという奴か?)

ギロリ

(なんだかよくわからないけどこいつは今俺の事が怖がっているな。なら好都合じゃないか。今のうちに逃げることが出来る。でも問題はここから脱出できるかということなんだが。俺の予想が当たっていれば恐らくはこいつは転移系の能力が使える。なら今のうちにこいつから離れられるか?俺がこいつと一緒にいないことに気付いたらリゼの所に戻られてしまう。そしたらもうこいつを止めることは不可能だ。だからこそこいつがこの部屋に居る間にリゼを連れてこの城から逃げ出してしまえばこいつとはここでお別れ出来る)ウーン

(こいつは何がしたいんだ。俺がお前を殺そうとしてる事に怒っているのはなんとなくわかるんだが、その理由がよく分からない。確かに俺だってリゼの命を狙ったお前が許せない。だからこそ俺はお前を殺しにきた。だがそれがどうしてこいつがここに来て殺そうとしてくる意味に繋がるんだ?それにリゼを誘拐しようとする理由が本当に分からない)

(よし。逃げれた。あとはこいつを倒す手段を考えるしかないか。俺も少しはこいつの戦い方を理解出来てるから少しだけなら時間を稼げるかもな。だからその間考えるんだ。こいつを倒す為に俺がやれる方法を)

(なんだこいつ!?いきなり消えたり出てきたりしたと思ったら急に笑い出した。でもどうして俺が笑う理由があるんだろう。なにが面白かったんだ?もしかして俺の行動パターンを読まれていた?いや、それはないか。だとするとこの俺を見て面白いと思う理由が分からん。こいつとは今日初めて会ったのだからな。じゃあ一体なんだっていうんだ?)ジー

「お前も笑ったりもできたんだな」フムフム コツツン

「う、あ、あ、あう、ううっ、い、痛い!わ、忘れていたぁあ!そういえば私ってば今怪我をしているんでしたぁああ!」ガーン ススススコツツツ

「うおっ!」

(お、思わず変な声出しちまった!まさかこんなところにいると思わなかった。なんせこいつがこんなところでのんびりと寛いでいる姿を見たのは初めてだぞ。こいつの性格上そんな暇があればとっとと自分の仕事をしているはず。つまりこいつの目的を遂行できないほどこいつの仕事が忙しかったのか?いやでもこいつをそこまで追い込んだ相手は一体誰なんだ?やっぱり俺と同じように異世界から来た勇者とかか?いや、違う。きっとこの女はそんなくだらないことで休む時間を使うほど甘くない。では一体何故こいつはここでのんびりとしているんだ?)

パアッ

(くそ。また見失った!)ピキッ

(今度はどこに行きやがったんだこいつ)キョロ

「うおおおお!お前そんな所で何やってんだ?!」

(な、なな、なんていう所にいたんだよお前!なんでよりによって『魔の森』のど真ん中にある湖で優雅に寝てんだ?!そんな場所この世界で俺以外に誰も居ないと思っていたのに、なんでこいつがこの世界で1番強いとされるドラゴンと一緒にこんな場所で休んでいるんだ?しかもこの2人って知り合いっぽい雰囲気だぞ。一体何が起こっているんだ)

(え?こいつって『魔の森』で暮らしていたのか?あそこにはモンスター以外ほとんど生き物がいないと聞いていたんだがな。それが本当かどうかはともかく、それでもあそこに誰かが住み着くなんてありえない事だ。なにせあそこの場所で生き延びて生活することが出来る人間はおそらくだがこの世にはいないはずだ。だからこそ俺とあいつはあそこで暮らす事を選んだんだけどな。それがまさか人間だったなんて驚きだよ。いや、それよりも驚いたのは俺以外にもこの世界に転移された人間がいたという事の方だな。ま、ま、まじでか!いやでもまああいつの場合は俺とは違う。この世界をただ純粋に楽しんで暮らしている。だからこそあんなに強い力を手に入れてもあの笑顔は失われなかったんだ。でもこいつはなんだ?なんなんだこの強さ?俺とは全く比べ物にならないほどの圧倒的な魔力を感じる。正直今の俺では手加減されている状態のこいつに勝てるかどうか怪しいぞ。でも俺の目的はこいつと戦うことじゃない。あくまでも目的はリゼを無事に連れ帰ることだけだからな。その為には今こいつに見つかっては不味いな)

(え?なんでこの男って私に対してそんな優しい目を向けてくれるんですかね?それになんか私が怪我をしたのに心配までしてくれているし、一体この人は私のことを知っているのですか?それにどうして私はさっきからこの人に見られ続けるとこんなにも胸が熱くなるのでしょう?)ドクンッドクンッ

(な、なんかすげぇええ。さっきまでは俺のことが凄い嫌い!みたいなオーラ全開だったのに、どうして今は完全にデレまくってんだこいつ。なんなの?さっきまで完全に敵対心丸出しだったじゃん。それが今は完全に別人のような顔をしてやがる。これってあれだよな?いわゆる一目惚れという奴だよな?うん。なんかそういう顔してるもの)

ジィー

(やばいなこいつ。本当にリゼの事が好きなんだな。ま、それも当然だよな。こいつは多分だがリゼとずっと一緒に住んでいて兄妹のように過ごしてきたんだろうな。そんな関係の中で好きになるなと言う方が無理だろ。うん。俺も妹と同じような関係の子が居るが、そいつのことは大好きだからな。でもだからこそ俺はこいつにだけは負けられないんだ。リゼの事を本気で好きで、俺の事もしっかりと警戒していてくれているこいつに。こいつに勝つことが出来ればきっとリゼも俺の事を本当の兄貴と認めてくれそうな気がするんだ。だから俺もこいつと同じ気持ちでこの戦いを終わらせないといけない。絶対に負けない)ギロリ

(や、やっぱりこいつは危険ですぅう。一体どうやってここまで来れたのでしょうか?もしかしてこの男は私たちがここへやってくる前から既に私の存在に気が付いていたとか?ううっ、ありえる話ですぅう。だってこいつの魔力ってば私よりも明らかに高いですしぃ。もしかしたら私の事に気付いてここにやってきたのかもしれない。ああもうダメダメダメですぅう!そんな事になったら確実にリゼちゃんはこいつのモノになってしまいますぅう。でもだからと言って逃げる訳にもいかないのですぅう。ここでこいつを倒しておかないと、私ってばこいつのことを忘れられなくなって、それで結局はいつも通りの仕事に戻ることになるのが落ちですぅう!でもそれだけはダメですぅう!リゼちゃんの為を思って、ここはリゼちゃんを悲しませない為にも全力を出させて貰います。でも流石に私一人じゃちょっときついですよねぇ。ここはこいつを利用するしかないのかな?うーん。こいつとはあんまり話したくないけど仕方ないですね)ジー

(やばいな。もしかして俺のことに気づいていない感じがする。もしそうならばなんとかこいつと一対一の状況に持っていかないと、俺の力がこいつに見られてしまうからな。でもどうすればいい?俺がここにいる事はこいつにはばれていないはず。それなのに俺をここに放置するということは、まだ何かの準備が出来上がっていないからなのか?それとも単純に俺の力量不足って可能性もあるけどな。だって俺はこいつと違ってチート能力をもらっているわけでもないし、レベルが高いって訳でもないからな。それにこの世界に来た時は俺の年齢が20歳だった。だからステータスの伸び幅があまり高くはなかったのかもしれないな。いやまあそれでも普通に考えればあり得ない程の身体能力なんだけどな。だって俺の年齢はもうすぐ70歳になるはずなんだ。その俺がこんな若さを保っているなんて考えられない。もしかするとこれは夢の世界なんじゃないかって疑うくらい信じられない出来事だ)

(ふむ。なにかを考え込んでいるようだな。一体どんなことを考えているのだろう。こいつの実力は本当に計り知れないものを持っているからな。一体どれだけの力を隠し持っているかわからないぞ。もしかすると俺の想像を遥かに上回るほどの化け物かも知れない。だが俺もこいつと同じように隠し技を持っていない訳ではない。そう考えるとこの勝負は案外早く決着がつくかも知れんぞ。だが油断はできない。もしもここでこの男の機嫌を損ねて殺されてしまっては本末転倒だからな。だからこの男が俺のことを殺そうなんて思うことが出来ないような、圧倒的な力で捻じ伏せてやらないとな)

コツンコツン ススス

(あ!そう言えばあいつに名前を教えていなかったな!)ピコーン

「俺の名前はタロウ!宜しく頼むぜ」ニカッ

(よし。俺の勝ちだな)グッ コツン コツン

(え?あいつ何言ってんだ?急に自分から名乗ってきたぞ?しかもこのタイミングで言うってことはこっちの正体を見破っている可能性が高いよな。一体どういうつもりなんだこいつ。って、よく考えたら俺はまだこいつの名前を知らないんだった!ううっ、まさかこいつがこんな行動に出るなんて思いもしなかったぞ。だけどこいつが何を仕掛けてくるにせよ、先手を取って攻撃を放たなければ何も始まらないな。まずは先制攻撃を仕掛けることだ。この俺様を相手にして無傷でいられると思っているとは舐められたものだ。俺がお前の事をただの子供だと認識していたら、間違いなく最初の一撃で終わっていたぞ)

(なんだか凄い威圧感だ。だけどそんな攻撃は無駄だ!今の俺にはそんな脅しは通用しない。なぜなら俺は既にこいつを倒す方法を思いついているからだ。そもそも俺がお前と戦う理由はこの女の人を手に入れる為。ならこの人に惚れてもらおうと思った時に必要なものといえば、それは圧倒的な力と、それを魅せつけることのできるだけの美貌だ!つまり俺に勝てないようであればこの人がお前に靡くなんてありえない!)

「ほう。なかなかの魔力を持っておるな。しかもそれがかなり練られてあるのを感じる。一体どれほどの経験を積んできたのか興味が湧くのう。しかもそれだけの力を秘めながら尚も成長していると見た。お主は中々良い男ではないか」フッ

(こいつマジでなんで上から目線なんだよ!って言うかこいつ何が目的なん?俺と戦えばこの人を振り向かせることができると本気で思っているのか?いやいやいやいや、絶対違うでしょ。だってこいつ自分で言っていたじゃん。俺に負けた時にこいつと添い遂げる気満々の顔してたよね?)

チラッ

(あ、目が合った。でも相変わらず何を考えているのかさっぱりわかんねえなぁ。でもこいつはさっきまでは確かにリゼさんのことが好きでこの人の事が好きだったはずだ。それがどうしてこうなっている?さっきまでは俺に対して敵意丸出しで、リゼさんのことが好きだというオーラが溢れ出ていたはずなのに、それがどうして今ではこいつに一目惚れした女の子みたいな顔を向けているんだ?なんなんだこの状況?全然わからんぞ。取り敢えず今はこいつに負けを認めさせるのが先決だな。でもなにぶんこの人は強いから俺一人で勝てるとは思えない。というか絶対に勝てない。でもだからといってこのまま負ける訳にはいかないんだ。だからこいつには是非ともリゼにプロポーズをするチャンスをやって欲しい。俺はそのために今、全力を尽くさなければいけない)キッ

(なんかやばい雰囲気になったのです。私としては別にこいつは死んでも構わんのじゃが、それでもやはりあの二人が死ぬのだけは絶対に避けなければならないことなのじゃ。あの二人は私が命を懸けて守りたい存在なんじゃ!だからこそこやつには私の手でこやつを倒して欲しい!お願いなのじゃ)

ジー

(こやつは今から妾が倒してしまうが、リゼはそなたにこやつの事を頼みたい。もちろん無理にとは言わぬがな。だがもしもこやつのことを好きになってしまったのならば仕方がないと諦めよう。それに、こやつは恐らくそなたと敵対する事になるはずじゃ。だからそなたがこやつに負けるようなことがあったとしても、決して気にする必要は無いぞ。全てはこのわしが悪いのじゃ。そしてこれからはそなたがわしを守ってくれると嬉しいのじゃ)ニコォー

(なんか凄まじいプレッシャーなんですけど。俺ってこいつに嫌われている?まあそりゃそうだろ。いきなり俺の目の前に現われておいて、勝手にリゼを嫁にしようとしているんだ。こいつからすれば許せる訳が無いもんな。だからこそ俺も本気でこいつとぶつかるしかない。でもな、それでもやっぱりこいつに負けたくないんだ。リゼの為にも俺はこいつより先にプロポーズをしてやりたいんだ)ギロッ

(こいつはどうも嫌な予感しかしない。俺が全力を出して戦うにしても絶対にこいつは余裕を見せてきやがるだろうな。だからここは敢えて全力を出さない。こいつの本気がどれくらいなのかまだ見切れていないからな。それにもし全力を出すとしたならば、こいつを本気にしてリゼさんを奪いに行かせなくちゃならないしな。そうするとリゼさんはきっと泣いてしまう。俺がリゼを悲しませることはしたくないからな。だから俺は手を抜かないけど、手加減はする!このハンデでどこまでこいつの鼻っ柱をへし折ってやることが出来るかが問題だな。まあ多分大丈夫だろうけどな。でも一応リゼにこの事は話しておくか。リゼもきっと心配してくれるだろうしな。あとはこいつの隙を見て全力を叩き込むだけだ)

「おい、あんたに提案があるんだけど聞いて貰えるか?」

コクリ

(あ、あれれ。返事してくれましたよ?も、もしかしたら本当に話を聞いてくれようとしている感じかな?で、でもなにか変だぞ?だって明らかに顔色が変わってやがる。もしかしてこいつまさか本当に話を聞くつもりか?でもそれならそれでラッキーだ。だってこれでようやく俺も全開を出せそうな感じがするからな)

(なんだ?こいつ急に黙り込んでしまったぞ?一体なにをするつもりだ?もしかして本当に話を聞くつもりでいたのかな?それならば願ったり叶ったりの状況ではあるが、しかしどうにも様子がおかしい。もし本当に話を聞いていたのならばもっと動揺してもいいと思うのだけれどもな。だがもしも私との実力の差に驚いているだけだったのならば、この好機を逃す手はないな。私もこの男がどんな力を隠し持っているのかが知りたくなってきたからな。だが油断してはいけないぞ。私の予想ではこいつはまだ奥の手を隠し持っているはず。その全てを曝け出すまで、この男との戦いを終わらせるわけにはいかん。例えその結果、この男が死ぬ事になったとしてもだ)ゴクリッ

(なんだ?今度は急に動き出したぞ。こいつ俺の話が聞こえていたんじゃなかったのか?ってか一体何をするつもりなんだ。もしかしてまた魔法を撃つつもりか?でもこいつが持っているスキルは確か、魔力感知だっけか?でもこの世界に来たばかりで、レベル1のままなんだしそこまで脅威にはならないよな。よし、とりあえず警戒だけはしておこう。俺もこいつがどんな攻撃を放ってくるかわからないから、しっかり対応できるように気を引き締めないとな)

(うむ。やはりこやつかなりの強者だ。しかもまだ余力が残してある。これは思っていたよりも厳しい戦いになりそうだ。だがここで退くことは出来ん!リゼを手に入れる為には絶対に負けられないんだ!俺も全力でこの男を倒す!まずはこいつから視線を外すな!そして俺に攻撃を仕掛けさせてはならない!その為にはこいつの動きを止めなくては!くっ!俺はまだこいつとまともに戦ったことがない。つまり奴の攻撃方法が全くと言っていいほど分かっていないということだ。この状態で攻撃を繰り出すことは出来ないな。俺はまだこいつとの戦いで死ねないというのに、全く厄介な能力だ。いや待てよ?俺の推測が間違っていなければ、恐らくこいつの戦い方は俺のそれとよく似ている筈だ。俺だってこの世界で生きるのに必要な力は身に付けてきた。なら俺だって出来るはずだ。この世界を生きていける程の圧倒的な力と自信があれば、この世界にやって来たばかりのこいつに勝てるはずだ!さあ来いタロウ!俺が貴様を倒して、リゼは俺のものになる!リゼ!俺は君を愛している!)カッ!

(え?ちょ?うわ!こいつ目がマジだよ!しかも完全にこっちに向かって殺気を放ち始めていやがった!こいつ本気で俺を殺そうと思ってやがる!でもなんでこんなに殺気が出てんだよ!この部屋に入った時には既に殺気が出始めてたけど、今はその時以上に物騒になっていやがる!)ドキドキドキ

「悪いんだがまだこの勝負は決着を付けさせてはあげられない。俺はどうしてもこいつより先にリゼにプロポーズをしないといけないんだ」スゥッ

(ふむ。なるほどの。お主はこの女の事を好いておるのじゃな。それには気付かずにこやつはリゼのことを嫁にするなどと戯けた事をぬかしていたと、そういう訳じゃな?)

コクッ

(いや、お前がそれを言うか?お前も俺の目の前で俺の女宣言してんじゃねえか。いや、それは今関係無いか。俺の気持ち的には、確かにこいつのせいでリゼの事を意識してしまったところはあるかもしれない。でも俺の気持ちは変わらない。リゼを幸せにするのは俺でありたい。いや俺でなくてはならない!)

ギュッグッ スウ

(うん。もうこいつの言葉は信用しない事にしよう。それにしてもなんだろうな。なんとなくだけどこいつの考えている事が分かってきたような気がする。多分こいつも今ので確信が持てたんじゃないかな。ってことでこいつへの認識を変えていくことにする。こいつには俺の邪魔をするだけの目的があるようだ。ただ単純にそれだけだったんだろう。こいつは只リゼが欲しかっただけ。リゼを手に入れられるならなんでも良かったんだよ。リゼを嫁にしたかったから、リゼにプロポーズをした。ただ、それだけだったんだ。でも、俺はリゼを渡すつもりは無い。俺にとってのリゼをこいつに渡したくないんだ。だから俺はこいつに勝つ。こいつを殺してでも、俺は勝ってリゼを取り戻すんだ!!だからこいつに全力をぶつけてやろう)

ゾワッ!

(ふぅ。どうにもやりにくい相手なんですねぇ。というより、この人の強さがよく分かりません。今更ですが、一体どういう事なのでしょう?リゼちゃんのステータスプレートに表示されていた情報は嘘だったと?まあそれも有り得なくはないですね。私がリゼちゃんに初めて会ったのはつい先日のことですしね。それに、リゼちゃんのレベルも最初は30程度しかなかったのですよ。それなのに今ではもう60を超えています。あのステータスであの強さはおかしいと思ってはいたのですよね。それに私達にはリゼちゃんに『真実の愛』とやらがあるようですし。そのおかげで成長速度を早められたとしても納得出来てしまうところがありますしね。でも私だってまだ強くなれるはずなんです。まだレベル50くらいでしたからねぇ。まあ良いでしょう。リゼさんはこの人が倒すんでしょうし。リゼさんを泣かせるような真似さえしなければ、後は任せてあげましょうかね。それじゃ、私は少し席を外して様子を見ていますかね。流石に私の気配に気付かれない程だとは思っていないので大丈夫とは思いますけど、念の為に)バタッ スタスタ

(おいおい、こいつ本気で俺を殺しに来てやがる。今まで俺が戦った中でもトップクラスにヤバイ奴かもしれんな。正直言って、俺はこいつに殺される未来が見える。だからこそ全力でこいつの相手をする。こいつ相手に全力を出し切ったとして、俺に待っている結末は一つしかないだろうな。だがそれが何だというのだ。リゼと添い遂げるためならば俺の命くらいくれてやる。こいつの力に呑まれてしまった俺の負けなんだからな。俺はこいつをリゼの所まで行かせたくない。俺はこいつの目の前に立ちはだかって、絶対に行かせないようにする!そして俺は必ず生き残ってやる。リゼの横に立てるように、必ずこいつを超えてやる!)

(さっきのは中々凄まじいものでしたが、あれはまだ余力を充分に残していました。つまり本命の攻撃はまだまだ先だと考えられます。でも油断してはいけないぞ。もし仮に、本気を出されれば俺は死ぬ可能性がある。それほどまでにこいつから発せられるオーラのような何かが恐ろしい。でもまだ本気じゃない。だから俺がこいつを倒すチャンスはきっと残されているはずだ。それを見つけろ!)

(うわー!なに!?この二人なんなの!急に雰囲気変わったんだけど!え?なに?これってもしかして俺が空気読めてなかった的な感じ?や、やっぱり俺なんかと食事するのが嫌だったのか。そりゃそうだよな。普通そう思うよな。いきなり一緒に飯を食おうだなんて言われても困るよな。ああ。これはもう俺死んだかもな。でもこの人達には感謝している。だってこの世界で初めてできた友人と言ってもいい人だ。俺だってこの人との会話はとても楽しかったしな。まあ結局迷惑掛けちまったけどな。本当にごめんなさい。せめて俺がこの人の役に立てればいいんだが、全く思い浮かばない。この人だって本当はもっと戦いたかったんじゃないのかな。いや、でもそれはないか。だってこの人の目的は俺を倒せる程の力が有るかどうかの確認だけだもんな。俺の力を確認したからもうこの人に用はないはずだしな。俺って結構役立たずだよな。本当に申し訳ない)シュン スゥッ

(お?なんだこいつ急にやる気がなくなったぞ?なんだ一体どうしたというのだ?急に弱腰になってしまったではないか。一体何故だ?もしかしてこいつは諦めてリゼを攫って逃げるつもりでいるのか?いやそんなはずがない。こいつは最初からリゼを奪うつもりだったはずだ。こいつがここまで来てしくじるような事があるはずが無い。ということはやはりなにか仕掛けてくるのか。これはかなり厄介な事になったな)

(いやぁ。俺にはこの人は越えられないな。うん。これは素直に負けを認めよう。というかそもそも俺はこの人を相手に出来るほどの力が有るのだろうか。よく考えてみると俺にはこいつを殺せるだけの技術が有るようには見えないんだよな。こいつを殺す為には何が必要なんだ?この世界では魔法が主流な筈だ。魔法が使えるかどうかは置いておくにしても、この世界の魔法について知っている事は殆ど知らないと言っていい筈だ。いや待てよ?でもこの人なら魔法の事も知ってるんじゃ無いか?さっきだって、俺が魔法を使えた事に驚いてた様子はなかったはずだ。もしかすると俺の考え過ぎかもしれないな。よし!そうと分かれはとりあえず今はこいつに集中するか!こいつは間違いなくこの世界で俺が戦う相手の中では一番強い。それは確かだ。それにこの人の強さが俺と同等なら、俺は恐らく勝てるだろう。だがもしも俺よりも強かった場合は?俺は恐らく殺される。それはつまり、この世界で俺が最も尊敬していた人に殺させてしまうということだ。そんなこと絶対にあってはならない!俺のせいで尊敬する人を犯罪者にしてしまったら、俺が死んでも死ねない!それに俺の目標はこいつを倒すことだ。俺がこの世界に来てしまった時点で目標を達成出来る可能性はほぼゼロに等しいだろう。だったら、この人の目的が俺であるうちに殺ってしまった方が良いに決まっている。この人は俺に殺されるために俺の前に現れたんだろう。俺はそう信じる事にする!)

ギュッグッ

(どうにも先ほどまでと違って雰囲気が変わってしまったような気がしますねぇ。一体どういう事なのでしょう?でも、今の彼からは私と闘うという意思がしっかりと伝わってきます。ふむ。彼はもう完全に戦闘体勢に入っていますね。ここから先は言葉は不要。お互いの意思をはっきりと伝えなければなりませんね。そしてどちらが正しいかをはっきりさせましょう)

「「いざ尋常に勝負!」」スゥッ

(なんだあいつ急に構えを変えただと!?一体何を狙っているというんだ?いや待て、それよりもまずはこちらの動きを見てからの対処でも良いんじゃ無いか?いやダメだな。こいつはきっと動きながら俺の次の行動を読んでしまうタイプのやつなんだ。だから下手な攻撃で隙を見せてはいけない。俺の技はこいつに通用するのかは分からないけど、試すだけ試す!俺の全ての攻撃を、こいつの攻撃を見極めてから対処しろ!)

(なっ!こいつまた消えたぞ!?今度はいったいどこに行ったっていうんだ?)

(ここですよ。後ろがガラ空きになっています。隙だらけですね)ドゴッ!!(ぐっ!!やばい!やられ―――ガハッ!)

(あぁ、やっぱ俺って弱いんだな。あの時リゼが助けてくれなかったらとっくに殺されていたな。リゼがあの時のリゼと重なる。そして俺の心の中で燃え盛っていた火が消えて行くのを感じる。もう俺の中に残っているのはただひたすらにリゼの事が大好きだという気持ちだけだ。こんなところで終わりなのか。でも、それでも良いかな。俺がリゼの隣に立って戦えたのなら。俺はそれだけで満足だから。だからこれで良い。俺はリゼを救って、リゼを守る為に生まれた。だから俺にはこれ以上のことは求めちゃいけないんだよ。リゼは俺がいなくてもきっと大丈夫だろう。だって、俺の好きな女の子なんだから)

(んん〜。なかなか素晴らしい一撃だったのです!流石は『神殺し』と呼ばれる程の人物ですねぇ。私と張り合える程に強くなるだなんて、貴方は私の想像以上に強い方でした。まさかあの攻撃を受けられてなお立ち上がれてしまうだなんてね。本当に予想以上でした。私が思っていた以上に彼のレベルは高いようですね。でもね。だからといって私が彼に負けたわけでは無いんですよ?彼が強くても、この世界の仕組みが彼を勝たせてはくれない。だから安心して逝くが良いですよ)ニヤッ

(やめろぉー!まだだ!まだ俺は負けてはいないぞ!)

(あははは。もう何を言ってるんですかね。君は私の渾身の拳をくらって立っているだけでやっとでしょう?それなのに私の負けじゃないだなんて笑わせないで下さい)クスッ

(うるさい黙れ!貴様ごときにリゼの未来を邪魔されてたまるか!俺がこの男を殺す!)

ヒュウゥー

(おっと、どうやら彼が少しはマシになったようで助かりましたよ。どうやら私の読み通りで良かったようです。しかし私の攻撃をまともに受けて立つどころか反撃してくるとは思ってもみませんでしたよ。流石にこれは油断できない相手のようですね。ならばもう本気で潰すと致しましょう)

ゾワッ ズシン

(さっきまでとは明らかに気配が違うな。これってもしかしてヤバイやつなんじゃないか?いやまて、まだだ!まだ俺の意識がある限り、負けていない!俺はこいつが死ぬまで倒れはしない!絶対に倒してみせる!)

ブォン

(こ、これは、なんですか?一体どうやって動いているというのでしょうか?いや待て、今は考えるな。目の前に集中しろ!そして、全力でぶっ飛ばす!)ボオォォーン!

(へぇー、凄い力を持ってるじゃ無いか。でも残念だったな。いくら凄くても、お前では俺の攻撃は止められない)

ドスン

(嘘だろ?こいつ一体どんな身体の構造をしてるって言うんだ?こっちの攻撃を簡単に弾いてるじゃないか。いや違うな。これはわざと弾かれて俺の攻撃を喰らっているんだ。なんのつもりか知らんが、どうやら俺の力が足りなかったみたいだな。まあ最初から分かっていた事ではあるけど、俺の覚悟を舐めるなよ!)

(うぅ。なんてことなの!?この人強すぎるわ!今までの敵なんて目じゃないくらい強いわよ!私なんか一瞬でも油断したらすぐに殺される!だけどここで諦めたら私はお姉様に申し訳が立ちませんわ!お姉様に顔向け出来ないようになってしまう。そんなの私に耐えられる筈ありませんわよ!!)

ブンッ!!(あら?彼女の動きが変わったわね。でも、その程度の攻撃では、この私を倒すことなど到底無理というものよ!さっきまでのあなたは確かに強かった。でも、もうそろそろ飽きてきたから、さっさと終わらせてもらうことにするね。この世界は残酷なんだから、無駄に足掻かない方がいいよ?じゃ、サヨナラ)

バシッ!! ズゴオオオオーー!!!

(え、な、なんだこの音は?)チラッ ビクゥン

(ひいぃ!なんだよこの音!俺の腕から骨が折れる嫌な音が聞こえたんだけど、まさか腕折られたのか?いや待てよ。そうだ!あの男はさっきからずっと俺と殴り合いを続けているはずだ!それが本当なら、俺より圧倒的に強い筈のあの男が何故今になってこんな事になっている?という事は、俺にはまだ勝ちの目が残っているということか?そうに違いない!)

ダダッ! ビュン!

(な、なんだ!?こいつ急に強くなってきやがった!いや、元からこの強さが有ったのかもしれないな。こいつが俺の攻撃を喰らう度に俺はこいつへの警戒度を高めていってるからな。それにしてもこの力はいったいどこから出てるんだ!?こいつ本当に人間なのか!?いや、俺と同じかそれ以上の化け物かもしれない)

(こいつ急に動き出しやがって!しかも俺の動きに合わせて対応してきやがって!まるでこの世界に意思を持っているような感覚さえ感じるぜ!このままではいつか俺はこいつに殺される!何か手を打たないと!)

(ほほう。どうしたんですか?動きを止めてしまいましたねぇ。そんなことしている場合ではないんじゃ無いんですかね?君の今の状況はそんなことを考えている暇が無いと思うのですがねぇ。さっさと逃げた方が良いんじゃ無いですか?もっとも、私が君を逃がすかどうかは別の話ですがね。この世界でのんびり暮らしている分際でよくも私のリゼを奪ってくれようとしましたね?それだけでも万死に値しますが、リゼの大切な人であるユウさんを傷つけてしまった事はもっと許せません。君は絶対に私が殺します)

「くっ!」

(この野郎!また俺に向かって一直線に突進して来やがって!こうなったら俺に出来る事を全てやってやるしかない!もう俺は迷わない!リゼを絶対に守る為に、俺は、こいつを必ず殺ってやる!!!)

「うおおぉぉ!!」

グイッ

(なに!?俺の力を受け止めただと!?どうやったというのだ!?)

(あぁー、もういいかな。俺にはもうこの先は無い。だったらせめて最後にこの男の全力とぶつかることだけやってみるとしよう。俺の命を捧げるつもりでな。俺の全てをこいつの一撃にかけてやる!!俺は、俺は、俺は―――リゼの為に、死んで見せるぞぉー!!)スゥッ

(な、なんだ?こいつの体の周りに黒いオーラが見える?そして、これは闇属性の力か?それに俺の中の光と闇のバランスも変わって行くような気がする。い、いかんいかん、冷静になるんだ。何が起きるか分からない状況で動揺していてはこの先生き残れないぞ。こいつの技を見てから落ち着いて行動に移るとするか。こいつの技はいったいなんだ?)

ズドオオオオン!!!

(これは――なんだ?こいつの姿が見えない?いや違う!これは幻影を見せているのか?いやそれも恐らくは正解じゃないだろうな。俺はこいつが見せたかったものが見えているようだ。これが答えだと言わんばかりに俺に見せつけてくる。俺はこいつの姿を見たぞ。見えたんだ。見えてるんだ。そして、分かったんだ)

シュパパパァーン!!(な、なんだ!?あいつ、何をした!?なぜ急に俺の剣を捌いているんだ!?なるほど。そういうことか。俺にもやっとお前の考えていることが分かってきた。そして同時に、お前には俺が勝つことももう決まった。だからもう終わりにしてやる)

(ぐぬぬぬ。な、なんなんですの?私の攻撃を完璧に見切って避けていますの。これでは、これではもう私の攻撃は全く当たりませんのよ?どうなっているんですの!?おかしいですわ。私は全力を尽くしていますのよ。なのにどうして私よりも遥か格下のはずの人間が私の攻撃をここまで簡単に防げてしまうんですの!?あり得ない!そんな事があってはなりませんわ!!)

(んん?あれ?あの子どこか見覚えあるような?んん〜〜?あっ!そうだ思い出した。彼女は確か、前に僕を助けてくれた冒険者の女の子だ。でもまさかこんな所で会えるなんて思わなかったな。という事はあの子が、ユウちゃんが僕の言っていた彼なんだね?ん〜〜〜!でも、これはどういう事なのだろう?あの子の実力では到底ユウちゃんの相手にはならないだろうし、あの子は自分がどれだけ強いかも気づいていないみたいだ。まさか本当にあの子は『神獣』なの?いや、まさかそんなはずはないよね?それならそもそも神の領域まで辿り着いているということになる。そんな事が有り得るとは思えない。だからやっぱりユウちゃんが彼女を助けたってことで合ってるのかな?)

