2話:たった3人の同期
01.量産型の扱い(1)
その日、グロリアは珍しく目的を持った足取りでギルド・《レヴェリー》のロビーを闊歩していた。
今日は心なしか、ロビーの活気がいつもと一味違うような気がする。前向きな気分だからそう見えるだけかもしれないが。
そう。何と言っても今日は本当に珍しく人と待ち合わせをしている。
相手は同期のメンバー達であり、パーティメンバーとはまた別の連中だ。用件はまだ聞かされていないが、非常に楽しみである。
因みに、何故同期などという存在が発生するのかと言うと、ギルド協会が開催するランク試験の都合のせいだ。
前にも述べた通り、ランク試験は年に4回のみ。裏を返せばランク試験の度にギルド員が一斉に増えるので、同じ時期にギルドへ加入する同期なる存在が発生するのである。
そんなグロリアは66期。今や3人しか《レヴェリー》に残っていない、幻の期なのである。何故か66期の面子は次から次にギルド員そのものを辞めてしまったり、他ギルドへ移籍したりと色々な事が起こってもう3人しかいないのだ。
そんな訳で、波乱の2年を過ごした同期は思い入れが深い。3人共、別々のパーティに所属しているが、こうしてたまに顔を合わせたり、細々とした交流を続けている次第である。
ウキウキと待ち合わせの相手達を捜していると、早速一人発見した。テーブルソファの一つに腰掛けている、エルフの女性。
彼女の名前はジネット・トイノヴァ。金の長髪にエメラルドグリーンの瞳を持つ。白い肌と尖った耳、エルフの特徴を兼ね備えた人物だ。勝ち気な表情をしている事が多い。待ち合わせをした時、大体いつも一番最初に到着する。
――ん……?
声を掛けようと片手を挙げかけたところで、不意にグロリアは首を傾げた。遠目だから人に紛れて分からなかったが、ジネット以外に人がいる。
男性の3人組。全然知らない人達だし、何ならギルド内であまり見た事も無い顔だ。恐らくAランカーにあんな人達はいなかったので、それ以下の人員である。
足を止めてジネット達を観察する。
男達は彼女にしつこく話し掛けているようだが、当のジネットは完全に無視を決め込んでいるようだ。一人で座っていたから、ウザ絡みされているのだろうか。
それに気付いてしまったグロリアは顔をしかめる。尤も、それが表情として出力されているかと聞かれれば、多分されていないだろうけれど。
――ええ~!? な、ナンパかなぁ。恐いよ……! ジネット、美人だから一人でいたらよくナンパされるんだよね……。
放っておく訳にもいかないだろう。こういう場合って、相手がしつこかったら実力行使に出て良いのだろうか? 前に同じ事をしたら、サブマスターに個人面談されてしまって恐かったけれど。加減したら大丈夫かな。
悶々と考えていたが、いい加減苛つき始めたジネットの顔色に気付いてしまい、止めに入る事に決めた。彼女の沸点は低い。キレて大暴れし始めれば、今日呼ばれた目的を達成できない可能性が出て来る。
足早に集団へと近付いたグロリアは焦りに焦って、脳内で台詞を考える事無く出力した。
「ジネット、手を貸そうか」
「あら、グロリア! 丁度良い所に来たのね」
パッと顔を明るくしたジネットとは裏腹に、絡んで来ていた男達の視線が今度はグロリアへと突き刺さる。それに伴い、事の成り行きを静観していたらしい周囲のギルド員達が何やらヒソヒソと会話をし始めた。
それについて何か思う前に、男の一人が吐き捨てるように呟く。
「けっ、何だただのBランカーかよ」
「量産型じゃん。しかもAランクのお姉さんと違って、能面みたいで愛想も無いし」
ギルド員は支給されたバッチを着用しなければならない。ランクによってバッチの形が異なるので、それを見ればどのランク帯にいるのかは一目瞭然だ。故に、この男達がバッチをまず確認したのも立派な確認作業だと言えるだろう。
一方で連中のバッチはDランクを示している。
D、Cランクはランクが低いと言うより、研修中という意味合いが強い。ぶっちゃけるとあまりにも才能が無いだとか、そんな状態でない限り努力でBランクまでは上がれる。
Bランクにすら時間を掛けても上がれない者達は最終的に辞めていってしまうので、結局はBランクが大勢居る状態になるのが常だ。つまり、量産型という表現は的を射ている。
「量産型の人さあ、ちょっと引っ込んでてくれないかな。俺等はAランカーのお姉さんをパーティに誘ってる訳。伸び代のない人はうちのパーティに要らないから」
――いや、将来的に君達もそうなるかもよ。
この手の暴言は、正直あまり傷付かない。量産型Bランクに甘んじているのは事実であるし、伸び代も何も、伸ばせるモノは伸ばしきった感があるので。これ以上の伸び代が無いように見えるのはなかなかに慧眼かもしれない。
一方で勝手にパーティへと勧誘されているジネットはそれを鼻で笑う。
「残念だけれど、私はもう素晴らしいパーティに加入しているの。というか、この話何度目? 病院へ行った方が良いわ。今から予約を取ってきてあげる。何時が空いているの? 油断は大病の元、急いで受診した方が良いわよ」
――手厚い!
彼女のこれは本気で受診の予約を取ってきてくれるし、何なら医者に全てを説明し、後は本体の男達が病院へ行くだけで良い状態にまでセッティングしてくれる。嫌味などではない。本気でそうしてやると言っているので勘違いしないで欲しい。
しかし、そんな事知らない男達は不快そうに恐ろしい形相へと早変わりした。
「舐めてんのか、病院なんか行くわけ――」
「それ以上近付かないで」
暴力的な事をしてきそうだったので、グロリアは慌てて男達がそれ以上、踏み入って来ようとするのを止めた。急な動きに驚いた彼等はぴたりと足を止める。
「な、何だよコイツ……。あまりにも無表情且つ抑揚の無い声で普通に恐いんだが」
――いや! それは傷付くから止めて!
グロリアは心に深い傷を負った。
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