炎の獅子の試練を受けろ! というもので……~炎の獅子と氷の竜と~

大月クマ

オレ、占部洸。16歳。

 ここは、とある剣と魔法の国のお話――



 オレ、マイケル・マーティン=グリーンは、勘当されて行く当てがなかった。

 そこで女学校の時の鼻につく女友人のキャスリン・マルグルーの領地へ入った。

 ひとりぐらい生活できるだろうと、思っていたが彼女の領地経営は色々と行き届いているようで……流れ者のオレの住める場所ではなかった。


 ちょっと密猟しただけで御用。


 まあキャサリンキティに挨拶しないわけにもいかないので、 直接会って話そうと決めた。

 そうしたらどうだ。

 あいつの飼っていた黒猫ローア――本人曰く、本名はキラ・ヴィジターというらしいが――が、突然、人の言葉を話し出したではないか!?


 その猫の話によれば、オレのご先祖は『炎の獅子』という。ついでにキティのほうは、『氷の竜』だとか。そのふたつの血統を持つモノが……正確には、秘宝の武器を持って相見えたときに、自分にかけられた変身の魔法が解けるとか。

 そして、


「魔王を倒せ!」


 と、いいだした。だが、中途半端な喋る黒猫状態のままだ。しかも、話を聞いてみると、キラがいっている『魔王』は、すでに死んでいる。結局、変身の魔法で黒猫の姿をしていたのが、無駄になったというわけだ。


 それが50年。


 さすがに可哀想だ。せめて人に戻る方法はないのか? 変身の魔法はなかなか高度で、キーがなければ他人が解くことは難しい。

 キラのいう『炎の獅子』と『氷の竜』が揃わねばならない。

 なんでも、オレ達にはその資格はあるが、力を会得していない。その力を会得すれば状況が変わるかもしれないそうだ。


 ――これは面白い!


 オレはすぐにこの話に乗った。行く当てもないことだし――

 だが、キティのほうは難色を示す。

 自分の領主代行という仕事を、投げ出してまですることではないという。確かにそうだ。それに『炎の獅子』だの『氷の竜』だの、おとぎ話のようなものだ。


「じゃあ、オレが先に『炎の獅子』の力を手に入れてみる」


 と、いうことでキティのところを旅立った。旅費は借りで……


「伝記作家を置いていく気ですか!?」


 と、ヒーラーのビバリー・マクファーデンも付いてきた。


 その『炎の獅子』の力を授けてくけるというのは、とある神殿らしい。

 黒猫のローア改め、キラが教えたのは厄介なところだった。

 勘当されたオレの実家、マーティン=グリーン家の領地内だ。ただ、ラッキーなことに、当てつけで家の宝物室からくすねてきた短刀が、その神殿のカギらしい。しかも、力を手に入れるためにはそれが必要だとう。


 ――これで、王都の親父に顔を合わせなくてすむ。


 そう思って、真っ直ぐ向かった。マーティン=グリーン家の領地へと。

 愛人との間に男の子が生まれ、女であるオレを厄介払いした――まあ王位継続者の男を、袋たたきにしたのは、少し反省している――親父の顔なんて見たくない。


 しかし……オレが領地に入った途端、ほとんど犯罪者扱いだ。


 ――あの陰湿な親父は、領地も踏ませない気なのか! 


 まあ、そんなことで、オレを捕まえることなんて出来る訳がない。追っ手など赤児の手をひねるようなもの。

 あちらは、俺さえ追い出せばいいと考えているので、目的地は判らない。

 神殿にはあっさりと着いた。


「ここが、神殿ですか!? なんと、神聖なところなのに整備もされていないのですか!?」


 着いてキラは驚いていた。

 ジイさんの時代は整備されていたのかもしれないが、植物が生い茂り、朽ち果てようとしているように見える。だが、神殿自体はツタなどで緑に被われているが、中身はしっかりとしていた。


「ここまで来て、付いてこないのか?」

「ゴメンナサイ……」


 ビバリーは全体を見回すと、神殿に入るのを嫌がった。

 周りの鬱蒼とした植物もそうだが、たまに顔を出す虫を嫌がっているようだ。


 ――まあ無理にとは言わない。


 ビバリーを残し、キラと一緒に中に入る。

 神殿の中は植物に被われてはいなかった。それに妙に熱を感じる。


 ――炎の獅子だからか?


