第10話 支柱を支える手

「前のほうが、もっと上手じゃなかったっけ」

白い髪の少年、私よりずっと背の高い人がいた。

「なんで」

「やっぱりわかるんだ」


 白い髪の少年の言葉に、私は自分の失敗を悟った。私は魔女だ。魂の色が朧げながら見えるのだ。白い髪、金色の瞳、シロとほぼ同じ色調の少年は、シロと同じ魂の色をしていた。

「どうして」

私の口から、言葉が落ちた。


 シロとは、獣人と人が暮らす町で別れたのだ。白い髪の少年は、細身の黒髪の男性たちに跪かれていたのだ。

「どうして?全くそのとおりだ。どうしてだよ」


 シロと同じ色の魂を持つ少年の、荒々しい怒った口調に、私は身をすくめた。犬のシロは、優しい良い子だったのに。犬のシロが、人の姿になって、こんな乱暴な口調で、喋るなど、私は想像もしていなかった。


 少年は、手にしていた天幕の支柱を離してしまった。

「どうして、あの町から出ていったのさ。なんで、あの黒猫といたの。なんでいなくなったのさ、出ていくなら、どうして僕を置いていったの。追い出したの、連れて行ってくれなかったの」

少年の怒鳴り声に、私は身をすくめた。


「どうしてだよ。どうして」

シロは無駄吠えしない犬だった。吠えたことなど数えるくらいしか、無かったはずだ。足を踏み鳴らして怒る少年は、私の腕をつかんだ。

「どうしてだよ」

私より、頭一つ背が高い少年の口から降ってくる声は、私の鼓膜を震わせ、頭の中にまで響くようだった。


 拾ったときのシロは仔犬だった。育てている間に大きくなったけれど、こんなに大きくなかったはずだ。

「どうしてだよ」

降ってくる大きな声に、私は身をすくめた。


 小さな可愛いシロとは違う、シロと同じ色の魂を持つのに、全く違うことをする、少年の怒鳴り声に、私は動けなかった。

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