(さて、どうすれば良いのでしょうか?どうしたらお兄様に褒めていただけるでしょうか?どうやったら私を見てもらえますでしょうか?私の気持ちはどうやれば届くのでしょう?やはり、もう私には何も出来ませんの?いえ、諦めるのはダメですわ。私はもうお姉様の代わりではありませんのよ。だったらお姉様の出来なかった事を私がやり遂げるだけですわ。私の、私だけのやり方で、私にできることをしてみせる!)

(な、なんて奴だ。こ、これは夢か?俺はもしかしてまだ現実に戻っていないとかそんなことはないよな?だが、これは、こいつは俺が想像していた以上にヤバイやつだ。なんなんだこいつ。こんなに簡単に攻撃を当てられないやつには初めて出会った。こいつが俺より圧倒的に強いのは分かっている。だからこそ、絶対に負けてたまるか。俺は絶対に、こいつだけは絶対に倒してみせる!!)

ヒュウーン!

(なんですかそれは?君はまだ全力を出している訳でも無いのにまだ本調子では無いと言いたいのですか?ふざけるのもいい加減にしなさい!君のどこにそれほどの力が秘められているというのですか?もう十分楽しんだしいい加減そろそろ決着をつけさせてもらいましょうかねぇ)

(うおっと、流石にこの距離では俺の攻撃も当たらないか。どうするかねぇ)

(くそ!いくらなんでもこの男は強すぎるわよ!どうなってるのよ全く!?一体この人はどんな修行をしたって言うのよ!?この人が戦っている所を私達は少ししか見たことがないからよく知らないけれど。それでも私達から見て明らかにこの人は別次元の強さよ。いくら私達のお師匠でもこれだけ強くはならなかったわよ!?でもそう考えるとこの人の師匠ってとんでもない化け物ね)

(この男の魔力の密度は尋常じゃないわね。この男の纏っている魔圧は常人ならば発狂してしまうレベルよ。でも、こんな規格外の存在がまだ他にも居るかもしれないと思うとゾッとするけど、逆にこんなに楽しい戦いが出来るのであればむしろ歓迎ね。まあ、そんなことは後回しにしましょ。まずはこの男を倒すことが最優先ね)

(はぁはぁ、なんとか持ち堪えられたけど、正直言ってもう無理かもしれないな。こんなこと初めてだ。もう既に俺の限界は超えているのかもしれない。俺の身体からは既に大量の出血が確認できている。多分この血の量ならこのまま戦闘を続けても死ぬ可能性が高いと予測できるが、何故か不思議と死に対して恐怖感が全くない。俺に恐怖を与えることが出来るのは同じ神ぐらいしかいないからか?俺はもうこの世界では限界を超えてしまったということか?もう俺は俺に成れそうにないか。なら俺は俺として、俺のままで最後まで戦うのみだ)

(んふぅーーー!んっふっふっふっー!さあさあ!早く終わらせてしまいなさい!!まだまだこの余興を終わらせるには全然足りませんよぉ!!もっともっともっとぉ!!もっともっともっと戦ってくださあい!私の愛すべき勇者であるユウさまあああぁぁ!!私の愛するお兄様を!!貴方の手で殺してください!!もう、もう、もう我慢できませぇええん!!)

グサッ!

(この一撃は確実に入ったな。これでこいつの体は俺の攻撃によって崩壊を始めるはずだ。いや、俺がこいつの攻撃を避けなかった理由は、ただ一つだけだ。俺がこいつと本気で戦った結果が見てみたかったからだ。それだけのために俺はわざとこいつからの攻撃を受けたんだ。結果は予想通りの最悪なものだった。俺は今、俺が俺であった証を残せた。だから悔いは――――無い)

(んっ?なんか、急に、意識が、遠くなってきたぞ?それに、なんだか視界も、悪くなってきている。ははは、なんだか、自分の体が、バラバラになって、いく感覚が、するぞ。ははは、もしかしてこれが、本当の意味での、死という、やつなのだろうか?俺もとうとうこの世界の神様になれたってことなのかな?だとしたら、とても光栄なことだよ。でも、もう少し、だけ、この世界に、残りたかった、かな)

(ユウ殿が私の剣を受けて、そして倒れた。私にもはっきりと分かる程に大きな怪我を負っているようだ。そして、私も先ほどから体に力が入らず立っていることすら困難になっているようだ。もうすぐ、もう間もなく、私の命も消えるのだろう。だが、私には後悔というものが無いのだ。私の大切なものを守ることが出来たのだから。ただただ、私は満足なのだ。もう、思い残すことは何も、無―――い。あ、そういえば、ユウ殿にはあの事を伝えなければ。私が死んだ後に、リゼと幸せになること。それが私の願いだ――)

(お、おい。こ、これはどういう事だ!?どうしてあいつの体がボロボロになりながら生きているんだ!?確かにあいつを斬ったはずだぞ?いや違う!あれはあいつの幻影か!?いや待て、それすらも俺を騙す為の罠だったという可能性もある。俺が完全に油断したところを狙ってくるはず。そして、それを俺は待っている――とでもいうのか?いや、そんな事は関係ないな。どちらにせよあれだけの傷を負っているんだ。長くは無いだろうしな。だったら、迷うことなど何も無いじゃないか!行くぞ。覚悟を決めろ。そして、俺は、最後の力をここに込め、そして――)

ズドオオン!!

(こ、これで終わったのか?本当に終わったのか?あいつの姿は全く見えなくなったが、俺は間違いなくあいつを切った。いや、俺の考え過ぎだったか?だが念の為、確実に止めを刺さなければいけない。まだ、何か、まだ俺が忘れていることがあるんじゃないか?そうだ、まだ残っている。あの男の剣を奪わないとな)

「ぐぐ、ぐぎゃ、ぐぎ、ぐげげががごばあ、が、ぐぐぐぎぎぐぐぐ、ぐぐぎぐげぐ」ブシュブシュ

(よし、これさえ奪えばもう終わりだな。これで、ようやく全てが終わる)

(ぐぬぬぬぬぬぬぬ。まさかこんなことが有り得るなんて!?どうして!?どうしてどうしてどうしてどうして!?どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして!!)

(なに?なんなの?どうしたの!?急に、あの人の気配が変わったの?一体何が起きているの?)

(こ、こんなのありかよ!嘘だろ!そんなことってあるのかよ!!ふざけんな!そんなふざけたことがあっていいはずがないだろ!!!)

ドゴオオオン!! ズザアァァ

(やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい!!このままじゃやばい!!殺される!逃げなきゃ殺されてしまう!!)

バッッ!!!!

(やばいやばい!あんな攻撃くらったら絶対にひとたまもないだろ!?でもどこに逃げるんだよ!くそ!とりあえずはここから離れた方が良さそうだな。とにかく今は少しでも遠くに離れよう)

(ん?これは転移系の魔法陣か?一体どこに繋げる気なんだ?もしかして他の場所に移動してそこから攻撃してくるとかじゃないよな?だったらとっくに攻撃しているよな?まぁそんなことを考えても意味ないか。俺に逃げ場なんて無いわけだしな。なら俺に出来ることをやるまでだ!!それに俺の目的は最初から何も変わっていない!!俺はここで死ぬつもりは無い!!絶対に生き残ってやる!!その為ならなんだってやってやる!だから俺の望みは変わらない。たとえ相手が神であっても、俺は負けるわけにはいかない!!俺に敗北の二文字は似合わない!!俺に死という選択肢は与えられていない!)

ドッッッ!

(はは、なんだ、案外余裕で避けれたぞ?それにしても俺ってかなり強くなってるんじゃないのか?これもやっぱり『限界突破』の影響なんだろうか?だとすると俺は更に成長することができるのかもしれない!それは凄く嬉しいけど。今はそれよりも早くこの状況を脱することに集中しないといけないよな。俺の体力もそろそろ底をつきそうだ。なんとかしてこの戦いを切り抜けないとまずい)

(ふむふむふむふーむ。なるほどですねぇ。つまりこういうことですか。ユウさんには私がこの世界の神であるということを認識しているにも関わらずその事を隠している可能性があるということですか。確かに私の方からも色々と聞き出したいことがありましたからね。良い機会でしょう。この際全てを聞いてしまいましょう。でもそうなるとやはりユウさんの肉体は少し弄らないといけませんね。それぐらいなら私の魔力でもなんとかできそうです。ではさっそく、ユウさんは私と取引をする為にここまで来たのですよーってことで、この話の流れに乗っかってしまいましょう。これでユウさんの意識を完全に支配することに成功しちゃいますよ!)

(うわ!び、びっくりしたぁ。いきなり後ろに現れたなと思ったら急に抱きついて来やがって。こんなことしてる場合じゃないだろ!今すぐ俺を解放しろって!)

(はい?ユウさん、何を言っているんですか?今更逃す訳が無いではありませんか?この世界に居る間はずっと一緒に居て欲しいんですよ?そもそもこの話を始めたのは貴方からなのですから。最後まで付き合って貰うのが筋というものではないでしょうか?というか貴方の考えていることはもう全て分かってしまっているので今更隠そうと思わないでくださいよ。無駄なことをしている時間の方がもったいないのではないですか?ユウさんは早く自分の命が助かる可能性を上げるべきだと思うのですが)

(え?ちょっと、まじで?それって本当に言ってんの?てか、この人、マジなのか?本気で俺の心が読めてるっていうのかよ。でもそう考えるとしっくりきすぎて怖すぎるんだが。えぇ、そんなのありかよ)

(はい、もちろん本気で言っております。さぁ観念する時が来たみたいですね)

(ちょ、まっ、待ってくれ!俺は、別にあんたのことが嫌いな訳じゃ――いや、待て。落ち着け。これはもしかしてチャンスなんじゃないか?この人は心が読める。つまり俺はこの人の前では隠し事をする必要が無いってことだよな?この人を説得できればこの人から俺を解放することも出来るはずだ。だったら――)

(――なっ、これは、な、なにを――!?まさかこんな事が――!?私に、直接心を繋いでくるなんて!?)

(あははは!俺はやればできるんだ!!俺だってやろうと思えばなんでもできるんだよ!これで分かっただろう?俺にあんたが手出しできないことがな!!)

(まさか、そこまでやってくるとは予想外でしたよ。流石ですね。確かに今の私にはあなたを殺すことは出来なさそうです。でもいいのですか?このまま大人しくしていても結局はユウさんは死んでいるのと同じになるのですよ?私はそれがとても悲しいのですよ)

(確かにな。俺もそれは嫌だけど、どうしようも無いだろ?あんたの力に対抗する手段も俺には残されていないしな)

(それがあるのですよ。さっきから何度も言っているように私はあなたの力を借りたいと思っているので。でもそれはユウさんにはデメリットが無いのが前提なのですよ?ユウさんは私に協力すると決めてくれた。だから私にはユウさんの命を救うことが出来――いえ、そうでは無いですね。これは私の為でもあるので私は私の好きなようにやらせて頂くので、もう諦めてくださればと思います。ユウさんの魂はとても美しい。そしてその力は想像を絶するものでしょう。でも残念ながらそれを扱う為に必要な器、身体は既に朽ち果てているようなのですよ。そんな状態のまま無理に力を行使すれば待っているのはその代償による崩壊だけ。でも大丈夫。ちゃんとその事も考慮してあげます。安心してください)

(――っ!ま、待ってくれ!まだ俺は、納得してないぞ!俺が、あんたに協力しなかった時はどうするつもりなんだよ。その時はまた同じ様な方法で強制的に従わせる気か?)

(そんなことはしないのですよ。ユウさんが協力してくれなければ私としても困るわけですからそんな強引なやり方でユウさんと敵対する必要なんて無いのですよ。ただ、もし仮にそのようなことが起きた時にはその時は私にも考えがあるので覚悟しておくとよいでしょう)

(―――ッ!!あ、あんまり舐めるなよ!こっちにはこっちの思惑もあるんだ!)

(それは楽しみなのです。それで具体的にはどのようにしてその意思を覆すおつもりですか?もしかして何か秘策があると言うことですか?それとも、この世界は滅んでも良い。なんて馬鹿げたことを考えていらっしゃるとか?その場合は私も少々やりにくい状況になってしまうわけなのです。そうなってしまう前に素直に降参してくれた方が賢明だと思うのですよ?まぁ、その場合だと私と敵対してしまった時点でユウさんに後はないわけなのが。ですので選択の余地は無いわけなのなのですよ)

(う、うるさいな!いい加減なことを言うなよ!俺にそんな方法があればわざわざこんなところにまで来るもんかよ!それに俺は絶対にこの世界で死ぬつもりなんか無い!それに例えどんな結果になろうとも俺は必ず生き抜いてみせる!!俺の師匠達の為にも!)

(なに?あの男の動きが変わった!?一体なにするつもだ!!くそ!!なんだ!?なんだよこれ!?)

(な!?あれは魔法!?しかもこの威力!それに詠唱無しでの発動だぞ!?信じられない!)

(くそ!こうなったら俺が直接攻撃してやろうか!?)

(おい。なにしてんだお前?なんであんなやつに好き勝手させているんだよ。俺達の狙いはあの二人なんだぞ?それに、俺はあいつらをぶっ殺すつもりだった。なのになんでお前が邪魔するわけ?お前さぁ何様なの?なに調子に乗ってんの?なんで勝手に動こうとしているんだよ?少しは自分の立場を理解しろってんだよ。お前のやることなすことは全て裏目に出てるって分からないのかよ。いいか?良く聞けよ?今この場では俺こそが神だ。それを間違えたらどうなるかぐらい分かるだろ?俺の言うことには絶対服従。それがこの場でのルールだ。お前は神である俺の命令にしたがっていればいいんだ。いいな?これはお前の為を思ってのことなんだから)

(な、なにを言ってるんだこいつは!俺に話しかけてきているわけでもないのにまるで頭の中に直接語りかけられているみたいな感じがするぞ!?一体なんだっていうんだ!!)

(うむ、なかなか面白いことになっているな)

(うん、そうだねー。これは本当に凄い展開になってるねー)

(なぁ、お前らはなんでこの状況で普通に会話しているんだよ?なんでこの状況でこんな余裕をかましているんだよ?おかしいって思わないのかよ!)

(なぁ、俺達はこの世界に召喚されてからずっと監視されていたんだよ。だから今更慌てるようなこともねぇってことだ)

(そうだよー。この人がユウ君が言っていたお姉ちゃんの言ってた『剣姫』なのかもね。凄いね、あの『限界突破』ってスキルの効果なのかも。私達には全く見えていないけど、私達が戦って来たモンスターとは明らかにレベルが違う存在と戦っているよね。それもたった二人で。でも多分このままだとユウ君の方に分が悪くなるかも)

(いや、別にいいんじゃないかな?別にこの子がどうなろうと私には関係ないしさ)

(――なっ!あんた何を言っているんだ!そんな事を言ってしまったらあんたもこの村の連中と同じ扱いになるんだぞ!この村は異常だ。こいつらが普通の奴らじゃなくて頭がイカレているだけの連中だったならここまで大事にはならなかったはずだ。あんたは俺を助けてくれた。それは事実だ。だけど他の人達は?どうしてこんなに酷い目に会わされているんだよ。この世界の人達を救ってやるんじゃなかったのか?助けてやってくれっていうから俺はここまでやって来たんだ。それなのに助けられるのはこの子だけでこの村の人々は誰も助からない。それどころかもっとひどい結末を迎えてしまうことになるなんて俺の望んでいる結末じゃないんだよ。だからあんたが本当にこの世界を平和にしたいという気持ちが本物ならば俺の願いを聞き入れてくれ。あんたが、本気で皆を救う気があるのなら俺の願いを聞いてくれ!)

(ははっ、ユウ君は本当に面白いことを言う人だよな)

(ふふっ、本当だよね。本当にユウ君と一緒に旅をしていると飽きる暇がなさそうで私は楽しいよ。でも、私だってこのまま何もしなくても良いとは思ってはいないんだからさ。だってユウ君と約束しちゃったし。私にできることがあるのだったらやってあげるよ。それにさっきの私の言葉の意味を分かっていないようだったら私も少し悲しいし。それじゃ、そろそろ行くとするかな。ユウ君の期待に応える為にも、これからユウ君のことを守ってあげないといけないみたいだし)

「おぉ、ついに姿を現したか」

「はい。流石はユウ様ですね。もう私ではユウ様に傷を付けることは叶わないのですね。やはりユウ様にはこの私よりもユウ様に相応しい方がいたのです。私程度の者がユウ様にお傍に置いて貰えたこと自体が奇跡のようなものだったのですね。ユウ様、短い間でしたが私に色々なものを頂いてありがとうございました。貴方に出逢えていなかったら今の私は存在しないでしょうし、こうして私自身の成長に繋がる貴重な体験をすることが出来たのはきっと運命なのだと思います。ユウ様には色々とご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ありませんでした。それと最後に、どうか、幸せに暮らしてくださいませ。ユウ様ならどのような環境であってもきっと幸福を掴むことが出来るでしょうから。ユウ様なら必ず――――)」

(おい、ちょっと待てよ。なに勝手に諦めようとしているんだ?あんたはそれでも勇者かよ。まだ俺が負けると決まったわけじゃないだろうが。それにまだ俺が諦めたとは一言も言ってないし、そもそもまだ俺が負けることが確定した訳でもないだろうが。確かにあんたにはどうすることも出来ないかもしれんけど、だからと言って簡単に逃げ腰になっているのはあまり感心できないしな。でもまぁそういう性格なのはよく分かったから。あんたはどうせ自分がやられるとかそう言った事を考えずに無茶苦茶やってくるタイプの人間なんだろ?だからそんな考えなんてさっさと切り捨てろ。どうにもならないかもしれないけれど、まだ負けたわけじゃない。それに、もしもこれで終わってしまったとしてもその時は俺が全力でなんとかしてやるよ。だからさっさと戦いに集中しやがれ)

「あ、あなたは、なぜそんなに私のことを信じてくれるのですか?私は、ユウ様を殺そうとしたんですよ?ユウ様のことを騙し、そして殺そうとした張本人でもあるのですよ?ユウ様の優しさにつけこんで自分の目的を達成させようとした卑怯者でしかないのですよ?それなのに――、私はあなたになにもしてあげれません。そんな私が――、いえ、私はあなたのことを信じることが出来――っ!ま、またですか!?」

(あ、またあの女の人に攻撃されてますよ。でも今度はユウさんがしっかりと受け止めたから大丈夫なのですよ)

(――くそ、またか。どうなっているんだよ一体)

(うむ、なにやら様子がおかしいな。だがとりあえず、あいつのことは一旦置いておいて俺達はあの二人がどう動くか見守ることにしよう。この二人の実力は相当に高いはず。それにユウの実力は俺達がよく知っている。あいつに任しておけば特に心配するようなことはないと思うのだがな)

(お、おい、お前、いったい何をしたんだ?なんでいきなりこの子が倒れたりするんだよ?お前何かやったんだろ?そうだろ?)

(うぅー。なんかユウさんの方で問題が起きてるみたいなんだけどー。これは私も行った方がいい感じなのかなー?)

(なに?なんなんだよ一体。どういう状況なんだよ?)

(あら、なんか大変そうな感じだな。ここは俺達も手を貸してやるか。俺達の出番ってことだろ?)

(だねー。なんだかさー。ユウ君のところに女の子が走っていっちゃってるよ。あれってもしかしてさー、あの子の目的ってユウ君なんじゃないのかなー)

(うむ、恐らくはそうなのであろうな。まさかこんな形で再会するとは思いもしなかったぞ)

(ふぇ?な、なに?何が起こってるの?ねぇなんなの!?一体なにがあったの!?)

(あー!やっと出てきたー!あの人だー!あれー?でもあの人がどうしてあんなにボロボロな格好になってるんだろうー?それになんだか顔つきまで違うようなー?うーん。やっぱり分からないー)

(おいおいおい!あの子めっちゃ強いじゃんかよ!それにユウのやつまで一緒に戦い始めやがったぞ?っておい!なんだあの威力は!!この前見せたあの剣より数倍もやばい威力になってないか?いやいや、それよりもユウの方が更に上をいく威力になっているし、これは本当にマズイんじゃないか?でも、ユウがいれば俺達の勝ちは確定なんじゃないか?だって、ユウの強さがあれば、たとえ相手がこの世界最強の生物だと言われても倒せる気がするしな。それじゃ、俺もそろそろ行こうかね。さっきまでの鬱憤をユウに全部ぶつけてやる!!)

(おぉ!凄い凄い!二人とも完全に動きがシンクロしている。二人の間に言葉は無いのにお互いが次にどんな攻撃をしようとしているのか分かっているかのように戦っている。それなのにまったく同じ速度で攻防が繰り広げられていて目が全く追いついていかない)

(ふむ、あの子は確か――)

(――はぁ、全く、なんでこうなってるんだよ)

――バキッ!!

(は?今なにが起こった?いやなんで俺はこんなところでこんなことになっているんだよ。俺はこんな結末なんて認めてねぇよ!)

(いやー。凄いなあの人は)

(だよねー。流石ユウ君の知り合いだけあるよね)

(いや、お前らはなんで普通にしていられんだ?この展開に驚いてないって事はもしかしなくても、俺だけが馬鹿みたいに見えるんだな。畜生。これじゃあまるで俺だけが場違いみたいじゃないか。ってそうだ!今はそんな事を言っている場合じゃないんだ!この勝負はどう見ても俺には荷が重すぎる。という訳なので、ここいらで退散させて頂きます。後はどうぞごゆっくりお楽しみください)

(あっ、こいつ逃げたな。ってちょっと待てやコラ。俺にはまだやることが残ってんだから。さっさと帰って来い!俺一人じゃ手に余るからさっさと戻ってこい!おい!マジで待ってくれって!頼むから、お願いします)

――ザッ、ガキンッ!!!

――ヒュウゥン スドォオオオオン

――パリンッパリーン

――ブチィイイッ 【称号『竜神の友』を取得しました】

(よし、逃げ切った)

(はっ、ユウ君が逃げ出しただと。それでは私の仕事はここまでかな)

「――ッ!!」

【称号:限界突破を獲得いたしました】

【レベル上限が100に上昇いたしました】

【HPとMPの限界値が上がりました】

――ブワァアッ!

「な、なんだなんだ?」

(えっとー。どうしちゃったんだろう。急に強くなったよね?)

(わ、私にも分かりませんよー。も、もしかしたら私の力が影響してしまったのでしょうかー?)

「な、何なのよ貴方達は。私達がどれだけ苦労してこの国にたどり着いたと思ってるのよ」

「な、なんなんだその強さは」

「ま、待ってくれ!そ、そろそろ休憩を取らせて貰えると嬉しいんだけど!」

「お兄ちゃん、もう大丈夫だよ」

「ん?どうしたんだよそんなに焦ってさ」

「ユウ様はもう私から逃げることはできなくしてみせましたから、ですからもうこれ以上は逃げ回らなくていいんですよ」

「は?何を言っ――えっ?あぁ、もう、はぁー、そういうことか。そういうことだったのか。そりゃ確かに俺が悪かったな。あんたの気持ちも考えてやらないといけない立場だったな。悪い。すっかり忘れてたよ。あんたの本当の目的を忘れるところだった。ごめん。許してくれるか?それで、あんたはこれから一体なにを望むんだ?まあ大体の予想はつくがな。どうだ?一応確認しておくけど、本当に俺なんかで良いんだよな?俺はただのおっさんだし、あんたほど可愛くもない。それでも俺と一緒にいるっていうのか?あんたには俺なんかよりも相応しい男がきっと居るはずだ。俺みたいな中途半端な男なんかよりさ、ちゃんとした奴がな。だからさ、俺のことなんて放っておいて、自分の為に人生を生きていく道も、ちゃんとあると思うんだがな)

「何を仰いますかユウ様。私は、ユウ様以外の男性と結婚するつもりなどありません。もしユウ様に断られてしまいますと、私はもう二度と結婚なんて出来なくなってしまいますよ。ですから、どうかお願いします。私の傍でずっと一緒にいて下さい。私はあなたじゃないとダメなんです。あなたのことが大好きで仕方がないのです。だから私のことを捨てないで。私のことを守ってくれないと、私はまた――、あなたを殺そうとしてしまいそうで――、私、また自分が怖い――」

(ああ、これはまずい。この人またあの時と同じことが起きようとしているのか?ならやっぱり俺は責任を取ってあげるべきなのだろうな。それに、この人を救える可能性があるのはこの世でたった一人しかいないのだ。それがこの人の望む人物なのかどうかは分からない。でも、少なくとも俺はその人の代わりにはなれないというのだけはハッキリとしているんだよな)

「あー、まあいいか。とりあえず俺でよければ宜しくして貰おうか。俺にできることなんか少ないし何もしてやれないかもしれんがな。それに俺は普通の一般人だ。貴族でもなんでもない。そんな俺でも良ければだが、一緒に居てやれる。それだけで満足できるなら、な」

(うぅー。やっぱりそうなるのですかー。分かってはいたことなんですけどー、やっぱり悔しいですねー)

(な、なに?何が起きているの?なんであの女はあんな顔をしているの?どうしてあの人はあの人に近づいていくの?どうして?何が一体どうして?)

(ユウさんは相変わらず優しいなー。本当に優し過ぎるぐらいですよね。私もいつかはユウさんに守られるような存在になりたいものです)

(あらー?なんか凄い状況になってるねー。あの子も幸せになって欲しいとは思ってるけどー、流石にこれはダメだと思うんだよー。だってユウ君は誰にだって優しいし、だからこそみんなに好かれるような人なわけでしょ?それを独占しようとしてる時点でこの子の願いは叶わないよー。そもそも、そんな事を望んでるのになんであんなに自信が無いのかー。もっと胸を張ればいいのにー)

(なにが起こっているんだ?もしかしてあの二人は恋仲ってやつなのだろうか?ううむ。よく分からない関係なのだな。あの二人がそうなるのは必然的な気もするが、でもそれはやはり良くないよな。ユウは俺達の恩人だ。その恩人が不幸になってしまう姿を見たくないのでな。あの二人の為に一肌脱いでやるとするか)

(おー?お姫ちゃんはー?なんだか凄い顔してるよー?あのお姉ちゃんもちょっと困ったような顔してるよねー?あのお嬢ちゃんが怒っているのはー、多分嫉妬からくる怒りなんだろうけどー、どうしてあそこまで感情が高ぶってー、暴走しかけているのかな?不思議ー、不思議なのであります!でも取り敢えず今はー、お姫ちゃんが怒っていても、全然恐ろしくないのでー、どうでも良かったりするでありますよー)

(うん、なんだ?これはどういった状況だ?なぜこの国の主とこの国のお姫が争っている?というかあの女は何をしている?何故この国の主に抱きついている?しかも泣き喚いているだと!?こ、こ、ここここれでは話が先に進まないではないかっ!!!)

【名前】

橘 祐 【種族】

古代竜(エンシェントドラゴン)

【年齢】

39才 【レベル】

101 【ランク】

SSS+ 【生命力】

98000/98000 【魔力】

1270000/127000 【攻撃】

36000 【防御】

29400 【敏捷】

55000 【運】

100

★P 2880,800,000 スキル 《検索》 魔法一覧表 言語理解 経験値増量 ジョブ獲得条件緩和 効果倍増 自動発動 気配察知 剣術LV10MAX 武術LV30MAX 格闘術LV15 刀術LV1 棒術LV3 弓術LV6 短剣技LV5 投擲LV2 杖術LV10MAX 斧術LV2 銃槍撃LV4 槌術LV3 槍捌きLV5 大盾術LV6 投合LV4 打撃強化身体装甲 部分変化LV1 火魔術 風魔術 水魔術 土魔術 光魔術 闇魔術 回復魔術 支援魔術 付与 詠唱短縮 錬金術 鍛冶 道具作成 錬金 称号 勇者 異世界からの魔入り混じる者 ドラゴニュートの希望 アルティナの加護 不老 竜の因子 竜神族 竜王の誓約 竜帝の友 【称号補足】

『限界突破』『ステータス制限解除』『アイテムボックス拡張』『転移』を獲得しています。

☆NEW! 【ユニーク称号】〈無自覚英雄譚の主人公〉 〈物語の支配者の主人公でもある。他人の力を借りて目的を達成すると必ず成功するだろう〉 *他人と自分に対する認識阻害系のスキルの効果が無効化されるようになりました。他者の心をある程度読むことが出来るようになった為です。

☆UP!〔竜の誓い〕〔絆〕を取得しました。

(なんだなんだ?)

「――」ブツブツ

「おい」

「――」ブツブ

「お前、いい加減に」ブチッ「――ふぎゃ」ドテン バシン「きゃぁあああっ!!」

――ヒュンッ「あばばばばっ!」「痛っ!」「ぐはっ!」「ごへっ!」

「は?」「え?」「うおっ!」「ひゃぁ!」「うぉわっ!」「ちょっ!」「あわわっ」「わ、わわっ」「ほげっ」

「な、なんだぁああぁあぁぁあぁああ!!!!」

(なんなんだよ一体!?)

(あーんもうー。やってくれちゃいますねぇー。やっぱりあのお姫様には一度きちんと教えてあげる必要がありますねー。ユウ君の周りに居る人達は、みんなあの子がユウ君のことを狙っているって思っちゃいますからねー。それにあの子の場合、自分の想いを伝えることに一生懸命でー、周りの人達に誤解されている事に気付いてないんだもんねー。本当にやれやれー、だよー)

(あらあらあらあらあら。この国には一体どれ程の民がいると思っているのでしょうか?この城の中だけでも軽く数千を超える人数が居て、その全てがこの子の配下だと言っているんですよ?そんな状態であんな大声で愛だの好きだの叫んだらー、この国の全ての人間達にー、貴方が私達のユウ様のことが大好きだって事がー、全て筒抜けになるんですよー?なのにそれを全く気にしていないなんてー、一体この子は何を考えているんですかー?)

(ま、マズいぞ、これは、かなりマズい状況だ。まさかあの王女があんな行動を起こすだなんて、想像できなかった)

(はぅー、ど、どうして、私こんなに嫌われてるの?そんなに、何かこの子に悪いことしたかなー?私はー、ただ、好きな人を守りたかっただけなんだよー。それだけでー、それの何処が悪いって言うのー?でも、これは本当に困るよー。流石に、ここまでされると、ちょっとイラって来ちゃうんだよー)

(は?今俺はなにをされていた?というか、いつの間に俺は寝転んでいたんだ?ん?あれ?なんか頭がクラクラするし体が熱い。あーくそ、なんだ?なんか凄まじくダルいな。それにしてもここはどこだ?俺は確かあのまま倒れていたはずなんだが。あーでもこの天井は間違いなく城の奴らのだな。てことはまたどこかでぶっ倒れたのか。俺もまだまだ鍛え方が足りないな。よし。今度はもっと修行に時間をかけるとするか。だが、そうなるとまずは、まずはこの頭痛からだな。まったく。いくら何でも限度ってものを考えて欲しいよな。人の迷惑考えないのかね?本当にあのお姫様ときたら。でも、まあ、今回は許してやるか。俺の為にあんな事をしてくれたみたいだしな)

☆NEW!

