第27話 おいでませメンブルム領

「フィリアー! 会いたかったぞ! お前のいない我が家は、それはもう火の消えたようで……グスっ」

「私の可愛いフィリア、よく顔を見せて頂戴。ああ、なんて事、少し痩せたのではなくて? 料理長に言って栄養のある物を用意させるわね」

「姉様、お休みの間はずっと家にいるんですよね? 姉様がいない間、僕が家庭教師に教わったこと、姉様にも教えてあげます!」


 しばらく離れていても相変わらずの我が家———メンブルム家である。

 熱烈大歓迎というか、飛行船から降りた俺を、客人そっちのけで取り囲みギュウギュウと抱きしめる。

「お父様、お母様、リベル。ディエス殿下とメテオラ殿下の御前ですわよ! 落ち着いてくださいませ!!」

「ああ、そうだったな」

 父——ウィルガ・メンブルム侯爵は慌てることなく居住まいを正すと、

「メテオラ王太子殿下、この度は娘を送ってくださり、ありがとうございました」

 丁寧に礼をした。



 現在時刻は、ほぼ夜に差しかかった夕方———アンゴル大峡谷遠征が決まった翌日である。

 あの後、俺たちは急いで旅支度をして早朝寮を飛行船で出発、夕方メンブルム領に到着したというわけだ。

 俺以外の客人がいることは、瞬間移動魔法を得意とする伝令からウィルガに通達済みだ。


「レギオもよく生きて戻ってこられた。早速だが騎士団長には話をつけてある、明日からの訓練で団員、場所ともに好きに使ってくれて構わないが、まず今夜は移動の疲れを存分にとるがいい」

「はい、ご厚意感謝します、メンブルム侯」

 メンブルム家とパルマ王家の仲は深い。

 当然ウィルガも王の家臣であるレギオのことは知っていて、アンゴル大峡谷遠征の件も伝わっている。


「あら、あなたたちがフィリアのお友だちね」

「姉様がいつもお世話になっています」

 母のミルレが目ざとくクレアたちを見つけ、弟のリベルが如才なく挨拶する。


「初めまして! クレアと申します。フィリア様とは学園でとーっても仲良くさせて頂いてます!」

 ヒロイン力を遺憾無く発揮し、好感度バツグンの笑顔を振り撒くクレア——中の人ササP。


「は、初めまして……グランス・ブルケル、です」

 いや、もうちょっとなんか言おうや、グランス君。


「ミルレ叔母様お久しぶりです! リベル君も大きくなったなあ! そろそろお茶会で好きな御令嬢でも出来たか? まだいないようなら俺が紹介してやろうか?」

「余計なお世話です。カロル兄様」

 カロルはお節介な親戚あるあるを炸裂させて、リベルからの好感度を爆下げしている。基本、いい奴ではあるんだけどな……。


「メンブルム侯、そろそろ我とフィリアの結婚の件、日程を含めて相談しようではないか。再三言っておるように、我は度量の広い男ゆえ、ディエスという婚約者がいても気にはせん」

「殿下、こちらも再三言っておりますように、フィリアを国外に嫁に行かせるのはちょっと……」

「隣国同士ではないか。それなら十日に一度の里帰りを、三日に一度に譲歩しよう!」

 これから命懸けの遠征があるってのに、今する話か!?

 ……でも、メテオラがウチに来ると大体いつもこんな感じだったな。


「世話になるメンブルム侯」

「お世話になります! あ、ディエス殿下のお世話は、侍従の僕——コスタがしますので、お構いなく」

 ディエスとコスタの主従コンビもいつものとおりだ。


 それぞれ泊まる部屋へ落ち着いた後、皆で揃って夕食をとった。

 騒々しくも楽しい時間を過ごして、夏休みの一日目は終了した。



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