第3話 おつかい

「ただいま」


「あっ、パパ。おかえり」


 授業を終え、少し寄り道をした俺が夕方家へ帰ると玄関で夏海ちゃんが出迎えてくれた。

 ちなみに俺は部活に所属していないので学校を出る時間は周りの同級生と比べて割と早く、帰りに寄り道するような余裕もある。


「俺が学校に行ってた間は何をしてたんだ?」


「えっとね、おばあちゃんに色々勉強を教えてもらってたよ」


 いつ未来に戻っても困らないように母さんから勉強をさせられていたらしい。

 母さんは専業主婦で基本的には家にいることが多いため勉強を教える余裕があったのだろう。


「あら、和人おかえりなさい」


 そんな事を考えていると台所からエプロン姿の母さんが出てきた。


「ただいま」


「悪いんだけどさ、ケチャップを買ってきて貰えないかしら? 夏海ちゃんのリクエストでハンバーグを作ってたんだけど、足りない事にさっき気付いたのよね」


「分かった、行ってくるよ」


 俺は背負っていたリュックサックを玄関に置くと、渡されたお金と買い物袋を持って外に出ようとする。


「あっ、夏海も一緒に行きたい」


 すると夏海ちゃんも一緒に行きたいのか俺の手を握ってきた。


「いいわよ、2人で行ってきなさい」


「分かった、じゃあ夏海ちゃん行こうか」


「やったー」


 母さんの許可が出たため俺と夏海ちゃんは2人で近くのスーパーに向かって歩き始める。


「夏海ちゃんはハンバーグが好きなのか?」


「うん、ママがよく作ってくれたから大好きだよ」


「そうなんだ……それでママの事はまだ思い出せない?」


 話の中でママという単語が出てきたため気になった俺はそう質問をしてみた。

 俺の結婚相手が誰なのかという事はめちゃくちゃ気になる重要情報なのだ。


「うーん、やっぱりママの事だけは全然思い出せないよ」


「そっか、それじゃあ仕方がないな」


 そんな会話をしているうちにスーパーへ到着した俺達は早速買い物を始める。

 ケチャップ以外にも夏海ちゃんが欲しがったお菓子などを買ってレジへ向かっていると、見覚えのある顔が前から歩いてきた。

 恵美も俺の存在に気付いたようで買い物かごを持ったまま駆け寄ってくる。


「あっ、和人君こんばんは。それとその子は……ひょっとして昼言ってた未来から来た娘ちゃん?」


「恵美か、こんなところで会うなんて奇遇だな。ひょっとして部活終わりか? あっ、この子が未来から来た俺の娘だよ、ほら恵美に自己紹介をしてくれ」


「パパの娘の水瀬夏海、小学生2年生です」


 夏海ちゃんは恥ずかしかったのか若干俺の後ろに隠れながら自己紹介を行った。


「可愛い子だね、確かに小さかった頃の和人君に似てる気がするよ」


「父さんと母さんも同じような反応をしてたよ。恵美も買い物に来たのか?」


「うん、私も夕飯の材料を買いに来たんだよね」


 そういえば恵美の家は共働きなので家事全般は恵美が担当していた事を思い出す。


「そっかカゴにある材料的に今日はカレーかな?」


「正解、よく分かったね」


「肉とにんじん、ジャガイモに玉ねぎが入ってたから多分そうだと思ったよ」


 2人でそう話していると夏海ちゃんが帰りたそうな表情になっている事に気付く。


「夏海ちゃんが帰りたそうな顔をしてるし、俺達はもう行くな」


「うん、またね。和人君、夏海ちゃん」


 俺はそう言い残すと夏海ちゃんの手を引っ張ってレジに向かう。


「ん? 3000円以上購入で懸賞に応募できるのか。えっと、1位がハワイ旅行で2等は遊園地ユニバースランドのアトラクション乗り放題の入場チケットみたいだな」


 レジに並んで待っていると壁に懸賞についてのポスターが貼られているのが目に入ってきた。


「夏海、2等の遊園地に行きたいな」


「まあ当たるわけないと思うけど、せっかくだし応募だけでもしてみるか」


 会計を終えた後、懸賞の応募用紙に必要事項を記入していく。

 最初は夏海ちゃんが用紙を書きたがっていたが、読めない漢字が多いという事で結局は全部俺が書いた。

 それからスーパーを出て家へ帰り始めていたところで夏海ちゃんが口を開く。


「……どうしてか分かんないけど、さっきのあのお姉ちゃんから懐かしい感じがした」


「恵美から懐かしい感じがした? 一体どういう意味だろう」


 俺達は2人でその理由を考えながら家へと歩いて帰っていたが、結局家に着くまで結論は出なかった。


「お兄ちゃん、夏海ちゃん、おかえり。2人でどこに行ってたの?」


 それから家に帰るとちょうど部活を終えて帰ってきたであろう凛花と玄関で遭遇してそう聞かれたので俺は答える。


「母さんに頼まれて2人で近所のスーパーまでお使いに行ってただけだよ」


「うん、パパにお菓子を買って貰ったんだ」


「そうなんだ、良かったね夏海ちゃん」


 そう言い残すと疲れていたらしい凛花は自分の部屋へと戻っていく。


「ただいま、ケチャップ買ってきたよ」


「和人、ありがとう助かったわ」


 俺は台所にいた母さんにそう言ってケチャップを手渡した。

 それから俺と夏海ちゃんは夕食ができるまでリビングでテレビを見ながら適当に過ごす。

 そして父さんが帰ってきたタイミングで夕食が完成したため俺達5人はダイニングでご飯を食べ始めた。

 夏海ちゃんはハンバーグを見た途端喜んで食べている。


「和人、凛花、今度の土曜日ちょうど凛花の部活も休みだから夏海ちゃんと近くのショッピングモールへ買い物に行かない?」


「お金は全部俺がだす」


 ご飯を食べていると母さんと父さんがそんな事を言い始めた。

 今夏海ちゃんが身に付けている服などは全て凛花が小さい頃に着ていたお古なので、服や下着などを買った方がいいかもしれない。


「オッケー、行こう」


「私も賛成よ、ずっと私のお古っていうのもかわいそうだしね」


「やったー、パパと買い物だ」


 俺と凛花が賛成したため夏海ちゃんは大喜びな様子だ。

 こうして明日は5人でショッピングモールへ買い物に行く事が決定した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る