〔無謀な挑戦者の試練:この称号を獲得することで自身の限界を超えて強くなれるようになります。しかしその為には多くの苦痛や恐怖に耐える覚悟が要求されます。それでも尚、この称号を獲得したいと思えるならば挑戦してみてください〕

(な、なんだ、あの力は?あの王女が一瞬で消え去ったと思ったら、ユウがいきなり地面に倒れ込んだ。なにが起きたのか分からなかった。い、いや、それよりもだ。今はユウの心配よりもまずはあの二人の女のことだ。あの女共はいったいどういうつもりなのだ?なんで、なんであんなにも嬉しそうに笑い合っている?何故あんなにも楽しそうな笑顔を浮かべているんだ?まるで長年待ち望んでいた相手に巡り会えたような、それでいて、これからの幸せな未来を夢想しているような。何故?分からない分からない分からない)

「な、なにがどうなっているんだ。こっちも何が何だか分からないんだっての。急に出て行ったと思ったら急に戻って来てそのままユウさんに飛びつくとか意味不明な行動をし出すしさー。もー訳分からないんだけどさー。それより早くユウさんの所に行かないと。てゆーかもうユウさん大丈夫なの!?頭とか打ったりしてなーいっ?いやもうそんな事はこの際関係ないよ!急いであの子の所に行って助けてあげないと!ユウさんまで倒れてるって、あの状況なら多分ユウさんの体調も悪かったに違いないし!あぁ、だからきっとユウさんはあのままあの子を看病するためにあの子をお姫ちゃんのベッドまで運んだんでしょー?あ、でももしそうならあの子がお姫ちゃんの部屋にいる可能性もあるってことじゃん!う、ううー、ヤバイよぉおお、どうしよう!お姫ちゃんのお部屋に突撃するのは良いけど、その時もしもユウさん達がそこにいた場合ってどうすればいいのかな?どう思うよお姫ちゃん?」

(う、うむ。確かにユウは体調不良だったかもしれないが、それは恐らく疲労からくるものだと思うのだが。そもそも私が倒れる直前に見たあの光景はなんだというのだ?何故ユウの周りには女ばかりが集まっている。何故私以外の女性とあんな風に笑っている?やはりアレか?私のことが鬱陶しくなってきたから他の女に手を出したということなのか?それともこの女達は皆一様に、ユウのことを本気で狙っていると言うことなのか?)「ふふっ。でもまぁ、それも悪くはないでしょうね。私としたことが、ついつい頭に血が上ってしまいまして冷静な判断ができませんでしたわ。本当に申し訳ありませんですわね。それに先程までは本当にどうかしていたと思いますわ。あんな大見得を切っておいて、肝心のあの男に逃げられるだなんて」

【名前】

橘 祐 【種族】

古代竜族 古代竜王族 【年齢】

1才 【レベル】

151 【ランク】

SS+ 【生命力】

88000/88000 【魔力】

500000/50000000 【攻撃】

48000 【防御】

34000 【敏捷】

38000 【運】

100

★P620,720,000 【スキル】《検索》《身体強化LV10MAX》《気配察知LV10MAX》《隠密LV10MAX》《偽装LV10MAX》《擬態LV10MAX》《統率LV1》《軍団LV10MAX》《召喚LV10MAX》 剣術LV10MAX 武術LV30MAX 投合LV2 打撃強化身体装甲 部分変化LV2 火魔術LV10MAX 風魔術LV10MAX 水魔術LV10MAX 土魔術LV10MAX 光魔術LV10MAX 闇魔術LV10MAX 回復魔術LV10MAX 支援魔術 付与魔術 錬金 道具作成【エクストラ】

【加護】

『竜神の祝福』『時空神(クロノス)の加護』

【ユニーク】

【アイテムボックス】

【隠蔽ステータス】

HP MP 攻撃力 防御力 素早さ 体力 幸運 総合能力 固有スキル その他

「お、お、俺に、なにをした?い、いや、何をしたのかはなんとなくわかってはいる。だがな、そんな、馬鹿な、ありえないだろう?」

(な、なんだこの化け物は!?)

(え?ええ?えええ?えぇえええ!?な、なんで、どうして?だって、この人、人間じゃない?じゃ、あ。え、嘘。う、うそだよね?うそだって言って欲しい。で、でもやっぱり、ううん。だってこの力の強さ。人間なわけがない)

「あらあらあらあら。どうやらお父様の方は理解したようですね」

「ああ、そうだな。この娘。まさか、とは思っていた。そして、お前の言葉。まさかお前ほどの者がここまで言うとは思っていなかった。だから私には、正直お前が何を言いたいのかがよくわからない」

(な、なにを考えているのだ、あの女共は?あの男は一体誰なんだ?いや。違う。あれだけの力を身に宿すことができる存在など限られてくる。あれほどの存在であれば当然私達も知っているはずだ。なのになぜ私は今まで思い出せなかった?あそこまで強大な存在感を放っていたというのに、それをこの国の王は気が付いていなかった?一体なにがあったというのだ。それとも私は何かを見落としてでも居るのか?あの男が本当にこの国を、私達のこの国を支配しようとしている者だと思っているのか?)

(んー。でも、流石にあれで気が付かないのは不自然過ぎだよねぇー。あ、そうか。もしかして、そういう事?この子はもしかするとー、自分の力で記憶が封じられてでもいるのかなー?あ、でもでもでもでもでもでも。それだったらなんでこの子はー、私に普通に接することができてるんだろうー。おかしいなー。だってー、この子からすればー、いきなり見知らぬ土地に来てるはずなんだよー?しかも相手はこの世界の人ならざるものだしー。いくらなんでもこんな状態でここまで冷静になれるかなー?あれ?も、もしかしてこの子はー、自分が今どういう状態かも忘れてるんじゃないー?んー、それはー、流石にないかー。でもまあとりあえずはー、もう少し様子を見るしかないのかもしれないなー)

(こ、この少女がこの国の支配者だと言ったか?それはいったいどういう意味だ?まさか本当にこの娘は、その支配者の候補者とでもいうつもりか?なにを馬鹿な事を。あの男とあの娘の関係性を見れば、一目瞭然じゃないか。それにあの王女はいったいあの二人に対してどんな関係だと言いたかったんだ?そもそも、そんなことを言い出せば全ての関係性のあるものはこの国に存在することになるぞ?この王女は頭が可笑しいんじゃないか?)

(はぁー、まぁ良いでしょう。別に今はそんなことはどうでも良いことでしょう。問題はどうやってこの国を手に入れるかということですわ。この男がいる以上、私もただでは済まないでしょう。ならばどうするべきでしょうか。この男の庇護を受ければおそらくは楽なのですが、あの王女も黙ってはいないでしょうし。しかし、それでも、私は私の目的のためにはあの方に従う訳にはいかないのです)

(ふふっ。これは、困りましたわね。あの方にお願いされたら断るわけにもいきませんが、そうなると私に出来ることも限られてしまう。でも仕方ありませんわね。今回は特別に見逃して差し上げましょう。ですが次はありませんわよ?いいですの?もし次同じ様な真似をすれば、私はもうあなたを許しはしない。あの方を敵に回す覚悟ができているのなら、もう一度来なさい。その時は私もこの手を使う覚悟を致しますの)

(ふぅー。良かったよー。取り敢えずはー、これでなんとか大丈夫かなー?うー、でもこれでも安心していいのかどうかが分からないんだけどねー。もし仮にこの子のことがバレちゃった場合の事も考えないといけないしー。あーもー、ほんとにどうしたら良いのさー!これー!)

ピカー!

(よし。これであの子のところに行ける。あの子が、ユウさんが起きてしまわないように気をつけながら急いで行かないと。も、もう、ほんと、どうしよう!あー!どうすりゃ良いの!?わかんねえー!どうしろって言うの!?誰か助けてよー!てゆーかさっきまでの私カッコ良すぎじゃん!なんだったのあのテンション!あんなキャラ全然私のキャラじゃないじゃん!絶対似合わないって!恥ずかしすぎるってー!あんな感じのセリフとか絶対に吐きたくないよぉおおおおおおお!!って。はっ、いけない、急がなきゃ!このままだとまたユウさんの所に戻ってしまう前に急がないと、またあの女達がユウさんの所に来る前にどうにかしないとダメだし。はやく、はやくいかなくちゃ、間に合え。まだ、間に合う。はやくはやく、早く、は、っぐ、あっ、痛、いっ、た、いたい。くそ。だめ、だ。これ以上は、もどれな、、。う、う、ああ、ああ、ああ、ああ、あ、ああああ。ごめ、んね。まけち、ゃった、みたい、だ、、、。ごめん、、。ゆうさ、、、、、ん。

『ん。お腹空いた。なにもない。食べるもの』

グギュルゥ~

(おや。なんと、こんな所に珍しい。なんと可愛らしいドラゴンが迷い込んでしまったようですね。それもまだ小さな子供です。ここは大人であるこの私、この世界で唯一にして最強の存在たる『黒雷鳥』の私が保護をしてあげなくてはなりませんよね)フフン ムクムク

(む?おかしいですね。先程まで私にこの子を託すと申しておりましたはずですのに。一体どうなされたというのですか?それに、お父様に至ってはまだ何も言ってはいませんでしたのに、いつの間にやら席を離れていなくなってしまわれてますし、いったいどこにいかれてしまわれたのでしょうか?)

『おいしかった。けど足りない』

(しかし、あの子は何処に行ってしまわれてしまったのでしょう?もしかして何か私に用事があるということだったのでは?もしくはお昼寝の邪魔をしてしまったとかかしら?あら。それであれば私にも責任があるわよね?でもそうなるとあの方のところに行くと言っていたような気がするのはきっと私の勘違いで、やっぱり私が悪いって事になるのかしら?いえ、それよりも、やはり先にこの子を保護するべきだと思いますわ。だって私はこの国で一番強い『竜神』なんですから。うんうん。やっぱりそれが一番大事だよな)ウンッ

『美味しい食べ物食べさせてあげる』

「本当?」

(えっと。でも、本当になんでこの女の子の言葉が分かるんだろう?まさかこれが《全言語翻訳》ってスキルの効果?でもなんで?なんで俺がこんな目に合ってるんだよ。せっかくリゼとの別れを終えて、新しい人生を歩みだそうとしているっていうのに、どうして?いや待て待て。落ち着け、クールになるんだ。ここでパニックになったところで何の解決にもなりはしない。とにかく一度現状を把握しよう。この子の言葉は何故か理解できる。そして俺はこの子に言葉を教えてもいないしこの子から何か教えて貰おうともしていないはずだ。にもかかわらずこの子はしっかりとした日本語を話している。もしかしてだけど俺の記憶が無いだけかもしれないけど。

それとステータスも見れないんだよな。だから結局この子がなんなのかは分かってないし、なんなら名前すら分かっていない。いやでもそれは仕方ないか。この世界でこの少女の名前を知る方法は今のところ無いからな。それにこの子はなんとなく日本人には見えないし。

んー。まぁいいや。この子は俺に敵意は持っていなさそうだし。取り敢えずはこの子とコミュニケーションをとれるようになる事が当面の目標だ。その為に何をするべきかをこれから考えていこう。取り敢えずはこの子をこの森に置いていくわけにはいかないし、一緒に行動するとして、まずは彼女のステータスを確認するところからだな。この子は人間じゃないっぽい。つまりモンスターかそれに準ずる存在の可能性が高いと思う。流石にこの子を連れて行くとなると流石に戦闘は免れないだろうな。流石にそんな危険な事まではするつもりは無いけれど。でも一応の確認だけはしておいた方が良いよな。

あー。どうしよう。こんなことになるならもっとちゃんと鑑定系のスキルについて勉強して置けばよかった。今となっては後の祭りだが。こうなったらもう開き直るしかない。今はとりあえずこの子の安全の確保とこの世界の常識を知っておくことを最優先事項とするしか無いか。

うわ。どうしよう。まじで可愛いな。あ、いや、この子がじゃない。俺がってことだな。でもなんか凄いな。この子から魔力を感じないんだよな。まるでそこにいるって事は理解しているんだけど、どうしても意識しないと認識できないというか。存在感がないと言うか。なんでだろう。でもこれは逆に言えば今の状況はかなりマズイってことなんだよな。だってこの子は魔物だ。多分この世界に来てから今までに出会った中で、一番ヤバい相手なんじゃないかな?この世界に来てからは特にそういった敵と戦うことはなかったからな。でも流石にこんな幼い子供を殺せなんていう選択肢を選べるほど腐っちゃいないよな。だってこんなに可愛い幼女なんだぜ?むしろ愛玩用のペットにしてしまいたいくらいの気持ちなんだよ。まぁこの子の見た目が人族と変わらないのが唯一の救いなんだけどな。もしこれでトカゲのような見た目をしていたら完全に殺していたよ。いくら幼女とは言えこんな危険生物を生かしておける訳が無 いもん。

よし決めた。この子と一緒に旅をする上でこの子に色々と聞いてみよう。その方がきっと楽しい生活が出来る筈だしな。それにさっきも言った通り、まずはこの子がなんなのか確認するのが最優先事項だからな。それからどうするか決めよう。って言っても俺にはこっちの言葉を話せる相手がこいつしか居ないんだが。いやまぁ他にも仲間はたくさんいたのだが、皆死んでしまったのだから。あれ、、、? そういえば他の仲間の気配がないよな。確か最初にいた場所に全員集めて置いてきたと思ったんだが、、、。いや、待てよ。俺達をここに呼び出したのはこの世界の意思だったはずだよな?じゃあこの空間もそうなのか?確かに俺の知っている召喚術とはかなり違ったが、異世界を移動するという点に関してはかなり酷似しているように感じる。もしかしたらあの魔法陣は異界からの転移を補助する為のものであって実は別に召喚術とは呼べなかったり、またはあの場所がこの世界には存在しないとか?

「ねえ」

『え?』

(あっ、やばい。考えすぎて声に出てたみたいだ。取り敢えず返事はしておくべきだろうか。いや、ここは無視してみるというのも有りかも知れない。この子も反応しちゃったことに困っているみたいだし。いやでも流石にそこまではしない方がいいかな?でももしこの子の機嫌を損ねてしまったら大変なことになりそうな予感もあるし、、。)

(あー。ダメです!無理です!我慢出来ません!!私、こういうの耐えられないタイプなんですぅううう!ごめんなさいごめんさい!!)

『ど、どうかしましたでしょうか?』

ピカーン

『うん。貴方のことずっと気になってたから。それで話しかけてみた。ごめんなさい』

『気にしなくて良いよ』ニコッ

(ああ。ダメですよ。その笑った顔、反則ですぅ。なにこれぇー!可愛いすぎるー!しかも喋れたの!?なにこの子!可愛すぎじゃないですか!ってことは私が知らないだけでこの世界では当たり前なんですよね?そういう種族的なアレだったりするんですかね?というかさすがにここまで可愛かったら普通は分かりますよね?もしかして私に隠されている才能みたいなのがあったとかですか?それなら私の才能が開花したということで嬉しいのですけど。それにしても私この子に会えただけでも今日来た意味ありましたね。やっぱり私の見る目は間違っていなかったのですね。それに私この子を守ってあげたいしなー。この子の為に出来る限りのことをしてあげないといけま せんね。この子のためなら私は何でもできる自信があるわ!私にとってリゼさんは神様みたいなものなのよね。でも、今の私なら本当になんでも出来る気がしますわ!なんと言っても今の私、最強無敵なのですから!でもそうなると問題はこの子をどうすれば守れるかというところですが。この子に何か危害を加えようと近づいてくる者はこの世から消え去って貰えば良いのですわよね。でも私には出来ないからリゼ様に頼んでなんとかしてもらいましょうか。この子にも早く強くなって貰わないとですね。そしていずれは二人で一緒に世界を救う冒険をしに行きたいところですわ。でもこの子が戦う所ってあんまり想像できないですね。なんというか可愛らしいし、小動物のようにちょこまかと動く姿が容易に想像できてしまえるわ。

ふむ。やはりこの子には私が付いていなければだめな気がするわ。そうと決まれば早速私達が一緒になることを国のお偉いさん達に認めさせにいかなければならないわね。きっとこの国で一番の力を持っている『竜神』の私なら簡単に認められてしまいますよね。うん。問題ない。それに私なら『竜神』としての特権を最大限に行使できますし。この子は『古代竜(エンシェントドラゴン)』として『白銀竜』の私と仲良くしてくれているって事で押し通しましょう。

でも、そうなるとやっぱりまずは私の家に来てもらって私の家で生活してもらえば良いのかしら?そうすれば誰にも文句は言わせないし。この子には是非うちに住んで欲しいところだけれど。どうしたら来てくれるのかしら?まずはお願いから?でもいきなり家においでよと言われてついてきてくれるような人はそうそういないでしょう?でも、この子を絶対に離さないためにも何か手は打っていた方が良いかも。この子の為だと思って頑張って説得してみようかしら。

よし、まずは自己紹介から始めていきましょうか。そこからお互いの距離を詰めていければきっとうまくいくはずだわ。よし、頑張れ私。まずは一歩目。

名前:-

年齢:0歳

Lv.2/20 HP:1540/1540

MP:4590/1000000

STR:505

DEX:257

AGI:800

INT:1000

VIT:100 属性 火水土風雷光闇氷 職業

『無職』『奴隷L v.32』『聖獣の使い手』

スキル

『剣術L v.10』、『体術LV.MAX』

固有スキル《全言語翻訳》 加護 なし 状態健康

(あらまぁ。ステータスってそんな感じで出てくるのねぇ。まぁでもレベルが上がった時に確認しておけば良かっただけのことなのよ。それにこのステータスだと、ステータスを開示しろと言われたときに誤魔化せなくなってしまうわね。それこそ無能者と思われてもおかしくないくらいの数値なのだから。でもまあ私とこの子の関係は周りからは仲良しの幼女二人組みにしか見えないでしょうし。大丈夫ね)

(あれ、この人の名前無いんだね。でもそれは当然か。この世界では産まれる前の赤ちゃんの名前を付ける習慣はないもんな。俺のいた世界でもそんな風習は殆ど無い。俺の場合はお腹の中の子供が俺の子じゃなくて養子っていうことが最初から分かっていたせいか。特に名前が付けられなかったんだろうな。俺は親に名前を呼ばれて育ってないし、この世界に生まれてからもそうだ。でも俺にとってはそれで良かったんだと思う。俺の名前は俺が付けたい。だから、自分で名乗るのは少し恥ずかしいんだけど、この子の名前を今から俺が付けることにする。俺の子供ってことで。それに俺自身、この名前が凄く気に入ったんだよな。だって、だって、だって、かっこいいだろ!この子の容姿と合わせて考えると、もう完全に最強コンビだよ。最高じゃないか!あ、もちろん俺の見た目は置いておくとして。この子だって可愛いしさ。あ、いや別にこの子だって負けていないんだよ?だって凄いんだよ。だって、ほら、あれだあれあれ。なんて言うんだっけ?まぁとにかく可愛い。それだけで十分なくらいなんだよ。見た目だけで判断するのは良くないのは重々承知しているんだけどさ。それでもさ。やっぱ女の子なら、可愛いは正義だと思う。うん、それにきっと中身も優しい子に違いない。俺が守るんだ!)

さっきからチラッチラッこっち見てくるのに何も言ってこないって事はもしかして私が声をかけたことに反応してくれているのかしら。私もどうしようか悩んでいるんですのよ。何せ私は人型を取ってから初めて人に声をかけたのですから。今までは私を見てくれていたとしても話しかけてくれたことなどありませんでしたのよ。だからこの機会を逃してしまえばこの先二度と人に話すなど出来なくなってしまいそうですわ。だから、ここで勇気を出さずにどこを出すと言うのですか!私には使命があるんです。この子を守らないといけないんです。この子を守る為にはまずこの子に認めてもらう必要があります。そのためにも、こんなところで止まっている訳にはいかないのですよ。

「ねえ」

『はい!』

(ああ。やっぱり私に反応を示してくださいましたわね。この調子ならきっと話が出来るようになりますわ!この子は私と同じ境遇なのでしょうし、これから一緒に過ごすことになる仲間になる筈なのです。仲良くなれないわけがありませんわ。それにしてもこの子が私と同じような状況に置かれているとしたら、もしかしたらこの世界はあの時私が願った通りの世界になってくれたのでしょうか。私に出来る事と言ったらこれくらいしかないのです。この子には本当に感謝してもし切れませんわ。それにあの時助けた男の子の成長した姿が見られるかもしれないと考えるとワクワクしてしまいますわね。この子も私の知っている彼なのかも気になりますし。

でもこの子を見たら私よりこの子がこの世界での彼の母親的存在になっていそうね。この子にならリゼさんの面倒を預けても大丈夫かしら。私もいつかこの子に自分の息子を紹介することが出来たらいいな)

『どうかしましたでしょうか?』

「ん、えっと、その、なに?

『どうしましたか?』あ、ごめんなさい、そのね。あなたともっと話がしたいなーって思ってね、それで、それで、話しかけちゃったの。ごめんなさい、急に言われても迷惑だよね。でもね。どうしてもあなたと仲良くなりたくてね。ごめんなさい、ごめんなさい」

『全然気にしなくて良いですよ』ニコッ

(ああー。天使がいますわね。きっとこの子の笑顔は世界を救うはず。これは絶対の事実。この子に嫌われないようにしなければ。もし私がこの子と敵対するようなことになったらこの子を守ってあげることは出来ないの。私はこの子と一緒にこの世界を救いに行きますわ。この子は絶対に守らないと)

それからリゼさんは毎日の様に私の元へ訪れてきてくれるようになりました。私も嬉しくなって色々とお話をしてみる様になったのですけど、やっぱり会話をするって難しいですね。でも、でも、私も頑張って言葉を繋げていく内になんとかリゼさんとも普通に接しられるようになってきています。これも全てはリゼさんのおかげです。この子のおかげなのです。この子のおかげで少しずつではありますけど私もこの子とお話しできるようになってきていますし。それに、リゼさんってとても優しくて良い子なんですよ。でも何故かいつも申し訳なさそうな表情をしていてそれが私も心苦しくて仕方がなかったんです。

そんなある日の事、私がお庭の手入れをしていたときの事でした。リゼさんと私でお花のお世話をしているときだったと思うのです。私が水をやっていると突然雨が降ってきてしまったのでした。私が空を見ている間にリゼさんの姿が見えなくなっていたので慌てて辺りを探してみると。そこには木陰で寝そべって本を読んでいる姿が見えたのです。きっと本を濡らすまいとして避難してくれたのでしょう。私はそんなリゼさんの優しさを感じられてとっても幸せでした。そんな幸せな時間を邪魔してくる奴が現れてしまいまして。私は急いでお仕事を中断するとお仕事をしているふりをしながら、リゼさんのところに向かったのでした。

私は必死で駆け出したので直ぐに到着する事が出来たのでしたが。そこで見た光景は、ずぶ濡れで地面に横になっているこの子の姿を見て私の頭は一瞬で沸騰して真っ白になってしまったのでした。この子はすぐに回復して何事も無かったかのようにまた読書を再開したのだけれど、その時の顔を見て分かったの。この子は自分の事を責めている。そんな顔をしていたの。どうしてこの子がそんな悲しい思いをしなければならないの?私はこの子に少しでも元気になってもらいたくなりまして、お洋服が乾くまでこの子を抱っこすることにしたのでございます。この子の体はとても小さくて、軽くて。そして温かくて。なんだか不思議だわ。私はこんな小さな体の子供がこの世にいるという事に驚きながらも、その子を大切に抱きしめ続けたのです。

その後、服が乾燥し終えた後もずっと抱き抱えたままのこの子に困惑しながらも。どうにかこの子を屋敷へ帰らせる事に成功したの。この子のことが少しだけ心配になったのだけど、次の日もその次の日もリゼちゃんは来てくれたので安心致しました。ただ不思議なのはこの子が来た時の周りの方の反応なの。まるでこの子の保護者の様な目線を向ける使用人が多い気がします。

私にはそんなに懐いてくださっていない様なのでちょっと残念でしたけど、でもそれはそれでありだと思いますわ。でも最近は私を見てもあまり驚かなくなってきて、前みたいに目をキラキラと輝かせてくれなくなってきているのはとっても寂しいですわ。

「今日も来てくれたのね。リゼさん、本当にありがたいと思っているわ。私も貴方がお友達になってくれて凄く嬉しい。だから私にももっとあなたの事を教えて欲しいわ。私、貴方のことを全然知らないもの。ねぇ。良かったら教えてくれないかしら?」

リゼは困ったように下を向いて、それから顔を上げて口を開いた

「あ、あの、その」

『どうされたんですか?』

(な、な、な、なんということでしょう!この私、リザレス=ロズルートがここまで取り乱すことがあろうとは、、あろうことかあの子相手に!それにあの子の言葉が理解できないとは!なんてことでしょう。でもそれは当たり前の話ではあるのよね。だって私達は人間ではないんですから。でも私は、いえ、私は、この世界の人間にならなくてはならない。私はそう決心したんですのよ。その為なら例えどのような犠牲を払おうとも構わないわ。だから今は我慢ですわ)

リザは深呼吸をした後もう一度口を開く

「あのね、えっとね。私ね。実は今からお出かけをしようかなって思っているんだけどね。でも一人で行くにはやっぱり少し怖くって。あ!もちろん私にはまだ力が無いってことは十分分かっているつもりなの。それでもね、何かあった時に守ってくれる人が一人くらいは欲しかったのね。だからね、良かったら、一緒に行ってくれないかと思って、あ、あ!嫌なら無理について来て貰う必要なんて全くないんだけど、あの、私にもう少し時間が必要なの」

「うん!じゃあ準備が終わったら声をかけて頂戴」

(良かったぁ。なんとか上手くいったわ。これでこの世界についての情報が手に入る。私がここの世界に来た目的が果たせそうだわ)

それからしばらくしてリザは私に声をかけてきてくださいましたの。私はとっても緊張してしまったのよ。だって今まで誰かに声なんてかけられたことがなかったから。私に声を掛けてくる人って皆私に怯えているんですもの。まぁ、当然のことよね。

でもこの人は私が怖いとかではなくて純粋に私を心配してくれていたんだと思うわ。だって目が優しいんですもの。この目は前にも見覚えがあるわ。私が怪我をした時の目と同じ様な目をしていんだもの。この人も優しい人なんだわって思ったわ。でもそのあとすぐに悲しそうな表情になった時には、私も思わず俯いてしまったのだけどね、それでもその後は優しく微笑んでくれたのできっと私にも優しくしてくれるんじゃないかって期待したのだけど、まさかその翌日にはその願いを叶えられる事になるとは思わなかったわ。私に優しくしてくれる人をもっと増やせたらいいな。そしたらきっと私もこの世界でもっと頑張れるはずだわ。この世界を救うのもきっと夢じゃないわよね。)

私とこの子はとても相性が良かったのかもしれないわ。お互いに相手を理解し合えたおかげで、お互いの気持ちが通じ合っているのを感じることが出来ている。私がこんなに穏やかな感情になれたのは初めてかもしれないわ。

リリスと二人で森の中に入っていきながらこれからどうするのか考えていた。俺達の目的はとりあえずは冒険者ギルドと王国に行くことだ。だが、俺はこの森に来るまでの間に気になっていたことをどうしてもリゼさん本人から直接聞いておきたかったのだ。

「リゼさんに1つだけ質問させてもらっても良いかな?答えにくいことだったら言わなくてもいいし。正直に答えてもらえると助かる。まず一つ目なんだけど。君達が俺の前に姿を現した時とあの時の状況になにか共通点は無い?俺の勘でなんだけども、多分関係していると思うんだよね。」

『リゼさんはご主人様に用があって来たと言っておりましたが。』

(この子が私のごしゅじんさまに会いに来ているのは確か。この子がこの子自身の意思でこの世界に来たのならばまだ可能性はあるのかもしれないけど、それが私のせいではない可能性もある。だとするとやっぱり私がここに来ていることが原因って考えた方が自然なのかもしれないわ。私にはご主人達に会う必要がある理由もある訳だし)

私はご主人様達にお会いしたくて仕方がないのだけれど 私は自分の意志とは無関係にこの場所へ転移させられてしまった リザさんと一緒にいたときにも何度か私の意識の隙間を突いてきたし この子は恐らくご主人達とも繋がっているはず。この子の能力については分からないことが多すぎるし、そもそもこの子が一体何のために存在しているかもはっきりとしていない状態なのですもの。だから私はこの子に対しての警戒を解くことができないの この子からは何故か私に対する嫌悪感も感じ取ることが出来るのよね。でもこの子は私と違ってご主人達を守ろうとしているみたいで私にも危害を加えるようなことはしないだろうって事は分かった。でもこの子の存在は余り公にしたくないし、何よりこの子は強い。もしかしたらこの子と敵対しないという保証は何処にも無いわけなのよ。だからこそこの子の正体をはっきりさせる為にも私はこの子と直接お話しをしないといけない。

この子と仲良くなれるように精一杯努力しましょう。それに私がリゼさんと話をしていた時のあの子の様子を見る限り。私がこの子と仲が良くなればリゼさんとの繋がりが強まる可能性がある。そしてもしそうであれば。リゼさんを通じて私がリゼさんと話すことも可能になる筈。私は絶対に諦めたりなんかは致しませんわ!)

(私はこの子に嫌われているみたいなのよね。リゼさんはこの子に色々と事情を聞いてくれたみたいなのだけど結局分からなかったみたい。この子自身も自分がどういう存在なのか分かっていない節が見られるの。この子の力は強力過ぎるの。それこそ今のリゼさんの実力では逆立ちしても勝てる要素が全く無い程に。この子はもしかすると神に近い存在であるのかも知れない。でも私はリゼさんと離れたくない。でもこの子の言う通りリゼさんがこの世界にやって来た理由はこの子が原因の可能性が一番高いのも確かなのよ。だからリゼさんは私に協力しようとしてくれているのだと思うわ。でもリゼさん自身は本当にリゼさんの事を思ってリゼさんの意思で動いてくれていると信じたいのよ。私の為にリゼさんの貴重な時間を無駄にしてしまっていると考えるだけで胸が張り裂けそうになるほど辛くなってしまうもの。

私はどうやったらリゼさんの本当の思いに答えることができるようになるかしら。この子に認められればあるいは?

