元社畜「コンサルタント」の異世界“商人”生活
Kさん
プロローグ
「はぁ、今日もこんな時間まで残業だったのか。」
俺の働いている業界は「コンサルタント」
「コンサルタント」といってもそんな華々しいもんじゃない。
もちろん名前から想像できるような華々しい世界も存在するのかもしれないが、俺の勤め先はそのイメージからは外れると思う。
コンサルタントには大まかにいくつかの種類が存在する。
俺の勤め先は日経の独立系コンサルタント。主に中小企業相手に対しての仕事だ。
そしてうちの相手先企業は中小企業の中でも零細企業がほとんどだ。
ただ、日本の企業のほとんどが中小企業であるため、星の数ほど相手する企業が存在する。
うちはその手の会社のトップ企業。そして自慢ではないがそこそこの営業成績を収めている。
ただ、仕事に対して前向きかというとそうではない。
もちろん、うちもビジネスである以上、自分たちの利益のために相手の利益を無視することだってゼロじゃない。表面上はWINWINでも、こっちだけが得している契約のなんと嫌なことか。
俺はこの会社に入って世の中がいかに残酷かを実感した。
今の時代、知らない方が悪いことになる。悪いことをする方なんて大体聡いんだろう。ただ、法律には触れないからこそ事業は続いている。
もちろん法に触れることなんて1つもない。社内はその点死ぬほど徹底しており、社内の飲み会なんて開催するハードルが高すぎて1年に1回も公式何な飲み会がない。
・・・法律には触れないが、倫理観はどうなんだろうか。
こんなことを考えるのは軟弱だからだろうか。
本当はわかっている。こうして世の中が回っていることくらい。
でも俺は怖かった。
自分の仕事で関わった会社がなくなっていく姿をたくさん見てきた。
俺がテコ入れした会社がどんどん衰退していき、倒産に追い込まれた会社が何社あっただろうか。もうしばらく数えていない。自分の心が壊れてしまうから。
家族を持っているような年齢の大人たちが、職を失ってしまう瞬間をたくさん見てきた。
羽振りの良かった経営者の家が売れ地になっていたことも何度もあった。
・・・自ら人生を終わらせた人だって・・・。
俺の仕事が彼らを破滅に追い込んだ・・・可能性だって0ではない。
でも彼らが自分で選んだ仕事だ。彼らから責められる義理なんてない。
家族が俺も元に乗り込んできたこともあった。
だが、俺が悪いわけではない。決断したのは彼らだ。
・・・。
俺が本当に怖いのはこれだ。
こうして自分を正当化しないと生きていてないこと。
俺の中の倫理観が黒く染まっているという実感。
白の中に黒いインクが一滴でも垂れればもう2度と白にはなれない。
あとは黒が強くなる一方。
・・・。
俺は誰のために働いているんだ。
俺は何がしたいんだ。
そもそも今の俺は俺は正常か?
他人の人生の破綻を幾度となく見てきた俺の心に正常なんてあるのだろうか?
俺、この先もこんな生活を続けていくのだろうか・・・。
もし、来世なんてものがあるのなら・・・。
(あれなんか頭が・・・。)
「・・・・・・ぉぃ。」
(疲れが溜まってんだろうな。)
「・・・おい。」
(明日は確かA商事と商談だったな、早く帰って準備しないとな。あそこは、営業管理システムに問題がある。営業担当者の残業時間が多すぎる現状が解決できれば、ほかに時間も人的資源も回せる。帰ってもう一回スプレットシートを回すか。)
「おい、あんた!危ない!」
「・・・え?」
横断報道の真ん中で急に意識を取り戻した時は、車と衝突する数メートル手前。
(こういうのなんだっけ。ああそうだ、走馬灯だ。でもこんな時に見るものが仕事の事しか浮かばないってのはどうなんだろうか。でもこれで死ぬことになるんだったら・・・。)
「果たして俺がいくのは地獄だろうか。まあ、それも悪くはないかもしれない。」
「贖罪の気持ちを抱えた上でいく天国なら、地獄で贖罪を行う方が今の俺からしたらよっぽどありがたい選択肢だ。」
「おい、大丈夫か!救急車!誰か・・・」
(い。痛い。だめだ・・・。)
「・・・ああここで俺は死ぬのか。」
でもやっと、これでやっと、この人生から解放される。
・・・。
薄れゆく意識の中で、俺は最後に来世を願った。
「もし、もし生まれ変わることがあるのなら、今度は、今度こそはもっと人を助ける仕事がしたいな・・・。」
良かった。俺の原点はこれだった。
俺は、死ぬ時には人を助けたいと思える人間だった。
今までの仕事もそのつもりだが、どこかで利益が優先させていたと思う。
でも、、
俺の中の「白」はまだなくなってはいなかったのかもしれない。
(ふふっ)
こんなバカな自分がなんだか誇らしい。不思議と笑みが溢れる。
死ぬ時にまでこんなことを考えている俺はきっと異常者に違いないだろう。
いや、多分違うな、
俺の心は今やっと、ほんとの意味で正常になったのだ。
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