第17話 ノクス先生の日記

 ●月●日 天候は曇り 微風 髪のうねりが強かったので湿度あり


 エポカの体重の増減はなし。食べる量も変化なし。

 成長はここで止まったと見ていいだろう。

 魔物は個体差が大きいので、病気や寿命に関する資料や研究がほとんどない。

 私かエポカが死ぬまで、後世のためにも日々の記録をつけねばなるまい。

 最近果物の比率が多かったから、明日は野菜を多めに与えてみよう。


 シルワが先日の演習戦の書類をまだ出さない。

 あの男は、ノーティオ魔法学園の学生の頃からそうだ。

 実戦では頼りになるが、書類仕事は面倒がって後回しにする悪癖がある。

 魔物討伐の実績だけなら叙爵は順当だが、奴に統治される領民のことを思うと、下手に爵位など受け取らない方がお互いにとって幸せだろう。


 演習戦の詳しい報告をコスタから受けた。

 魔物の出現は私も予想外だった。

 しかし先日中庭に現れた魔物といい、潜伏型で中級程度の力を持つ魔物の報告が、市井でも増加している。

 警備を強化するのにも限度がある。騎士団の到着が間に合わなかった村や町にも被害が出始めている。

 八年前の壁外での悲劇を繰り返さないためにも、早急に計画を遂行しなければならない。

 そのための人材育成が急務だ。


 ディエスの魔力制御が向上したと、シルワから聞いた。

 あの男はこういう口頭での報告はまめなのだから、書類作成もてきぱきやって欲しい。

 ああ、シルワはともかくディエスのことだ。

 魔力だけなら、兄上——先王ルーメン・パルマを凌駕するかもしれない。

 ルーメン先王も彼の性格と魔力の性質上、集団で戦うのには向かない方だったが、ディエスも同様だ。

 父親の先王が亡くなって以降、幼い頃から騎士団に同行し魔物討伐を行っていたが、下手にそばにいると味方でも危ない戦い方をしていた。

 ディエスは確かに強い。しかし万能ではない。時には酷い怪我も負った。

 私は親兄弟より彼とは遠い存在なのかもしれない。

 それでも心配はしている。

 魔物討伐に限らず、ディエスにはそばに寄り添い、気にかけてくれる存在が必要だ。

 彼を一人にしてはいけない。

 そこで魔力制御向上の話は朗報だ。味方を傷つけることなくそばに置ける。

 戦場で彼は一人で戦わなくていい。

 私にもっとディエスの半分でも魔力があれば、彼の力になれただろう……。


 向上と言えばフィリア嬢の治癒魔法だ。

 演習戦では魔物の乱入で、使用する余裕はなかったと落ち込んでいたが、あの状況では仕方がない。

 緊急時にも瞬時に対応出来れば、彼女も魔物討伐への同行が可能だろう。

 それくらい、最初の頃と比べるとフィリア嬢の治癒魔法は熟達してきた。


 演習戦は時間内で十人の重軽傷者を出したが、重傷だったグランス君の怪我もラティオ先生の尽力で完治している。

 いずれこの国を守る剣となり盾となる若者たちだ。

 願わくば、誰も欠けることなく卒業を迎えて欲しい。

 それが私の偽らざる気持ちだ———


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