 よく解らないが、広い神殿を突っ切ると、一番奥の壁に口を開けた獅子のレリーフがあった。

 赤く塗られ、たてがみは炎のような躍動感のある彫刻だ。


「そこに短剣を――」


 キラはそう指図した。

 その獅子のレリーフの口には、切れ込みがある。ここに差し込めというのであろう。

 しかし、何が起こるか分からない。


「今更、不安になりましたか?」


 黒猫は挑発してきた。

 当然であろう。ジイさんはこんな話をしたことがない。だが、馬鹿にされるのは気に食わない。


「わかったよ!」


 オレは少々やけくそに、切れ込みに短刀を差し込んだ。



 ※※※



 お約束というものだ。

 変な魔法の仕掛けにはあるもの。

 目の前が真っ白になり、目が眩む。いや、自分の立っていた感触もなくなり、空中に浮かんでいるような気がしてきた。


「我が子孫よ……」

「出たな!」


 どこからか声が……いや、目の前に先程のレリーフの獅子がいる。顔だけではなく、胴体に尾っぽまで。羽もあることは気が付かなかった。


「我が子孫よ……」

「要件は手短にしてくれ」

「そう、急かすではない。我が子孫よ」

「どうせ力を手に入れるのには試練が必要なんだろ? 早くしてくれ!」

「その通りだ。我が子孫よ」

「何すればいい。お前をぶっ倒すか?」

「獅子は、余計な暴力は使わないものだ。我が子孫よ」

「説教はいいから、早くしろ!」

「ではよく聞くがいい。我が子孫よ」

「早くしろって、意味はわかっているのか?」

「うるさいわ! この小娘!!」

「恫喝で、オレをどうにか出来ると思うなよ! 炎の獅子かなんか知らないが!」

「小生意気な小娘にはもっともキツイ試練をやる。心せよ!」

「おう。生ぬるいのじゃあ、飽きちまう」

「――世界を救え!」

「はッ? それだけか?」


 その途端、まぶしい光で再び目が眩んだ。



 ※※※



 ピピピピピピッ!


 と、アラームで起こされた。

 頭が痛い。何があったのか――


 オレはタタミにから起きた。


 ――鬱陶しいが、学校に行かなくちゃ。


 そんなことを考えながら、――洗面台? それって何だ?

 なんだかよく解らないまま、廊下の突き当たり、洗面台の前に立った。

 蛇口から水を出し、両手に受け止めると顔を洗った。


「ん? 誰だこいつ!?」


 顔を上げ鏡に写った人物に驚いた。

 赤い髪は黒い癖っ毛になっている。瞳の色も黒く違うし、全くの別人……いや、自分だと認識するのに数秒かかった。


 ――オレは、マイケル・マーティン=グリーン……だったはず。


 自分の名前があやふやになっている。自分の中にもう一人いるような感じだ。

 そいつは言っている。


 ――オレは、占部うらべあきら。16歳で高校2年生。街の片隅のボロアパートに、母親とふたり暮らしの日本人。親父は母親を捨てて出ていった。


 ドッと記憶がかき込まれていく感じがして、目眩がする。倒れそうになるのを、洗面台の縁を掴み持ちこたえた。


 ――あの獅子の試練はこれかよ!


 どこを……何をするのかわからない。

 生活には困らなさそうだ。オレはどうやらウラベ・アキラと言う人物に憑依していると、いったところだろう。


 ――ともかく、マイケル。オレの名前はマイケルだという事は絶対忘れるものか!


 他のことを上書きされそうだが、名前だけは忘れないでおこう。

 それに、


「使えるのかな?」


 両手を少し開けて、目の前に持っていく。そして、念じた。

 赤い光が渦を巻きはじめた。


 ――火の魔法は使える。


 思った通りの火の魔法は使えるようだ。

ウラベ・アキラの記憶によれば、この世界では剣などを持ち歩くのは犯罪らしい。

 武器が使えないとなると、身体能力で何とかしなければならない。それでもならないときに、魔法が使えないのは最悪だ。

 一応、この日本という世界でも魔法は使えるようだ。


 ――世界を救え! だけでは手がかりはないか……


 オレが炎の獅子を怒らせた所為かもしれない。

 この小さな部屋では、世界を救う為の情報は手に入らないだろう。


 ――人が集まるところ……とにかく学校に行ってみるか。


 どうやって行けばいいかわかる。家を出て、駅に向かい、電車というものに乗る。

 ボサボサの髪は赤いリボンで縛り……ただ、黒いセーラー服。スカートを穿くのに抵抗があった。




【つづく……かも】

 

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炎の獅子の試練を受けろ! というもので……~炎の獅子と氷の竜と~ 大月クマ @smurakam1978

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