第23話 姉の襲来
「お待ち下さい」
「なりません」
鋭い制止の声の後に、激しい足音が続き、扉が突然開かれた。シロが、私の前に躍り出て、唸り声を挙げ、牙をむき出して、侵入者を威嚇した。
「大きくなったのね」
乱入してきた女性は、シロの威嚇をものともせず、満面の笑みで、両手を広げた。シロも戸惑ったのだろう。とりあえずは威嚇を止めた。
「ヴィアンカ様」
リンクスさんの声に、女性が振り返った。
「だって、お父様とお母様とお兄様達」
「ご安全を確保せねばなりません」
「だって」
「だってではありません」
「私は強いわよ」
「おっしゃるとおりですが、多勢に無勢です」
リンクスさんの言葉に、女性はどんどん意気消沈していく。
「旦那様と奥方様には、報告を申し上げなければなりません。そのためには人を派遣せねばなりません。警護する者が減るということの意味をお分かりですか」
リンクスさんの叱責に、女性の真っ白な髪に埋もれていた三角形の耳が垂れた。髪の毛も、耳も、シロに似ている。
シロも気づいたのだろう。不思議そうに女性を見上げていた。
「覚えているかしら。赤ちゃんの頃よ。私、抱っこしてあげたのよ」
女性もシロを見つめていた。
「ヴィアンカ様です。坊ちゃまの、すぐ上のお姉様です」
リンクスさんの言葉にも、シロは動かない。狼の姿のシロに合わせて、女性は両手を広げて、少し腰をかがめた。
「ゆりかごで寝ていたのに、抱っこしてあげていたのに、いなくなっちゃって。大きくなったわね」
シロが、ゆっくりと歩を進めた。ヴィアンカと呼ばれた女性の手が届く、ギリギリのところで立ち止まる。シロが、慎重に女性の手の匂いを嗅いだ。
「わかる?」
女性の目に涙が浮かぶ。シロも不安だが、家族も不安なのだ。
シロがまた、一歩を踏み出した。シロが、確かめるように女性の手を舐めた。
「大きくなったわね」
女性は、シロを抱きしめた。シロの尻尾がゆっくりと揺れた。
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