第8話 幸運に乾杯



 ウワバミに連れられて街の玄関口にある酒場へ移動する。店からの道中で蛙親子とのいきさつ語り終え、丁度酒場につく頃には日も傾き酒場は活気に満ちていた。


 酒場はコンビニつ6つ程の大きさで木造2階建だ。看板によると【宿やど&さけビギニングはじまり】とあり、宿屋でもあるらしい。

 

 ウワバミは空いているテーブルを見つけさっさと席に座ったので俺もそれにならう。テーブルや壁にメニューは無かったが、酒場の喧騒に負けない大声でウワバミは店主らしき人に注文した。


「大将‼

 こっちにエール、パン、シチューを2人分‼」

「おう、少しまってろ‼今日は人手不足でな‼」

「わかった‼」


 ウワバミと大将の態度から常連客という印象がわいたが、この世界の接客レベルが高いとも思えないのでこれが普通なのかもしれない。


「BB、この店のメニューはこの3つしかないが、好きに注文してくれ。スライムの礼だ」


 感情が顔に出る分かりやすいタイプらしい、酒が入る前から既に上機嫌だ。


「ありがとうございます」

「いいってことよ、それでだ。

 アークに来る前に無一文になる酷い目にあったらしいが、性格が良いトムリン親子蛙達に救われただろう?

 これはBB、相当運がいいと思うぞ、神様の導きかもしれんな」

「そうですね、俺がスライムにわれてからなら分け前を払わずに済んだ訳ですし、わざわざ助けてくれるなんて感謝しないと」

「違うぞBB、そもそも分け前を払う必要なんか無いだろう?

 仮に俺ならパン代として鉄銭を渡すだけに済ませるところだ」 

「鉄銭?」

「鉄銭を知らんのか?」

「え、えぇ。どうにも襲撃されてからというもの記憶が曖昧でして」


 この世界の知識については分からない事だらけだ。襲撃のショックで記憶喪失という事にしてしまって情報収集をする事にした。


「幸運はそれだけの酷いことが事前にあったからかもしれんな…

 よし分かった、その幸運を分けてもらった礼だ。

 酒が入る前に頭を使う話を済ませてしまおう、曖昧な記憶も戻るかもしれん。

 いいか、鉄銭と言うのはだな―――」


 ウワバミは無精ひげをさすりながら要領よく話を進める。


 この世界で使用されている貨幣は高い順に、


①金の延べ棒インゴット(100金貨相当) 

②銀の延べ棒インゴット(100銀貨相当)

③銅の延べ棒インゴット(100銅貨相当) 

④金貨(10銀貨相当) 

⑤銀貨(10銅貨相当) 

⑥銅貨(10鉄銭相当) 

⑦鉄銭


延べ棒インゴットは総じてコインより高い


 この7種類が主に使われているらしい。

 延べ棒インゴットは基本的に流通していないらしく、商人や職人、国の役人が扱うそうだ。また金貨は基本的に高級品を扱う店でなければ使えない通貨らしい。


 これらの貨幣は国ごとに作っていて質や重量が異なる事から価値も変わる。そのため両替商がどこの街にも一人はいるらしい。


 今回のスライムで支払われた額は10金貨相当だったらしく、ウワバミの持ってた貨幣の都合で貨幣の種類を分けて支払ったという事だ。


 蛙達に金貨7枚と銀貨20枚。

 俺には銀貨8枚と銅貨20枚。


 銀貨1枚あれば宿屋で3日程泊まれるらしく、1人分の飲食なら鉄銭でだいたい支払えるようだ。銅貨と鉄銭がこの世界のメイン通貨と考えらえる。


 宿代イメージから『銀貨=1万円』『銅貨=千円』『鉄銭=百円』あたりだろうか。もちろん物価によりその辺りも違うのだろうが、一応その感覚で覚える。


 ウワバミに貰った小袋をポケットに無造作に突っ込んでいたが、宿屋に約1か月泊まれる金だと理解すると緊張感を覚える。


 ウワバミは俺と話せば話すほどに初歩的な話になっていったというのに『余程酷い目にあったのだな』という哀れみの笑顔を向けながらも始終上機嫌に話してくれた。


 今回の取引で相当儲けるに違いない。


「ほら、待たせたな」

「丁度いいタイミングだ、大将」


 木製ジョッキに入ったエールと木製椀に蓋をするように置かれたパンが配膳される。パンを持ち上げると椀にはシチュー?が入っていた。白いシチューではなく濁った色をしており、これはシチューなのか?と思ったが、空腹からかとても旨そうに感じる。また、パンもあんなに黒いものではなく、いい感じの茶色だった。


「よし、それじゃ改めて、幸運に乾杯!」

「乾杯!」


 ジョッキをぶつけ合い、エールを流し込む。


 ぬるい!まずい!それでもいい!!


 日本のビールは喉越しに特化された酒だ。それにキンキンに冷えてるからウマイ。この世界の酒はそういう酒ではないない。しかし、酒は酒だ、酒が飲めるだけで幸せだ。


「どうだ、うまいだろ、ガハハハ!

 大将エール1つ追加だ!」


 空きっ腹にアルコールがしみる。良くわからないが涙が出てくる。


「あぁ、うまい」


 俺は涙をごまかす様に柔らかいパンとシチューを貪り食い、エールをあおった。

 シチューはの味だったが、それでもご馳走だった。



        ◇



 俺が勢いのまま1人前食べ終えた頃、ウワバミはエールを5杯飲み干していた。それでも意識が完全にあるようで、全く酔っている気配はない。


「もう満足したのか?遠慮しなくて良いんだぞ?」

「本当に腹いっぱいです。ごちそうさまでした」

「そうか」


 どうにも残念そうな顔をする。どの世界でもやはり大酒飲みは大酒飲みの友が欲しいのだろう。


「今度おごりじゃない時に酒のお付き合いしますよ」

「ハハ、言うじゃないか!その時を楽しみにしてるぞ。それで、今日はこれからどうするんだ?」

「とりあえず宿を取ろうと思います。

 さすがに色んな事がありすぎて眠くなってきましたよ。ここは宿屋でもあるんですよね?」

「ああそうだ、なら早めに取りに行く方が良いかもしれんぞ。夜が更けてくるとが増えるからな」


 ウワバミは酒場の一角に視線を向けた。なるほど、そういう事か。


「今回は俺の奢りだ、ここは気にせずに大将に話を通してくるといい」

「何から何までありがとうございます」

「いいってことよ、気が向いたらまた店に寄ってくれ」

「はい、その時は宜しくお願いします」


 ウワバミと別れて酒場の奥の大将の所に向かう。とりあえず上客だと思われたいので、3日分の宿代『銀貨1枚』を小袋から取り出しておいた。


 途中酒場の一角に視線を向けるが艶やかな女達が客を接待していた。煽情的な衣装はやはり男なら反応してしまうもので、引き寄せられる気持ちもあったが今は相手をしている余裕はない。


「お、兄者、あいつですぜ」

「ほう、確かにあのズボンと靴はそうだ」

「おーい、そこの漆黒の旦那‼ 黒パンは旨かったですかい?」


 女達の間から色黒の上半身裸男が声をかけてきた。良く見ると顔役のクエンもいる。


 どうやらまだ眠る事は許されないらしい。

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