第30話 念は外へ、そして内に。



 ロルカの背後で、ベルレーヌに乗ったエリオットが声を掛ける。


「貴様、これ以上、パステルナーク様の無駄遣いは許さぬぞ」


「良いのだ。私はほとんど働いてはいない」


ロルカの代わりにパステルナークが答える。


ロルカは前を向いて声を出さずに笑っている。


「暗くなる前に夜営地を探そう。コクトーとベルレーヌも休ませたい」


と続けてパステルナークが言う。


暫く歩き続けると鹿一頭分くらいの空き地を見つける。


「狭すぎる」


とロルカが言うと、エリオットがニヤリと笑い、クノーを大きな木に投げる。


すると、大木は裂け、音を立てて倒れる。


二本の大木を柱にして、その上に太い枝から順に重ねていくと、壁のない家が出来上がる。


ロルカは裂けた切り株めがけて剣を水平に振る。


やはり切れる、大木でさえも音も無く切れる。


切り株で椅子のようなものができたのは良いが、


「貴様、パステルナーク様につまらぬものを切らせたな」


とエリオットが今にも襲い掛かってきそうな勢いで、目を釣り上げて言うと、


「そう怒るな、私がロルカに命じたのだ。しかも、つまらぬものでも無いぞ。この木は、さっきまで生きておったのだ。つまらぬものどころか、大切な命だ」


パステルナークの言葉を聞いて、エリオットは両手を広げて溜息をつく。


焚き火の用意ができると、エリオットは、


「水を汲んでくる」


と言い捨てて姿を消す。


不思議そうな顔をして切り株に座っているロルカにパステルナークが声を掛ける。


「エリオットは、小川の流れの音を聞いたのだ」


ロルカはそっと耳を澄ますが、何も聞こえてこない。


「念通力は自然界と共にある。耳を澄ますのではなく、心を澄ませ」


その言葉を聞いて、雄鹿のコクトーが微笑んだように感じたが、ロルカが振り向いて見ると、コクトーは既に足を畳んで休んでいる。


その横で同じように休んでいたベルレーヌが首を起こし、今度は本当にロルカに微笑んだ。


「ロルカ、念は外に見なさい。そして内に秘めなさい」


そう言うとベルレーヌも、また静かに首を下げ、眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る