09.あれ本気で言っていたんですか?(2)
などと少しばかりグロリアが意識を飛ばしている間に、ベリルが腕を組んで心底不機嫌そうな表情を浮かべた。
リーダーであるはずの自分が何も言わないので、とっとと面接モードへと移行したのだろう。そんな竜人を誰も止められず、事態は思った通りの速度で以て展開していく。
「パーティの加入希望ね。もう役立たずは要らねえぞ。で? 何が出来るんだよお前」
「ああ、はい。こういう感じね。話が早くて助かりますっと」
――別に全然こういう感じじゃないよ、うちのパーティ。
そう思ったが礼の如く思っただけだった。『そういうもの』と捉えたらしいジャスパーは気を取り直したかのように胸を張り、ベリルご所望の自己PRを開始した。乗らなくていいんだよ。
「改めまして、俺はジャスパー・イデレイン。Aランク、見ての通り吸血鬼ですね。血の濃い連中よりも性能は劣りますが、それでも夜の無敵時間はあるので肉壁でも何でもよしなに使ってください。
ああそれと、前別のパーティにもいたので経験も豊富ですよ。
ジョブはオールラウンダー。人が足りない所にでも放り込んでオーケーです。比較的、長距離が穴ではありますが出来ない事もないです。ま、ここは長距離アタッカー要らないでしょ。グロリアちゃんいるし。
こんな所だけどどうです? 器用貧乏と言えばそうかもしれませんが、案外どこでもお仕事できますよ」
オールラウンダーだとか吸血鬼だとか色々言っていたが、そんな事より何よりベリルの唐突な無茶振りに対応できるそのコミュニケーション能力の方が欲しい。
エルヴィラと組み合わせて上手い事、人との会話が必要なクエストを回してくれそうだ。ジョブなんて最早どこでもいい。
「どう思う? お前それ嘘じゃねえだろうな……」
「ええ!? そこを疑われたらこっちも困りますってー! えー、嘘じゃないよね? エルヴィラちゃん」
困ったように声を上げたジャスパーは瞬時にエルヴィラを味方につけようとそう言葉を発した。先輩は困った顔をして悩んでしまっている。彼女も彼女でこの吸血鬼について詳しくは知らないのだろう。
ともあれ、「どう思う?」という問いに対しジモンが淡々と応じた。
「ジャスパーの言っている事が概ね本当であれば、加入に賛成ですね。主にエルヴィラの面倒を見てもらう人間として使えるでしょうし」
「そういやそうだったな……」
「パーティを2つに分けた際、エルヴィラの面倒をワンオペで見るのは正直しんどいと思いますよ。人間をもっと増やす必要がありますね。それに吸血鬼ですから、夜間のみとは言え本人が言っているように盾に出来ます。俺達は盾なぞ邪魔なので要りませんが、足引っ張りが一人いるので」
「成程ね。しかしまあ、こいつ煩そうなんだよな」
「いや……はい、ベリルさんとは相性があまりその、良く無さそうですけど。まあ、俺はお嬢の判断に委ねます」
「ジモンよ、お前はいつもそれだな」
そうなってくると、自然と視線がグロリアへと集まる。
四者の視線を受け、グロリア自身はエルヴィラへと問いを投げ掛けた。
「先輩はどう思います? 私達はこの人の事をよく知らないので」
「わ、私!? えー、そうね……リッキーさんが欲しがる人材だから実力はあるはずだと思う。けれど、前のパーティから失踪してギルドからペナルティを受けているのも事実よ。そのペナルティのせいで1ヵ月新パーティに加入できずにロビーに入り浸っていたみたいね」
「失踪?」
「事情は私もよく知らないけれど。それを踏まえた上で、加入には賛成といったところね。優秀なのは事実だと思うから」
「そうなんですね」
返事をしつつ、ジャスパーへと視線を移す。目が合った瞬間、大袈裟なウインクをいただいてしまった。ベリルと本当に相性が悪そうだ。
「ジャスパーさんは何故、このパーティに入ろうと思ったんですか? 出来立てですよ」
「いやだなー、セレクション入りしてるんだから出来立てホヤホヤだろうともう関係ないじゃないですか」
「セレクション入りもほぼ出来レースです」
「出来レースを開催してもらえるのも立派な才能でしょう。ゲオルクさんに気に入られているのが一番の強みっすわ。《相談所》のメンバーに致命的な弱者がいなかったのも確かなので、このパーティへ加入するのは勝馬に乗ったも同然ってやつです」
のらりくらり、飄々とした態度はコミュ障の自分には厳しい。
しかしジモンとエルヴィラの意見は尤もだ。このパーティにはもっとメンバーが必要だし、彼は適任とも言える。問題は前所属の失踪話。
「前のパーティから姿を消した話が出ましたけど。どのタイミングで失踪したんですか?」
「うん? と言うと?」
「クエスト中、急にいなくなったんですか?」
「え? ああいや、お仕事が終わってふとやる気をなくしてそのまま、って感じですかね」
問題はこれだ。
このパーティの人員は実力に大きな差がある。当然、エルヴィラが怪我をしない難易度に合わせたクエストばかりを受けると破産するので、どうしてもグロリアのレベル帯でクエストを受ける事になるだろう。
であれば諸事情等によりパーティを分けた時などに先輩と吸血鬼が組む瞬間が必ず出来るだろう。
そんな時にジャスパーが飽きたなどとほざいて急にいなくなったりすると、最悪死人が出かねない。それだけを危惧している。
「クエスト中、急にいなくなられると先輩が困るかもしれません。いなくなるのは構いませんが、そこだけは気を付けてください」
「いなくなっても気にしないとか流石だわ。ええー、去る者追わずって事ですか? ちょっと寂しいなあ」
ベリルが苛々しだしたのか、とうとう舌打ちまで耳に届いた。
ここ2人はあまり一緒にしない方が良いのだろう。
「約束してくれるのなら、このまま私も加入に賛成します」
「太っ腹! オッケー、クエスト中は失踪しないようにします」
――であれば、後はベリルがどうするかだ。
チラ、と気難しい竜人を見やる。何とも言えない絶妙な表情だった。
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