第28話 三



 そして今、また森の中の細い道を一頭の雄鹿が疾走する。


朱色の鞘からは既に細い剣が抜刀されている。


「跳べ、ロルカ」


コクトーが言うと、ロルカは真っ直ぐに上へと回転を掛けて舞い上がった。


回転を掛けているにも関わらず、上空で背後に妖魔を感じる。


「パステルナーク、ヒサシブリ、ダノウ」


ロルカの回転に合わせて背後に付いたトウコツが笑みを浮かべながら言った。


ロルカは背後に向かって剣の先を突っ込むが、殺気を感じたトウコツは瞬時に消えている。


その後すぐにロルカも姿を消す。


ロルカが姿を消した直後にトウコツの爪が空を切る。


一瞬の動作の遅れが命を落とす。


ロルカは大地に降りると正面を見る。


互いに念動力を使っている今となっては、相手の動きが手に取るように分かる。


妖魔の爪がロルカ目掛けて容赦なく飛び込んでくる。


それを紙一重で避けながら、大地を蹴って離れ、一呼吸置いてからロルカは、正面のトウコツに向かって剣を青眼に構える。


そして、

互いに動かない。


ロルカは念通力で相手の妖魔が焦っている気配を読み取るが、すぐに念通力を消す。


念通力を使い続ければ、こちらの殺気まで読みとられる可能性は大である。

その時が勝敗を決する事になる。


ロルカは目を閉じて、全てを剣に委ねる。


「来るぞ」


パステルナークの声が聞こえたかと思うと、トウコツの右腕が大地に落ちる。


全てを委ねた剣が青眼の構えから、妖魔の一気に振りかかってきた右腕を斬り落とした。


ロルカはカッと目を見開いて、次は下段から振り上げるような形で妖魔の左腕を斬る。


そのまま上方に振り上げられた剣を返し、上段から弧を描くように剣が妖魔に振り下ろされる。


切れる音も無く、トウコツの身体が二つに離される。


とその時、


「ロルカ、何をしている」


とエリオットの声が聞こえると同時に、背後で小型のクノーが爪で弾き返される音がする。


ロルカがトウコツを切り終わると同時に背後に付いたキュウキがロルカを目掛けて爪を振り下ろそうとしていた瞬間だった。


「 オノレ、シニゾコナイ」


そう言うとキュウキは相手をエリオットに替えて振り向きざまに大地を疾走し、エリオットに襲い掛かる。

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