第16話 奴隷



「BB、とりあえず歩きながら話そう、付いてこい」

「はい、師匠マスター


 Aの背中に返事を返す。背を見て育つとはこんな感じなのかもしれないな。


「それで、奉公人を何だと思って来たんだ?」

「俺が聞いた話では無償の奉公人を教会はいつも求めていて、様々な活動に必要な修行はつけてくれる。小さな街や村ではまず教会に行って基礎を覚えると…」


 あれ?

 教会はだと…。

 思いっきりブラック企業の求人じゃないか!?

 

 俺は何をノホホンとしていたんだ、シュカンの色香とAという若い娘を相手に気が緩んでいるのか?


「その認識は完全な間違いでは無いが、奉公人をした事が無い奴の発言だな」

「…実際はどうなんですか?」

「奉公人は無償の奉仕を神官から求められ、拒むことはできない。その代わり衣食住が保証され、本人の望む修練に励む事ができる」

「拒むことができないんですか?」

「できない、私が奴隷と呼ぶのはその点だな」

「酷い事を求められたら逃げれば良いのでは?」

「逃げれば異端者として手配される、異端者を匿う者は同罪として罰を与えられる」

「なるほど…では奉公人を辞めるには?」

つかえている神官からの許可を貰うか、神官を上回る力を誇示すれば辞められる」

「おぅ……」


 逃げれば異端者扱いとは…思ってもみない奉公人の実態に頭が痛くなる。話通りなら神官を上回る力がないと教会を敵にしてしまう仕組みだ。

 仮に神官より強くなったとすればそのまま神官に勧誘される可能性もあり、これもメリットかデメリットか現状分からない。


「どうした?」

「いえ、少し目眩がしただけです。

 奉公人になったしるしに契約書とかあるんですか?」

「そんなものは無い、口約束だけだ」

「俺ってもう奉公人なんですよね?」

「そうだ、私の初めての奉公人だ。

 恥の無いように気合を入れて育ててやる」

「お、おてやわらかに」


 理不尽極まりなくメチャクチャ図々しい奉公人殺しの前科がある大変危険な娘だと思っていたが、見方を変えよう。

 メチャクチャまじめな普通の娘だと思えなくもないんじゃないか?と。

 今の印象は最悪に近いが、きっと良いところもあるはず。そう自分に強く言い聞かせる事にする。


「安心しろ、奴隷と言っても神の奴隷だ。

 無闇に傷つけたり意味のない事を私は求めない、必ず何か意味がある。怪我をすれば治療してやるし、飯だってちゃんと食えるんだ。

 衣食住に困った者はこれを理由に奉公人になろうとするし、まれに神官を目指して奉公人になる者もいる、奴隷と言ったが悪い話ばかりではないんだ」

「少し大丈夫な気がしてきました」

「そうだろう、特にこの私の奉公人なんだぞ?」


 そこが一番不安なんだよ。

 

 奉公人になるために何でもやる、特に武力を身につけたいと言ったのは確かに俺なんだが…。


「よし、着いたぞ」


 Aに案内されたのは公園にありそうな東屋あずまやだった。屋根と柱のみで壁が無い。


「ここは?」

「薪置場だ」

「薪が一つもありませんけど?」

「そうだ、これは火急の案件だ。

 教会関係者全員の晩飯が食えなくなる、最低でも私の背丈くらいは薪を集めるように」

「火を求めている…火求、なるほど…」


 いかん…脳が勝手に現実逃避しはじめた。


「何を訳の分からんことを言っている、日没までに薪を集めてこい、集めた分だけ評価してやる」


 いやぁ…Aの背丈くらいをざっと目算すると、軽トラック1台分くらいって事になるんだが?


「…確認ですけど、薪割りではないんですよね?」

「そうだ、そもそも丸太も無いだろう?」

「…斧とか馬、荷車、貸してもらえるんですか?」

「そういう価値ある物は盗難の可能性があるから貸せない決まりだ。私も同じ事を神官になるまでは良くやっていたから私より大人のBBなら余裕だろ?そのポケットにある金で好きな手段を取れば良い」

「何故ポケットに金があると」

「気絶してた時に調べておいたんだ」

「…もしかして、治療代とりました?」

「何を言っている、私の奉公人にそんな事はしない、無料だ。私は盗賊じゃないんだぞ?

 そら、早く行ってこい」

「わ、わかりました、なんとかやってみます」


 これは、なかなか難題だぞ…。


 俺はまず斧を探しに街へ向かった。

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