第6話 人の町
人だけの町、見渡す限り人しか居ない、見慣れていたはずの光景に、私は目眩がしそうだった。獣人と人が暮らしていた町にいたのは、さほど長い期間ではなかったはずだ。
黒尽くめの魔女の装束を遠巻きにする人々を後目に、私は町の宿屋に向かった。
「あら、あんた、あの犬を連れた子かい。ほら白い犬」
急に親しげに変わった宿屋の女将の言葉に、私は頷いた。
「そうかぁ。あの犬がいないから、わからなかったよ。またうちに泊まってくれて助かるねぇ。あの子、シロちゃんだったっけ?は、どうしたの」
「引き取ってくれる人がいたから、渡してきた。私の旅に付き合わせてばかりじゃ、可哀想だから」
「あらまぁそうかい。随分と懐いていたのにねぇ。一人旅で大丈夫かい。気をつけなよ」
「ありがとう」
本来は、旅は危険だ。だが、魔女を襲う者はまず居ない。魔女は魔女に危害を加えた者を決して許さない。町や村が滅び、国が滅んだこともある。その伝承が、大規模な魔法も仕えない、薬草に詳しいだけの、私のような魔女も守ってくれている。私ではせいぜい、人一人を炎に包む程度のことしか出来ない。盗賊相手には、虚仮威しでしかないが、驚かせて逃げるための時間を稼ぐことは出来るだろう。
「番犬は連れておいたほうがいいよ。あの子を手放したなら、また犬を飼いな。牧場で分けてもらいなよ。牧場の犬は賢いのが多いと聞くからね」
「ありがとう」
女将の言葉は嬉しかった。でも、賢い犬はもう懲り懲りだ。きっと、シロを思い出す。
女将から受け取った鍵で、部屋の扉をあけた私は、恐る恐る窓から外を見た。周囲の屋根の上に、あの山猫はいなかった。
「ほら、もう大丈夫だ」
中途半端な旅の仲間がいなくなった寂しさに、私は蓋をした。あの山猫も山に帰っただろう。
「山猫だもの」
私は狼の毛皮を抱きしめた。シロは、迎えに来たあの獣人達のところに帰っただけだ。一人で旅をしていた魔女は、また一人で旅をするだけだ。女将に犬の話をされて、寂しくなっただけだ。
私は目を閉じた。
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