第22話 補助魔法(支援魔法)

全能力激上昇!!!オールステータスフィアスアップ

 

 恥を覚悟で衣服を脱いだ俺だったが、Eは特に気にする事無く段取り良く補助魔法を唱える。


「な、な、なんですかこれは!」


 白い光が身体を覆っていた先程の魔法とは違い、全身の肌が真っ赤に変色していく。あまりの変化に俺は黒のボクサーブリーフ姿で無様にも動揺した。


 ただでさえ若い娘の前で醜態を晒しているというのに、予想外の変化に戸惑いを隠せない。


「長時間効き目のある支援魔法です。先程の魔法よりも身体能力があがります。もっとも―――」

「凄い!凄いですよこれは!!ありがとうございます!これならなんとかなりそうです!行ってきます!」


 魔法の効果か身体の奥底からあふれ出るような力を制御できず、Eの話を遮りパンツ一丁なのも気にせず、靴と靴下も脱いだままで宿舎を飛び出した。


「もっとも、弊害があるので使うタイミングは限られるんですけど」


 EはBBの言動を気にする事無く呟くと、BBが靴の上に脱いで畳んであった服を拾い上げながらつぶやいた。


「几帳面な奉公人ですね。しかし、この服はなかなか…。見たことのないズボンの下の衣服も気になるところですが、あれは下着では…ないですよね、下着より卑猥な気もしますが…」


 Eは確かめるようにシャツをなぞり、BBの衣服を軽く嗅いだ。


「やはりニオイますね、しかしこの質感は…」


 Eは目を細め、頬を緩めた。


◇ ◇ ◇


「ウォォォォォーーー!!!」


 BBは全身を真っ赤にして荷車を引きながら走っていた。あまりのスピードにBBが通った後は砂埃が舞い、広場中央の水場で休んでいる複数の馬がいななく。


「な、なんだありゃぁ…。裸?いや、履いてるな。それに赤い肌、亜人か?」


 咆哮するBBと騒がしい荷台の音が往来からの視線を集め、水場で馬の番をしていたシトロもそれに気付いた。


「いや、ひょっとして、BBの旦那??」


 石門からユリハカ雑貨屋に突き進む真っ赤な人影は異様としか言えないものだったが、背格好とBBの事情を知っていたシトロはそれをかろうじてBBである可能性と結びつけた。


 赤い人物がユリハカに入って行くと、往来からの視線と興味は消えた。巡礼に来る亜人もおり、種族によって羞恥心や肌の色が違う事は人々にとって常識だったからだ。


 人々の興味から外れてはいたが、シトロはユリハカの出入口を監視していた。馬の番をしながら中央広場の警備を行うのがシトロの仕事だからだ。


 しばらくしてユリハカから赤い人物が出てきた。薪を両手に2束ずつ持ち、荷台とユリハカを素早く往復している。


「これは間違いねぇ、BBの旦那だ。しかし赤色で半裸なのは…?それにこの特殊な力、まさか狂戦士化の…」


 シトロが呆気に取られていると荷台に薪が山のように積み上がっていた。BBは積載量に限界を感じたのか薪を積むのを止め、来たときと同じような恐ろしい速度で荷台を引き始めた。薪どころか荷台の重ささえ感じられない勢いで石門をくぐる姿はやはり異常な光景だった。


「間違いねぇ、なんてこった。これだから教会は…」


◆ ◆ ◆


「ウォォォォォーーー!!!」


 Eに補助魔法をかけてもらってから既に3往復目。身体も薪も全てが羽のように軽く、体感では1時間とかかっていないだろう。先程は片道で30分以上かかっていたと思うので、やはり魔法の力は強力だ。


 魔法のおかげで一度に運べる量も増えたので絶望的だった奉仕任務もあと2往復程で終わるだろう。


「いやぁ、教会ってやっぱり凄いですね。半裸の赤色で戻って来られた時は何事かと驚きましたが、赤色になるだけでこんなに力が出るなんて。私にもそれをかけて欲しいですよ」


 ユリハカの店主ブリテンは立て続けの荷受けに顔を引きつらせながら笑う。確かにカウンターまでこれだけの薪を運ぶのは重労働だろう。


「残念ながら今は魔法を使えませんが、いずれ使える様になった時には今回のお礼をかねて是非」

「これから長い付き合いを宜しくお願いしますね」


 お互い眉をハの字にして笑う、ブリテンとの間に友情が芽生えた瞬間だった。


◇ ◇ ◇


「良し、これで終わりだ、あとは報告だが先に荷台を返却しておこう」


 空っぽだった東屋に250束の薪を積み上げるとなかなか壮観で達成感を感じる。


 Eの補助魔法のおかげで想像よりはるかに早く作業が終わったが、気になる点が少しあった。


 魔法をかけられる前は何度も認識できていた能力の向上が魔法をかけられてからは認識されなかったのだ。


「基礎的な能力向上のためには負荷が必要なのか?だとすると楽して成長できないし、魔法の使い所が考えものなんだが…」


 考え事をしていたらすぐにユリハカに着いた、改めて考えてもやはり魔法は便利だ、なんとか多用したい。


「この度はご利用ありがとうございました、担保に預かっていた銀貨一枚をお返しします」

「こちらこそありが…」


 ブリテンから受け取ろうとした銀貨が床を転がる。


「え!い、色が変色されて!?だ、大丈夫ですか!?あぁぁ、これはヤバい!?」


 朦朧とした意識の中でブリテンが慌てて駆けていく姿が見えた。

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