「あの!その!私は別に、リゼちゃんの事を責めているとかそういう事を言いたいわけではないんですの!私はただ貴方のことが心配なだけ。私には貴方の苦しみを分かち合うことが出来ないのかしら。ねぇ!私じゃ頼りにならないかしら!お願い!私にも何か手伝わせて欲しいわ!」

(あ、しまった!つい熱くなりすぎて早口になってしまったの!どうしよう!リザちゃんに変に思われちゃうかしら。で、でも私は間違ったことなんて言ってないし!大丈夫よ!私は間違ってなんて居ない。)

リゼは驚いた顔をしてしばらく呆然としていたが。突然泣き出し始めた。

「ふぇ、ふえ、う、ぐっひっく。わ、私ね。わたし。リザお姉さんに、嫌われるかとおもって。ひっく。わ、私のせいでね。迷惑をかけたくないの。だから。だからね。もう私に構わないで欲しい。私はリゼ。私の名前は『リゼ=ルリア』だから」

リゼはそう言ってからその場から走り去って行ってしまった。

「ちょ、ちょっとまってよ!ねぇ!待ってってばぁ」

『追いかけないと!』

俺とケルピィが慌ててリゼを追いかけようとすると。後ろから声が聞こえてきた

『あら。また会ったな!坊主、嬢ちゃん、元気にしていたか?』

俺は振り向いてその人物の顔を確認すると驚きの声を上げた

「あんたは!この前俺の店に食いに来てた爺さんじゃねーか!」

「お、お知り合いですか?」

『私も知りあいなのですよ。確か名前は『ザラタンズ トドマオ バサラザン』だったと思います。あ、でも名前が違っている可能性もありますか。』

「あははは!正解だぜ嬢ちゃん!この前は悪かったな。お前さんに少し聞きたくなってしまってよ。あ、でも勘違いはしないで貰いたいんだ。今回は別に脅すとかそんなつもりはないんだ。だから落ち着いて話が出来る場所に行かないかい?」

「いや。それは構わないんだけど。そっちは平気なの?」

「なあに、こいつらはそこらの魔物に殺されるような軟弱者じゃねえからよ!気にしない、気にしな~い」

「いや、そうじゃなくてさ。そいつらに見つかる前にここから離れた方が良いんじゃないかって」

「ん?なんだ、気付いてたのかよ。じゃ、逃げるとするか。おい。お前達行くぞ。ほら、ぼさっと突っ立ってないでとっとと歩き出せ」

俺はリゼの事を放っておくわけにはいかなかったので

「悪いんだけどリゼを探して来るから。先に逃げててもらっても良いかな?あと出来ればで良いんだけど、リザさんに謝りたいんだけど。あの人は今どこに居るか知ってるかな?リザさんとはぐれちゃったみたいで」俺の言葉に目の前のお爺さんと、俺の横にいる女の子?は目を見開いて驚いた顔になっていた

『私達の主人がこの方達に危害を加えようとしているなら全力でお止めしなくてはならないですね。』

『お兄ちゃんに近づかせはしない。』

(このお二人は強いです。でも、私達だってご主人様の剣で有ることに違いは無い。負けはしない。このお二人とリゼさんにはご主人様に危害を加える可能性がほんの少しでもあるというのならば容赦はしません)

「へぇ、なかなかに面白そうな嬢ちゃん達だな。お手並み拝見させてもらおうじゃないか。ま、でもその前にその小娘を見つけるのが先決って所だな。おい!お前達も手伝えよ。この辺にはまだ他にも結構隠れてるのが居そうだしな。急がないとあの女に見つかっちまった場合めんどくさい事になるぞ。」

俺達はその後なんとか無事に全員合流して街へ戻ることが出来た。俺はこの街に来てすぐに見つけたお婆さんのお店で話をすることになった。ちなみにリザさんに確認したところやはりあの人は俺を騙そうとしたらしいがあの人の目的は別にあるみたいだったのでリゼが怒っていた理由は結局分からないみたいだった。それからあの人達は冒険者ギルドにも王国にも特に用事が無いみたいで俺達が食事を取っている間にそのまま宿を取って休んで行った。どうやらこれからこの街で数日過ごすみたいで今日はここに泊まるんだとか。そしてあの三人とリゼさんには一応お互い自己紹介して貰ったんだ。

まずはお爺さん、この人がこの街で一番の冒険者の『ザラド=ザラク=トルードス ガドルさん。そしてその隣に座っていた女の人も同じくこの街の最強戦力の一人で『大魔 拳士 ザドラ=ゼクシアさんと言うみたい。この二人は見た目通りの年齢ではなく。数百歳のエルフ族らしく。ザルド=トルードスはエルフの国からやってきたらしい 。なんでも、ザラのお父さんである、ザナルドさんが魔王の呪いを受けてしまったみたいなのだ。だから、それを打ち倒す為の力を探しに来たんだとか、それとザルドさんの身体の不調が治せないかを調べに来たみたい 、それでザドラさんの方は。この世界のどこかに存在すると言われている『迷宮 ラノベ』っていうダンジョンを探して攻略したいんだって、そしてなんとその『ラノベラノベ』って名前の場所をこの世界では勇者と呼ばれる存在だけが知っている可能性があるんだとか。

で、最後に、リゼさん。この子は元々この国の王女でお忍びで遊びに出掛けていた時に。奴隷商に攫われてあの男の商品として売り飛ばされようとしていたみたい。それを偶々その場に出くわしたこの二人が助けてあげたんだけど、その時の恐怖のせいでリゼさんは心を閉ざしてしまったみたい。だけどリゼさんは本当は優しい心を持っている子なので。ザランドさんとザトラさんはリゼさんを元気付ける為に色々な方法で話しかけてくれているみたい。それが功を成してきたようで最近ようやく少しずつ笑うようになってきているみたいだ。リザさん自身は自分はこの二人の役に立てる様な存在ではないと考えているみたい。リゼさんにどうしてそこまで思い詰めているのかと聞くと『私が居たらまた迷惑をかけるから、それに。私みたいな気持ちの悪い子と一緒に居ると皆嫌な思いをするから』と言われた。

俺はそんな事は絶対に無いって言ったけどリゼさんは自分の容姿が他人から見てどう思われてしまうのか理解しているようだった。だから自分が一緒にいて二人に迷惑がかかるぐらいならもう自分のことは忘れて欲しいって言ってきたんだ。リゼさんにこんな事を言わせた奴が俺はとても許せなかった だから俺はこの子にもっと自分を大切にする事を教えてやりたいって思った 俺はもう決めた。あの時あの場所で俺はリゼを守るって誓った。たとえこの身を犠牲にしてでも守り抜くと。

だから、俺はリゼの事を嫌いになる事なんて一生有り得ない。リゼは俺の命の恩人で、何よりも大切な人なんだ。だからこの子を泣かせる奴はこの俺が許さない。この子には笑顔でいて欲しい。俺のこの考えは決して間違ってなんかいない『私も同じだよ、ご主人様』

ケルピィが念話で語りかけてきた。俺がケルピィの顔を見るとケルピィも俺の顔を見ていた

「えっとね、リザさんの事なんだけど、実はリザちゃんって呼ぼうと思ってるんだけどどうかな?ダメかな?」

「リ、ザ。ちゃん?えっ!でも、それは流石に失礼なんじゃ、私みたいなのはやっぱり相応しくないかなって。」

「そんなことないよ、むしろリザちゃんの方が俺にとってはずっと似合ってるよ。だからね、もう自分に優しく出来ないでいるリザちゃんには少しの間だけでいいから、俺に甘えてくれないかな?」

俺は恥ずかしさで赤くなっているリゼちゃんに向かってそう伝えた

「はぅう!そ、そそそそそ、そんなの!だ、だって私には資格なんて無さすぎるもん。わ、わたし。わたしはね。その、き、きっと汚れた、きたない。いやなやつ。なんだよ。わたし。」

「大丈夫。俺が綺麗にしてあげるからね。リザちゃんは凄く良い匂いがする。俺の大好きな女の子の香りだ。俺がこの世界で誰より愛してあげたいと思っている女の子と同じ。俺がリザちゃんに傍に居て欲しかったのはね。俺の為じゃなくてリザちゃんの為なんだ。だから俺の為にじゃなくてリザちゃんの為に俺の傍にいてほしい。これは俺の我ままなんだ。だから、お願いします。」

「わ、私は汚い女。ですよ?私は、私はあの人達と一緒の人種。なのにどうして、どうして。おにーさんが私を助けてくれる理由が分かりません。私は私自身が嫌いなんです。私はお姉様の様に美しくなくて、リゼルのように可愛いげも無くて、私なんていなければ。みんな幸せなのに。私がいるせいで、あの二人は。ご主人様まで私に関わったばっかりに酷い目に合わされる事になってしまうかもしれません。」

リゼは涙を流しながらそう訴えかけてくる。

俺はリゼちゃんを抱き締めてから頭を撫でてあげた

「確かにさっきのお婆さんとの話を聞いてると君がどんな風に育てられて来たのか想像出来ちゃったけど。それでもね君は俺にとってとても魅力的に映ってるよ。俺が君を守ってあげたいって思う程に。俺が君に惹かれているのはそれだけが理由では無いんだけど。でもね。さっきも話していた通り、俺にはまだやるべき事が残っていて、まだ旅を続けないといけないから今はこれ以上話すのはやめておくよ。それにリゼさんはまだ完全に心を開いてくれてはいないから話してもきっと今の状態のままだったら本当の気持ちまでは分かって貰えないだろうからね。俺はまだ未熟で君の全てを受け止められるほどの強さは無いんだ。それにいつか本当に俺に力がついたらリゼさんを全力で守れるだけの自信を持てるようになると思う。でも今はその時じゃ無いんだ。その時が来るのを待てずに今すぐに行動に起こしちゃったら。俺は絶対に後悔してしまう事になるんだ。それじゃあ俺はただ逃げているだけだよね。俺のこの感情は嘘なんかじゃない。でも俺はまだまだ弱い。でも必ず強くなるから。それまで待ってくれるかい?それともしリザさんさえ良ければ、俺はもっと強くなりたい。そして君を守る事が出来る強さを手に入れた時。その時に、俺に答えを教えてくれないか?俺はまだこの気持ちがなんなのかよく分かっていないんだ。もしかしたら俺の勘違いかもしれない。それにもしかすると俺のこの想いは既に終わってしまったものなのかもしれない。だってリザさんは女性だからね。俺の初恋の子とは違う。あの子の事は大好きだしこの世界に来る前から恋焦がれていたし今でもその気持ちは変わらないしその記憶があるのは嬉しいし。俺もあの子みたいになりたいって憧れはあるけれど。この感情とリザさんへの気持ちは同じかって言われると多分違ってる気がする。あの子の記憶が蘇ってもこの子に対して同じ様に想っているとは断言できない。だから俺はもう少しこの子を見極めていきたいと思ってる。だから返事を待ってて欲しいんだ。俺に出来る事は少ないし。俺はリゼさんの悩みを解決できるほどに頼りになるような人間でも無い。それでも俺は君を守り抜きたいと本気で思えたんだ。俺に君を守らせて欲しいんだ。これがどういう意味を持つのか自分でもよく分からなくなってきている。正直言って俺にこんな事を言われても困ってしまうだろう。だけどリザさんは。リザさんならきっと受け止めて受け入れてそして返してくれる。そんな予感めいたものを感じるんだ。そして、もしもリザさんと結ばれて。リザさんに拒絶されてしまったら。その可能性はとても高くなってくる。だから俺はその恐怖を少しでも和らげる為にリザさんには少しだけ時間を貰った方が良いと判断したんだ。」

俺はそこまで言い切ってから。最後にこう告げた

「リザさん。俺はあなたを愛しています。この世で一番愛しています。だからどうかあなたの心の声に耳を傾けてください。どうか、どうか。」

そして俺の腕の中に居るリザさんの顔を正面から見た。

俺はこの瞬間にリゼ=リゼ=ヴァルド=アメリアという少女に惚れてしまった。俺はこの時この子になら何をされても良いと思った。この子にならば殺されたとしても構わない。そう思って見つめ続けた。俺はこの子が欲しい。どうしても手に入れたい。俺をここまでの激情の渦に巻き込んでしまう彼女はやはり魔性の少女なんだと思う。だから俺はこの子に溺れていってしまったんだ。彼女の事が好きで好きで堪らない。

俺のこの感情がどこから来ているのかなんてのはこの俺にもまだ分からない でも、これだけは確かだと言える この俺の胸の内に存在する気持ちは間違いなく本気の物なんだって リゼと俺の関係はそれから変わった。

リゼはあの一件以来、俺の言う事には基本的に従順になってくれた。俺はあの子を守ると決めた日から毎日のように彼女に話しかけ続けていた。最初はあまり口数が多くは無かったけど徐々に喋ってくれるようになった。俺はそれが嬉しくって色んな事を質問した。リゼが答えてくれそうな内容を選んで。時にはあの子に意見を求めたりした事もあった。俺はリゼがどんな反応をするのか見たくてついつい意地悪してしまった事もある。その度に俺と目が合うと恥ずかしそうにするリゼの事を俺は愛しいと思えるようになった。

「ねえリゼちゃんはどうして俺と一緒に来てくれるの?」

ある日。俺は唐突にそんな疑問をぶつけてみた。リゼの口からちゃんとした理由を聞きたくなっちゃったからなんだ。

リゼはしばらく沈黙した後に小さな声で呟いた

「お、れ。リザちゃん、好き、だよ。お兄さん、の。こと。だから、一緒に居たい。です。」

「ありがとうリゼちゃん。嬉しいなぁ。うん。分かったよ。リゼちゃんもちゃんと答えてくれたし俺も答えるね。あの時リザちゃんを助けた時から俺の中での一番はもう決まってたんだよ。だからリゼちゃんが望むのであれば俺はいつでも君を受け入れようって。そう思ったんだ。俺にはやるべき事があってね。俺が生きている間は君に危害を加えようとする奴らを片っ端から排除していくつもりだからさ。もう決めたんだ。だから、だからね。もういい加減に諦めてくれないかな?」

俺はそこでリゼちゃんから離れてから剣を抜いて目の前で振り回しながら笑顔を浮かべて語りかけた。

俺はリゼが泣いていた原因のあの女に用があった。俺はあろうことかその女に俺の大好きな子を殺させようとしたのだ。あの女がリザに近付いた事でリゼの心に深い傷を残す出来事が起きた。そしてそれを切っ掛けにこの世界の『聖獣』が狂いだしてしまっている。この現状を作り出させてはいけないんだ。俺はそう判断している。

俺はこの子を悲しませない為の行動をこれから取っていく必要がある 俺は今度こそ幸せを掴む

「お姉様は悪くありません!お姉様は何も悪いことはしていないの!私が弱いから!私のせいで!お姉様は私を守る為にああなったの!」

「そっか。やっぱりリザちゃんはお姉ちゃん思いの優しい子だね。そうだよな、君が弱いのが悪いわけじゃないんだよな。君はきっと何も間違ってなんかいないよ。ただね、あの時のお姉さんの行動にはきっと意味があるんだよ。きっとね君を助ける為だったんじゃないかなって俺はそう思えてならないんだ。それに君が弱く無いんだとしたら、俺も君の弱さを肯定してあげれないんだよ。君は自分が弱いことを理解した上でもっと強くなれるように頑張るべきなんだ。君はお姉さんに甘えすぎているんだと思う。君はさ、お姉さんを自分の心の拠り所にしようとし過ぎてる。それは依存と言うやつに近い状態だと俺は思うんだ。それは決して良いことでは無い。君にとってお姉さんの存在はきっと君を縛り付ける足かせにしかなっていないはずだから。君はまだお姉さんに守られている状況に居る限り君は成長できないんだと思うんだ。」

俺はそこで一旦言葉を区切るとリゼに優しく笑いかけてあげる。リゼは涙で目を腫らせながら俺の事を見上げて来る。

俺はそんなリザにゆっくりと諭すように話しを続ける

「俺ね、君達姉妹の関係に少し思う所が有ったんだ。だって君はまるでお母さんが大好きなお嬢さんみたいだったからね。リザさんって凄く強い子なんでしょう?俺もリザさんみたいな子は結構好きな部類の子なんだけどさ。あの子の場合はその強さに比例して脆い一面があるからね。だからこそさ。あの子からリゼルを奪って俺が面倒を見るべきかとも悩んだ事があるんだ。俺はさ。リザさんの事が凄く気に入ってるんだ。リザさんなら俺は安心出来ると思うからね。それにリザさんって可愛いから傍に置いといても飽きないし楽しいから。ただそれと同じくらいにあの子と居ると心が落ち着くんだよね。リゼさんと居る時の方がリザさんと居る時よりも何故か心が落ち着いている自分を感じるんだよ。まあだから、俺にとってリザさんは君にとっての大事な人であるリザお母様なんだ。だから俺は君とお友達になりに来た訳じゃない。君と、リザ=リザさんを救いにやって来たんだ。だから君が俺と仲良くなりたいと言ってくれるなら。俺はそれでも構わない。俺は俺の目的を優先させる。だから俺の事はあんまり気にしないでくれ。でも出来ればリザさんには会いに行ってやって欲しい。あ、勿論リザさんには許可を貰わないからね?俺はあの子の保護者じゃなくて君のお兄さんだからね。そこは譲らないからね。それにしてもあの子のあの行動は確かにおかしいよな。あれだけの強さを持っていれば普通の人間は恐れて近付かなくなるもんなのにも関わらずにリゼさんと普通に接していたなんてな。それだけあの子の愛情が深いって証拠なんだろうけど。俺はあの子にリザさんとの時間を返して欲しいと思ってる。君もそう思っているんでしょう?でもね。多分無理だと思う。俺はね。君をこのままにしては絶対にいけない気がするんだ。だから、俺はあの子が君に何を望んでいるのか。それを知りたいんだ。リゼさん。教えてくれないかな。俺は君の力になりたいんだ。」

リゼ=リザ=ヴァルド=アメリアはこの世界で最強の存在である竜種である古代竜の末裔だ。そしてその血を受け継いだ者は必ず例外なく強大な力を有しているとされている。つまりリザがこの世界で唯一リゼと同じ様に異常なまでの強さを誇る生物という事になるのだ。

そしてこの事実を知った俺がリゼの力を利用しない理由は無かった。リゼと協力関係になれれば、少なくともリゼと敵対関係にある勢力と渡り合えるだけの戦力になるだろうと考えていたからだ。だが、この予想は完全に外れてしまう事になった 俺はこの子の為になら何でもしようと思ったんだ この子を助けられるのであれば俺は何でもすると

「お、姉さまは、お父様から、私、を守ってくれたの。あの人は、私の力を、狙っていたの、だから。だから私は。」

この話を聞いて俺は思わずリザの頭を撫でてしまった。

この子は俺の考えていた以上にとんでもない事情を抱えた子なのかもしれない。

「リザちゃん。大丈夫だよ。もう俺が来たからね。君はこれから俺と一緒に暮らすことになるからね。だからさ、これからは自分の気持ちを素直に口に出せるような生き方をしていかないとダメだと思うんだ。君がそうしなきゃいけない理由は分からないけど。君が今抱えている問題を解決する事ができれば君達は本当の意味で姉妹になれると思うからさ。君ももうあの人に縛られなくても済むようになる筈だから。俺もあの人の暴走を止める努力をする。その為にもまず俺は君と手を組む必要があると思っている。俺にもあの人を止めないといけない理由が出来ちゃったからね。俺と一緒に戦ってくれるかい?」

「わ、分かりました!私も一緒に戦います!」

こうしてリザの了承を得た事で俺はあの女を敵と定めて動き出す事にした。俺はあの女の情報を色々と集め始めた。あの女は俺が想像していたよりかなり上の人間である可能性が非常に高いことが分かった。この情報はリゼの口から得た物なんだけどな この国はどうなっているんだろうか?この国では奴隷商人が平然と横行しているしそもそも奴隷は合法なのか非合法な行為として扱われているのかすら良く分からなかったりする。

そして一番の問題として奴隷制度について俺がどう思えばいいのかが分かっていない事だ 俺はこの世界に転移して来た時点で元の俺とは別人格だと言う事は理解しているが、それでもやっぱり前の世界の倫理観が未だに根強く残ってしまっているようで俺には奴隷制度に対する嫌悪感が抜け切っていない部分があった。俺自身はそこまで非人道的な行為を許容したくないと考えているのだがそれが本当に正しいことなのか自信が無いんだ

「う~ん、とりあえず奴隷制度については調べておく必要がありそうだなぁ。奴隷って事は誰かに無理やり売られた子が多いのかも知れないなぁ。そう考えると俺はちょっと許せそうにないかなぁ。でも、この国に来て日が浅い上に身分を証明する為のカードとかまだ作って無い俺が一人で勝手に動くわけにはいかなさそうだよなぁ。取り敢えずギルドで情報収集してから今後の動きを決めるしかないかな。」そんな感じで一人ブツクサ呟きながら街中を歩いていて俺は見覚えのある女の子を見つけて声をかけてみることにした

「やあ!こんにちは!」

(今日はまた可愛らしい服装だね!お人形さんみたいで凄く良いよ!)

「あっ!?あの時のお方ですよぅ!やっと会えましたー!!お会いできなくて寂しかったんですよー!!」

俺のテンションはいつもの3割増しで高くなっていたので少しだけ違和感を感じた

「そう言って貰えて嬉しいな!君は相変わらず元気一杯だね!俺の名前はリクと言うんだよ!君はリザちゃんの妹さんだよね?俺は君のお兄ちゃんだ!」

「はぇ?妹さんってどういうことですか?」「リザちゃんはね。俺が面倒を見る事にしたんだよ!だから君には俺の可愛いお姉ちゃんになって欲しいんだよ!」

俺はそんな意味不明な事を言っているが実はこれ嘘じゃないんだよな 俺の中ではそう言った結論に辿り着いたんだよ だってリゼが俺を庇って死にそうになった時。俺の心が何かに侵食される感覚が有ったんだよ。俺はそれを自分のスキルに干渉されている時の症状に似ていると感じたんだよ。そして、もしあの時。リザが自分の意志を無視してあの男の命令に従っていたらきっとあの子は死んでいたんじゃないかと思った訳よ。その瞬間に何故か俺の中に怒りと言う感情が生まれたんだ。それでさ。冷静になった俺は気付いた訳よ 俺は自分の心の中であの時怒っている自分に気が付いてしまったんだ。つまり、俺は自分の中にあるリゼを守りたいという欲求を理性によって抑え込むことが出来たと言う事になるんだよ。俺はリゼに命の危機が訪れない限りは自分がリゼを害することは無いだろうと考えた訳なんだ。だからこそリザの事も守りたいと思えるんだと思うんだ。それに、俺があそこで怒った事は結果的にリゼを救う結果に繋がった。俺はリゼの命を繋げることに成功したんだ。そして俺は俺自身の身勝手で他人を傷つけるような真似をしてはいけないとも思った。

だから俺はあの子を救おうと思うんだ それにリザをこのまま放っておいたらもしかしたら彼女は死ぬ運命に有った可能性が高くて、そう考えた時に俺は彼女の為に何でもしたいと強く思うようになったから。彼女を幸せに出来るような人間になりたいと思ったんだ。俺があそこで怒った理由の答え合わせみたいなことをした結果がこう言う訳でして 俺は今現在リゼ=リザの姉妹として生きて欲しいと考えてるんだよ 勿論これは俺の身勝手に他ならないんだけど、俺がこの先何があっても二人を守るという意思は変えないと誓えた事が今の俺が二人に対して持つ想いが本物であるという証明になっていると確信できた。俺にはそれだけの決意をさせられる出来事が起きたから。俺はこれからもこの世界で生きて行くつもりだけど。俺の中にはこの世界の常識とは違う部分が有るようだからね。

それに、俺はあの男が気に食わない あの男のやったことは俺からしたら許されない事だと思うんだよね。俺も一応前世ではそれなりに歳を重ねていたんだからさ。あの男の様な下種を見ればすぐにそれとなく分かるようにはなる。あいつはリゼを利用して俺を殺そうとしてきたんだろうけど俺はリゼが俺の事を信じてくれてるからこそあいつの誘いに乗って殺された振りをしたけど、本当だったらあいつを殺さないといけなくなる可能性があったんだからな だから、もしもリゼの身に危険が迫っていたのなら俺は絶対に容赦せずにあのクソ野郎を殺しに行くつもりだったんだよね。リゼの事は本気で愛しているから そして、リゼを危険な目に遭わせた原因は俺がリゼのお姉ちゃんになれていないという部分にも有っただろう。だからこれからはもっと俺の事を頼ってくれていいからな 俺も君に頼ってもらえる様な存在になりたいんだ。

君に必要とされ続けたい。君の役に立ちたいんだ。君に尽くし続けたいんんだ。

俺がリゼの為になりたかったからリゼを助けた様に。

俺は君を助け続けると決めたんだ

「おねえさん??それは私の名前じゃ無いと思いますよぅ??」「うん!君は今日からリゼだよ!だからリゼちゃんって呼ぶことにするね!」

「えっとぉ。じゃ、じゃあそろそろ私の名前を返して欲しいですぅ!もう私の名前は忘れてください!お願いしますぅ!」「やだ。リゼの方が呼びやすいもん。」「なっ、なんでぇ!?私の名前がリザだからなの??う~、私はその名前嫌いなのにぃ。」

俺はリザの頭をナデなでしていた 俺はもう完全にこの子達を助ける事を決意したからな この子達を不幸にする奴を俺は許すことは出来ないからな 俺の全力をもってリザちゃんを俺好みに育てる事にするんだ だからまずはこの子の姉になるんだ!

「リザちゃん。これからも俺が君を助けていくからね!一緒に頑張って行こうね!」

「お、おにいちゃんが変な事を言い出して困ってますぅー。お姉ちゃんを助けてくれるのは嬉しいのですが私はリザでは無くリザちゃんですよー。あと私はもうすぐ大人なんですからね!ちゃんとお姉ちゃんとして振舞わせてもらいますからね!お覚悟していてくださいませー!」

(ふむ。どうやらまだリゼちゃんには余裕がありそうだな。もう少し頑張る必要があるな。でも、もう手遅れかもなぁ)

俺達はその後。街を見て回るついでとして色々な所へ遊びに行ったり食事をしたりしながら楽しく時間を過ごした。俺にとってはかなり充実した時間だったな。リゼにとっても楽しめたかどうかは知らないけど俺的には満足の行く時間を過ごせたと思っている。リザも俺とのデートを楽しんでくれたようで、俺はとても嬉しかったな そして今日はここで解散して明日から本格的に調査を行うことにした。リザを家まで送り届けた俺は直ぐにギルドに向かう事にした。俺はこのギルドに居る受付嬢の女性が気になっていたので彼女を探しながら歩く事にした 暫く歩いていると、ようやくその人物を見つけることが出来たので俺は早速話しかけてみることにした

「よう。あんたにちょっと聞きたいことが有ったんだけどさっきのはどうゆう事だ?俺には理解出来ないんだけどさ。俺に嘘の情報を教えたってことだろ?俺が何も分からないと思って嘘の情報を渡したって事か?それってどうなのかねぇ?まあどうせあんたが本当の事を言っていたとしてもどうせ俺はあんたらの言葉は信じないしどっちにしろ俺には関係の無いことだけどね。だからそんな事はどうでもいい。俺はただ、お前達がどういう考えを持ってそんなふざけた事をして来たのかを聞こうと思っただけだよ。だってそうじゃない?そんなの可笑しいでしょ?」

俺は少し威圧を込めて話していたので周りの人達は怯えている様だったが、目の前の女だけは少し様子が違った。この女にはどこか自信が有りそうに見えるな

「なるほど。確かにあなたは何かを隠しているという様子では無かったですね。」

そう言った彼女は少し驚いた様子を見せると同時にとても悲しそうな表情をしていた そして俺は、何故こんな顔でこちらを見てくるんだろうと不思議に思っていたのだが、彼女の言葉を聞いた瞬間。彼女が一体何を考えているのかという疑問の答えはあっさりと俺の中に湧き上がった。

彼女は、リゼと俺を騙して奴隷商人に引き渡そうとしていたこと。

そして恐らく。彼女は最初から奴隷に堕ちる運命にある女の子を救う為に動いていたのだろう 俺は少し考える素振りをして見せると

「俺は君達の言葉を信じる気は無いんだよ。俺には全く関係のない話だったし。君は本当に俺を騙していたのか?君は初めから奴隷商の男に従って俺を奴隷にする為の行動を取っていた訳?」

俺がその言葉を口にすると。やはり目の前の女性は悲しげな表情を浮かべたまま固まってしまった そして少しだけ間を置くと、まるで俺を責めるような視線をぶつけてきながら口を開いた

「そうですよ。あなたの言っている事は間違ってはいませんよ。私の言う事が信じられないという事でしたら、あの子にもう一度聞いてみましょう。そして彼女に直接聞いた後に判断して貰っても結構です。あの子は私より賢いみたいですからね。私が言ったことは嘘だと気付いている筈ですから。それでどうしますか?」

その問いかけを受けた俺は当然

「い、いや、あの子はもう寝ちゃっただろうから無理かなぁ?明日また会えた時に確認させてもらうことにするよ。俺としては今日会ったばかりの女の人の話を鵜呑みにする事なんてしないしさ。俺はこれから宿に帰るから君も帰ってゆっくり休むといいよ。君の仕事がどんな物かを俺は詳しくは知らないけど。それでもきっと大変な仕事だと思うからね。それに。君はきっとリゼの事が大好きなんでしょう?俺にあんな態度を取ってくるんだからきっと間違いないでしょうからさ。リゼの側に居てあげて欲しいな。あの子もきっと喜ぶと思うから。」

そう言い残すと俺は逃げるようにその場を離れた。俺は、自分がとった行動を振り返ってみて、今更のように恐怖を感じ始めていたのだ。

俺のせいで人が死ぬかもしれないと考えたからだ あの男はリゼを使って俺を殺そうとしていた訳だし、それはつまりあの男にとってリゼは利用価値の有る道具に過ぎないと言うことで。だからリゼを殺さないという選択肢はないのだろう。だからリゼにはあの男が本気を出せばいつでも殺されるような立場にあって、俺が近くに居ればそれだけであの子が安全になるという事も有るんだけど。俺は俺の為にリゼを利用している節もあるんだよ。リゼには申し訳ないとも思っている。だけど俺は、あの子を助けると決めたから。俺はリゼのお姉ちゃんになってあげるんだから 俺はあの男を絶対に殺すつもりでいる。そして。俺はあの男の居場所を知らない。だが、俺はあの男を見つけられる様な気がするんだ。だからその為にも早くこの街から移動したいんだ

「はあ、はあ、、、はあっ!クソがっ!なんなんだあのクソガキゃあ。あんなにイラついたことは生まれて初めてかもしれねえ。それにあの野郎。あの歳であれだけの力を身に付けてるなんざ、異常すぎるぞ。あり得ねえ。俺でもあそこまで強くなるのに数年は必要だぜ?何なんだよ、あいつは。俺と同じ『異世界』から来たとしか考えられねえな。でもあいつの見た目からしてもそれはあり得ないはずだ。そもそもあいつの歳を考えると俺はこの世界に来たばっかりの頃でやっと12歳程度だったからな。あいつの外見と年齢は明らかに合ってねえんだ。それに。俺の知っている情報の中であいつと同じような存在は一人たりとも存在していなかったんだ。俺もまだまだ未熟な部分が有ったってことか まあ良い。あいつは危険過ぎる あいつの事はとりあえず忘れるとしよう。それより今はあのガキを殺す方法を考えねぇとな 俺はあのクソ生意気なおチビが気に食わなくて殺したくて堪らねえ。あいつの実力は未知数だから油断はできねえが、殺せる可能性があるとすれば魔法による遠隔攻撃か、毒や麻痺などで行動の自由を奪ってから近接攻撃を仕掛けるか、それかあのガキ自身が言っていた様に洗脳するかって感じだろうな。

俺はあの野郎をどうやって苦しめて殺すかに思いを馳せながら、これからやるべき事を頭に浮かべていくのであった。

リゼと一緒にご飯を食べる約束をした日の翌日。俺は一人で街の散策をしようと考えていた。というのもリゼとは昨日デートをしているので今日はその約束を破ってしまうことになるわけだから。流石にリゼには言えないだろうし、もし言ってしまえば俺はこの場で殺されてしまう可能性だってある。だから今日は街を散策してから適当なタイミングで家に帰りリゼとご飯を食べてから次の作戦に移行するつもりだ

(ふむ。しかしどうするかな。特に当てもなくぶらついているだけってのはあんまり好きじゃ無いんだけどね。かと言って何か目的が無いとやっぱり不安でしかないよね。この世界に来ている以上。必ず誰かの恨みを買ってる訳だからさ。いつ何処で誰に襲われるかも分からない状況だもんなぁ。)

(そうだ!せっかく街に出たんだし何か買おう。確かお金はまだ残っているからな。まあ大金を持ってる訳じゃ無いんだけどね。でも小銭ぐらいは持っておきたい。)

(まずは何が必要かなぁ。まず食料は欲しい。でもそれは後でも良いかもな。武器とか防具も後回しでいいかもな。)

(んー、後は衣服系も欲しい所だけど、それは今すぐじゃないで良いか。それなら。取り敢えずは必要な物が無ければ何も買う事は無いかな。そもそも俺は何でこの世界の服を買う事に拘っているんだろう?別に地球の服を着てても困らないしなぁ。まあ。地球に帰れるかどうかは置いといての話なんだけどさ。それよりも問題なのは。この先もずっと俺はこのままの状態を維持しなければならないということだ。俺の精神が擦り切れるまではな。それを考えるだけでも気分が悪くなる。本当にどうにかしないとだよな それとは別に気になっている事があって。この前俺を騙してた女。リザと一緒の時にいた奴の事なんだけど。あの人は一体どうしてリゼのことを気に入っていたんだ?リゼのことを大切にしている様子ではあったけど。それとは全く関係ないところで何か気になっていたみたいだし。まあいいか。

結局何も決まらなかったからな。そろそろ帰るとしますか そう思った時だった。一人の男から突然声を掛けられた。それもその相手はつい最近会ったばかりの男だった。そう。例の冒険者ギルドの受付嬢の男だった

「よお、お前さんじゃないかよ。なにやってんだ?こんな場所で。しかもそんな格好でよ」

その男からは以前感じた嫌な気配を感じた俺は咄嵯に距離を取ろうとしたのだが

「おいおい。いきなり逃げようとするんじゃねえよ。ちょっと話があるだけなんだからよ」

「は、はぁ?俺に話すことなどないんですが?用事があるので俺は失礼しますね。どうせまたあなたは俺に喧嘩を売りにきたんでしょうけど、あなたと関わるとロクなことにならないんですよ。分かります?」

俺がそう言うと

「はっ、そりゃ俺も同じ気持ちだよ。俺もてめえと関わった所でどうなるんだ?て思ってるぜ?だけどてめえは俺の予想通りに動かなかっただろう?だからこうして話し掛けているんだぜ?なあ、お前俺に何か隠していることがあるんだろう?」

「い、いやいや。別に何も無いですよ?俺には貴方と争う理由なんてない訳ですからね」

「ふん、確かにお前と俺の間にはなんの問題もねえな。だけど。お前の後ろには違うだろうよ。なあお前が持っているあの魔道具。それはこの世界でたった一個しか確認されていない代物らしいじゃねえか。

