第13話 教会

 


 転送後初めてのトイレを済ませた。

 晴れ渡る青い空を見て開放感を感じた事から、改めて気持ちに余裕が生まれた事を実感する。


 気分良く円形広場の門を抜けてベルフェ像の前に立つ。まだ一日しか経っていないのに酷く懐かしさを感じ、手を合わせ祈った。


『神様、先輩勇者の皆様はトイレの事からしてもかなり頑張っていると思われます。俺も早く世界に貢献して再び神様に会えるよう頑張ります』


 後ろから足跡が聞こえ、他の巡礼者が訪れたことを確認する。俺は一礼するとベルフェ像より奥に進んだ。

 

 奥も奇麗に整備されており、世界の均衡が崩れているとは信じられない秩序が見られた。


 円形広場の端あたりで小型の鐘塔しょうとうがある教会らしき建物がある。隣接して宿屋並の建物があるので、ここに関係者が住んでいるのだろう。教会の扉は開け放たれていたので神官を探して中に入った。


「すみません、どなたかいらっしゃいませんか」

「少しお待ち下さい」


 教会の奥からホウキを持った男が現れた。白の貫頭衣かんとういに白のズボン。特に装飾もなく非常にシンプルな作りの服を着ているが、気高さを感じる何かが彼にはある。おそらく20代後半くらいだろうか。


「ご用件はなんでしょうか?」

「はじめまして、BBと申します。奉公人についてのお話を伺いたいと思いこちらへ来ました」

「ビービーさん?仲介業者brokers' broker?の方ですか?」

「いえ、単純に俺の名前です」

「失礼しました、聞いたことのないお名前でしたので勘違いを。私は神官長のエフと申します。もしかしてBBさんは異国の方ですか?」

「そうです、巡礼目的で来ました。決して奉公人の斡旋業者ではありません」


 今更ながらBBという言葉が英語の略語で通用している事に気付いた。ケロリンに命名されてから違和感をこれまで感じなかったが、全種族共通言語の世界は案外日本の基準で統一されてたりするんじゃないかと邪推してしまう。


 しかしこの若さでここの神官長か、聖地の教会だからもっと規模がでかいのかと思っていたがそういうものではないんだな。


「それなら良かった、良い色のズボンを履いているので勘違いを。稀に奉公人を奴隷と勘違いして当教会に来る奴隷商人もいるのです」

「それは…どうするんですか?買うんですか?」

「買いません、開放させます」

「そんな簡単に開放しますか?」

「武力には武力を、です」


 優男から武力の話がスラリと出てきた事に内心驚く。均衡が崩れた世界の一端を見た気がする。


「なるほど、それを聞いて安心しました。ところで本題なのですが、俺を奉公人としてここで働かせてもらえませんか?」

「奉公人の仕事をご存知ですか?」

「いえ、知りませんが何でもやります。色々と教わりたい事があるのです、武力なども特に」

「…何か理由があるようですね」


 俺は教会に至るまでの経緯をかいつまんで説明し、自衛できる武力を身に着けたい事も話した。


「なるほど、事情はわかりました。大変な道中ですが、それもきっと神の思し召しでしょう。奉公人のお話ですが、こちらこそ宜しくお願いします」

「ありがとうございます」

「説明と案内に人をつけるので少しだけここでまっててください」 


 エフは教会から出て隣の建物へ向かった。


「奴隷商人か…もしかして奴隷の解放が世界平和に繋がるのだろうか…」


 この世界の均衡を保つのが目的として転送されたが、この世界がどんなものか知る事からはじめる必要があるだろう。


「お待たせしました、外に待たせていますのでそちらへ移動お願いします」

「あ、はい。宜しくお願いします」


 外に移動すると上下赤黒いシャツにショートパンツ姿の女?金髪のショートカット姿で胸の隆起は無いが、おそらく女だ。しかし、なんだ、胸騒ぎがする、この歳になってドキドキするだと?


「エー、こちらが説明したBBさんです」


 エフは俺と似た背丈だ、横に並ぶ娘の身長は165cmくらいだろうか。女性としては背が高い。


「Aです」


 え?

 …エーが名前か!


「BBです!宜しくお願いします!」


 慌てた勢いで声が思いのほか大きくなってしまったが、二人は全く気にしてない。


「BBさん、失礼ですが一度テストさせて下さい」

「テストですか?」

「何でもやるという発言に嘘がないか確かめたいのです」

「そういうことでしたら、よろしくお願いします」

「ここに呼んだAはまだ15歳ですがこの教会で私の次の実力者です、このAと模擬戦をしてもらいます」

「も、模擬戦!?」

「武力を身に着けたいBBさんには丁度良いテストになるかと思います、BBさんの実力がAより上なら教えることはありませんし」

「え、いや、ええ?」

「なに?」

「ん?あー、いや、Aさんの事ではなくて」

「ある程度の怪我は覚悟してください、怪我をしても治してさしあげますのでご安心を」

「え」

「それで二人にはこの武器を使用してもらいます」


 エフはバットくらいの長さで、先端に布を巻いた棒を俺達に手渡す。


「私の合図で試験は初まり、終わります。A少し距離をとって」


 Aが俺との間合いをあける。歩幅で10歩程か?


「手加減はしないから」

「え、ちょ」

「それではお互い構えて!」


 え?

 

 え??


 エエー!?

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