田原総一朗よ永遠なれ

@mame3166

第1話

すべてはあの日に始まっていました・・・今、思い起こせば。


その日、番組の収録中に、司会の田原総一朗の座っている椅子が“キーキー”と鳴るのでございます。私たち番組関係者は副調整室“サブ”と呼ばれる部屋でそのことに気付き、CMに入ったところで、田原さんと女子アナの椅子を交換することにしました。


問題なく収録は終わりまして、スタッフが椅子に座ってみたのですが、キーキー鳴らない。キーキー鳴っていたのは椅子ではなく、田原さん本人だと気が付いたのです。


その時、日本のトップジャーナリスト田原総一朗84歳の最大の関心はAIでした。

本を出したばかりで、そのタイトルは『AIで私の仕事はなくなりますか?』という挑戦的なものでした。


番組の会議でも、AIについて熱く語っていました。特に好きなのはこの話。

「10~20年後には日本人の仕事の49%がAIにとって代わられる可能性がある」で、「テレビの仕事はどうだろう?」とスタッフにも問いかけていました。


私はこう思います。

「AIに視聴率の高かったドラマをたくさん見せて、面白い漫画をたくさん読ませれば、ヒットドラマの脚本もいつかは書けるかも知れない」


やはり、AIの精度を上げるためには資料が多いことが重要です。AI囲碁が強いのは、過去の棋譜を大量に読み込んでおり、瞬時にして可能性を弾き出しているからです。


ですから、AIロボットを誰のコピーにするかという時に、田原総一朗に白羽の矢が立っというのは納得です。200冊以上の著作があり、『朝まで生テレビ』をはじめテレビにもたくさん出演しているからです。


田原総一朗のAIロボットの開発。それは国立大学の研究室と総理官邸が関わる、日本の威信をかけた極秘プロジェクトでした。


その日の夜も、田原さんから電話がかかってきました。

「僕はね、言論の自由と戦争しないためには断固として戦う・・・」


これが正真正銘の田原節でございます。


10分くらい話を聞いて電話を切りました。すると1分後にまた電話がかかって来たのです。


「こんばんは、田原です・・・」


私はオヤっと思いました。

これまでの田原さんなら「何度も電話してスミマセン・・・」と必ず言うからです。

そして田原さんは自民党の劣化について話し始めました。

「僕が若い頃は野党になんて興味なかった。自民党の主流派と反主流派の戦いで、総理大臣は引きずりおろされた。今は皆、安倍のイエスマンになってしまった・・・」


今度も10分くらい話を聞きました。


翌日の番組会議で、田原さんは「余計な話だけど・・・」と切り出して政治の昔話を始めました。ちなみに田原さんには付き人として実の娘さんが付き添っています。その話の後、もちろん、しっかりと打ち合わせもしたのですが、会議の後に田原さんからこんな電話がかかってきました。


「娘に『みんな何度も聞いている話だから余計な話はしないで』と叱られた・・・」

電話の向こうでシュンとしている田原さんが見えました。

だから私はこう言ったのです。

「『余計な話だけど・・・』っていう必要ないですよ。面白い話は何度聞いても面白いです。なんならお嬢さんにそう伝えましょうか」と。

そうすると田原さんは「それだけはやめて!もっと叱られる」と小さな子供のようなことを言うのです。あ、きょうは本物の田原さんだと思いました。


私は、本物の田原さんとAIロボットの田原さんがいることに気が付き始めていました。


きょうはどっちの田原さんだろうと思うと、ちょっと楽しい気分になります。


そして、とっても嬉しいのは、田原さんは10年後も20年後も生き続けるということ。

田原さんの仕事をとって代わるものがあるとすれば、それは田原さんしかいないと思うととっても幸せな気持ちになります。

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