第25話 回転寿司
夏後期補習が開始されてから初めての土曜日がやってきた。
「やっと休みだ……」
夏休みの自堕落な生活に慣れてしまっていた俺にとってこの1週間はめちゃくちゃ長く辛いものであり、休みになるのを待ちわびていたほどだ。
久々の学校によっぽど疲れてしまっていたのか中々起きる事が出来ず、目を覚まして時計を見た時には10時過ぎになっていた。
ちなみに夏海ちゃんは俺よりも先に起きていたらしく、ベッドの中には既にいない。
「……そろそろ起きるか」
俺はゆっくりとベッドから起き上がるとクローゼットの中から服を引っ張り出して着た。
そして部屋を出てダイニングへ向かい、冷蔵庫に入っていたヨーグルトを少し遅めの朝食として食べ始める。
すると家の用事をしていたであろう母さんと、それを手伝っていたらしい夏海ちゃんがダイニングに現れた。
「あっ、パパ。おはよう」
「おはよう、和人」
「母さん、夏海ちゃん、おはよう」
そう挨拶をすると夏海ちゃんが嬉しそうに近づいてきて俺の隣に座る。
「ねえ聞いてよパパ。夏海ね、おばあちゃんが作った漢字テストで100点取れたんだよ」
夏海ちゃんから見せられたテストの解答はミスが一つもない状態だった。
「本当だ、よく頑張ったな。偉いぞ」
「えへへ、ありがとう。夏海、漢字ドリルでいっぱい勉強したんだ」
俺が頭を撫でると夏海ちゃんは嬉しそうに微笑んでおり、母さんもそんな様子をニコニコしながら見ている。
「それで夏海ちゃんが漢字テストを頑張ったご褒美として今日のお昼は回転寿司に行く事になったから」
「えっ、本当。やった」
お寿司が大好きな俺は久々に回転寿司へ行けると聞いて、そう歓喜の声をあげた。
「凛花の部活がお昼過ぎくらいに終わるはずだから、それからみんなで行きましょう」
「パパ、楽しみだね」
一気に眠気が吹き飛んだ俺はウキウキした気分で自室に戻り、普段は後回しにするはずの週末課題を熱心に取り組んだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「うわー、やっぱり人が多いね」
凛花が帰ってきた後、近所の回転寿司に5人で来たわけだが、店内は人で溢れかえっておりかなり混雑している。
「まだ夏休みだし、しかも土曜日だからな」
「まあ、私達は来る前にアプリで予約してるから関係ないけどね」
凛花の言うように俺達は事前にアプリで予約していたため待ち時間無くすぐに席へと通された。
席に着いた俺達は早速レーンを回っていたお寿司を食べたり設置されていたタッチパネルで注文をするわけだが、夏海ちゃんがレーンからどんどんお皿を取り始めたため慌てて止める。
「おいおい、取りすぎだろ。本当に食べられるのか?」
「……うーん、食べられるかな?」
やはり夏海ちゃんは後先考えずに流れてきたものを取っていたようだ。
「今更レーンに戻せないし、俺も一緒に食べてやるよ」
「パパ、ありがとう」
「分かってるとは思うけど次やったら怒るからな」
大丈夫とは思うが念のために夏海ちゃんにはそう釘を刺しておいた。
するとそんな様子を見ていた凛花がニヤニヤしながら口を開く。
「お兄ちゃん、前よりもパパが似合ってきたんじゃない?」
「それ恵美と美菜先輩からも最近言われたんだけど、そんなに似合ってるか?」
「和人は立派にパパをやれてると思うよ。もしかしたら俺よりもパパらしいかもな」
凛花と話していると父さんが冗談めいた口調でそんな事を言ってきた。
そこまで言われてだんだん恥ずかしくなってきた俺は強引に話題を変える。
「せ、せっかく回転寿司に来たんだから会話ばっかりせずにみんなもっと食べようぜ」
「そうだね、そうしようか」
相変わらず凛花や父さん、母さんはニコニコしていたが、とりあえず話題を逸らす事には成功したので良しとしよう。
それから俺達は気を取り直してお寿司を食べ始める。
夏海ちゃんは俺と好みが似ているのかネタの中でも特にマグロが好きなようで、先程大量に取っていたお皿もマグロばかりだ。
「回転寿司に来るのはかなり久しぶりだけど、やっぱりお寿司は美味しいな」
「そうね、夏海ちゃんが漢字テストを頑張ったおかげね」
俺も凛花も久々のお寿司に満足しており、夏海ちゃんにはめちゃくちゃ感謝している。
ある程度お寿司を食べ終えた俺達は、今度はタッチパネルで最後の楽しみであるデザートを注文し始める。
「チョコレートパフェも美味しそうだけどショートケーキも捨てがたいのよね」
すんなり注文が決まった俺や父さん、母さんとは違い甘い物に目の無い凛花はタッチパネルの前でかなり悩んでいた。
すると同じく何を注文するか迷っていた夏海ちゃんが凛花に話しかける。
「じゃあ、夏海がチョコレートパフェを頼むから凛花お姉ちゃんがショートケーキを頼んで半分こする?」
「……えっ、いいの」
「うん、前にパパから同じことをやってもらったから夏海も誰かにやりたかったんだ」
どうやら夏海ちゃんは以前2人で喫茶店に行った時に俺がやった事の真似をしたかったらしい。
「夏海ちゃん、ありがとう」
凛花は嬉しそうに微笑み、夏海ちゃんは得意げな顔になるのだった。
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