07.今年の目標も達成できそうにない
***
ギルドに戻って来た。グロリアは気疲れでぐったりと溜息を吐く。
ある程度の片付けと、依頼人への報告。そちらの方に時間が掛かってしまい、今日1日はもう終わりを迎えようとしている。あとはギルドに完了報告をして解散だ。あと、今回はパーティノルマのクエストでもあった為、リーダー・イェルドにも報告をしなければならない。
受付を向かう道すがら、不意にジークが口を開く。今回のクエストでは後衛を守って頂き、本当にありがとうございました。
「そういえば、魔物の変異種が最近増えているそうだ。今思い出した、ただの噂話だけど」
――ええー!? そうなの!? 変異種って対処が面倒な割に、特別手当とかが出る訳でもないからただただ迷惑なのに!
心中でだけ話題に食い付いていると、何故かジークは苦笑して首を横に振る。
「いや、咄嗟の判断であんな対処が出来るグロリアには関係の無い話か」
――あるある! その話メチャクチャ関係あるよ! もっと詳しく話してよ!
今日の変異種らしきエーミュウだって、かなり恐ろしかった。最終的にジークのジョブでは対応しかねると思ったので、タンクに対して退けろなどと指示を出してしまったが、あれもかなり考えた末に泣く泣く出したお願いである。
あんな怪物鳥が突っ込んできたら泣き喚く自信があったので、速やかに処置させて貰った。せっかちな奴だと思われた事だろう。
「成果が全て! 数字は絶対だ!!」
力強い演説のような声がロビーに響き渡る。グロリアはハッとして顔を上げた。
声の主はギルド員なら知らない者は絶対にいない御仁、サブマスターの片割れであるゲオルク・フォルスターの姿がある。なお、《レヴェリー》ではサブマスター2人にギルドマスター1人体勢で運営されている。
ともあれ、そんな大声を聞かされたジークは僅かに顔を歪めていた。三角形の耳が忙しなく動いているので、声が耳に響いたのだろう。
「またやってるのか。どこかのパーティがノルマ割れしたのか? 月も変わったしな……」
そうだろうな、とジークの言葉に頷きを返す。
ゲオルクは成果至上主義の考え方を強く持つ人物だ。ノルマの割り振りを考え出したのも彼だし、ノルマ割り振りの大元も彼。
「グロリアには合いそうだよな、あの人。数字を取れるだろう、お前は」
「そうだね」
「流石の自信だ」
――いや、驕り高ぶってそう言った訳じゃないけど!?
ゲオルクの方が上司としては合うよって話である。何故、後半部分にだけ同意したと思われたのだろうか。
しかし、我がギルドにいるサブマスター2人は両極端だ。もう1人のサブマスターは、ゲオルクとは真逆に慈善活動派なので利益を求めるギルド員とは根本的に合わない一面がある。
当然、片割れの方とマッチする者も多くいるが、グロリアとしてはゲオルクの方がやりやすかった。奴も奴でちょっとしつこい所があるけれど。
ともかく、ゲオルクは好成績さえ出していればそれ以上の文句も言わない。また、ギルド員の上位勢が稼げるようになるシステムは彼が全て考えたと言ってもいい。逆に下位ギルド員には厳しいが。
「そうだ、グロリア。俺はこのまま受付に完了報告をしてくる。イェルドさんへの完了報告を頼んだ」
「分かった」
――ありがて~! 受付のちゃんとしていて礼儀正しい感じが私には眩しすぎるから、イェルドさんへの報告が断然マシなんだよね。
一匹狼気質であるジークはそれなりに人とのコミュニケーションを取れるのが本当に強い。尖っていないので、独りが好きでも周囲を傷付けないのも見習いたい。こっちのコミュ障は言い方一つで人を傷付けるので本当に害悪という他無いし。
内心でジークを拝んでいると、ふと視界の端に初々しい集団が通り過ぎて行った。パーティかと思ったが、それにしても人数が多い。
同じくその集団を見ていたであろうジークが、懐かしげに目を細めてぽつりと言葉を溢した。
「ああ、Dランクの試験シーズンか。懐かしいな……俺は確か、夏期試験で《レヴェリー》に入ったんだ」
「なるほど」
ランクはギルド単体ではなく、ギルド協会が定める規定によって授けられる。どこのギルドに入るにしてもランクが必要なのだが、ランク試験は年に4回しかなく、故にこうして試験シーズンになると「ギルドが予め囲っておいた」受験生がギルド内で散見される。
世はまさにギルド乱立時代。眠れる原石を拾っておくのも、立派な運営のお仕事なのである。ギルド員の知名度で舞い降りてくるクエストの数が変わると言っても過言では無い。
現に新規精鋭のギルド達はそのほぼ全てが、ギルドマスターを有名なSランカーが担っていたりと、とにかく知名度は必須。将来的に素晴らしい人員になりそうな連中は早めに取り込んでおくのが吉、という事らしい。
しかし何はともあれ。
――今年こそ、可愛い後輩とか弟子が出来て、充実した1年を送りたいな。
それに尽きる。割と何でも出来る人員だと自負しているので、本当に何でも教えるのに。顔が恐いからか、雰囲気が恐いからか、そんな人は出来た事ないけれど。
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