なあおい、お前のあの魔道具を使えばあの『勇者』の力を奪い取ることも可能なんじゃねえのかよ?」

俺はこの時こいつがリゼが『神人』だということを知っているのではないかと考えていた。何故こいつのような者がリゼの本当の力を知っていたのか不思議だったが。

リゼを殺せば俺はリゼを操った事になる。俺を陥れようとしている可能性が高いと思った

「さぁ?俺にはそんな力はないですね。俺は普通の平民でしかなかったですから。ただ。リゼを救おうとしただけです。俺は彼女を絶対に助ける為に動いていますから」

「ほう?それが本当だとすると、やはりあの女はお前を騙していやがったようだな。お前が『異能』を持っていることを知っていてもおかしくはなさそうだ。それでどうするんだ?俺達の仲間になる気はないか?勿論それなりの待遇は約束するぜ?お前も自分の力がどれほどのものなのか気になっているんだろう? 俺はこれでも昔冒険者をやっていてな。それなりに実力には自信のある方なんだ。俺についてくればてめえの望み通りの力を与えてやることも出来る。あの『神獣』ですら手に入れることが可能かもしれないぞ?それに。俺と行動をともにすればリゼってあのクソ生意気な小娘だって手に入れられるかもしれないんだぜ?悪くない話だと思うんだがな。

俺と一緒に来れば今すぐにでもリゼと仲良く暮らすことが出来るようになるだろうしな 」

男は下卑た笑みを浮かべて俺の返事を期待しているような目をしていた。しかし男は勘違いをしているようだ。リゼと仲が良くないのであればそもそもこの世界には居ないだろうし。

リゼと俺は既に姉弟のように暮らしているんだから。

「残念だけど。リゼと俺はもうそういう関係にはなってるんだよ。俺はリゼを愛してるし。リゼもまた俺を愛してくれているはずだから。俺は彼女の傍を離れることはしないと思う。

リゼには家族と呼べる人も友達も居ないんだ。だからこそ。彼女は俺に依存している部分も有る。

だけど。だからって俺達はお互いに依存しあって生きていくってのは違う気がするんだよ。だから俺とリゼはお互いに対等な存在として一緒にいたいと思っているんだ 俺はこの世界で彼女に出会えたことに感謝してる。俺にとっての全てだったからな。でもな。リゼはどう思っているか分からないんだ。彼女には大切な弟がいるから。その人のことがとても大切に想ってるんだ その人を裏切ってまでリゼは俺と一緒に居ることを選ぼうとはしなはずだ 俺とお前がどんな話をしていたとしてもそれは変わることのない事実なのさ 俺はお前なんかよりも。リザを幸せにしてやりたい。あいつは今きっと不安を感じているはずなんだ。だから俺はリザの元に帰らないといけない。俺達の絆を馬鹿にするのはいくらあんたでもそれこそ許さない。それにあんたと行動していたところでリゼを手に入れられるってのはありえない話だからな あんたの話を俺は信用できないから。だから俺はあんたの仲間になることを断る」

「はぁ、お前は相変わらず頭が悪ぃな。まあ最初から分かってはいたがな。それなら俺はこれからやることは決まったな」

(ふぅ、やっと行ってくれたか。それにしてもあの男がどうしてあんな事を言っていたんだ?まあ別に気にする必要は無いんだけどさ)

俺の前からようやく立ち去った男。しかしその男は少し行った先で振り返り、再びこちらへ近づいてきた。そしてそのまま俺の元へとやって来たのだ

(うわっ!マジかよ!しつこいな!もしかして俺に執着してくるタイプか!?うーん。こういうタイプの人間は苦手だな。何を考えているか分からないし。でも流石に逃げ切れるかどうか怪しいな。

あの速さを見る限り、あの人は相当に足に自信があるのだろう。それに比べてこっちはまだ子供で、体が出来上がってるとは言えないからな)

「よう。やっと見つけたぜ?さっきは逃がしちまったからな。もう一度会いに来たわけだ。だがまあ丁度良かったかもしれねぇな なぁ、お前。俺のパーティに入れよ。さあな。そうすりゃ悪いようにはしねえさ。良い生活だってさせてやる。それに俺はお前みたいな才能を持って生まれてきた人間が好きなんだ。分かるか?俺に付き従う事がどれだけお前のためになるかが」

(やっぱりそういうことかよ。というか才能に目覚めてる人間なんて滅多にいないからな。普通ならこの男もそこまで強い力は持っていないんだろうけど、この男の強さはそれだけじゃないからな)

「俺は俺のために生きる。あんたが何を企んでいるのかは知らないけど。それはお断りするよ。

俺のことを気に入ったと言うのなら。俺はここで失礼させてもらうよ。

それと、俺から最後に言っておきたいことがあるんだけど。俺のことを調べようとするのもあまりお勧めは出来ないぞ?俺のことを嗅ぎ回るような奴らは大抵酷い目に合うからな それじゃ。さようなら。出来れば二度と俺の前に顔を見せる事の無いようにして貰えると助かる」

俺が立ち去ろうとするとその男は突然笑い始めた。そして次の瞬間

「あー、あはは。あはははははは、お前本当に面白いな?その歳で俺に喧嘩売ろうなんてやつは中々いないぜ?いやぁ、これは本当に予想外だよ。お前はただの子供だと侮ってたんだが。まさかここまで強情なガキだとは思ってなかったぜ。でも、そいつは逆に興味をそそられたぜ。お前のことを徹底的に調べ上げてやるよ。そして。お前が俺の物になった時は精一杯かわいがってやるよ。覚悟しておけよ?」

(あちゃあ。また変なのに目を付けられてしまったな。それに。完全に逆恨みされてしまった。というか。なんでこんなにも俺は嫌われてしまっているんだ?全くもって理解ができない。この男のどこが俺に負けているのか教えて欲しいぐらいなんだけど。見た目?でも俺は別に美形なわけでもないんだよな。性格?そんなの分からない。一体なんでなんだろうか?)

「おや、どうしたんです?そんな顔をしかめて?まるで誰かを呪い殺そうと決意している時のような顔ですね。あなたがそこまで怒るというのは珍しいですが。

もしかしてあなたと因縁の深い方がいらっしゃったんですかね? あなたをそこまで怒らせるような人物です。是非とも僕もその方に会ってみたいものです。あなたを怒らせた理由も気になりますしね。どうですか?もしその方をご存知であるのならば、是非とも紹介して欲しいところですが」

(いや、俺としてはできればこいつには紹介したくはないんだが。俺にとってはこいつよりあの女の人が怖いんだから。

いやでも。もしかしたらこいつだったら俺の本当の強さに気づいているんじゃないか?それにこいつもそれなりに頭が良いんだろうし、この世界ではかなりの実力者なんだろうから、そういう能力には敏感な気がするんだよな。

俺の力について話したらこの世界の脅威になる可能性を考えてくれたりするかな? この世界の『勇者』って俺と同じようなスキルが使えたりするのかどうかは分からないけど、それでもかなりの力を秘めているのは間違いないだろうから。もしも『勇者』を敵に回す事になった時に少しでも味方が欲しいんだよな。『勇者』と正面からやり合えるのはこの世界で恐らくこの人くらいだろうし)

「そうだな。まあ。確かにお前ならこの人と会う機会はあるかもしれないな。

一応名前は言っておくことにする。俺に負けたあの人の名前だけど。彼女はこの世界でたった一人しかいない『異能者』だからな。俺の知る限りではその『異能』は『絶対支配』だ 俺はあの人に一度も勝てたことが無かったから、今でもあの人のことが忘れられないんだ それでその人は今『神』として君臨することになった。『魔王』と『魔帝』を倒しているし。俺達には倒せない存在なんだよ だからお前があの女を敵視するような事はしないと思うが、一応お前に忠告しておく。俺と敵対するようなことだけは避けた方が良いぞ それにあいつもかなり頭が切れるから、油断していたらいつの間にか背後に回られているかもしれないから気をつけておいた方がいい。あの女が俺と敵対する気は今のところはないようだが。いつそれが覆されるか分からない あいつは自分の利益にならないことは絶対にしようとはしないしな。

それにお前はあいつがこの世界に及ぼす影響力を知らないだろうからな」

俺がそういうと男は顎に手を当てて考え込んでいた

「ふむ。成る程なるほど。分かりましたよ。つまりあなたの言う女性はとんでもない方なんでしょう。そしてその女性はとても頭が回ると、 それにしてもあなたがこれほどまで警戒する方。

とても素晴らしい情報を手に入れられましたよ。感謝します 僕はまだ未熟な子供なので。これからこの世界を良くしていくためにも色々と知っていかなければならないんですよ だからこれからもこの世界のことについては僕にいろいろと聞かせてくださいね」

(いやぁ、この男がこんなことを言い出すとは正直思っていなかったな。てっきり適当にあしらわれて終わってしまうかと思っていたが。どうやら少しは俺の言葉を信じてくれるようになったみたいだな)

俺はその後、あの女から連絡があった後すぐにその場から離れて、そのあとは普通に街に戻って、そのまま家に帰って眠りにつくことにした しかし俺は家に帰った直後に家のチャイムが鳴り響き目が覚めることになる。俺の住んでいるアパートは一階の一番端っこに有るため、俺は玄関まで歩いていきドアの覗き穴から見てみると、そこには昨日見た金髪の女が立っているのが見える。そのことから俺はすぐにドアを開けることはせずしばらく様子見をしてみることにした。

(まあ。このまま居留守をしていてもいつかは帰るだろう。しかしどうして俺はあんな女と関わりを持たなければ行けないのだろうか?俺は別に何か迷惑なことをしたわけでも無いし、むしろ助けた立場にあるというのに。どうして俺はああやって付きまとわれているのだろうか? 俺って本当に何もしていないのになぁ。というか、あの男と出会ってからはもう最悪だ。本当に厄病神のようだった)

「すいません。ちょっと開けてくれますか?私ですよ。あの、お忘れですか?ほら私です。

あなたに助けられてこの街に住むことになりました 私の命の恩人である。リゼっていう子の父親でもあるんですよ?」

「あ、ああ、なんだリザちゃんか。ごめんね?寝ぼけてる所だったもんで気付かなかったよ でも俺になんか用なのかな?特に思い当たる節がないんだけど」

「あら?おかしいですね?今日は何の約束もなくて、いきなり押しかけてきたのにその反応はどういう事なんでしょうか?それとも私が勝手に来たから悪いと思っているんですか?」

(うん、やっぱりこいつ性格悪すぎるわ。俺は悪くないとでもいうかのような態度だし。でもこいつのこういうところが嫌いな訳じゃ無いんだよなぁ。多分これが素の性格じゃないってのは分かるし、俺もこいつが無理してそう振る舞っている姿は見るに耐えれないんだよね でも俺だってまだ子供の年齢なのにそんなにしっかりしてるわけでもないし、それに俺よりもこいつは年下だ。だったら多少の我ままぐらいは聞いてやるよ。

そもそも俺がこうなったのだってこいつに原因が有るようにも感じるんだ。だって俺に最初に話しかけて来た時は普通にもっと優しかったはずだろ?それが何時しか今のようになってしまったからな)

「分かったよ。取り敢えず俺の部屋の中に入りなよ。こんな所で立ち話ってのもあれだからな あ、でもその前に着替えとかしたいから、ちょっと待って貰っても良いか?」

「別に構いませんよ。でもあなたも年頃の女の子の前で着替たりするのは流石に恥ずかしいと思いますので、私はリビングの方で待たせて頂きます」

「ああ、じゃあその前にちょっとシャワーだけ使わせてもらうな? じゃあちょっと失礼するよ」

俺が浴室に向かおうとすると ガシィッ ギュゥウウッ

「んなっ!?」

バサァア 突然俺は腕を掴まれてしまった。しかも俺が逃げられないように力強くだ そして次の瞬間俺の背中には柔らかな感触を感じてしまう。

(なっ、な、なななななんで俺の服を脱がしているんだ!?こいつ俺を襲おうとしているのか?俺を性的な目で見ていたってことなのか?)

「ふぅ。やっと捕まえたわ ねえ、なんなのこの汚らしい体? せっかく洗ってあげたのになんでまた汚しているの?どうしてなの?」

ブツブチィ

(な、何を言ってやがるこいつ? 俺が何度洗っても取れないんだよそれは!というか、俺がどれだけ汚れているんだって言いたいぐらいに体を弄り回しやがって!俺の体はそこまで酷くは無いんだよ!ただこの前戦った時に泥だらけになっただけで、別に風呂に入ってないわけじゃないからな)

俺が心の中で怒りまくっていた時。そのタイミングで急に俺の腕に力が抜けてしまって思わず振り払ってしまった するとリゼちゃんはその反動を使って一瞬にして後ろに移動していた 俺はその時はまさかそこまでのことが出来るだなんて思ってもいなかったから驚いたけど

「ふーん、やっぱりそういう反応をしてくるんですね そんなことをされても仕方ありません。これはもう。覚悟してもらうしかないみたいですね」

俺がそんな事を考えている間もずっとリゼちゃんが喋っていて 俺はそれをほとんど理解していなかったが、しかしなぜか自分の体がどんどん熱くなっているのを感じていた そのあと俺は無理やりに部屋まで引きずられていって 俺は今、何故か目の前にいるリゼと言う少女に押し倒されていた。そしてこのあと一体どんな展開が待ち受けているかなど俺は想像することさえも出来ないでいた ドタドタバタバタ ドンガラガッシャン 俺が抵抗しようにも俺には戦う手段が無くて、俺は今されるがままにされてしまっている。俺が必死に逃げようとする度にこいつは更に力を込めて俺を押さえつけてくる 俺の力はかなり強いと思う。だけどこの子はそれ以上の力を持っていて全く歯が立たない。というかそれ以前にこいつの力は強すぎて対抗できるはずが無い。それに俺は『身体強化』を使えばかなりの力を手に入れることができるのだが、俺のスキルは他人に知られる訳にはいかないため、ここで使ってしまえば、この子にスキルを使っていることがバレてしまい俺の本当のスキルまで見抜かれかねない。そうなれば俺の人生は終了してしまうだろう。それだけはこの子には知られたく無い それにこの子が今俺に使っているこの『スキル』は俺にとって未知のスキルであるために、この子のスキルについて知っていない限り俺にはどうする事も出来ない

「はあ、はあ、はあ、いい加減諦めてください。あなたが私をどう足掻いても私から逃れることは出来ません。大人しく受け入れてください あなたの気持ちは分からなくも有りませんが、しかし私もあなたを助けた以上はあなたの事を好きにさせて貰う義務が有るんですよ。私に全てを委ねてください」

(俺は別に何も好きであんたを好きになるつもりは毛頭ないんだが、俺を助けてもらったことに関してはとても感謝しているが、でもその感謝が愛に変わるかどうかは話が別だぞ)

そうやって俺はこの女のペースに完全に飲み込まれてしまっていたが 俺も黙ってこの女がしたいことを受け入れるのも腹立たしいから、なんとかこの女を撃退しようと俺は頑張ってみたんだけど やっぱりこの女の子はとんでも無く強くて、俺はなす術無く負け続けた それから俺はしばらくの間は彼女に押さえつけられてしまってまともに動けることが出来なかった そして俺の意識もだんだんとぼんやりとしてきて遂に俺はそのまま眠ってしまった

「はあ、本当に馬鹿な子 こんなの私の本性を知ったらどうなるかも分からないで私を受け入れて。そんなことをされたらもう絶対に手放せなくなってしまうでしょうに 私はもう二度とあんな思いをするのは嫌ですから」ボソ

「おい、いつまでそこに隠れてやがる 早く出て来やがれ」ギロッ

「あら、あなたが気が付いていたとは思わなかったんですけど やっぱりあの人の言っていた事は嘘だったんですか?」

「いや、俺だって本当はもう少しお前が来るまでに時間を稼ぎたかったんだぜ? でもあいつと会う約束の時間が迫ってるもんで、さっさと済ませたかったからな。それに今は急いでいたんだ。お前の魔法がどこまで出来るのかは大体の予想は付いているが、それでも警戒を解かないほうがいいだろ? だから一応警戒しておいただけだ。別にお前に俺をどうにかすることは出来なさそうだから安心しろよ。それに別に俺はお前を殺しはしない。というか殺す必要もないんだよ だって、別にお前と争う意味が俺には無ければ、お前と敵対関係になりたい訳でもないんだから だったら俺の目的はたった一つ。

俺の大切なものを守れさえすればそれで十分なんだからな。つまり、もう邪魔をするならお前であろうと排除するだけなんだからな そこだけは忘れないようにしとけよ? 俺はまだ子供だが、でももう大人になろうとしいる最中なんだからな もうお前達から見れば子供扱いされる事の方が少ない年齢なんだよ だからもう俺は我慢するのをやめる事にしたんだ お前達は知らないだろうが、もうすでに世界はこの国の中だけでは収まらなくなっているんだ。もうそろそろあの化け物が目を覚ます頃だろうし、そうならない内に色々と対策をしなきゃいけないって言うのに お前達があのクソ勇者にちょっかいを出してこっちの計画が台無しになったせいで、今までずっとあの勇者が封印されている間に色々準備をしていたってのに、それも無駄になりかけてんだよ。だからこれ以上面倒なことが起きる前にあのゴミを始末したってのに それを今度は俺があの勇者を倒せるような存在だと分かっていて殺しに来るなんてな。ふざけんじゃねぇぞ。

確かに俺には戦う力はないかもしれねえよ。

それは事実だ。だけどな?この国に居続けるって事だけでも大変なんだ。それなのに、俺に危害を加えようとしてくるとか何考えてやがるんだよ。そんな奴を生かしておけるほど今のこの国での立場は高くは無いって事ぐらい分かるよな?そんなことをされてもまだ余裕ぶっていられる程俺には自信がないんだよ。だから俺を殺そうとしてくる奴らは皆俺の敵だ。例え相手がどれだけ格上であってもな だから俺はもう決めたんだ。もし仮にお前のその行動で何かしらの支障が出た場合には 容赦無く殺させてもらうってことを」

「そう、じゃああなたがそこまで覚悟しているっていうのであれば私もそれに応えるだけですよ あなたを殺してでも、あなたをこちらに引き込んで見せます」

「はぁ、全く話を聞いていないよ 別に俺はこの国を捨てるつもりなんて無いって言ってんのが聞こえなかったのか?それと俺には別に覚悟とかそんな物は要らない もう既に覚悟は出来ているし、俺は自分の守りたいものは全部守る その為には俺の周りの人間には被害は出ないようにする これが俺のやり方だ 俺の邪魔をするものは全て蹴散らす たとえそれがどんな相手であろうが、だ そして俺はもう決めた これからはこの世界の平和を守ることを この国はいずれ滅ぶ。それは俺にも簡単に予想が付くことでもある。そしてその日は必ず訪れる その時のために俺は今ここで死ぬわけにはいかない。だから俺は戦う。そして必ず勝つ。

そしてその時にはお前も道連れにしてやる。そしてこの国の全ての人間もこの国から居なくなることになる。それは仕方の無いことだ。しかし俺の大切なものに手を出すならば 俺は許さない 俺の命をかけても俺は絶対に許さない この国の人間は誰も許さない この国に居るやつらも全員皆殺しにしてでも俺はこいつを殺す だからその時が来るまで俺はこの女とは一切争わないことにする それにしても どうして俺はこんな事をしているんだろうな 全くもって謎過ぎる それにどうしてこんなに胸騒ぎがしているのに俺はこんなところに来てまでこいつと話しているんだか全くもって理解が出来ない まあいい 取り敢えずこの部屋に来た理由も終わったし 俺ももう行かせて貰うとするかな。これ以上ここにいたらこいつの思う壺だろうからな じゃあ俺は行くぜ。せいぜい自分の身の振り方について考えておくんだな

「ちょっと待ちなさいよ! 一体どこに行こうとしているのですか!? まさかこのまま逃げるなんて言わないわよね? 今逃げてもどうせいつか見つかるんですよ。

今のうちにこの国での生活に慣れることの方が賢い判断だと思いますけど でも私を裏切るって事はあなたも同罪になるってことを理解してくださいね。それに今あなたを逃がしてしまったとしても私はこの事を他の方に報告するつもりなので どちらにせよ私はあなたのことを諦めるつもりはありません あなたにどんな力があったとしても 私が必ずあなたのことを私の手元に置いておきます。そうしてあなたの事を愛でてあげるんです。あなたは私に逆らうことはできません。なぜならば、私に従うしかあなたには選択が無いから。だから安心して、あなたのことは大切に扱ってあげますから」

(何を勝手な妄想を膨らませているんだよ。誰が俺のことを好きにするって?)

「ふーん、やっぱりお前には何も伝わっていなかったんだな。やっぱり言葉が足りないみたいだし、俺の思い違いでもあったらしいな。俺は別にお前に何も望んでなんかいなかったし 俺には別に特別な感情を抱いている人なんて居ないし、そしてそんな人が出来たのだってお前の勘違いだよ。俺がお前に対して何も思って無いのと同じように、俺はお前に対しても何も期待していないし、俺はそもそも俺のそばから離れていくようなやつにわざわざ興味を持つことも無い だから俺のそばから消えてくれ。もう二度と現れるんじゃねえぞ お前が何を言おうとも、もう俺にはお前は用無しなんだからさ」ギロッ

「え、あ、いや、あ あ 」プルプル

「おいおい、そんなにビクビクするなって、俺は怒ってないんだからさ。お前は俺に迷惑をかけたんだから 少しばかり仕返しをしてやりたいとは思っているけどな まぁそれはお前に限った話じゃないんだけどな。だってこの国がここまで堕ちていったんは、結局の所俺の父親が引き起こした戦争が引き金になっているし それにお前達は知らないかもしれないが、この国にはもうとっくのとうにお前の味方なんて一人も残ってなんかいない。みんなお前を切り捨てようとしているのが目に見えているんだよ。もうこの国は完全に崩壊してるんだ。

そしてお前達のようなやつがまた新しく生まれる可能性もかなり低くなってきている。つまりもうお前が生き残る方法はお前自身の手でどうにかするしかないって訳だ。

お前にはどうすることもできないと思うけどな。だってこの国にはもはやお前を庇ってくれるようなやつはもうほとんど居ないだろうからな。

まあ俺には関係ないことか。じゃあな もう俺の前に顔を見せてくれるなよ」スッ スタスタ バタン

「あ、あ、あああ そんな、そんな、嫌、嫌よ 嫌なの なんでそんなことを言うの? 私はただ、あの人の傍に居たかっただけで なのに、それなのに 私はあの人を幸せにするために尽くしただけなのに、なのにどうしてなの? 私はこんなことをしたいと思って無かったはず。なのにどうして? 私はあなたに認められたくて頑張ってきたのに どうして私はこんなことになっているの? 分からない、分からないのよ。私にとって、あの人に尽くす事は、当たり前だったのに。あの人は私を特別扱いしてくれていたのに、私は、私には何がいけなかったのか、分からなくなっちゃってるの。あの人に必要とされなくなってからずっとずっとずぅーっと 私の心はずっとぽっかりと空いたままだったの もうこれ以上は、無理よ だってもうこれ以上の心の支えを見つけられないから。

お願いします 神様、もしも本当に居るというのなら 私を助けてください どうかお願いします もうこれ以上の苦しみはもう味わいたくないのです。

だから お願いです 助けて、ください

「ねぇねぇ、お兄ちゃん これから一緒にご飯を食べにいかない? 私、まだお腹が減っていてね。それで良かったら、お兄ちゃんも食べようよ。それにもうお城の中って結構暇になちゃうからね。だから、今日はお城の中を散策しに行かない?」グイグイ

「え? 俺はまだ食事には困っていないし 今はそれよりも大事なことがあるんだ。だからごめんな、またいつか誘ってくれると嬉しい。俺が君くらいの年齢の頃はいつも母さんと一緒に過ごしていたけど。だから、そういう時間はとても懐かしい気持ちになる。だから、またいつか機会があればお邪魔させてもらうよ それじゃあ、バイバイ。気をつけて帰ってくれよ」

(本当はお城の中を見て回るって言っても特にこれといった目的は無いんだけどねお父様が最近よく外に出るようになったのはこの子が居るからだよね。きっと。それにあの子とも随分仲が良くなったって聞いたし。だからそろそろお城から出ていく時が来るんじゃないかな?そうすれば私も自由に動けるから)

「ははは、そんなに必死で俺の手を引っ張っても俺は付いていかないよ 俺にはそんなに急いで何処かに行きたいって思うようなことなんて一つも無いんだから」ナデナデ

「むー、お兄ちゃんの意地悪! 私は今すぐにでもどこかに出かけて、美味しい物とか食べたり、色々なものを見たいの! そしてそれを全てお姉様に報告して、そしてお姉様の自慢のお人形になって そしてその光景をお城の皆さんに、そして、私達が居た孤児院にも見せびらかしてやりたいって思っているだけなんだから。でも、私にそんなことをさせるのはどう考えても、無理な話だよね。はぁ、どうしてこの子は分かってくれないのかな?私がどれだけ本気なのかって事をさぁ この前なんて、私はあなたの為にこんな事にまで手を出したのよ。ほら見てよ!凄いでしょ?こんな大金を一人で稼いだの。あなたはお金の使い方を知らないみたいだけど。このお金を使えばあなたが欲しいものは全部手に入るわ。そしてそれは食べ物にも、家にも この国にも そしてあなたの願いを叶えることだって可能 あなたが今よりも幸せな生活を手に入れられるっていう可能性は、私にとっては十分にあるの でも でも それでも、やっぱり あなたは私を信頼していない。そして、あなたは未だに自分の力を完全に理解出来ていない。

あなたは、その力を自分の為に使う事を躊躇している。そして、あなたの周りの人間が傷つくことを怖がっている。それは別に間違っているとは言い切れないけれど でも、その力が暴走してしまう危険性があるのも確かで だからその力を制御する為にもあなたはその力を上手く使いこなさなきゃいけない。あなたは自分がどれほどの存在かを自覚しなければ行けない。自分の価値を知って、そして、自分の命の価値についても知っておかなければいけないの。

だからお願い、もうちょっとだけで良いから、自分と向き合ってみて欲しいの。そうしたら私があなたを守る理由もわかるから。

だから今だけは 私の傍から離れていてほしい。今、私はあなたを失いたく無いの。だから、もう少し、待っていてほしい。私には今すぐあなたが必要なの。

あなたを私だけのものにしたいって、本気で思ってるから」

「へぇ、じゃあその話に乗ってやるよ。但し俺の方からいくつか条件を付けさせて貰う。まず一つ目はお前の行動についてお前自身で責任を持つこと これは当たり前のことだろうけど、俺が言っている意味を正しく理解して欲しい。俺に全ての責任を負うことは流石に不可能だ。俺は所詮ただの人間だから。

でもお前がやろうとしていることについてはお前に全てが任されている。そしてお前にはその力を使うことが出来るんだ。だから、もしも俺の力が必要だというのならば、お前は自分の行動に対しての責任はお前が自分で取るべきだ。そうして俺には何があっても文句を言わせないようにする。

二つ目のお前がこの国を変えたいという意志が本物だということ もしこれが偽りのものだったとしたらその時点で話は破綻する。この国を変えたいと思えないやつには、そもそもこの国を変えるだなんて言う資格が無いからな。だからお前にはその二つの条件を呑んでくれると俺はとても助かる。この国はもう、腐り切ってしまっている。このまま放っておけばいずれは滅んでしまうかもしれないからな。だから、もしもお前がこの国のことを考えているというのなら、お前にはしっかりとした考えを持って、これから先のことを決めて行って欲しい お前の考えを、教えてくれ」

(やっぱり、ダメだったみたい。この子の能力を使って、無理やり連れていこうとも考えたけど、多分それも無駄なんでしょうね。それに今の彼女ではたとえ成功したとしても結局は同じ道を辿ることになるのは明白だったし。だったらここは大人しく彼女の意思を尊重した方が良いのかもしれない。私はこの子に、この国を任せたのだから、彼女が本当に変わることが出来たのかを確かめるまでは、私はここで見守っていくのが良いのかも。それにしても、お兄ちゃんってば少し変わっちゃったのかな?だって前はそんなことを言う人なんかじゃ無かったもん。でもまあ確かにそうだよね。この世界がどんなものなのかを知っているんだったら当然の事なのかもしれない。そしてそれがどれだけ危険で、この世界の理不尽な部分なのかをこの子が知るのはまだ当分先になるんだろうけど。だってこの子は、この世界の住人達のように生きる覚悟が全然足りてないから。まだ幼いせいもあるけど、それ以前にこの子の中にはまだ私達に対する恩や感謝といった気持ちが残っている。それならこの子は必ず、私のお願いを聞いてくれなくなる日が来てしまうと思う。だから私はこの子が、私以外の人に心を許し、甘えるようになる前に何とかこの問題を解決しなければならない)

「はぁ、分かったよ。

それで、一体これからどこに行くつもりなの?私はもう、お兄ちゃんにはついて行くしか選択肢は残っていないんだけどね。はは、まさか私にここから出ろ、なんて言ったくせに、その肝心の私がここから出て行ったんじゃあ、元もこうも無いじゃん」

(まあ、とりあえずこれで、私のお仕事の一つ目は終了。あと二つ目も達成できたらいいなぁ。

あ、でもお城の中があんまり広く無さ過ぎてもそれはそれで問題があるのよね。

だって私とこの子が二人きりで過ごすのって案外大変だし。それにあの人は、私と違って結構自由に動いちゃうし。だったら、お城を大きくしなくちゃね。それだったら色々と面倒臭い手続きとかが必要になっていくだろうし。でも私はそこまで頭が回るタイプでもない。だからどうしようかな。こういう時ってやっぱりお城を作ってる人とかに頼むのが一番楽なんだけど。それにお城を作った人に頼み込むことが出来ればお城に何か不具合が起こった時に、それを修復したり、新しくお城を作るためにお金を請求されたりすることは無いはずだからね。それだったら私としては一番最初に頭に浮かんだあの人が最適ね)

「お兄ちゃん!これから、お城の改築をしてみようよ! 私達がこれから暮らしていけるような場所を作ろう!それで私達はそこに一緒に住むの!そうすればもう、離れ離れにならずに済むよ。それにその方がお城も大きく出来るからね!」

(はぁ。まったく 何を言ってくるかと思ったらそんな事を言い出すだなんてなぁ。それにこいつは俺と一緒に暮らしたいだの何だのってそんな恥ずかしいことをよくも堂々と言えるもんだな。でもまあいいよ。俺がこの子のことを嫌いにならなかったように 俺は、きっとこれからもこの子を愛してしまえるのだから。でも、俺と一緒に暮らすっていうのがそんなに魅力的に思えるのなら俺の方からもちょっと条件をつけさせて貰うかな?

