第35話 発覚
俺はAに手を引っ張られながら街の広場方面へ歩いていた。
「
「何がだ?」
手を繋いでいても普段通りのA、特別何か意識している様には見えない。
「いえ、このまま行くと街中で手を繋いでいる姿を見られてしまいますよ?」
「ん?それの何が悪い?」
「その、男女が手を繋いでるというのは、"そういう"関係だと知らせるようなものではないですか?」
「そういう関係?
私の奉公人という事を皆に知らしめるつもりではいるが、他に何か意味があるのか?」
いやいやいや、奉公人という事を伝えて回るつもりだった事にも驚くが、もしかして文化の違いでこの世界には"そういう"関係の認識がないのか?
「男女の仲ですよ、彼氏彼女だとか恋人とか」
「な?!」
「まぁ、程の年の差から考えると親子と見ら――」
『パチーン!』
言い終わる前に繋いでいた手は離され、ついでと言わんばかりに手を平手で弾かれた。
大きな音がしたがたいした痛みは無く、拳が飛んで来なかった事にむしろ安堵している自分がいた。
「な、な、な、なんだと?!」
Aは恥ずかしさからかうつむきがちにこちらを伺っている。その顔はどうやら赤面しているようだ。
「俺の国では男女が手を繋ぐっていうのは、そういう特別な関係なんですよ。
金銭を払って手を繋ぎたがる人もいるくらいですし。あとは親k―――」
「金銭を支払うだと!?」
「手を繋いで欲しい側が金銭を支払うんですよ、たいてい男が払う側で世間からは冷たい目で見ら―――」
「な、なるほど、
「いや、それはちょっと違うような…。
ただまぁ、金銭に余裕があるのは大抵高齢の方ですから、どちらかと言えば親―――」
「高齢なら祖父の可能性もあるのではないのか?」
な、なんだろう、さっきから親子というのを遮られている様なタイミングだが…。
「もちろんその可能性もありますけど…」
俺の常識はあくまで日本のものだ、あまり変な知識を植え付けない方が良い気もしてきた。
とりあえず誰かに手を繋いでいる所を見られる心配もなくなった事だし、興奮気味のAを抑えるような話に切り替えよう。
「ま、まぁ、その話は止めましょう。
ところで
赤面して年相応の反応を見せていたAは途端につまらなさそうな仏頂面になり黙々と歩き始めた。
遅れないように俺もAの右側に並ぶように速度をあわせるが、互いの手は繋がれる事は無かった。
少しの沈黙が続き、大人気ない話題転換だった事に今更ながら少し後悔する。
「はぁ…その時は売るまでだよ」
気を直してくれたのかAが溜め息混じりに応えてくれた。
「魔法を諦めたなら装備を整えるなりして戦闘スキルをしっかり叩き込んでやったさ」
「なるほど、感謝します」
「それにしても」
Aは立ち止まると腕組みをして俺の事をじっと見てきた。さっきもそうだが、若い娘にじっと見られるのはあまり落ちつけるものではない。
「BBの国では本当に魔法を使える者はいないんだな?」
「どういうことですか?」
「いや、その肩と手首の重傷がよく完治したものだと思ってな。ちょっと触っていいか?」
今更ながら服の袖がない左側をAに見られていた事に気付き、不格好な身なりが恥ずかしくなってきた。
「別に構いませんけど…」
Aは両手で俺の手首の傷跡を触り、左肩の傷跡にも背伸びをして念入りに観察してくる。
傷跡は手首も片口も一周してあるため、それなりの時間がたった気がする。
これはなかなかキツイな…我慢、我慢だ。
うぅ…こ、こそばゆッ!?
「よくよく見るとやはり凄い傷跡だな…」
なんとか平静を保てたぞ…。
「まるで太い縄にでも締め付けられた様な傷跡だが、たぶんこれは切断された跡なのだろう?」
「そうです!こんな傷跡から良くわかりましたね。
もしかして魔法だと傷跡は残らないんですか?」
「魔法による回復なら傷跡はほぼ残らない」
「この傷跡も綺麗になりますかね?」
言ってて思い出したが、俺は既に回復魔法を何度か受けていたな…。
「いや、この傷跡に魔法をかけても綺麗にはならない。一度完治すると形状を肉体が記憶するんだ」
なるほど、それで既にベルフェ様に治療してもらった傷跡は残ったままなのか。
「それは残念です」
「いやしかし…どうなってるんだ?」
何か気になるようでAは今まで見たことが無いよ真剣な表情をしている。
かなり集中しているためか俺に話すでもなく、独り言のように呟きはじめた。
「傷跡があるという事は魔法が使われずに自然治癒で完治している事になる。
しかしこれ程の重傷なら再生能力を高める回復魔法でなければ血が流れすぎて致命傷になるはず。
だが腕を繋ぐ程の回復魔法だと相当な魔力が必要だし、そもそもそれ程の魔法の使い手が存在?
それに損傷箇所は肩と手首の二箇所だ、腐敗が始まる前に大魔法を二箇所も?
いや、違うな。魔法による回復ならここまで目立った傷跡は残らない。
しかしBBの国では魔法を使える者がいないというのに、これ程の重傷を治す術が?
傷跡が残っているという事は自然治癒しか考えられないわけだが…ありえるのか?」
気になるワードが次々とAの口から語られたぞ。
Aが黙って考えこみ始めたタイミングで声をかけてみる。
「すみません、なにか問題がありましたか?」
「聞きたいのはこっちの方だ。それ程の重傷がよく完治したな。私の回復魔法ではたぶん治せないぞ」
なんだと!?これは重要な問題だぞ!!
何度か回復魔法をかけてもらっているため「死ななければ大丈夫!回復魔法があるさ!」という気持ちが若干あったのだ。
「そ、それは聖女様でも無理なんですか?」
「すまないがそれは分からない、それ程の重傷の治療に立ち会った事は無いんだ。ただ、死んだ者を蘇らせる事はできないと聞いたことはある。魔力も万能ではないと」
「そうなんですね…」
「回復魔法は肉体が元々持つ治癒力を魔力により高め、再生能力を強化するような魔法なんだ。
肉体が元に戻ろうとする力を軸にしているからBBが経験した骨折や筋肉の裂傷くらいの重傷なら私の魔法でもなんとかなる。
だが再生能力は切断された箇所には宿らない、切断箇所は再生ではなく腐敗が始まるからだ。
BB、一体それはどうやって完治したのだ?」
これはいかん…俺がこの世界で特別な存在(勇者)だという事がばれるのは避けたい。
何と説明したものか…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます