第61話 母国へ帰れ
月明かりの下
ここからは僅かな街明かりと立派な建物が見える。
本当の繁栄とは
この様子を言うのではないとパステルナークは思う。
街を越え花畑の向こうに見える壁の外側
これから何とかしなければいけない現実
貧しい人々
病んだ人々が
明日をもしれない命の灯火を灯している。
それはこの城の周りに見える
僅かな街明かりよりも
さらに僅かであり
誰に見られることもなく灯されている命の灯り。
「これからどうするのだ」
とロルカは尋ねる。
「城下の街は栄え、誰もその生活を手放したくはないだろう。壁の外にいる人達に今必要なのは食事だ。問題は山積みだが、一つ一つ丁寧に解決していかなければならない。そのための人も必要だ」
心ある人達は
それでもアラゴンの牧場で会った少年ホイット・マン
マン家のように
国を出て妖魔の手から逃れられた王の家臣達も多くはないが居るのでは
とロルカは思案しながらも
「エリオットは」
と尋ねる。
一瞬、エリオットさえ居てくれれば
とロルカは思ったのであろう。
「エリオットは、さて、どうするのか。私がポーを斬って倒れてから、記憶は断片的なのだ」
「ところでロルカ、お前は帰らなければならないのだろ」
「そうだな」
「私と出会った森へ行け、私と出会った場所へ行け、そこは出口であり入り口である。妖魔を倒した今は、国へ帰るための入り口になるはずだ」
「急なことを言う」
「どういうことだ」
「貧富の差を無くすのだろ?」
「・・・・・・・・。」
「都の外の飢えと疫病を無くすのだろ?」
「・・・・・・・・。」
「共に戦ってきた」
とロルカの言葉に
「戦友・・・。か・・・」
とパステルナークは答える。
「その戦友は、まだ癒せぬ傷を心に持っている」
「私のことは構うな」
「そして何よりも、愛している」
「?」
「細い剣、破邪の剣の柄の掴み具合は素晴らしかった」
「そのようなこと、今度言ったら命は無いと思え」
「エリオットが今にも襲って来そうだ」
そう言いながらも
ロルカは、そっとパステルナークの細い腰に両手を回す。
パステルナークは一瞬身を引いたが
両手をそっとロルカの胸に当て
顔を埋める。
「私は国へ帰ろうと思わない。姫君、貴女の力になりたい」
束の間の沈黙が続いたが
パステルナークは消え行くような声で言う、
「よかろう、其方の申し出、受けて遣わす」
パステルナークはロルカの胸の中で
妖魔大戦に出向いてから初めて
両親を失ってから初めて
微かに笑った。
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