第23話 魔法の代償

「ぅ……ぅ……」

「BBの旦那!あっしがわかりやすか?!」

「…ぇ…ぁ?…シトロ、さん?」

「店主!もう水は必要ないぞ!」

「わかりました!」


 …何だろう?全身が酷く熱い、俺は一体?


「BBの旦那、応急処置はしたんですがね、こいつぁちょっとした重症ですぜ?」

「…重症?」

「旦那にかかってた補助魔法なんですがね、あれは狂戦士化の魔法で身体への負荷がかかりすぎる厄介な魔法なんでさぁ、ちょっと失礼しやすよ」

「狂戦士化…なるほど、言われてみれば…」


 シトロは床に倒れている俺の上半身に腕を回して引き上げる、すると視界に自然とそれは映り込んだ。


全身が灰色で埋め尽くされている、なんだろうこれは?カイロか?これが熱いのか?


「これは…」


 異常な事が起こっている事だけは理解でき、言葉が詰まった。

 良く見ると灰色の正体はハンカチサイズ程の布のようで、複数の布に俺の身体は覆われている。しかし布にしては何だか重い。ピッチリ身体に張り付いているという事は濡れているのか?


「これは、何がどうなってるんですか?」

「肌の損傷が酷いもんでそれの処置でさぁ、特に足がヤバイ。上半身は比較的マシなんですがね」

「特に痛みも無いようなのですが…」

「それはあっしの処置の効果ですぜ。旦那の持ってた銀貨1枚で店主に薬草を用意してもらったんでさぁ」


 得意気に笑うシトロの様子に少しだけ安心感を抱いた。


「すみません、何度もご迷惑をおかけして」

「いやいや、お代は勝手に頂いてるんでね、気にしないでくだせぇ。それにこれはあくまで応急処置ですぜ旦那。回復魔法が使えるなら早く使ったほうが良い、今は痛みが無くてもそのうち酷くなってきまさぁ」

「あいにく私は魔法使えないんですよ、教会まで運んで頂けると助かるのですが」

「わかりやした、店主!咥え棒をくれ!」

「咥え棒?」

「BB様、こちら咥え棒でございます」


 ブリテンが灰色の布を巻いた棒を手にして表れた。心の汚れた俺にはその棒のサイズと形状から何か違うものに見えた。


「腕があがらないと思いますので、僭越せんえつながら私が入れさせて頂きます。どうぞ気を楽にして」

「え、何ですか」


 思わぬ展開に恐怖から尻穴がすくむ。


「BBの旦那、ひとまず荷台に乗せて運びやすが、激痛が走ったらその棒を心の支えにして頼ってくだせぇ。店主、早く入れるんだ!薬の時間は長くは持たんぞ!」

「ではBB様、大きく開いて下さい」


 ブリテンが笑顔で凶器を俺に向け近づいてくる。


「え、エーッ!?」

「Aではない、師匠マスターだ!」


自在扉スイングドアの大きな開閉音を響かせながら、聞き慣れた言葉が聞こえてきた。


「ま、師匠マスターッ!来てくれたんですか!!」

「全く何をやっているんだ、早くしないと日が暮れるぞ!」


 険しい顔と高圧的な態度は相変わらずだが、姿が見えない俺を探しに来てくれたという事や、回復魔法を使用できるAの存在に気持ちが高ぶりうっすら涙ぐんでしまった。


「も、申し訳ありません」

「そこの二人、私の奉公人が世話になったな」

「いえ、こちらこそご贔屓頂きまして!」

「…」


 ブリテンは姿勢を改めAに接しているが、シトロは視線をAに向けることなく黙っていた。


「その奉公人はこちらで引き取るとしよう。また今回の礼は後程奉公人より届けさせる」

「ありがとうございます!」

「…あっしは特に何もしてないんで店主にあっしの分も渡してもらえれば」

「ではそうしよう。次にBB、全く情けない、なんだその姿は」

「これは…その、気付いた時にはこの姿で…」

「あとで詳しく聞かせてもらうが見たところなかなか良い処置をされているようだな。しかしそれでもすぐには動けまい、ひとまず回復してやろう――主よ、生きとし生けるものを救うために神の奇跡を授けたまえ、傷付いたこの者に慈悲を与え一時の休息を与えん、治癒ヒーリング

「おお、これが魔法ですか!」

「………」


 Aが治癒魔法を唱えると俺の身体は白い光に包まれる。魔法を見るブリテンとシトロの反応がまるで逆なのが気になるが、これで重症から回復されるはずだ。


「どうだ?四肢が切断されたりしない限りはこれで治ったはずだぞ、立って確認してみろ」


 Aが得意気に見下ろしてくる。


「はい、師匠マスター!!」


 全身にかけられていた灰色の布をベチャベチャと床に落としながら立ち上がると肌が露出する。赤色だった肌は普段と変わりない色に戻っていた。


「おお!さすが師匠マスターの魔法!痛みもなく身体が軽いです!完全に回復してると思います!本当にありがとうございます!」


 満面の笑みでAに感謝の言葉を伝えると、何だかAの様子がおかしい。


「お、おみゃえ!?なんだその格好はッ!!」


頬を赤らめ声が裏返っている。


「「あ…」」

「え?」

「Aではない、師匠マスターだッ!!!!!」


 Aは叫ぶと同時に俺の腹目掛け拳を繰り出した。その動きを追った視線の先に、俺の愚息が超回復しているのが見えた。


「な…」


薄れゆく意識の中で、シトロの謝る言葉が耳に残った。




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