第64話 思い起こせば



 時々パステルナークは幼い頃を思い出す事が多くなった。


母の寝室へ忍び込むことも少なくなったある日。


城へ白い鹿に乗った風の者らしき男がやって来た。


若き日のアラゴンである。


アラゴンは鹿を城の入り口に綱も結ばずに

まるで何処へでも散歩に行って来いと言わんが如く

そこへ放つように停める。


幼いパステルナークは

それが珍しく

城を飛び出して

立派なツノを持つ鹿に歩み寄る。


アラゴンが王への謁見をすますと

王と談笑しながら城から出てくる。


その時

神聖な鹿とパステルナークが戯れているのを見て

王の目が驚いたように開く。


アラゴンは王に頷くとパステルナークに近寄り

話でもしていたのかと尋く。


パステルナークは

少し戸惑いながらも

鹿との話の内容を語り出す。


その時の鹿が育ち盛りの牝鹿

ベルレーヌである。


アラゴンは王に

パステルナークは生まれついての念通力の持ち主であることを知らせる。


そのことを聞きつけた祭司達は

その生まれついての念通力に驚き

王の許可を貰い

聖なる場所へと連れていく。


やがて

若き姫は巫女の称号を与えられる。


この時から

パステルナークは時々従者を連れて

アラゴンが作り始めている牧場に行くようになり

いつもベルレーヌの背に乗り遊び

ベルレーヌは姫専用の白い鹿となる。


またアラゴンは

ベルレーヌを乗りこなすパステルナークを見て

並はずれた運動神経を知る。


アラゴンの報告を聞いた王は

パステルナークの申し出を受け入れ

風の村の見学を許すが。


パステルナークはそれだけでは満足できず

修行を申し込む。


王は怪我のないように

重々注意してと渋々承諾するが

この時の教師が

同い歳のエリオットであった。


そしてエリオットは

この聡明な姫の身体と心に秘められた力に驚愕することとなる。


二人が成人する頃には

パステルナークは風の者達と共に

妖魔と戦うことになるが。


勿論

この時点では

誰もそのような未来を知る由もない。

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