第27話 城壁

 眼の前にそびえ立つ頑強な城壁に、私は圧倒された。

「防衛のためよ」

堀に囲まれた城壁の中へと通じる吊り橋と、吊り橋を警備する屈強な獣人達は、並々ならぬ威圧感を放っていた。あまりの威圧感に、私は人型のシロに抱きついてしまった。


「これだけ警戒していても、幼い頃のあなたが攫われてしまったの。生きていてくれて、本当に良かったわ」

ヴィアンカさんの言葉に、人であれ獣人であれ、争い事の恐ろしさは変わらないことを突きつけられた。


「今は大丈夫よ。私達が相手方を圧倒したから。もう、あなたが攫われてしまったときのようなことは、起こらないわ」

旅に生きる魔女は、どこの国にも属さない。どこの国の戦争にも関わらない。それが魔女の決まりだ。


 ヴィアンカさんの言葉は、魔女である私にとって、心底恐ろしいものだった。


 馬車は、跳ね橋をわたり、城壁をくぐり抜けても、止まらなかった。大通りを走った馬車が止まったのは、城壁の中心部、城に着いたときだった。


「魔女、一緒に行こう」

馬車から降りたシロと私は手をつなぎ、新たに現れた護衛の獣人達に付き添われて、ヴィアンカさんとリンクスさんの案内で、城内を歩いた。城内で出会った獣人達は、深く頭を下げ、敬意を表してくれた。


 リンクスさんが、旦那様、奥様と呼ぶのが、この城の主夫婦だ。シロを拾って育てた人族、人族の中でも、はぐれ者である魔女の私を、シロの両親はどう思うだろう。


 ヴィアンカさんは、シロが無事で良かった、あなたが育ててくれて良かったと言ってくれる。だがそれは、ヴィアンカさんの言葉であり、家族の総意かどうかは、解らない。私の不安を察したのか、シロが強く手を握り返してくれた。


「魔女」

私を見下ろすシロと目があった。人型の時のシロの瞳は、狼の時の黄色よりも金色に近い色になる。

「シロが一緒だから、大丈夫」

私を励まそうとするシロの言葉に、私は微笑んだ。


 魔女も、シロちゃんと一緒に、お父さんとお母さんに会ってと、甘えていたのはシロだ。いつの間にか、シロは成長したらしい。

「そうね。ありがとう」

私の言葉に、シロは嬉しそうに笑った。シロの成長が嬉しかった。もうすぐ成人だというのならば、親離れしてしかるべき時だ。嬉しくて、寂しかった。

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