16.後任が強そう(2)
エルヴィラが複雑な気分に陥っている間にも、狙撃手であるメラニーは言葉を続ける。何と言うか、積年の恨みのような大暴露っぷりだ。
「ドロシーちゃんはあ……エルヴィラちゃんみたいに、何もない所で転んだりしないしぃ、魔法を撃とうとしていたのを忘れて剣を振るって周辺に地味な被害を出したりもしないんだよ。優秀!」
「えぇ……。そんなのと比べたら大抵の人間は優秀になるのでは?」
後釜のドロシーちゃんとやらは怪訝そうな顔をしている。
彼女は何も聞かされず、取り合えずのノリでパーティに加入したのだろうか。リッキーのスカウト能力は本物なので、実力者ではあるようだが果たして。
なおもぶつぶつと文句を言っているメラニーに、エルヴィラはようやく声を掛けた。
「そっか。何だか優秀な後任みたいだけれど、楽しくやれているのならよかった!」
「……」
不意にメラニーのよく回る口が止まる。
じとっとした目で見られてしまった。
「どうしてもうちょっと頑張らなかったの? エルヴィラちゃんはあ、確かに何にも使えないお荷物状態だったけれど……誰よりも優しかったのにねぇ……」
気まずい空気が漂う。
それを打ち破ったのは新規メンバーのドロシーだ。さくっと話題を変換――ではなく、脱線状態だったものを復旧させる。
「メラニー。エルヴィラは私が足止めするから、あなたは先に行って。いつまでもお喋りをしている場合じゃない」
「……あ、そうだった! そういう訳だから、お先ぃ。狙撃手は潜伏が基本だし、今回はグロリアの引きが良かったおかげで、私も活躍できそー」
じゃあね、と軽く手を振った鳥人はふわふわと独特の衣装を翻しながら森の奥へと姿を消してしまった。
獣人とは異なる習性を持つ鳥人ではあるものの、根っこの部分は獣人と似通っている。こういった大自然の環境は彼等が得意とする舞台そのものだ。
追いかけても無駄だと判断し、エルヴィラはドロシーと向き合った。そう、メラニーには《マーキング》済みだ。後は我が家の超絶優秀を通り越して人間か疑わしいグロリアがさくっと片付けてくれるだろう。
***
狙撃可能なポイントを探すべく、メラニーは森の中を軽やかに駆け抜ける。
エルヴィラとドロシーで1対1ならば、ドロシーは負けないだろう。どちらとも共闘した事があるのではっきりと分かる。
ドロシーの強さはちゃんとしたものだ。エルヴィラも弱くはないはずだったけれど、彼女は予想外の出来事に弱い。だから失敗するし、そこから立て直す力もまるでない。一方でドロシーはある程度の死線を潜り抜けてきた経験を持つ者。それなりのイレギュラーには対応できる。
「……この辺かなー」
恐らくここは自然公園というステージの際。
仲間達の《通信》によると交戦を始めている連中もいるようだ。会話の流れを聞くに、大体の面子がステージ中央に寄っている。この広い自然公園で、何故密集して戦闘になるのか謎だがまあいい。
エルヴィラとは今し方出会ったので、除外。
残りはリーダー・グロリア、ベリル、ジモンの3人であり、手強い事が予想されるメンバー。正直、エルヴィラなど放置でいいのだが出会ってしまった以上、ドロシーの手がそちらに割かれてしまう。
まずはどこからサポートするべきか思案しつつ、《倉庫》から双眼鏡を取り出した。
鳥人の視力は優れているが、流石に今回は対象が遠すぎる。
《通信》で居場所を聞きつつ、混戦地帯をようやく発見した。
――これは……。苦戦してはいるみたいだけどぉ、もしかして有利な状況なんじゃない?
心中で呟き、ほくそ笑む。
戦況は良い。捜していたベリルとジモンは共闘し、それをこちらのパーティが4人で囲んでいる状態だ。しかも我が家のエース、鬼人である白浪もその場にいる。
グロリアパーティは連絡を取り合わないのだろうか。あっさり囲まれているし、この状況でなおグロリア本人が介入している様子もない。
全員が実力者だと、こうしてバラバラに動いて各個撃破されるという良い例だ。やはり集団行動は大事。
頭の中でやらなければならない事を反芻する。
第一にグロリアの所在を明らかにしなければならない。彼女は聞く所によるとオールラウンダーであり、どこからでも何かしら攻撃を加えてくる立ち回りが可能だ。野放しにするには危険すぎる。
彼女を捜しながら、ベリルとジモンをまず討ち取る。今、囲んでいる有利状況なのだからここから狙撃して場を掻き回すとしよう。
無言で銃に弾を込める。風魔法を埋め込んだ、貫通力に特化した弾だ。
こういった機器は弾を一発一発込める必要があるという関係で、連発ができない。全くの不発に終わらぬよう、メラニーは混戦地帯で大暴れしているジモンに狙いを定めた。獣人は魔力が少ない。《防壁》を常に張っているはずもないので、当たれば確実に落とせるだろう。まず数を減らすのは鉄則だ。
獲物がその場に止まるのを、息を殺して待つ。引き金を引く指に力を込めた。
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