第55話 ヒロイン復活
クレア———ササPは肩をぐるぐる回し、調子を確かめていた。
襲撃から一月経ったとは言え、あの怪我で通常ここまで完治する筈が無い。
この世界の治癒魔法が凄いのか、それとも主人公補正の賜物か。
ピョンピョン飛び跳ねているササPを見ると、日常生活どころか戦闘においても、全く支障はなさそうだ。
「傷の方は大丈夫なのか? クレア嬢」
「王都の治癒魔法使いさん達が日夜頑張ってくれたお陰でこのとおり! 連絡用の飛行船を飛ばしてもらったよ……………でも、フィリア様は間に合わなかったんだね」
今更この状況下で敬語は不要と判断したのか、ササPがディエスに対してタメ口で、悲しそうに答えた。
それに対し、ディエスは俺を手に持ってササPの前に掲げる。
「殿下?」
「嘆くには早いぞ、クレア嬢。状況は決して良いものではないが、君は間に合った。フィリアはここにいる」
「!」
ササPがディエスから奪い取るように、俺を胸に抱く。
そうだぞ、ササP。
こんな身体になってしまったけれど、俺の意識はここにある。
俺はまだ存在しているんだ!
「………良かった」
俺の気持ちが通じたのか、深く息を吐き出し、ササPが俺をぎゅっと抱きしめた。心なしか彼の瞳が潤んで見えた。
「B君が……君が壊れて消えてしまったと思ったから、本当に良かった……」
うん。俺もササPと再会出来て嬉しいよ。
抱き返す腕が俺にないことが悔しいくらいだ。
ササPはもう一度ぎゅっと強く抱きしめた後、俺をディエスに返した。
「私は彼——コスタとケリをつけてくる。アイツがレギオを裏で操って私を襲撃させた首謀者だ」
「…………そう、だったのか」
先程の魔王への加勢で気付いてはいただろうが、ディエスはササPの証言で納得したようだ。
「その後、魔界へ降りて魔王を叩く。あ、加勢は必要ないから」
「単独で!? 君が強くても危険過ぎる」
俺もディエスの意見に大いに同意する。
魔界は敵の本拠地、地上に湧き出た以上の魔物が待ち構えている。
ディエスの攻撃で多少魔王がダメージを負っていたとしても、魔王+魔物の大群に単騎じゃ分が悪過ぎる。
「私に魔王が殺せるとは思ってないよ。アイツは不老不死だし。だから私はあくまで時間稼ぎだ」
「? 何をするつもりだ」
「それ」とササPが俺を指差す。
「『ノーティオの遺物』の魔剣は世界を裁ち切る力を持つ———と同時に、世界の切れ目を塞ぐ力も持っている。そのための針穴だよ。しかし使用者の魔力負担も大きい。強大な魔力保持者しか魔剣は使えないんだ。つまり殿下、君にしかこの役目は担えない」
ニヤリとササPがヒロインらしからぬ、不敵な笑みを浮かべる。
それにしても、この形状は剣というよりやっぱり針だったんだな。
「何故クレア嬢がそんなことを知っている? いや、今ここでそんなことを議論している場合じゃないが」
「そうそう。生きて帰ったら真実を教えるよ。私も死ぬつもりはないけどね」
言うべきことは言ったと、ササPの視線は既に、魔界の入り口とそこに立ち塞がるコスタに向いていた。
「私が魔王を魔界にギリギリまで引き留める。君たちはその間に魔界の入り口を封じるんだ。やり方はノクス先生に聞けば良い。フィリア様一人通れるくらい残して塞いでくれれば、私はそこから脱出するから」
「分かった。くれぐれも気をつけてくれ」
「そっちこそ。ご武運を祈るよ」
最後に可愛らしくウインクして、ササP——クレアはコスタのもとに飛んで行った。
「では、私たちも叔父——ノクス先生のもとに向かおう、フィリア」
ああ、ディエス。
俺たちの反撃開始と行こうじゃないか!!
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