「えーっと、じゃあ これからは俺も君達のことを助けられる範囲内でだけど助けたいと思ってる。そしてその代わりに君にも俺のことを守って欲しい 君が俺を守り続けると言うのであれば俺も君のことを守ろう 俺と君の関係はそれだけでいいんじゃないか?俺に君の願いを全部聞いてあげれる程の力は無いんだ。君にも分かって欲しい」

そして彼女はその提案を、受け入れる そしてそれからしばらく時間が経った後 二人は、この城を後にする そして、二人が向かったのはとある大きな街にある巨大な屋敷

「おいおい、これはどういうことだ。いきなり俺を呼び出したと思ったら今度は家を建てるだと? 一体この家の何にそれほどの金を使う必要がある?ここは元々そんなに大きく無いとはいえ それなりに歴史のある建物だからな そんなところに急に家を建てるだなんて一体全体どうしてそんなことを思いついた?」

そんな彼に 少女は彼の方を向いて答える

「実はね、お姉様には今までずっと内緒にしてたことがあるの 私はお兄ちゃんのことが好きなの。でもお姉様はそれを許してくれないの。でもどうしてもお姉様の言いなりになっているままの状態には耐えられないの!だからお願い!私をここから連れ出して! 私がここに居なければ きっとお姉様も私に興味を失くしてお父様の元に帰って行ってしまうはず だって私と居るよりこの子と一緒の方が、お父様にとっても幸せだもん!だから私をここから逃がして!そして私はこの子を一生愛して生きて行きたい!この子はきっと、お兄ちゃんのことを受け入れてくれるはずだから。だからお願い どうか、私を連れ出してください。

そして 私の、お兄ちゃん 私、頑張るから、 だからあなたは安心して見ていてくれればいいから 私は、この国の人達にこの国をどうにかする為に必要な力を渡せた。次は、その力をあなた自身が使う為の方法を教えるから 今からあなたは、自分がどれだけの力を持っているかを理解する為に、自分一人で自分の限界まで力を使えるようになってもらうから あなたには私が直々に手解きをする。そうしなければあなたの力を上手く引き出すことは出来ないと思うから。あなたも、もう自分がどれ程強い存在なのか、知っているよね。だったら後は、自分の強さを、正しく把握して、コントロールできるようになるだけで、簡単にあなたが持っている力は手に入るの。ただでさえ強力なのに更にそれを自分で制限していたら、それこそ本当の意味の宝の持ち腐れだから。だからまずは私の指示に従って訓練してもらう 私が今やろうとしている事は私にしか出来ない。そしてその力を手に入れられたとしてもその力を使うのにはかなりの才能が必要だから そうすると、必然的に私は、この世界では一人だけになってしまうから。でも心配はしないで、私にはちゃんとお兄ちゃんがいるんだもん。

ねえ、お兄ちゃん 私の言う通りにしてくれる そしてお兄ちゃんはこの世界にやってきて初めての、私からの挑戦を受けることになる。

そしてその時が来た。俺は俺のやるべき事を果たす為にこの世界にやってきた。だからお前とこの国を変えよう。その為ならばこの身は喜んで捧げると誓おう

「な、なんだと それは一体どういった風の吹き回しだ?一体何の冗談でお前みたいな奴が、そんな言葉を吐けるんだよ。だってお前、この国がどんなところなのか知らない訳じゃないよな?だったらお前に出来ることなんて一つも無いって、分かるよな?それに仮にそれが本当だとしても だったらなおさらお前に出来る事は何もないはずだろ!?だってそうだろ、俺達とお前は違うんだから、いくら俺達について来いと言ったって、それは俺が勝手に言っているだけの事で、そもそもお前は、俺なんかの力を借りなくても十分に強いじゃないか!だからわざわざ俺なんかの助けなんか求めなくったって大丈夫なはずだ。

それなのにお前が俺達に手を貸して欲しいって言ったところで結局は何の意味も無いはずだろ?お前にはお前の目的があるはずだ。だからそれを最優先しろよ。それが出来ないんだったらお前は俺の敵だ さあ選べ。お前はここで俺と戦うのか、それともここから逃げ出すのか」

(まあ俺の考えとしてはこんなとこだろうな。この男が本当に強くて俺なんかでは到底敵わないような化け物だとしたら俺の言葉なんかではこの男の心を動かすことは出来無いだろう。だからここは戦うという選択が正解だと思うが、それでももしも、こいつがこの世界の人間としてこの世界で育ってきたのであればの話だがな。でも恐らくそれはないだろうな。なぜならこいつの行動原理は基本的に自己中心的なものであって、誰かの為に何かをするというものではない。それならば、俺に助けを求めた理由だってこの世界から抜け出すための方便にすぎない筈なのだ。

しかしそれにも関わらず なんなんだ?一体この違和感は。

目の前にいるこの男の行動はどこかで聞いたことがある 確かあれは、そうだ、あの子が言っていたことだ。そしてあの子は言っていなかったが、この感じは多分あの子が話していたあの時の感覚と同じものなのかもしれないな。つまりあの子が話してくれたあの子にとっての世界とは そしてあの子の父親はあの子のことをあの子に託して旅立ったらしい。そして今のあの子の目的はあの子の父を探すことだとか言ってたな)

「お断りだ。俺は俺のために生きている だからこそあの子達を救うことが出来たんだ。俺はこれからこの国の王になるべく 王になる そう決めたんだ。

その障害になるのなら俺は、例え誰であっても、この手で打ち砕いてみせる。それがたとえ あんたでもだ」

(まあこの考えが正しいとは限らないが、俺がこの男に付いて行くということはおそらくそういう事になるだろうな。あの子に頼まれてしまったのだから、約束を破るつもりはないし、破る気も全く無い。それにもしこいつが何かを考えているとしたらそれを見極めてやる。そして、もし俺達の計画にこいつの力が役立つと判断できたのであれば それを受け入れる。俺もそこまで器用な人間ではないから、全てを受け入れられるかと聞かれれば分からない、だけど、あの子を助けることが出来るくらいは俺の器は大きいはずだ)

そしてそれからしばらくの時間の後 この男は、私達の仲間になった。これから私達がやろうとしている事をあの子は絶対に受け入れてくれる。だってお兄ちゃんにあんな風に言われちゃったんだもん。もう断れるわけが無いよ。それに、きっとあの子だって もう私に残されている時間は少ないけれど、それでもまだ、諦めたくは無いの お兄ちゃんの役に立てるんだもん。お兄ちゃんの側に居られるんだから、だから 私は、私に出来ることを全力でやり通そうと思う。

それからしばらくした後 この国を揺るがせる事件が起きる お兄ちゃんと一緒に街に行くのはとても久しぶりの事だから 何だか少しだけ楽しみ

「おい 着いたぞ。ここがこの国の街だ。この国には色々と問題が多いけど まあ俺がなんとかやっていけてる限りは他の街に比べれば比較的平和だから、この国を脱出するまではそこで暮らすことにしようぜ そしてその先のことだけど、とりあえず俺がお前のことを鍛えるのは確定事項だから 俺の訓練をちゃんと受けるんだぞ 分かった?」

その言葉に対して彼女は 素直に返事をした

「はい。わかりました 私も頑張って強くなります。

それに 私だってお兄ちゃんの足を引っ張るつもりは無いです。私にも ちゃんと目的がありますから」

その表情は、いつも通りの 笑顔だ

「お姉様!どうしてこんな時間に私に声を掛けてくれたんですか?今日お姉様が帰ってくるだなんて私は聞いてなかったのに。

それで、どうして お父様の言いなりになっていた私が急に言いなりにならなくなったからですか?お父様は私がお姉様に逆らっている事が許せないみたいだから お姉様を怒らせないように必死だったんですよ 私が言うのもなんだけど、私はお姉様の言う通り、ただの操り人形みたいなものだから、逆らう事も許されなかった。でもお姉様にはそんなの関係無かったのですね。お姉様はただ自分の思うままに生きる それだけだから 私はただお姉様のご機嫌を取る事しか出来ないから だからそんなに凄まれても困っちゃいますよ〜。だって私にお姉様を怒らせる度胸は有りませんから あ、でも私をここに呼びつけたのには理由があるのですよね?それって私にお願いしたいことかなにかかなって思ったのですよ。だって今まで私は 私の意思じゃ無くてお父様からの命令に従うだけだったんだもん。でもお兄ちゃんのおかげで今は私自身の意思で行動することが出来るようになったので ちょっとお兄ちゃんに感謝してたりしてるんですよ。

私は今までお父様の命令で人を殺す為の道具として扱われてきていたから お父様のお願いを叶えるだけの 機械でしかなかった。お父様は私を可愛がってくれていたけど、だからと言って私の幸せを願ってくれてはいるわけではないの。私の人生はずっと、自分の為のものなんて、何一つなくて、全ては他人からの依頼を遂行するためのものだったから。私の自由はいつだって制限されていたから 私はこの世界に自分の居場所を作る為に頑張りたいと思ってるの! だから私の為じゃなくたって構わないから あなたにお願いをしてもよろしいでしょうか?私のお願いを聞き入れてもらえますか?あなたもきっとこの世界は居心地が悪いと感じると思いますが、あなたにとっても、この世界はこの世界に居る人たちが言うほど、悪いところではありません。この国はお父様の言う通りにすれば上手く回るような、単純な構造になってはいますが、でも、そこには、お父様の価値観が介入してくる。それは、お父様の思い込みによって成り立っているのであって、決して真実であるとは言えない。お父様以外の人間の事を考えることの無い人達によって作られた歪な世界なの。そんなところにいたんじゃ 本当の自分を見失ってしまいます。それにこの国の人間はみんな、お父様に恐怖心を抱いていますから、あなたに近寄ろうとする人はまずいない。そして、そんなあなたの側に居られるのが私だけという事は これは運命だと私は感じているのです私と 契約してくれませんか?そしてこの世界で一緒に過ごしてくれませんか?私はお兄ちゃんが望むことは全てしてあげたいの。だからね 私と契約してほしい。それが私にとってのお礼になるはずなんだから あーあ。お別れの時間が来ちゃった。やっぱりもう少し早く会いに来ておくべきだったのかなぁ。もっとゆっくり時間をかけて会えたなら、私はまだあなたにこの気持ちを打ち明けることは出来なかったかもしれない。

あはは、本当はもう、どうしたらいいか分からないんだよ。こんな状況になった今でさえ この感情の行き場を失ってしまっているくらいだから、だからこの想いが報われるかどうかさえもわからないまま。この想いを届けたい相手がどこに居るのかさえ知らないのに、だから私は、どうするべきか迷って、何もかもがわからなくなっているんだ 私はこの先どうなるんだろう?でも、きっとこの想いを伝えることは出来ないんだと思う。この想いは、届かせるわけにはいかない。

お兄ちゃんは優しい人だから、こんな私の願いですら聞き入れてくれるんだと思うけど でもそれはダメなの。それは 私の我がままでしかない。

だからせめてこの感情を吐き出すだけでもさせて。この手紙を書くのは最後の手段。でももし、この想いを伝えたくて伝えたくて仕方が無くなったら その時にこの方法を選ぶことにする。だから これが 最後

「おい!一体どういうつもりだ?なんであの子を殺そうとした。あの子は俺にとって必要な存在だ。俺はあいつを守る為に行動しなければならないのに。俺がやろうとしていることの為にも あの子を危険な目にあわせる訳には行かない。なのになんでお前はその邪魔をするんだ?なんでお前の都合の為に、俺が あの子を助けないといけない」

そしてその男は私にこう告げた

「君は本当にそれでいいのかい? 本当にそれで 君自身が救われると思っているのかい?」

私には何も答えることが出来ない なぜなら私も私を救う手立てを持っていないからだ しかしそれでも 目の前の男のように諦めたくは無かった

「俺はお前とは戦いたくない 俺はもう 戦えないんだ。だから もう止めよう お前にどんな目的があって動いているのかは分からないが、少なくともこの世界を壊そうとしているのならそれは俺達の目的の妨げになる。それにあの子を巻き込む必要もないはずだろ。俺の大切なあの子に 俺はあの子を守らなければならないんだ。だから あの子が俺の目的に 邪魔になるのであれば、例え誰であっても、容赦はしない」

目の前にいる男の言葉を聞いた時 この人は本当にあの男の言っていた 私達と一緒に戦う相手なのだろうかと疑ってしまう だが そんな考えは一瞬にしてかき消された。彼の放つ威圧感に飲まれてしまった。私は、その瞬間理解した ああ 彼は 私達が探していた

『お兄ちゃん』だ。

そして 私達が求め続けていた 仲間なのだと それからしばらくしてから私は彼に声を掛けようとしたけれど 私は結局彼を呼び止めることが出来なかった そしてそのまま彼は去っていき、その後を追うようにしてあの女の子も去っていった。私はそれを見送っているだけで、私は 私は 結局あの人の前に立ち塞がることしか出来なかった 私に勇気があれば良かった そうしたなら 何かが変わったかもしれない だけど私にはそれができない そんな私は、ただ、あの人の言葉を待っているだけ。だから、今は待つことにした。彼が、もう一度私の前に現れる時まで、私は待ち続けようと心に決めた そうして私はまた歩き出す この道を歩いていく お兄ちゃんの背中を追いかけて 私はこの道で待っているから そして私は、私とお兄ちゃんが、この世界で出会う少し前の出来事を思い出していた

「ねえ 私はねお兄ちゃん 私がお姉様を怒らせてしまった理由を知っているんだ それは私がお姉様に対して嘘の報告をしてしまったからなの 私はねお姉様が帰ってくるって事を知っていた。だからその情報をお姉様に知らせなかった 私はその事で怒られて当然なの。でもその事が、私をお父様の手から逃れさせた要因の一つでもあるんだけどね。私にお姉様の居場所を知られてしまえば お姉様が私を処分する事は目に見えてる お姉様にとって 私はただの操り人形でしか無いの。

お姉様の言うことを聞いて動くだけの機械 だけどお姉様のいないこの世界じゃ私は私を自分で動かす事が出来るようになったの だから私は私のやりたいようにやった。

その結果お兄ちゃんに会うことも出来たし、これからも出来るならそうしたい。私は、私の幸せのために生きているの。

お兄ちゃん 私はあなたを騙してここに来たんだよ だけど私はね 私の目的を果たすためにお兄ちゃんが必要なの だからお願い 私の願いを叶えてください 私達は きっとこの世界を変えることが出来る お兄ちゃんは こんな私の願いを聞き入れてくれるのかな?でもきっとお兄ちゃんは私を見捨てたりなんかはしない お兄ちゃんはそういう人なんだって私は信じている だから この世界で私と出会って そしてこの世界の未来を共に生きましょう。私は、あなたの事が大好きだから 私と契約をしてほしい この想いをどうか 届けさせて欲しい だからお願い お兄ちゃんが お兄ちゃんだけが私の味方になってください。私はお兄ちゃんの為なら何だってします そしていつか この気持ちを伝えさせて下さい 私の愛しいあなたに 私も自分の気持ちをちゃんと伝えられる日がくるといいなって思っています。だからその時が来るまでは少し待っていてください。そして、あなたとの思い出を 私にたくさん与えてくれたことを 私はずっと感謝しています。ありがとう お兄ちゃん 私を好きになってくれて。私も 私もあなたのことが 大好きだよ。私に居場所を与えてくれました。私を認めてくれました。私の話を真剣に聞いてくれた あなたが 大好きです それではさようなら お別れの時間が来たようですね。残念だけど仕方が無いか この世界に私は要らないみたいだから。じゃあ私はここで失礼するよ。

私は君に一つ約束をしよう もし私が、もう一度君に逢うことがあったなら、その時は必ず、必ず私は、君の隣に居る。私は、この世界を終わらせたい。でも、君の望みもまた叶うのならば、その為にも私はこの世界に抗ってみせる 私は絶対に負けはしない だから安心してくれ、君が私を必要としている間は私はこの世界で生きる だからもしも、この世界での私に逢いたいのであれば この手紙を読んで欲しい。私は君と出会うことが出来た。それだけで十分だ だから私はこの想いに、この命に懸けて、君に誓おう この世界の終焉と共に 私という存在が消え失せるとしても、この誓いだけは 私は君を忘れはしない だから 君は、君自身の幸せを見つけることが出来ますように、私も私らしく頑張っていくよ。だから お兄ちゃん さようなら そして あなたに逢えたことは、私の最大の幸運であり奇跡であると思っています。この出会いに心から あなたに感謝します。

この想いは届かないだろうけど、この想いは私の中で永遠に生き続けています。

この気持ちを 私に伝えてくれてありがとう お兄ちゃん 私を愛してくれてありがとう。私はあなたのお陰で変わることができたの お兄ちゃんと出会えて私は本当に幸せな時間を過ごせました。私はこの想いを伝えることは出来なかったけど それでも私は満足している。だから私は、もうお兄ちゃんにこれ以上負担をかけたくないの それにお兄ちゃんはお兄ちゃんのままで居てほしいから。私はね お兄ちゃんの優しさが、大好きなんだよ。私はお兄ちゃんとこの世界で出会えた。だから私はもうお兄ちゃんの側に居る資格なんて無いんだと思う。

私は、この世界に来てから色んな事を経験したの。お兄ちゃんの側を離れたのは、その経験をしたかったから この想いをどうすれば良いのか分からなかったのもあるけど だから私は、私なりのやり方で、お姉様に認めてもらう。

お兄ちゃん 今まで本当にありがとね。私を好きにさせてしまって本当にごめんなさい。だからお兄ちゃんが私と出逢わなければ良かったとか思う必要は全くありません。

この世界に迷い込んだあの時 私があなたに出逢ってしまったのがそもそもの始まり。私は、私自身の存在を証明したい。私を受け入れてくれたあの人の為にも だからこそ私は私の意思でここに残ることを決めて、これから私はお姉様と戦うことにしました。でもそれは私の為でもあります お兄ちゃんには心配をかける事になるかもしれませんが、大丈夫ですよ 私は死にに行く訳ではありませんから。

でもその覚悟を持って私は行動に移していくことにします。

それに私にはこの国を救う力も無い 私にあるのは ただひたすら前を向いて歩き続けることのみ。だからお兄ちゃんには、これからもお姉様と戦っていって欲しいと思います。

私の為にではなく お兄ちゃんの為に。私とお兄ちゃんの目的が果たされるその日まで お互い頑張りましょう! 私も出来るだけお兄ちゃんに近付けるように精一杯やってみるつもりだから またね お兄ちゃん」

私にお兄ちゃんからの手紙が届いた。私にその事を気付かせないように、私には何も言わずに姿を消していた。そんなお兄ちゃんは一体何を考えているの? そして今 私はお兄ちゃんにこの世界で出会った

『勇者』と呼ばれているあの人と再び巡り合う。お兄ちゃんがこの世界にやってきた目的は、あの子に会うことなのだと思っていたけれど、その様子は無い 私は、あの子に言われた通り、お兄ちゃんを待っていた だからあの子が、私の前に現れても特に何もしなかった。だけどあの子は私の前に現れただけで私には用が無かった あの子と話を終えた私は、それから暫くの間はあそこから動かずにあそこに留まり続けた そしてそれから少しして あそこにあの人がやってきた あの人はあの人に、私がこの場に居ることを告げてからどこかへ行ってしまう。私は一人になってしまったけれど、別にそれはそれで良かった あの人の前に立つのに私にはまだ覚悟が出来ていなかったから だけどあの人の後を追う前に、私は、お兄ちゃんの言葉に、耳を傾ける事にした。お兄ちゃんの口から出る言葉を、ただ、静かに待ち続けていた だけど、私の耳に聞こえてきたのは、あの人から聞いたのと同じ内容のお話で、私はそれを理解してから、あの人の前に出て、私も、お兄ちゃんと同じように戦うことを決めた。お兄ちゃんが、私を守ってくれたように 今度は私が守る番なんだ。そして また私はあの人の言葉を聞くために前に出た。だけどやっぱりあの人の言う言葉の意味は解らなかった 私達は お互いに、何かが違うということだけを感じていた。お兄ちゃんとは違うんだって そう思ってしまったら、私の決意は揺らいでしまう気がして、結局私はまたお兄ちゃんの背中を追っていくしかなかった。

そして 私と、私達の運命が大きく変わってしまった。お兄ちゃんを護ることに必死になり過ぎていて 私が気付くことが出来なかった。お兄ちゃんを護りたい一心の気持ちが、いつの間にか私の心を侵食していたみたい お兄ちゃんに私の本当の気持ちを伝えようと思ったけど、お兄ちゃんはそれを嫌っているような態度だった。だから私も、無理して自分の心に嘘をついた結果が 今の私だ。この世界にやって来てからずっと私は嘘ばかりついて来たから。だけど、私達はここで初めて本当の意味で向き合えた。この世界で生きるために

「ねえ、どうして私をそこまで助けようとするの?私はあなたの邪魔しかしていないじゃない 私を助けた所でメリットなんか一つもないのよ?それでもあなたは私を護ろうとするの?」

私の問い掛けに 彼は答える。この世界はゲームの世界なんだと。だから自分が主人公の筈なのに自分を助けようとしてくれている私達プレイヤーは、彼にとっては都合の良いNPCにしか見えていなかった。だから彼がこの世界にやってきて私を助ける理由は無いはずなんだ。それなのに彼は私のために身体を張って戦ってくれている それどころかこの世界で生きるための術を教えてくれている。そしてこの世界の終焉を迎えることで、彼の望みを叶えられると言っていた。この世界での私の役目が終わりを迎えた時に 私に何が起きるのかは分からない。でもこの世界を生き抜くために必要なことを私は彼に教えてもらった。そして私の望みも彼に伝える事が出来た そして私は彼と約束を交わす もし私達が共に同じ目的を、目的を果たす事が出来たその時は、私は自分の全てを懸けてこの想いを、この命に懸けて彼に想いを伝える。それがどんな結末に辿りつこうとも。私はきっと後悔することが無いと思う。この先ずっと私は私の願いに縛られながらこの世界を生きるのだから 私に残された時間は限られている。だからこそ私はお兄ちゃんの隣に居たかった。私の気持ちを伝えたい。そしてお兄ちゃんの答えを聞きたい。この気持ちを知って欲しいの そして私は私の戦い方でこの気持ちを伝えようと思っている。私だって お兄ちゃんが好きだっていう気持ちに変わりは無いんだから それに私だけが一方的に伝えてそれでお終いだなんて私は許さないんだから。絶対にお兄ちゃんを振り向かせてみせるんだから。お兄ちゃんの想いに応えるのはそのあとだよ 私はまだ、まだ死ねない 私はこの世界で生きてみせる。お姉様を救えるならこの命を差し出す事くらいは簡単に出来るんだけど 流石にお姉様でもこの世界の終焉には抗えないと思うから、私にはお兄ちゃんの力が必要だから この世界を二人で生き抜こうね。だからお兄ちゃんも死ぬのだけは絶対に駄目だからね!私が隣に居るから安心してください そして、私はお兄ちゃんの想いに応えて見せる。お兄ちゃんの想いが本当かどうかを知るまでは絶対に応えられないから、だから私は今、この時を生きる事を決めた。私にはお兄ちゃんしかいない。

でもお兄ちゃんはどうなのだろうか?もし仮にお兄ちゃんに大切な人が居るのだとしたら私はその人に嫉妬する。私はそんなにもお兄ちゃんの事が好き なんだと思う。お兄ちゃんが誰のことを想っていても 例えその相手が私で無くても 私の想いが届かなくても構わない。だから私は私なりのやり方でこの想いをお兄ちゃんに知ってもらう。そしていつかは この想いを受け入れて欲しい この気持ちを君に伝えたいんだ。

俺にはもう時間が無かった だから、俺はこの世界で生きるために必死になって生き延びようとした。だがその想いが報われることは無かった 結局この世界でも何も成し遂げられずに死んでしまうのかと そんな絶望の感情を抱いていた俺に、希望の光が差した。

この世界にやって来たばかりの頃に出会った、少女。最初は彼女の事をあまり気にせずに過ごしていたのだが、次第に彼女に引かれていくのを感じた。彼女が笑う姿を見たかった 彼女の笑顔を守りたいとそう思っていたんだ この世界では誰も信じられないと、他人を信じるのが怖いとそんな恐怖感に苛まれていたはずの俺が、彼女と関わる事で救われたような感覚に陥ったのかもしれない。

そして、彼女と別れてからはその悲しみを忘れるためにも、この世界にやってくる前の日常を取り戻すように、俺は毎日必死でこの世界を生きた だがどれだけ頑張っても、この世界ではその頑張りすら意味は無かった その日 彼女はこの国に捕らえられ、彼女を救うべく行動を起こしていた。俺は彼女の救出の為に行動を起こすことにした。俺にとってこの世界での彼女はかけがえのない存在だ。彼女を救いたいという強い想いを抱いた時 俺は自分の身体の中に眠っていた力の片鱗を感じ取ることが出来た。これは一体どういうことなのか そもそも何故俺にこの力が目覚めたのかはわからない。もしかするとこれも『勇者』と呼ばれる者の証のような物なのかもしれ無い。

ならばその力の使い方を早く覚える必要がありそうだ。そうすれば俺一人でもこの国の問題を解決する事は可能だろう。

だけど、俺のこの力をこの世界の人々に知られれば、確実に危険人物として扱われるだろう。そうなってしまえば俺の目的であるリゼの事を守れなくなってしまうだろう。それにこの国にとっても都合が悪いことになるはずだ。この力で人を殺す事に抵抗があるわけじゃ無い。ただ俺の目的の為にはこの国の協力は不可欠であり、もしもの時にはこの国には裏切られないように立ち回る必要性もある。

だからこそ俺は慎重に動かねばらないのだ だけど俺があの子に好意を寄せているということに、自分自身も気がついていなかったのかも知れない。だけど 俺の心の中にはいつの間にか 彼女の存在が色濃く根付いていた。そして俺は、あの子の無事を確かめる為に、そして俺自身があの子に会うため あの少女を探しに街へと繰り出す。あの子はきっと今も 街の何処かに居る。そして必ずこの騒動を収められるだけの何かを秘めた能力を持っている。そう信じていた あの子に会ってからというもの あの子は何故かずっと不機嫌そうにしている。そんな表情を向けられてしまっても、この子をほったらかしにしてどこかに行くという選択を取れずに居た 俺としては あの頃に戻りたいと思っても、あの頃に戻れないことは理解していた。あの頃の幸せだった日々が 二度と訪れないということも わかっていながらも やはりあの頃の幸せな記憶が心に残っているせいなのか、今のこの子と向き合うことが出来ていない だけどこのままあの子を放って置く訳には行かない。今のあの子は何をするか分からない

「お前は本当に『勇者』の関係者だったんだな。この国が誇る『聖女』の結界を、あっさり破ってみせた時はまさかと思ったが、どうやらあの男はこの世界でかなりの地位に就いているみたいだな。だけどこの世界に存在するのは奴だけじゃない。この国は 既に『魔王軍四天王』によって滅ぼされんとしているんだ。だからこそ、僕は、こんな所で立ち止まっている場合ではないんだ」そう呟きながら男は一人 走り出した 私は今 とても嬉しいです。お兄ちゃんが私に逢いに来てくれたことが、私は今、凄く 嬉しいのです。お兄ちゃんが私のことを見てくれていることが嬉しくて堪らなかった そしてお兄ちゃんがこの街に訪れた目的は私と会う為。それだけで私は、お兄ちゃんに会いたくて仕方が無くなっていた 私は、この世界で、私の大好きな人に巡り合った。そして私の全てを掛けてこの想いを伝えたいと願う相手。私のこの気持ちを彼に伝える事が出来るのであれば 私は死んでもいい。この命を捧げる事が出来て、そして私の想いを受け取めて貰えるだけで、私はきっと、満たされてしまうのでしょう 私はお兄ちゃんを愛す事が出来た。お兄ちゃんが私の事を愛してくれる。そして私のこの命はきっと、お兄ちゃんのために使う事になるのだと私は確信していた この想いが成就するかどうか それは誰にも分からない。だけど 私にだってお兄ちゃん以外に好きな人は居る。だから 私だってこの気持ちを伝えられるかどうかはわからない 私はこの想いをお兄ちゃんに届けることだけを考えている 私はこの世界に生きることを決めた。私がこの世界で生き続ける理由はたった一つ。私はお兄ちゃんと共に生きる道を選択した お兄ちゃんに想いを伝える事。それさえ叶えば私は、きっと、この世界に留まる必要は無いのだから 私がお兄ちゃんと一緒にこの世界に留まっていようと思う理由の一つとして この世界の終焉が迫っている そして その現象は私の力ではどうすることも出来ないらしい。だから私はお兄ちゃんに助けを求めようと思っている お兄ちゃんになら、きっと私のこの気持ちを伝えても、受け入れてくれると、私は確信していた お兄ちゃんが私をこの世界に留めておく理由は分からないけど、私はもう決めたの。この想いを お兄ちゃんに受け取ってもらうと。例えこの世界が終わってしまうとしても、私にとってはこの世界よりも、私と結ばれることを選んでくれる可能性の高いこの想いを伝える方が、優先すべき事だから。私はお兄ちゃんの事を信じる だから私を助けてほしい。お兄ちゃんに護られたいなんて、そんなおこがましい願いは私には無いの。私はただお兄ちゃんを好きでいることが許される それこそが私にとって最大の喜びなのだから そして私達が共に過ごす事を決めてからの私は少し積極的になってしまったのかも知れない 私は私なりに精一杯アピールしてみたつもりなんだけれど それでもお兄ちゃんの反応はあまり芳しいものでは無かったような気がする やっぱり私には女性の魅力とかそういうものが不足しているのだろうか お兄ちゃんに喜んでもらえるなら私は何でもするよ?だから私に魅力が無いのだとしたら 教えて欲しい。お兄ちゃんの為なら、お兄ちゃんの望みを叶えるためなら、私は何にでもなる覚悟だから だから私は 私をこの世界に引き留めようとする存在が居たのなら、どんな手を使ってでも お兄ちゃんから引き離そうとする。お兄ちゃんは渡さないから

「私とお兄ちゃんの邪魔をしないで下さい。貴方が何をしたのか私は知っています。私からお兄ちゃんを奪おうとしましたね。残念ながら私は諦めの悪い女の子なので、簡単にこの想いを譲るわけにはいきません。もし私からお兄ちゃんを奪うことが出来るものがいるのだとしたら それはお兄ちゃんの方から、私に好意を寄せてくるまで待っていれば いいんですよ!」そう言い放ち、彼女は 何処かへ消え去った 彼女は俺のことを好きだと言ってきた。その言葉が真実であるのだとしたら、俺も 彼女の気持ちに応えなければいけなくなる しかし その感情はまだ完全に整理が付いていなかった 確かに彼女のことは好きになった だけどまだ俺はその想いをはっきりとは伝えることが出来ていなかった。だけど彼女はその俺の感情の変化に気がついているのかいないのかはわからないが、俺に積極的にアプローチをして来るようになった。

正直言って俺は困惑した。俺は彼女に恋をしているのかすら分からない状態で、彼女のことを意識するようになっていく そんな自分の心に戸惑いを覚え、俺が彼女に抱いているのはただの好意ではなくて恋愛の意味での愛情なのか それとも親が子供に向ける類の物なのか 俺にその答えを出すのはあまりにも難しい問題だった 彼女がこの世界での俺の恋人になりたいと、そういった意味で俺のことが好きでいるというのならば、俺はそれに全力で応えなければならないだろう。だけどその気持ちを受け入れるか受け入れないかを決めるのは、結局俺自身にしか決めることは出来ないだろう だけど俺は今すぐにこの問題を解決しなければいけないと思っていた。俺はあの子のことが好きだったから だからこそ、あの子の告白に対して、曖昧な態度を取ってはいけないと思ったんだ。俺はあの子との関係を終わらせるつもりで、彼女とのデートに臨む

「それで どうして今日、僕が呼び出されたんだい?」

そう今日は二人きりで話がしたいという事で、あの子はこの店に俺を呼び出していた。そして今は昼下がり。俺はこれから 彼女と二人で食事をする事になっている。だが、食事は この後にするつもりである

「君がこの前のデートの時に言っていた あの子が俺の知り合いの子かもしれないということについてだ。俺の推測が正しいのであれば、君はその子について ある程度詳しい情報を持っていて当然だと思うんだ。だから君の知っている情報を俺に全て話して欲しい」

俺は、彼女がこの世界の人間でない事を知っているが、そのことを知らないふりをしながら会話を続ける

「えっと、僕の知ってる子って言ったらあの子くらいしか居ないけど、それが何か重要なのかい?それにそもそも君はあの子と会った事があるっていう事実を隠してるみたいだし、僕にはよく意味が分からないんだけど」

俺は嘘をつくことに多少抵抗感はあったが、彼女から本当の情報が手に入る可能性がある以上、俺自身の本音を話すべきではないと思った

「あぁ、あの子に会った事があるというのは嘘だよ。だけどあの子の事をよく知る人物がこの街にいるはずだと、俺がそう思ってるのは確かだ。そして俺はあの子の為に動こうと思ってるんだ。だけどあの子の事情を知ってそうな人物は限られているんだよな。俺がこの世界で知り合っている人間は 俺の記憶が正しければそこまで多くなかったはずだろ?」

(だけど、もしお姉さんがあの子と関わりがあるという確証を得ることが出来れば。あの子に関する謎を解明することが出来るかも)

俺は この世界で知り合った人間の数はそこまで多くない。というよりほとんどいない。

あの子は何故かお姉さんのことを敵視していた節があったが、それもあの子と初めて出会ってからの短い期間だけだ だから俺はお姉さんがあの子と繋がりを持っているとは考えていない ただ単にお姉さんにあの子と接触する機会があったというだけなら、俺には何も言う権利はないのだ。

