幕開け

「満天の五十年」はご存知だろう。

《海皇》セディルリーヴの『双異翼の柱』の開放から数えられ、伝説ではない世界地図を初めて作成ったパールラティの没年をして区切られる一時代である。

 全花(せ)陸(かい)、というものが認識されはじめた時代だ。

 世界は、散らばった花びらに似た五つの花(か)陸(りく)から構成(な)る。内海を囲んで近接するノーデ・サウデ・セルデの三花陸こそ古くから歴史を交えてきたものの、『双異翼の柱』で隔てられ永く幻の大陸であったシャイデが(逆もまた然り)現実の一部となったのも、「一つは荒れ狂う風に千切られ、一つは渦巻く昏き波間へと、三つはなすすべもなく寄り添った。」と謳う創世神話で、花陸が水没したと疑いもなかったシンラが発見されたのも、この期間のことだ。

 海洋の世紀、大航海時代の黎明。

 造船技術、航海術は著しい飛躍を遂げた。人も物も、五花陸を巡って、それ以前とは比較にならぬ程、動き始めた。

 激動する時代ほど、綺羅星たる存在を生み出すものだが、「満天」と称されるほどにこの時代、幾多の鮮やかで二つとない色合いの星が世空を飾った。そして最も大きく世界が広がったシャイデ花陸の空はひときわ華やかである。

 【白氷妃の擾乱】からシャイデを解放した『遠海』の輝ける剣ライヴァート、天智なる盾(または神眼の)エアルヴィーン、『白舞』の白き御手マシェリカ、暁の獅子レオン。そして、果て無きパールラティ、幾千のシェリダン。

 その、いずれ劣らぬ、華々しい星々の傍らで、そっと瞬く煌めきがある。

 かの人は二つ名を冠されはしなかった。だが、その星を記さずに、どの綺羅星のサーガを語ることができようか。

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