第30話 シロと家族
獣人の中でも、完全な獣になれる者は能力が高い。畏怖の対象だと言い、リンクスさんは、少し寂しそうに笑った。
「総じて身体能力が高く、戦いに向いているとされています」
シロの家族はこの辺り一帯の領主だ。獣の姿で生まれた子供を、近隣を治める領主達は恐れた。赤ん坊だったシロを攫ったのは、そのうちの一つに雇われた者たちだった。攫われてから、私に出会うまでの間、シロがどうしていたのかは、解らない。
雨の日、道端で泥だけだった仔犬のシロは、見ず知らずの私に甘えてきた。人を怖がらなかったから、誰かにいじめられたりはしていなかったのだろう。そう思うしかない。
「優しい子に、育ててくださって、本当にありがとう」
シロのお母さんは、そう言って私を抱きしめてくれた。完全な獣の姿になれる獣人は、身体能力が高い分、傲慢な乱暴者も少なくないらしい。
「御礼を言われるほどのことは、何も。ただ、シロが、年齢に比べたら、幼いようで、申し訳なくて」
もうすぐ成人というならば、私に甘えまくるシロはあまりに幼い。10歳前後の子供のようだ。
「それは、これから覚えていけば良いわ。完全な獣化が出来る子供を育てるのは、本当に難しいことなのです。あなたは、素直で優しい子に育ててくれました。獣人としての知るべきことは、これから覚えていけばよいのです」
「そうおっしゃっていただけると、本当にありがたいことです」
シロのお母さんの言葉は、私にとって救いだった。肩の荷がおりた。
シロの家族は、シロを受け入れてくれた。私と一緒に旅をしていた頃、シロは私と一緒に眠っていた。今は、甥達や姪達と一緒に眠っている。誰がシロと一緒に寢るかで、毎晩大騒ぎをしているらしい。
シロは、これからここで生きていけるのだ。
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