「ふーん、つまり 君は 僕があの子に関して詳しくないことはわかっていながら 僕をわざわざ呼びつけたということだよね。ということはさ 君はあの子のこと、あんまり興味無いんだろう。だったらなんで僕は呼び出されなきゃいけないんだ。別に君があの子の事に興味が無かったとしても僕は 別にどうでもいいじゃないか」

「そうか、じゃあ今すぐ帰るんだな。悪いけどお前には協力出来ないようだ」

俺はこれ以上の話し合いをする必要はないと思った。

俺が席を立とうとしたその時だった

『ピィー』

突然目の前から笛のような音が聞こえてきた その音に反応すると、そこには一人の少女が立っていた その顔には見覚えがありすぎるほどあった。なぜならその子は俺の愛しい人の妹だから

『パァッ』その瞬間にその少女は俺に向かって走り出してきて 俺の腕を掴んだ そして彼女は笑顔で俺に話しかけてきた

『やっと捕まえました!お兄ちゃん!』そしてそのまま俺の手を引き走り出した

「おい!ちょっ!?︎いきなり何するんだ。こっちにもいろいろと準備とか色々とあるんだよ。それにこんな所で俺の名前を叫ぶんじゃねぇ。目立つじゃねえか。一体どういう事なんだこれは。まさかと思うがまたお前は あいつに捕まって逃げてきたのか?でも どうしてこの世界に来てる事が分かったんだ。あいつはこの世界の事を知っちゃあいるがこの世界の地理に関しては全然把握して無いと思うぞ。ま、まずは説明をしろ。俺に分かるように きちんと、順序良く、分かりやすく、簡潔に説明を頼む 」

そしてその言葉を聞いた後 リゼは自分の事を話し始めた リゼの話を聞く限りでは特に問題はないように思えた。むしろ良い方に状況が進んでいると言えるだろう だから俺は一先ず安心することが出来た。そしてこの事は俺の中で大きな決断へと繋がった。リゼには 俺の側にいて欲しい。だから、もう俺は 迷う必要は無いんだ。例え俺と彼女の関係が終わったとしても 彼女のことを想っている気持ちだけは変わることは無い。だからこそ俺は彼女に気持ちを伝える そして彼女の手を取り、俺は店から飛び出した。

「それでお兄ちゃんは、私とお兄ちゃんの邪魔をしないで下さい。貴方が何をしたのか私は知っています。私からお兄ちゃんを奪おうとしましたね。残念ながら私は諦めの悪い女の子なので、簡単にこの想いを譲るわけにはいきません。もし私からお兄ちゃんを奪うことが出来るものがいるのだとしたら それはお兄ちゃんの方から、私に好意を寄せてくるまで待っていれば いいんですよ!」

私はお兄ちゃんに 想いを伝えようと思い立った私は、とりあえず私をこの世界に止めようとしてくれた人の力を借りてこの世界に来た訳だけど、その人に私が元の世界のお兄ちゃんに好意を抱いているのだと悟られたのはまずかったかもしれない 私の行動に少し迷いがあったことは認めざるを得ない。それはお兄ちゃんのことが好きなのに、他の人と結ばれる未来を考えてしまい、自分の想いを貫くべきか悩んでしまったから。だけど私はお兄ちゃんへの恋を諦めきれなかった お兄ちゃんのことを思うだけで心が落ち着く。だけどお兄ちゃんの傍にいるとその鼓動がどんどん高鳴って、頭が真っ白になるような感じがした。それはまるでお酒を飲む時に似ている。だけど決して不快ではなくて とても気持ちが良い だけどその感覚はお兄ちゃんと一緒じゃないと味わえない。お兄ちゃんと一緒にいる時は いつも幸せな気持ちになれていた。だから私はこの恋が実ればいいのにと思っていた。だけどお兄ちゃんには彼女がいて、私は お兄ちゃんの事が大好きだけどそれはやっぱり兄妹としての感情であって恋愛的なものではないのだと理解した お兄ちゃんの幸せを一番に考えるのならば 私は身を引くべきなのかもしれない そう考えた事もあった。だけどその度にお姉ちゃんの言葉を思い出して 結局自分の気持ちを押し通すことを選んだ。だって自分の欲望を優先して我慢することを選ぶのは 嫌だから だから私は自分の感情に従って 自分のやりたいことをやると決めた そんな風に決意をしてはいたものの いざ実際に行動に移すとなると やっぱり躊躇してしまう。この恋が叶うことはないだろうし、このままでは一生 気持ちに整理を付けることが出来なくなる。だからせめて この世界でだけでもお兄ちゃんと過ごしたいと願った。そしてその為に必要なことをするために 私は動き始めた この異世界での 私の目的は

『私の大切なお友達と、大切な人を取り戻すこと』そしてその人達を助ける為には、どうしても今すぐに、この世界の知識が必要だった だけど私一人ではその目的を達成することは無理だった。そこでこの異世界について知っている人間を探し出すことにして、その候補が 目の前の彼女であるということが分かれば後は簡単だ この子は私のお姉ちゃんが

『あ、あの子なら多分この子も詳しいんじゃないかしら。私より物知りだからこの子』なんていう 意味のわからない発言と共に教えてくれた名前と同じだった。この子に会えばこの世界について知ることが出来る。そしてそれを知ったうえで私が何をすべきなのかがわかる そう思った。だから この子を連れてどこか落ち着ける場所へ行こう。そう思い、手を繋いで歩き出そうしたのだが、何故か途中で足が止まった。そして体が動かない。だけど不思議とそのことは あまり気にならなかった それよりももっと大事なことがある

『あの人はきっと あの子のことも助けてくれるはずだから お願いだから早く行ってあげなさい そうしないと取り返しがつかなくなってしまうかもしれないのよ あの子は貴方にとってどんな存在よりも大切になるはずなの 絶対に 何が何でも あの子の事を助けに行って あの子が居なくなってしまったら 本当に 何もかもが無くなってしまう 貴方にとっても そしてあの子の家族にとっては、それが最も辛い結末よ それだけを肝に命じておいて 貴方があの子のことを救うのよ』

あの人があの子のことについて 何かを知っているらしい あの子が何かに巻き込まれている可能性 あの子が私のせいで何かに巻き込まれるのはとても悲しく感じるけれど、今はそうするしかないのだろう それに、今 ここで 私が動くことによって この世界を救える可能性があるというのなら、迷わず あの子の元へと急ぐ そうして しばらくした後、ようやく目的の人物を見つけ出した。しかしどうにも様子がおかしい。その人物はどう見ても私の大好きな人ではなかった。だけどどう考えても知り合いであるはずだし、だからといって他人のふりをしているというわけでもないのでしょう。その様子は明らかに不自然だし。

そしてその人と話している最中に、その人はこちらを見てきたかと思うと突然私の事を抱きかかえて走り出した。いきなりの事で戸惑ってしまったけれど、抵抗せずに抱きかかえられておいた。

そのお陰で何とか追いつくことが出来、そのままお店の中に入り込んだ そしてその男はなぜか私達を見て唖然としているように見えた。そして次の瞬間 その男の人は突然笑い出した その男の行動に対して特に警戒をする必要性を感じなかった為 私は何も行動をしなかったが、『あいつは一体何なんだ?』という思いだけが残っていたが それでもお兄ちゃんとのデートは続いて行くことになった ただ一つだけ問題があった。それは私自身がこの状況に全くついていけていなかった。何故なら私にはこんな経験は一度もなかったからだ こんな時にお姉ちゃんがいたなら相談をする事が出来ただろうが残念ながらここに居る人間は私とあの人しかいないのだ 私としては正直あの人の事が気になっていたがどう接していいのかが分からずにただ見つめていることしか出来なかった そして見られていることに気づいたのか彼は再び話しかけてきた

『おい、そろそろいいか?さっきも言ったがこっちにも事情があるんだ。お前らが何でここに来たのか、その理由について話すんだったら俺の言うことを素直に従うと約束できるのであれば 説明をしようと思うんだが それで良いか?さすがにお前らが俺に質問をしたくたって出来ることなんかねぇだろ。だから俺に質問をする権利くらいはあると 思うんだが違うか?俺が質問をするから答えるっていうルールはどうだ。それともまだ納得できねぇか。まぁ、仕方ねぇとは思うけどな。なんたって俺達は出会ってまだ間も無いんだから。お互いの事を信頼しきれてないのは当然の事だ。だけど 俺達が一緒に行動するためにはお互いに腹を割って話した方が良いと思ってな』

私は彼が一体どういうつもりでそんな提案をしてきたのかよくわからなかった。私達の関係性はそこまで深くはない それに私がお兄ちゃんのことが好きだという事を彼に伝えても、彼との間にはさほど関係は無いように思えた だが そんな考えは甘かったのだと 直ぐに知ることになった その人はとんでもないことを口走った。『俺に好きな女がいるとか言っておきながらこんなところに来るとか どういう了見だよお前。お前は俺の女になりたいんだろ? だったらまずはその願望を口にしろよ。俺がその要望に応えるかどうかの判断基準はそれだから 別に口にしなくてもいいってわけじゃねえんだぞ。それとお前が好きなのは兄貴だっけ?じゃあそっちの兄貴の方は諦めてもいいのかよ』などと、とんでも無いことを言ってきた。確かに 彼の言葉の意味を考えると私の願いを叶えることは難しくは無いのかもしれない。しかし、いくら何でも早すぎるのではないかと思った。だって私はまだ彼の名前さえ知らないのに だからとりあえず その件については保留することにした。そしてその人は私と会話をしているうちに段々と興味をなくしていっているように見える。私としては彼の態度が少しばかり不満に思えるが だけどそれも当然のことなのかもしれない。この世界では 私のような幼い容姿を持つ少女には性的な関心を抱く者は少ない。

この世界で私ぐらいの歳の少女は結婚の対象にされやすいのは確かだ。だから私みたいな子供っぽい容姿を持った女の子を 自分の物にしようとする者はそれなりに多いのかもしれない そして私は この世界に来てしまった時点でこの世界の人々には狙われやすくなるのかもしれない。だとしたらやはりこの人と一緒だと 私自身の安全も脅かされてしまう。だけどお兄ちゃんと引き剥がされた場合私はお兄ちゃんの元に帰る方法を探すことすら困難になってしまうのだと思う。そしてお兄ちゃんが居なくなった世界なんて想像すらしたくない。だとすれば この人のことをどうにかしなければいけない。その前に一応 お兄ちゃんとこの世界についての話し合いはしておくべきなのだろうか 私は彼に『私のお願いを聞くつもりがないのなら私はあなたについて行かない』と言ってやった 私は嘘は付いていない。なぜなら私はその人のことをほとんど信用していないのだから 私はお兄ちゃんのことを考えているだけで幸せな気分になれる だからお兄ちゃんと一緒に居られればそれ以上は何も望まない だけどこの世界の人達はお兄ちゃんのことをまるで神様のように崇めている お兄ちゃんは優しいから皆の期待に応えようとする だけどそれは間違っている。そもそもお兄ちゃんは普通の男の子なのだ。誰かを好きになったり、誰からも愛されたり そういうごく一般的な男子学生だった だから私と一緒に居られる時間を邪魔するのだけはやめて欲しい。だけどお兄ちゃんがそれを望まなければ話は別。私と一緒に過ごすことが楽しいと少しでも思ってくれたのならば私もお兄ちゃんのことを最優先にしてあげられる。私はお兄ちゃんのためだけに行動することが出来る そんな訳でお姉ちゃんの言葉を思い出して私はお兄ちゃんにこの異世界についての説明を求めることにした

『この世界の名前は「アティス」。魔法という力が存在して科学はあまり発達していない。魔物も存在していて、冒険者もいて。だけど基本的には平和な世界。だけど最近、この国の中で反乱が起きる可能性があると言われている 』という事を教えてもらった。

そこで私はこの異世界がどんな場所なのかを知ることができたが、それと同時に私の中にある疑問が生まれた どうしてこの国は内乱が起きそうになっているのか それがとても不思議だった。だけどお姉ちゃんは何か知っているような気がする それにこの国がどうなっているかも分かった。だけど、そうなると今度はお兄ちゃんがどうなっているのかが分からなくなってしまう。

『お兄さんは今どこに居るか分かりますか?』そう聞いてみると

『あの人ですか?あ~あの人は多分今はもう死んでいると思いますよ。いやまぁ死んでるんですかね 生きてるかもですけど。あれ?どうなのでしょうか。とにかくま あの人は貴方が考えているよりもずっと大変な思いをしていると思いますよ。貴方が会いたいのであれば探してみることも出来なくはありませんが その場合貴方はこの先、生きていく事が非常に難しくなるのではないでしょうか。私から言えるのはこれくらいですね。何か質問が有ったら受け付けますよ』と言われたので

『私達はどういった目的でこの場所に来たのですか?』という事を聞いた。すると彼女はその質問に対して 特に動揺する事も無く答えてくれた。それは彼女が本当に何事にも冷静に対応できる人間なんだという事を物語っていた

『えーっと、そうですね。この国に起こっている問題を解決するため とだけ言っておきましょうか』という事だったのでそれ以上のことを聞くことは出来なかった そしてこの世界の歴史についてもある程度知ることが出来たが、あまり収穫は得られないまま、結局この日は何も分からないままに終わってしまった 今日もまたリゼに会うことが出来なかった。一体僕は何をしてしまったのだろう そしてこれからどうするべきなのか それを考えていたが、やはり良い考えは思い浮かばなかった。だけどそんな時に ふと 思い出した リザと最後に会った時に リズが僕の元から居なくなるんじゃないかって思った事。そしてその時、その事を止めることが出来なかったという事、それから僕自身もその状況を変えようとはしなかったという事に。つまり、これはある意味では 自業自得ということなのかもしれない。だけど それでもこのままリズを失いたくは無かった だって、今の状況はおかしいのだ。もしこれが普通に恋愛をしていてその結末なら何も問題はないのに なぜリズと引き離されてしまうのだろう。それに、リズの方は大丈夫なんだろうか。あいつに変なことされてたりとかしないだろうか。

そういえばあいつ この国の王子だと言っていたが一体この国の王様は一体どうなってしまっているんだ。

こんな状態を放っておいて平気だと思っているのだろうか そもそもなんでリズはこんなところに来てるんだよ この世界に来る前のリゼの話を思い出す。たしかに あいつには好きな人がいてそいつと結婚する為にこの世界にやって来たとか何とか言ってたが。あいつにはもっと違う選択肢はなかったのかと思う でも考えてみれば リザがあいつに恋心を抱いているのであれば、あいつの元に行こうとしたところで何も不思議なことはないんだが。それにあいつの言うことが正しければ その好きな相手というのが僕だったという可能性もあるのかな。だけど それはあり得ないよな。仮にリズに想いを寄せていたとしても あいつはおそらく僕のことをただ利用したいだけなはずだしな しかしそうなるとやっぱりあの時の言葉を信じておくべきなのか? それとも他に可能性としてあり得るものは 僕自身が知らない間にあの男と入れ替わってしまっているパターンと、リゼが既に死亡しており リズがその事実を知らないってことか。どちらにしても、リゼと会う必要がある。それにはやっぱりリズに聞くのが一番なのかもしれないな 僕はとりあえずリズに会いに行くために部屋を出る。だけどそこに待ち受けている光景を見て僕は驚愕することになる この屋敷にはたくさんの人が働いているようだ。しかもこの世界の人達はみんな この世界では見ない服装に身を包んでいた。それだけじゃない この世界には存在しない武器のようなものを手に持っている者もいた。そんな連中が何やら忙しそうにこの建物の中に入ってきた だが、そんな奴らのことは気にせず。俺は急いでこの建物の奥に向かう。

さすがにここまでの施設だ さすがにこの辺りに来ればリズの部屋にたどり着くことができるかもしれない。そしてそんな淡い希望を抱いて歩いているのだが さっきから何回か人とすれ違っていてその度にその視線はこちらに向いてくるのである。そんなわけだから 周りの人間は全員敵だという気持ちを持ちながら警戒していた そしてようやくたどり着いたその先で、その男は待っていた。『やあ また会えたね。この世界で君に会うことが出来てとても嬉しいよ。それとごめんなさい。急に君の前から姿を消したのは悪かったと思ってるよ。でもこうするしかなかったんだ。この国は今 かなり危険になっていて 下手したらこの国から出られないどころかそのまま殺されてしまう可能性も十分に考えられる状態だった。それで仕方なく私はここから離れて旅をすることにしたんだ。この国に居ると色々と大変だったから 』と、そう言ってその人は この場に現れた。その人は相変わらず爽やかな表情を浮かべていてその瞳は真っ直ぐに私のことを見つめていた だけどこの人は この国の人なのかもしれないけれど、だからと言ってこの人を信じるかどうかという話になると話は別になる。もしも この人の言っている事が本当だった場合、私達はどうなるのだろうか。だけど少なくとも、お兄ちゃんの身に何かが起きているのだけは確かなはず だけど私がいくら聞いても 彼は自分のことについて詳しく話すことは無かった。それはきっと 彼自身も私達と同じ状況に陥っているのかもしれないとそして 彼が話さないのであれば 私は彼に協力するべきなのではないか?と考え始めていた。だけどここで私は一つの疑問を持った それはこの男が何故、私達に近寄ってくるのか。ただ私達の力になりたいという理由ではなさそうだ。この国で内乱が起きるなんて話を私は知らなかった つまり、内乱が起こる可能性があるというのはこの人の嘘だった可能性が高いということになる。ならば どうしてそのようなことをするのか、その理由がどうしても分からなかった。この人はいったい何を企んでいるのだろうか そう思っていると 私の頭の中ではある言葉が浮かび上がっていた

『あの子はとても可愛いですよね』この世界に来てからはリゼとは一度も連絡が取れていない。そしてこの世界の人は私達が居なくなっても誰も気が付かないだろうから恐らくあの二人はどこかに隠れて生活しているはずだから、その生活のためにお金が必要になってきて困っているのではないだろうか?ということだ

「あなたは私の妹を助けたいんですか?」私は聞いてみた

「君はお兄さんがどうなっているか知りたくないかい?」と逆に質問をされたので、素直に答えることにした

「はい、私はお兄ちゃんがどうなったのか心配で仕方がありません」すると彼はニヤッっと笑って

「ならば私と一緒に来てみないか?今、この国は非常に危険な状態に置かれている だけど 私と行動を共にすれば君の願いは必ず叶えてあげる事が出来るだろう 私はこの国の王子でね。君のような可愛い子を悲しませるのは心が痛むから助けたいと思っているんだ 」そんな彼の誘い文句を聞いて 私は完全にこの男についていくことを決意したが 一つ この国について不安な点があるのでそこについて尋ねることにする。「もしかしてですけど。貴方の目的は私を利用してこの国で革命を起こすつもりなんじゃ無いですか?もしそうであるなら私は協力するつもりは無いです 」「あははははっ、確かに私は君を利用しようと考えているよ。だけど安心して欲しい。この国は腐っている。この国に居たら この国が崩壊する未来が待っているだけだ。それに君はお兄さんを助け出すことが出来たのならもうここに居る必要は無いのだろう。そうだろう?なら別に良いじゃないか この国はもう終わりだよ。君のお兄さんの事は本当に悪いとは思ってるけど、まぁ仕方が無いよね。君も 妹が危ない目に遭うよりはマシだと思うよ?まぁもっとも この国がどうなるかについては君は何も心配する必要は無い。だって私が君を守ってあげるからね」そんなことを言われても 信用できるはずもなく 私はその場を立ち去ることにして その男から逃げることにした。

(ああ、やっと 見つけた これでようやく、この地獄から抜け出せる)リゼはそう思った しかし彼女は知らなかった 自分がどれほど恐ろしい人物に捕まったかと言う事に リゼは今まさに その男によって連れ出されようとしていた

『ねぇ、リズ 一緒に行かないか?』そう言って手を差し伸べてくる男の事を彼女は知っている だが、彼女がこの世界にやってきて最初に出来た友人でもある 彼女は、この男のことがあまり好きではなかった なぜなら、彼女がこの世界にやってきたのは、全て 彼女の意思によるものではなく、何者かの力によるものであるからだ 彼女が元々住んでいた場所に突然現れ 彼女が元々過ごしていた環境を変え そして彼女を誘拐していったのが、他でもない その男であった。

そんな彼にリズと呼ばれたその女性は、この世界に連れてこられてからの辛い経験の数々を思い返し この世界での出来事を脳裏に浮かばせた その記憶の中には 自分にとっての大切な存在であり、誰よりも大好きだった ある少年の姿があり、その思い出は 彼女にとってはかけがえのないものであった。そしてそんな大切な思い出の中に出てきた 大好きなその少年の名前をリズはその少女に向かって口に出した その言葉を口にしたのはいつぶりのことなのだろうか

「リゼ!リズだろ!?なんで僕を置いて一人で勝手に消えちゃうんだよ!」その言葉を聞きながらリゼは自分の置かれている状況を冷静に分析し、目の前にいるその男の子の感情を読み取ることにした

「なんでお前は僕のことを見てくれないんだ!僕が話しかけているのになんで無視をするんだよ!」僕は必死に叫んだ 僕は、リゼがこの世界に来た時から ずっとその近くに居ることが多かった しかし僕はある日 いつものように彼女と会話している時だった。僕は、つい勢いで 彼女のことを怒鳴りつけてしまった。しかしリゼはすぐに、謝ってくれたが そのあと僕達は 喧嘩になってしまった。リゼは 僕が彼女に恋心を向けていることを知っているのに、それでも僕のことを弄ぼうとしているように思えて仕方がなかった でもその気持ちは分かる 実際 リゼの方は、僕の事が好きだったんだろうし だけどその気持ちを押し殺していたのかもしれない そして この日をきっかけに 僕の初恋が終わった。その後 しばらく経って 再び僕たちは再開する。

僕とリゼはお互い 同じ時期にこの世界にやって来ていた。僕たちが出会ってから数日ほどは二人ともこの世界のことで右往左往していたが リゼは持ち前の明るさもあってすぐに友達が出来ていた。しかし僕は その時にはまだ リゼと仲良くなれてはいなかった その頃は 僕自身も、自分のことで精一杯になっていたし、何よりもリゼに話しかけて拒絶されるようなことが怖いという思いもあった そしてそのまま リゼと会うことが無くなって数週間が経ち 僕は自分の固有能力に目覚めた。この能力は、他の人に知られないようにするためにも、この力を使うことに決め、僕はそれからは誰にも見つからないように行動することに決めた そんな時に出会ったのが この男だ。こいつはこの世界に来る前から僕のことを知っていたらしいが 僕は知らなかった。そんな男との出会いは あまりにも最悪で だけど 結果的に この男と出会ったお陰で、僕は、今の幸せを掴むことができた そして、リズのことも どうにか助けてあげたいと考え始めていた

『リズ 一緒についてきてくれるかい? 僕と一緒に 君と あの子を 助けてあげよう 君たち兄妹がこれから先の未来をどう生きるのか決めることが出来るように』リゼと、そしてその兄であるアルフォンスは 二人で一つの国を作るつもりだった そのためには リゼが女王となり、それをサポートするための優秀な人材が必要で、その役目を任せるために、リゼの兄に目を付けていたのだが そのリゼの思いとは裏腹に その男がリズにプロポーズをした。その時の 彼女の気持ちを考えてしまうと、心が苦しくなった

「お兄ちゃんと約束したんです。私とお兄ちゃんで、この国の人たちを助けるって、私、本当は怖かったけれど お兄ちゃんと会えるのであれば、頑張れる気がしました。でも、私はもう二度とあの頃に戻ることはできない あの頃の楽しい時間はもう、私には戻らない だから、私は、貴方と行くことは出来ないです。ごめんなさい」リゼは 涙を浮かべて そう言った。すると男は リズに向かってこう言った

「君を泣かせるつもりは無かった。すまない。私はどうにも人の心の痛みという物を感じられない人間らしくてね。君は私のことが嫌いだろう。それなのに 君ともう一度話をしておきたいと思ってしまってね。許して欲しい。君達二人の仲を引き裂いた罪がある以上、私はどんな手段を取っても 君たちを救って見せる。安心してくれ。私は絶対に 君の願いは叶えるから」そう言って 彼はその場から去っていった リズをこの国から救い出すことに失敗した俺は

『剣聖』から逃げながら リゼの行方を探し回っていた しかし俺はこの国の王だ。いくら俺でも、俺自身の力で この国の人達を救うことは 難しい。そこで 俺の代わりに国民の救済にあたってくれる人を探していた

「おい、あんたら。少し時間良いか?」そう呼びかけたのはこの城の中で働いているメイドと執事さんだ。

「あ、王子。お帰りになられたのですね」二人は驚いた様子を見せた後で返事をしてくれた

「ああ、ところで頼みたいことがあるんだ。ちょっといいか?」と聞くと、彼らは嫌がる素振りも見せず 笑顔で了承してくださった「それで王子 私たちに頼みたいこととはなんでしょうか?」「実は リゼを探していてな リゼを見たら、どこにいるのかを教えてくれないか?」そうお願いしたら、二人が微妙な表情で固まっている やはりリゼを見つけるのは かなり困難なことのようだな。だけど、この国の状況的に そんな事を言ってはいられないからな。それに、もし この城のどこかに、あいつがいたとしても この国の状況では、まともに生活できているとは考えにくいから、この国から出ていく可能性は高いはず。

「分かりました。ですが 私達にもあまり余裕が無いのですよ。なのであまり協力はできないと思います」まぁそれもそうだよな。俺もこの国を救うためならなんだってやる覚悟は出来てるつもりだし。

まぁまずはリゼを見つけないことには何も始まらない リズの捜索も この国に潜んでいる反逆者たちの動きを止められるのはリゼだけだしな。

リゼを探す方法だが 正直なところこの方法は取りたくなかった。だけど他に方法が無いならしょうがない。俺の力を全開放して探してみることにした その結果は予想以上に早く分かった。なんとなく リゼの存在を感じることができるのだ。

しかしリゼの居場所までは特定できず とりあえず その場所に向かってみることにしようと思った時だった 目の前にリゼが現れた。「やっと見つけることができたよ リズ 会いたかった」「えっ、あっ はい 私も会いたかったです。それに、ありがとうございます。こんなにすぐに見つかるなんて」彼女は本当に嬉しそうな顔でそう言った どうやらリゼの方は この国がどういった状態なのかを知らないみたいだな。

まぁそれはそうだろう 彼女は、ずっとあの男の手の内に居た訳だから 何も知らないままこの世界にやってきたはずだ。そして今から俺のやるべきことをやろう。そのためにはまずこの城の中から抜け出さないと この部屋から抜け出せたは良いが、その先に待っているのが更なる困難の連続だとは、この時の俺はまだ 気づいてはいなかった。

この部屋から抜け出した俺とリズが向かった先は城下町の近くにある森の中にある大きな洞窟であった。この場所を選んだ理由は、リゼの存在がここから近いと感じたからである しかしここで問題が起こった この場所にたどり着く前に、この城を抜け出したことがバレてしまったのである どうする?リゼは見つかったので一旦戻ってこの国を何とかする方法を考えるべきか?そんな事を考えていた時だった。

「あれ、リゼ様じゃないですか 今まで一体どこに行っていたんです?」「え、あの 私、貴方達のこと覚えていません。貴方達が誰かも分からないし、どうしてここに居るのかもわかりません。」

その言葉を聞き リズの方は 困惑しているようだが それよりも問題は、リゼが記憶を失っていることに対してだ まさか、このタイミングで記憶を失うなどと言うことが起こるとは想定していなかった リズが、この場から逃げ出す為に記憶を失わせたのか、あるいは リズの魔法によって 記憶を消されたのか、どちらにせよ、現状 リゼが敵側に付いたと考えるのが一番自然だ。

(くそ なんでリズの記憶を消しやがったんだよ。リズは、こいつらは お前の大切な友人なんじゃないのか!?)俺は怒りの感情を抑えながらリゼに話しかけようとしたその時だった この洞窟の中から突然巨大な炎の槍がこちらに向けて飛んできたのだった。そしてその一撃により 俺たちのいた場所に、小さなクレーターができてしまった。そしてその奥から出てきたのは『魔帝』の姿だった

「あら?なんで『魔剣士』ちゃんが此処に居るのかしら?ここは貴女が来るべき場所では無いと思うんだけど、それとも私がこの子達を殺す前に助けに来てくれたのかな?まぁどっちでもいっか

『勇者』、『聖剣使い』の片割れ。この二つの称号を持つものは 殺す。この国の為に死んでもらうわ」

『『勇者』?ふざけんな! 誰があんな奴に称号なんか渡すもんか。あいつには リズを助けてもらうために、『勇者』の称号を与えた。しかし、今のこいつにリズを託すことはできないな。ならば俺の手で始末するまでのこと)「リゼ 俺の後ろに下がってろ」リゼに指示を出してから、俺は戦闘態勢に入った。すると相手はすぐに動き出した その瞬間 リゼが一瞬にして姿を消した。そして次の刹那には 相手の腕が吹き飛んでいた。どうやら、俺が教えた剣術を使ってくれているようで、一安心だ。これで リゼが殺されずに済む

「へぇー 私の右腕を切り落として逃げるつもりなんだ?そんなんじゃ甘いのよね。でも、流石『魔族殺し』と呼ばれるだけはあるのね。今ので殺せると思って油断してたけど、これは少し手強いかもしれないわね」そう言うと『魔神』は切り落とした腕を元に戻した。それを見たリゼの顔が真っ青になっている「う、嘘でしょ。ありえない、だって、そんなのあり得るはずない」どうやら、彼女にとっては相当予想外の出来事らしく、動揺しまくりだ。

俺は、リゼが殺されると思い焦って飛び出して行こうとしたが、リズの方に視線を向けるとそこには 剣を振りかざした姿があった。そして剣を振り下ろした。俺は、彼女が『魔王剣 闇ノ衣(ダークローブ)

』という技を使っているのだろうと思った なぜなら あの黒いモヤの斬撃を放つからだ しかし彼女の剣にはそれが無く、そのまま『魔神』の腕を切り裂くことに成功していた。その事実に一番驚いたのは彼女自身だった「あり得ない。なんで。私の攻撃は あの人の攻撃をも打ち消すことができた筈。なんで。こんな簡単に倒されちゃったんだろう?」彼女はそう言ったあとでその場に膝をついて倒れ込んでしまった。どうやら 限界が来たらしい。彼女の体力はかなり少ないようだった。このままでは危ないだろう。そこでリゼに向かって 声をかけることにした「おい 起きてっか?」と聞くと、意識はハッキリとしているらしくて しっかりと反応してくれた。そしてリゼの体調を確認した後に俺は彼女をおぶさって この場所から離れることにした 俺達はその場を離れ この国から脱出することに成功したのだった しかし この国はもうダメなのだろうな。リズを救えただけで良かったと思うしかないな。とりあえず俺の城に戻らないとな。リゼのことを皆に説明しないとな。そんなことを考えつつ、帰路に着いたのだった 〜城にて〜 俺がリゼと別れた後すぐに『大賢士』と連絡を取ってみたのだが どうにも様子がおかしい 何かを隠そうとしているような素振りを見せている。しかし ここで引き下がる訳にもいかない。

リズのことについて報告をしたのだ。しかし

「その件につきましては、私からは申し上げることはございません」と言って話を逸らせようとしてきたので、「おい待ってくれよ どういうことだ。リゼが大変な目にあっているのかもしれねぇんだぞ!」

「いえ 大変だと仰いますが、リゼ様には記憶がございます。そしてそのリゼ様が今現在どこにいらっしゃるのかをお知りになりたいのですよね?」そこで俺は大きくため息をついた。なんでこいつはこうも頑固なんだ。まぁそんな事はどうでもいい。

