第23話
土曜日を挟んで日曜日。
諒真との約束の日はあっさりと来た。
時刻は10時、そろそろ諒真が来る頃だろう。
そう思ってソファに寝ころびながら本を読んでいると、来客の合図を知らせるピンポーンと言う軽快な音が鳴った。
身体を起こしてインターホンを見ると約束の相手、諒真が映り込んでいる。
憎らしいくらい爽やかな笑顔が映り込んでいて、溜息を吐きそうになりながら、悠希はロビーのドアを開けた。
一、二分ほど待つと、再び玄関チャイムがなった。
そういえばまだ、玄関の鍵を開けていなかったなと玄関のドアを開けてすぐ、悠希はドアを閉めた。
もう三回、ピンポーンと言う子気味良い音が鳴って渋々悠希は再び、ドアを開けた。
「何で閉めるんだよ」
爽やかな笑顔を浮かべる諒真に「帰れ」と一言言ってドアを閉めようとすると、諒真の背後から手が伸びてきて悠希の行動は阻まれた。
「何で閉めるの‼」
諒真とは違う、底抜けに明るい声が聞こえて悠希は顔をしかめた。
「何でお前がいるんだ?」
「そんなの楽しそうだからに決まってるじゃん」
悠希の視線の先には諒真の彼女、美月がいた。
美月のことは無視して諒真に話しかける。
「伏見、お前勉強するき、あるか?」
悠希が渋い顔をして質問すると、相変わらず人好きのする笑顔で諒真から「当然だろ」という返答が来た。
やる気はあるらしい。
愛しの彼女が隣にいる状態でどれだけ集中できるのかは知らないが。
しばらく、二人を家にいれるのを渋っていたが、美月の勢いに押されて、悠希は二人の侵入を許してしまった。
ドアを開けてすぐ、二人が驚いたような表情を浮かべた。
「「悠希、何かあったの、か?」」
「どういう意味だ?」
「あの、めんどくさがりの悠希の通路が綺麗になってる‼」
声高に失礼なことを言う美月に少しムッとなったが、実際片付けているのは汐音なので強く言い返せない。
「悠希が悠希じゃない、もしかして熱でもあるのか」
そう言って額を触ろうとしてくる諒真の手をひらりと交わす。
「たまには、片付けでもしようと思っただけだ」
それとない理由を二人に告げたが、二人は信用できないようで訝しげな表情で悠希を見てきた。
まだ、少し疑っている様子の二人をリビングに案内すると、再び驚愕の表情で見られた。
二人は散らかっているときの部屋の惨状を見たことがあるので、変化の具合に余計驚いているのだろう。
実際、過去の自分に今の部屋の様子を見せたら、二人と同じような表情を浮かべるんだろうなと思いながら、悠希はいつも座っている席に着いた。
「もう勉強するのか?」と若干嫌そうな表情を浮かべた諒真が聞いてきたので、悠希は無言でうなずいた。
悠希の正面に諒真、いつも汐音が座っている対角に美月が腰を落としたので、早速悠希は指示を出した。
「伏見、お前はこっち、雪平は俺の正面」
悠希の指示に美月が不満そうな顔で抗議してくる。
「えー、何でよ、諒真は私の隣でいいじゃん」
「お前ら、絶対にいちゃつかないって誓えるか」
真剣な表情で美月に問いかけると、美月が明後日の方向を向いて、渋々と言った様子で、悠希の指示に従った。
悠希の指示の意味を理解してくれたようだ。
二人が指示通り席に着いたのを確認するとようやく勉強会が始まった。
隣で教科書を開いた諒真が早速質問を投げてくる。
「悠希先生、ここが分かりません」
いちいち、突っ込むのも面倒で、諒真が開いているページを覗き込むと、数日前に汐音に教わった数学の公式が書いてあった。
数日前に汐音に教わった通りに説明すると、諒真が「なるほど、そういうことか」と声を上げた。
やはり、汐音の説明は分かりやすいのだろう。
悠希自身聞いた時にすんなり頭に入ってくるほど、汐音の説明は簡潔で明瞭だった。
心の中で汐音に感謝しながら、悠希は諒真からの質問対応に勤しんだ。
二時間後。
「もう、疲れた~」と美月が根を上げたところで勉強会は一時中断となった。
ちょうど、諒真からの質問がひと段落ついたこともあり、悠希たち三人はお昼休憩を取ることにした。
「悠希って勉強得意だったんだな」
コーヒーでも入れようとお湯を沸かしていると諒真が不意にそんなことを言った。
「別に得意ではないんだが」
「いやいや、教科書の内容をあれくらい理解できれば十分だろ、塾に通っているわけでもないよな」
「まあ、通ってはいないな」
恐らく、そこらの塾の講師より優秀な天使様には教わっているが。
それを言ったら恋愛大好きな美月と諒真コンビに問い詰められるのは目に見えているので絶対に口には出さないが。
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