とりあえず 今はリズのことが心配なだけだ そんな感じで言い合いをしてるうちに 向こうから通信を切られてしまった それから 城の中を探して見たものの見つからなかった 俺に居場所を知らせる訳が無いし リゼはリズと違って 隠密能力に長けているわけじゃないしな。仕方ないので一度 自分の部屋に戻ってきた時だった リゼの匂いが部屋中に立ち込めていて その部屋の中にリズが座っていた。「えっ ちょっと なんでここに?っていうか どうして俺の部屋を知っているんだよ」そんな質問に対しての返答が「ふふんっ 私に知らないことなんてありません。あなたの全てを知ることができるんです。だからあなたをずっと探していたんです。ようやく見つけることができました。やっと二人っきりになれました。もう逃しません。私だけを見てください。」リゼがいきなりとんでもない発言をし始めた それに なんだよこの雰囲気 なんか やばそうなんだけど。そう思ってたら案の定リゼが暴走して襲ってきた。なんとかしてその攻撃を受け止めたが、どうやらこの子 めちゃくちゃ強くなってやがる。そう思い 一旦距離を取ることにしたが、やはりリゼの方が一歩上手で距離を詰められてしまう。

そこでリズの方を見てみると、なんとそこにリゼはおらず そのリゼが、俺の背後に立っていた。そして俺は、背中に強烈な一撃を食らい、気を失ったのだった。そして目が覚めた時には既にリズの姿はなくなっており 俺だけが取り残されてしまっていた 一体全体何が起こったんだ?そしてあの時、俺は 確かにリゼが放ったと思われる一撃を喰らってしまった。なのに なぜ 俺は生きているんだ?普通に考えたなら 俺が死ぬはずだ しかし 現実は違った。俺はなぜか生きていた それも、傷すら無く無傷の状態なのだ これはどう考えても異常である だが、あの時のリズの動きと あの攻撃が、リゼのものだとするならば、彼女は『神速』と『影分身』を扱えるようになっているということだ 一体どうすればそこまで成長することができるのだろうか 疑問に思うが しかし答えなんて分かりきっている。それは俺の愛の力である。つまり 俺は、リズを愛し続けたことで 彼女に新たな可能性を生み出してくれたということなのだろう。

(だが 問題はどうやって リゼを探すかだよな)この広い大陸から人一人を探し出すというのはかなり難しい話であった。

しかし俺はこの時ある一つの考えが頭をよぎった

『念会話』だ あの時リゼは俺の頭の中へと直接語りかけてきた ということはだ、俺も同じような事ができるのではないかと思い 試してみることにした。

(あぁ聞こえるか?)俺の問いかけに答えるかのように頭の中にリゼの声が響き渡ってくる 成功だ そして俺の方から、この世界のどこかにいるはずのリゼに対して話しかけてみる

(リズなのか? 返事してくれないか?)俺が呼びかけると 今度はリズの方に声が届いているらしく、

(あっ聞こえているみたいだね。まさか本当に私のことを認識できる人が居たなんて、嬉しいな)その発言に対して俺は違和感を覚えていた。

(ん?どういう意味なんだ。君が俺に会いに来たんじゃないのか? そもそもなんで急に現れなくなったんだよ。今まで何をしてたんだよ)俺の問いに対してリゼが回答を始めた

(私が、あなたの前に姿を表さなかったのは、私の存在がバレちゃうかもしれないと思って、怖かったの。私がこの世界に現れることで、あなたや皆に迷惑をかけてしまうのではって思ってしまうから。だってそうでしょう?私が突然現れて、みんな混乱しているはず。私はこの世界には存在しない人物。だけど私がもし存在していると知れたらどうなるかわからないの。だからなるべく 私は存在を知られないようにしていたの。そしてこれからは少しずつみんなの前に姿を見せていきたいと思っているの。それで許して欲しいかな。あとね さっきの質問についてなんだけど、私が現れなくなかった理由は簡単。

あなたのそばにいた方が色々と便利そうだしね。でも 一つ問題があるわ 私があなたの前に現れたのはいいけど 今のこの状況で私があなたの前に現れたことで、周りの人達や、私達以外の勇者がどういった反応を見せるか全く予想できないの。

もしかして警戒されるかもしれないわ。それを考えるだけでも怖いわ)

なるほど そういうことだったのか。俺はてっきり 俺との別れが辛くて、会えなかったのかと思っていた。しかし 実際は、そんな理由だったとはな。そして どうやら俺の勘違いだったようだ まぁ別に 彼女が俺の元を離れたからと言って、特に寂しいとかそういった感情は無かった。彼女は 俺の妻ではない あくまで契約で繋がっていた関係であり、ただの協力者のようなものだった。なので正直 彼女と俺の間に絆のようなものはあまり生まれていなかった しかし 俺の心の中では彼女の事を思っていたのかもしれないな 俺は、そんなことを考えていた リズが俺の前から離れようとしなかったのにはこんなにも複雑な気持ちを抱えて悩んでいたというのもあるんだろう。しかし そんな彼女だからこそ 愛おしいんだろうな。そんな事を思いながら 俺とリズはお互いが出会った頃のことについて話し合っていたのであった。しかし、俺はリズに対してまだ 聞いておきたいことがあったので、話を途中で止め 彼女に疑問を投げかけた。それは

「どうして俺のことを見つけ出せれたんだ?」と。そうすると

「それは 私があなたの『運命』を視ることができたからよ」

「運命を?」そう それだ。その単語を聞いて 思い出したことがある リゼに初めて会った時に聞いた気がしたのだ 確か その 俺達の出会い方も運命だと。そしてその 俺とリゼとの出会いは俺の記憶の中で鮮明に覚えている。リゼに「貴方の運命を書き換えます」と言われたのと同時に 俺はこの世界に呼び出され この世界で魔王を倒してほしいと頼まれ、この国のために戦い リズと出会ったのだ。そのリズは今 目の前で俺と対面しており、彼女は、俺に抱きついて甘えてくるような行動を取っていた。まるで子供のようで可愛らしい。そして俺自身も 彼女の事を抱きしめていた。そんな幸せを感じていたのだが ふと 思った 彼女は、一体何歳なのだろうかと。見た目的には俺よりも明らかに若い。それに俺を呼び出したときから かなりの月日が経過しているというのにも関わらずに、その容姿に変化がない。そう まるでリゼの体は時を止めてしまったかのような感じなのだ。

そのことについて質問しようと思い、リズにそのことを聞いてみた

「お前はさ、一体いつ頃から生きているんだ?それにさ、どうしてそこまで若さを保つことができるんだ?」そう聞くが

「私ですか?私はね 今で丁度200才くらいですかね。この世界に召喚されてからずっとこの姿なんですよ。そして、なんでこの姿でずっといるのか ってことですよね。そんなことは簡単なことですよ。私は不老なんです。まぁ簡単に言えば、死ななきゃ年はとらないみたいなもんですね。ちなみになんですが、私に寿命というものは存在しません」そんな爆弾発言をされてしまった。

俺は 驚きすぎて開いた口が塞がらなかった まさかリズに年齢が関係ないだなんてな いやまてよ じゃあどうして 俺は リズが200歳で、俺よりも早く死んでしまったのか そしてその疑問を解決するために 俺は、リズにそのことを尋ねてみることにした まず最初に気になったのは リズの体に流れる魔力が尋常じゃなかった。そのせいかリズからは圧倒的な存在感を感じる。俺はリズがどんな魔法を使うのか興味があった。俺は リゼに魔法のことを尋ねた。

「リズはさ、一体どんな種類の魔法を扱う事ができるんだ? 俺は気になってしょうがなかった。俺とリゼが出会って以来 リズはずっと一緒にいたが、リズに使える属性を聞けずじまいでここまできた。しかしリズの扱う魔法がなんなのか すごく知りたかった。リゼは「うーん 私に使えない属性なんてありませんし、全部が扱えると言った方がいいかもしれません」そう言って リズは俺の問いに対して答えを出した。その答えは俺の想像を超えるものだった。

(リゼってさ、全種類を使うことができるのか?)俺は恐る恐るその質問をぶつけた。そして リゼの返答に俺は絶句するしかなかった リゼは「うん 全て使えます。だって私の魔力量が多すぎるんです。そして 私が扱うことのできる魔法の全てがこの世界で最も強力と言われているものばかりだから、ほとんどの敵は一撃で倒せるの。私を倒すためにはかなり苦労が必要だと思うわ。まぁ私の攻撃を全て避けることができたらの話だけどね。私の攻撃は広範囲に渡って攻撃することができる。もちろん攻撃範囲も広くできるわ。あと、私の使う『聖魔剣』は、全ての物理耐性を持っている。つまり どんな攻撃をされようとも、私の体に傷をつけることすらできないということなの。だから 安心してちょうだいね」

(マジかよ!この人 本当に人間なのか?)俺の知っている人間は、魔法があまり得意ではなく 基本的に遠距離での戦いが主流となっていた だが、リゼの場合は違うようだ。近距離での戦闘を好むのが彼女のようだ。そしてリゼの言葉を信じられない俺は試すことにしてみた。そう リゼが言った言葉の真実を確かめるべく、俺はリゼに向けて手を伸ばし『火球』を発動して、攻撃を仕掛けた。そして俺の掌から 直径3メートルほどの巨大な炎が出現した。

「嘘だろ!?これが俺の放った攻撃なのか?リゼに当たる前に消えちまったぞ!」

(やっぱりそうだ。リゼの言う通りだったな。リゼはこの世界に存在するありとあらゆる物質を消滅させるほどの力を持つみたいだ)

「だから言ったじゃないですか。この世界にある全ての魔法を使うことができる。ってね」と笑顔で言うが その発言があまりにも衝撃的で信じられない俺は、もう一度試してみることにして 次は、『闇球』を放つ。この闇の玉もリゼは片手のひらに作り出した。すると今度は、黒いオーラのようなものが球体の形に纏わり付き、そして俺の放った『闇弾』はリゼの手の中に納まり そのまま握り潰したのだった。

「こんなこともできるんだぜ ほらっ!」そう言って俺に何かを投げたような動作をして見せた瞬間 俺の視界から リゼの姿が忽然と消えたのであった。そして数秒後 俺は背中に激痛を感じ 倒れ込んだ

「な、なんだよ これ、、なにも見えないし、、それにこの痛み、やばいかもしれない、俺 死ぬかも」俺はそう思ったのと同時に意識を失った。

**リズは自分がしたことに対して驚いていた

「私ってば やっちゃったのね。私ね、初めて人に怪我をさせちゃった。私って人を傷付けることに躊躇が無いって思っていたけど違ったみたいね。私って 結構 弱いみたい。でもね あの人が居れば私はもっと強くなれそうな気がしてきたの。ねぇ、貴方がもし生きていて私と戦ってくれると言うのなら その時は必ず全力で戦うから 待っていて欲しいかな。あと これからよろしくね。これから私が死ぬまで 永遠に 私が愛してあげるから」

リズは倒れたまま動かない勇太に向かってそんな言葉を残し 姿を消したのであった。

そしてリズはその後、俺の前に姿を現すことは無かった。

**「はぁ はぁ やっと終わったか」俺は息も絶え絶えになりながら地面に横になっていた

「なに言っているの あなた もう限界なんてまだまだ早いわよ。これから私達には沢山試練が訪れると思うの。そんな時に自分の体が動かなかったなんて事になったら、困るのはあなたなんだからね。それにあなたが戦える状態かどうか 私達では分からないから、常に警戒心を持ちながら訓練を続けて行く必要があるの。わかったら 立ち上がって続きをするわよ」と、そんな言葉を言われてしまった そして俺達は リズとの死闘を終えた次の日から 毎日 リゼの相手をすることになってしまった。しかし、そんな地獄のような生活の中でも俺の心には余裕があった。それは、リズとの会話が楽しくて リゼとの時間を幸せに感じていたからだろう。俺は この幸せな時間がいつまでも続けばいいなと思っていた。しかし現実とは残酷なもので、そうはいかないようだ。俺がリズの特訓を受けている頃 帝国内では 勇者が一人 また死んだという報せが届いたのであった。俺は この時 なぜその情報を手に入れたのかが理解できずにいた。俺は リズとの戦闘で死にかけていたのだ。そして俺の耳に入ってきた

「勇者がまた死んだ」その情報が俺の中で消化されるわけもなく ただ呆然としていた。

それから少し経つと 皇帝と謁見できる時間が訪れた そこで 俺はこの世界で起きていることについて話を聞いていた。そしてこの国に起きた出来事についても 俺はそのことについて詳しく聞こうと思った。そして勇者についての事も この国の人間であるならば 誰でも知っていることであり 俺も知っていたが一応、聞いてみることにした。まず 帝国の現状についてだ。この国は俺が来る前は 王国と帝国とで領土争いが行われていた 戦争が頻繁に起きていたのだ。そのことから 帝国民は 王国の事を快く思ってはいないようだった。それにこの国には奴隷制度があり 国民全員が強制的に労働を強制させられているのだと。俺が来なかったらどうなっていたのだろうかと想像すると恐ろしい限りだ。そして、そんなことをする国王のことが嫌いなようで、帝国内での俺の評価は とても高いものになっているらしい。次に リズのことを 聞いたのだが やはりこの国にいるということは知っているらしく、リズがこの国にいて俺と一緒にいる理由を尋ねられた。リズは「私がどこにいてもいいじゃないですか。私達が出会った時から 私はあなたのそばに居ると決めたのです。それに 私が居なくてもこの国が滅びるようなことは 絶対にありえませんからね」と言われたが その理由がよく分からなかったので、その答えを教えてもらうように頼むと、リズがこの国から出れない理由について話し始めてくれた。その答えはあまりにも残酷で、俺を絶望に突き落とすものであった。その話の内容とは――リズはこの国で崇められている神なのだと リゼは言った。つまり リズはこの国の神で 俺はその神の伴侶となったのだという 意味のわからない事実を聞かされることになった。俺はリズに 冗談を言うのをやめるように言い聞かせた しかし 俺が何を言おうがリゼは聞き入れる事はなく、むしろ嬉しそうにしている始末だ。俺は これ以上は無理だと思って諦めることにした。俺がこの国で生きていくためには リズの相手を続けるしか選択肢は無い。そう自分に言い聞かせて、気持ちの切り替えをすることにした。

しかし俺は、俺自身に起こった現象については未だに理解できなかった なぜ 俺は こんな場所に立っているのかが 全くわからなかったからだ。

(なんで俺、いきなり異世界に召喚されて しかも 魔王討伐のために呼ばれたの?俺 この世界の人間じゃないんだけど。いやいやまてまて 落ち着け。今は目の前のことに集中しなければ、俺がここに呼ばれた理由はよく分かんないが 魔王を倒せって言ってるんだ。とりあえず魔王を倒さなきゃいけないんだろう。よしっ!気合を入れ直した。さて、これから俺は何をしたらいいんだろう?そうだ! 確か 神様に会えるって言われたはずだ。なら 俺を呼んでくれた神様に事情を聴けば何か教えてくれるはず。それには 王様に頼めば何とかしてくれるって言ってたし とにかく 今は状況の確認をしなくちゃな。)

俺はそう考えて まずは王様に話をするために 城へと向かった。城の扉の前に立つと 兵士が出てきて、要件を聞いてきた。俺は正直に答えるべきか悩んでいるときにふと思い出した。

(あ!そう言えば、ステータスを開かなくていいとか言われてたんだった!うっかり忘れるところだったな!俺がそんなことを考えていると 兵士さんが話しかけてきた「お前は、一体誰の許しを得て城内に入ろうとしているのだ?」俺が慌てて返事をすると

「許可など取る必要はない!我は皇帝である!」俺の後ろから 凛とした女性の声が聞こえた。すると兵士たちが慌ただしくなり そして俺たちを囲むように動き始めた。そして 俺の眼前には豪華な装飾が施された服を身につけた 金髪碧眼の絶世の美女が現れた。俺は言葉を失ってしまった。なぜならば、あまりにも美しかったからだ。この女性は本当に人間なのか? 俺は見惚れてしまっていたが、なんとか言葉を発することができ この城に招待されたと伝えた すると、俺の返答を聞いた瞬間に、女性の表情が変わり 鋭い目付きになった。

「ほう、なかなか面白いことを言う男だ。しかし残念だが、貴様がここに入れるのはこの私の許可がいる」

「それはどういうことでしょうか」俺は思わず声を出してしまうと、女性が俺の方へ一歩近づいた瞬間、俺の周りに魔法陣のようなものが展開されたそして 魔法陣の光が収まる頃には俺は光に包まれていた

「貴様には今

『闇魔法』を使った。これで この私に逆らえば、どうなるかわかるであろう。もう一度言うが 私の許可無しでは ここには入ることは出来ないのだ。もし貴様が、どうしても中に入りたいと言うのであれば それ相応の対価を用意してくるんだな。例えば 貴様の大事なものを奪ってくるのも有りかも知れぬな」と笑みを浮かべながらそう言われてしまった。俺はこの言葉に少し違和感を覚えていたが、それ以上に『闇』という単語が気になり 詳しく話を聞きたかったが、話が進まないようなので質問するのはやめておいた。

そして女性は「もう行ってもよいぞ」と言い、俺は開放されたのであった。

俺は 城の外に出て周りを見渡すと、城の大きさは結構ありそうで、とても広い造りになっていた。しかし城は綺麗に手入れされており、汚れなどが一切無い。この国の王は かなりの金持ちだという事が見て取れた。

俺は、まず自分が何故この場所にいるかを疑問に思ったのと同時に 神様に呼ばれたことも思い出した。俺は神様から これから起こることや必要な知識を与えられるという説明を受けていたが それがどんなものだったのかを思い出して愕然とした。俺が受けたのは、異世界で生活するにあたっての知識だけであって、それ以外のことについては何も教えられていなかった。

俺は これから何がどうなっていけばいいのかがまったく理解できず その場に座り込み 考え込んでしまう。俺がしばらく思考の世界へと入っていると「おい、そこにいるお前」と言う言葉が聞こえたので俺は驚いてしまい、ビクッとして辺りを確認した。そして俺に声をかけたのは誰かが分かり 安心して声の主に顔を向けた その人は俺より10cm程背が高くて 赤髪のポニーテールでつり上がった瞳をしている。服装はとても派手な服を着ているのだが どこか清楚さを感じさせるもので、全体的にバランスのとれた容姿だ。この人が俺に声を掛けたみたいで 少しの間、お互い何も喋らずに見つめ合っていた。そして俺はその人の目を見ていると 何故かこの人には嘘を吐けないと感じてしまった。俺がそのことに困惑していると 彼女は口を開いた

「私は リゼ お前の名前はなんだ?」と聞いてきていた。俺が 自分の名前を名乗ると 彼女はなぜか俺の胸倉を掴みかかってきて、怒りを含んだ声で 俺にこう告げていた

「お前の素性について 洗いざらい話すんだな。お前は私のことを知らないと思うが 私は知っている。この国に無断で立ち入って生きていることを 私は後悔させてやるつもりだ。お前には私に 全てを教える責任があるのだ」と言って俺の頬に強烈なビンタをしたのであった。

俺はいきなりの出来事に頭が混乱していた。

この女はいきなり 俺に訳の分からない因縁をつけてきて 挙げ句の果てに俺に殴ったのだ。

しかし 俺はこの世界に来たばかりで右も左も分からず、そしてこの世界のことを詳しく知る必要があると思った。俺はその事を目の前の女性に伝えようと思い まずは自分のことを ある程度知ってもらうために 俺は彼女について詳しく聞こうと、話を聞くことにした。まずは彼女が何者なのか その情報を集めるべきだと考えた俺は彼女について色々と聞く事にする そして 俺は彼女と向かい合うようにして、彼女のことを見ていた。俺は最初に、彼女に名前を尋ねてみたが 答えてくれなかったので、次に 歳を聞いてみると、彼女は俺のことを子供だと思い込んでいたらしく「そんなこと聞いてどうするつもりなのだ?まさか そんなくだらないことのために 私に近付いてきたわけじゃあるまいな?」と言われて睨まれてしまった。俺はこれ以上、余計な事は言えなくなり この話題を終わらせようとしたのだが、彼女はまだ言い足りないようで、今度は年齢以外の情報を俺に求めるように話し始めた 俺はこれ以上、何かを言うことは危険だと理解したのだが、俺自身の事もあまり知られたくないので お互いに黙って、相手の話に耳を傾けることにしようと思っていた。すると突然 彼女は俺の肩に頭を乗せて、体を密着させて来た その行動に俺は戸惑っていると 俺に寄り添いながら

「お腹が空いた ご飯を食べる」と一言言って 歩き始めた 俺は戸惑いながらもついていくことにしたが 俺は彼女を何処に連れて行くのか心配になって来た。しかし俺がそのことを聞くと、無言のまま、ただ歩いていくだけであった。俺はこの状態が続くと思い 彼女に俺のことを教えてもいいと伝えるが、またもや 無視されてしまうのだった。そして俺は仕方なく諦めて ただ後をついて行った。そして俺達は城の門を通り過ぎて街の中へと入り、街を眺めながら歩いていると、俺は目の前の景色を見て驚いた。なぜなら そこは日本で見てきたような光景が広がっていたからである。俺は一瞬、自分が夢をみているのではないかと錯覚したが、俺が見たこの光景は決して夢ではなく 紛れもない事実であると確信した。そして、しばらく歩いたところで一軒の店に入った 俺が中に入るとそこには色々な料理があり この店のオススメの料理を聞いてみたが 俺がこの国に来たばかりの事を知った店員は「今日、うちの国に来られたのですよね?それならば知らないと思いますが この国の食べ物を食べればきっと病みつきになりますよ。だから、ここはこの店で食べるべきです」と言われたので俺はメニューを開いて値段を見たら結構高そうだったので注文をやめようと 思い席を立った。

そして俺達が店から出て行こうとすると 先程の 女性が立っていた。

そして俺は 女性に謝りを入れて、俺がお金を持っていないことを素直に伝えると 女性はため息をついた 俺はそんな様子を不思議に思ていると、女性は俺の手を引いて走り始めてしまい 気がついたときには俺は城の外まで出ていたのだった。

城から出た俺達はそのまま大通りに出て 人が少ない裏道に入っていった。すると 女性はある一点の場所に向かって歩いていたので俺は着いて行くことにした。しばらくすると、女性は足を止めたので俺もつられて止まると 女性の方に顔を向けてみると 俺達の前に一人の少女がいた そして女性はその女の子の前で膝をおり 手を組んで祈り始めたので その様子を見ていると、突然女の子の目から涙が零れ落ちていたのである。そして俺は何故 この子が涙を流したのかと気になったのと女性の行動が少し不自然だと感じていたので、もう少しよく見ようと前に踏み出すと、俺が足を踏み出した音で、二人は驚いてしまい、俺は慌てて二人の元へ駆け寄っていった。

俺はまず最初に 俺が来たことで驚かせてしまっていると思い

「大丈夫ですよ。僕たちは怪しい者ではありません。僕はこの人に 連れてこられましたが、決して貴女を傷つけるためにここにいるのではないのです」と言うと 女性は俺の話を信じてくれたのか「ありがとう」と言ってくれて、そして「貴方は誰なのでしょうか?」と俺の名前について聞いてきていた。俺は自分の名前で呼んで欲しかったのだけど、この世界に名前がないことを改めて実感してしまい、「僕の名前はユウです。それと 僕のことも気にせずに名前だけで呼び捨てにして貰えたらと嬉しいんですけどね」と笑いかけてみると、何故か女性は目を大きく開いていて固まってしまっていた。俺は何故、この女性がこんなにも驚くのだろうかと思っていると、女性が急に立ち上がって俺の頭を両手で押さえつけて俺の顔との距離がほぼ0に近い状態になった。俺は驚き 体が固まり動かなくなったのである。そして俺は今 何をされているんだと、頭の中が真っ白になった。すると女性は、ようやく俺の頭を離してくれた。そして 俺に質問を投げかけて来る 俺はこの人の言うことに なるべく正確に答えていきたいと思っていたので質問の内容を聞き返すことはなかった。俺が質問に対して答えていく度に女性の表情は変化していくがそれは何故か嬉しそうな笑顔を浮かべることが多くなっていった。しかし、俺の回答が終わると女性は真剣な顔で俺を見つめて「嘘偽りはないんだな」と聞かれたので俺は首を縦に振った。俺のその行動を確認すると 今度は俺の体に手を回してきて俺の体を強く抱きしめて「私はお前のことを気に入ったぞ。これから私のことを師匠と呼ぶのだぞ」と言うと 俺を自分の方へ引き寄せて俺の胸板を指でなぞってきた。俺にはこの状況を理解することが出来ずに困惑していたが とりあえずこの人を怒らせるとやばいということはわかったので大人しくすることにした。俺は この人が満足するまでこの状態が続くのかなと思ったのだが、予想に反して俺から離れると、また城に戻るといって帰ろうとしたので、俺は思わず

「どうしてですか?」と聞くと この人は立ち止まって俺の方を向いて また俺に近付いてきて俺にだけ聞こえるような声で「お前とはまた会う気がする。その時までにもっと強くなれ、そしたら私が稽古をつけてやる。そして私を楽しませて見せろ、私はまだ強くなることを望んでいるから それまで待っていてやる。分かったな?」と言って 俺の返事を聞くこともなく 城に帰っていたのだった。俺は何も言わずに あの人の後姿を見ていたが 何だかさっきから 体の力が抜ける感覚がある 何故か俺はそのことが不思議でしょうがなかったが、俺は考えることを放棄して 城に帰り 眠りについた。そして次の日の朝に起きるとそのことについて俺は忘れていていつも通りの生活をしていたのであった。

あれから二週間程が経過して、俺は毎日の様に修行をして過ごしているのだが 俺は未だに この世界に慣れることができていない そもそもこの世界には慣れるべきことがあるのだろうかと疑問に思ったのだが、この世界で生活できるならそれが一番いいと俺は思う でも、もし、ここの世界の人達は元居た世界より遥かに良い人たちだと知った時 俺はこの世界を心の底から愛せるようになるかもしれないと思うのだった。まあ、そんなことはさておき、俺はこの世界の常識という物をあまり知らない、この世界に来たばかりで、当たり前の事だが、俺はこの世界に来て まだ何も食べてない、だから腹が減ってる。なので俺とラミアさんが暮らしている部屋に行きたいが 俺は今どこにいるかというと ラリアさんの部屋に来ています。何故俺がここにいるのかについては理由があって ラリアが朝早くから俺の部屋にやってきて俺の着替えを手伝うとかいいだして、最初は断ったんだけど 押しの強いラリアに押し負けてしまい 俺はこの部屋に連れて来られて服を脱がされそうになった そこで俺は何とか説得して 自分で服を脱ぐことにした。俺は別に裸になっても構わないと思っていたが流石にまだ出会って間もない女性に いきなり肌を見せるというのは抵抗があった。しかし 俺が脱ぎ始めると 部屋の外で待っていた筈のラリアは勢い良く俺のところまで走ってくると俺をベッドに投げ飛ばした。俺は投げ飛ばされた拍子にベッドに頭をぶつけてしまったようで頭を抑えながら床の上で悶絶していた。俺は一体、何をされるのだろうと身構えていたら

「もう我慢出来ない!今日はこのまま一緒に寝ようよ!!だってまだ、お互いのことよく知らないじゃない。それに この前の事まだ怒ってるんだよ!」

この前と言われても俺は何か悪い事をした覚えは無いが俺は一応謝っておくことにした。そしてこの前はどうすれば良かったのか聞いてみると

「この前までのユウくんはこの国で生きて行くためには 色々と知らなきゃいけない事が沢山あるって言ってくれたじゃん。それでこの国は私達のいた国よりも危険だからってこの国で生活する為のマナーとか、この国にある物の名前とかね。ユウ君は私のために 頑張ってくれていたと思う。だけどね、いくらこの国の言葉がわかるように魔法をかけてあげてこの国の文字や、言葉、料理まで 教えているとはいえ、全部を教えた訳じゃ無いでしょ?だからね、この国の事と、他の国に行った時の事、他にもユウ君が今まで住んでいた世界の事も知りたかったの、それで今日はお出かけしようと思ってたんけど、まさかこのタイミングでお仕事が入るとは思っていなかった。本当にごめんなさい。ユウ君が嫌がる事は分かってたよ。だから この前は無理強いしないように気を付けてはいたつもりだったんだけど ついつい やり過ぎちゃう癖があるの、それでこの前の時は本当に迷惑をかけてしまった。謝るだけでは足りないのも分かってる。でも 謝らせて欲しいの。ほんとにほんとーに ゴメンね。」と涙をポロリ

「あっそうだよね。ユウ君はまだ知らないよね。ユウ君の着ているそのシャツの素材は魔絹と呼ばれるとても高価なものなの。

ユウ君はまだ知らなかったみたいだけど、この服を着ていれば 大抵の攻撃には傷がつくことも破けることもないの、そしてこれはユウ君のステータスにも適応されていて、この国でユウ君を知らない人なんていない。だからこの国から外に出るとすぐに襲われることになるの、でも それはこの国の国民でも同じでユウ君を襲うような人は殆どいないの。それは何故かと言うと 皆が皆、ユウ君を敬い、崇め この世で最も尊い者として扱っているから。

つまりこの国の人たちはユウ君に対して、敬意を払っているということ。」と涙を拭いながら説明してくれた。

そしてこの魔シルクと言うものはこの世界に存在しているのかと聞くと 存在しないらしいが俺が作ったと伝えた。すると、ラリアは驚き そして俺がこの国にとってどれほど貴重な存在なのかを話してくれた。そしてこの話は一旦ここで終わることになり 俺は自分の力についてもっと知っておかなければ行けないと思いラミアさんの所に行く事に決め 俺は部屋を出ることにした。ラリアも俺について来て 俺はそのまま城の外へ出ることになり 門の前に行くとそこには 兵士が立っていた そして俺達が兵士のところに近づくと 兵士達は深々と礼をし始めて その光景を見て俺は困惑していると、その状況に耐えられなくなったのか

「やめてください、ユウ君は私達の仲間です。そんな態度を取るのならば私は貴方たちをユウ君に紹介しません」と 兵士達に宣言する

「ですがラリア様、この方は我々 人族の希望であり神に等しい存在でございます」

「それが何ですか、貴方たちがこの国にどれだけ貢献したのですか。確かに、この国の経済を立て直したり この国を守ってきてくれたことに感謝しています。それでも、私から見れば、この国の民と変わりない一人の人間ですよ、それと、私とユウ君を一緒にしないで下さい。私の方が立場的に上なんですよ?」と威圧を放ち 周りの空気が変わったが 俺は何も感じなかった。そしてラリアと二人で城の外に出た。

俺は今ラミアと向かい合って立っているが 何故か周りには大勢の人たちがいる、そして何故かみんな俺をキラキラとした目で見ている。この人達が何故、こんなに集まって来たか 理由はわからない。しかし、この人たちは ラミアを俺の主人と思っているからだと思う。ラミアは俺に助けを求めるような目で俺を見ているが、俺だって何が何だか分からないのである。俺が困惑しているのに気づいたラミアは俺に「ユウくん助けて〜」と言ってきた。その行動に驚いたのか 集まった人達の目が一気にキリッと真剣な表情になった そして俺はその迫力に押されてしまい後ずさりしながら、この人達から距離を取り始めた。その時に、俺の腕に何か柔らかい物が当たる感触があり、俺がその方へ視線をやるとラリアが俺に抱きついて来ていて 俺は慌ててラリアを離そうとしたが、ラリアが離れようとせずむしろ強く俺を抱きしめて来た。俺は必死になって離れようとした結果 ラリアを押し倒す形になり、さらに ラリアは俺の首に手を巻き付けてくる始末、流石に見過ごせなくなって来たのか、ラミアが俺の体を引っ張って起こそうとしてくれていたが その時 ラリアの口から俺の顔に唾液が流れ込んできて、俺は その唾液の生暖かさに驚いて思わず顔をそむけてしまいラリアの体を離してしまった。ラリアの舌が俺の首筋に触れていて気持ち悪かったのだが そんな事を考えている余裕はなく 俺は今度こそラリアから離れようとしたがラリアはまたまた俺を強く抱きしめて来て 俺は身動きが取れなくなりまたまたまた あの時のように俺の口の中にラリアの唾液が流し込まれ、俺の口の周りが少しベトついた。そして ラミアは俺を無理やり立ちあがらせて どこかに引っ張ろうとし始めたので 俺はその手を振り払おうとしたら、振り払った拍子にラミアのお胸を揉んでしまい俺は焦ってしまい、急いで謝ろうとしたら、今度はお姫様抱っこされて 城に連れて帰られた。そしてラミアに お説教を受けさせられたのだった。

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