伯爵とルイ ※ルイ視点

シランにプロポーズをした後、伯爵に一杯付き合ってもらうことにした。


「申し訳ありません、伯爵。なんだか寝つけそうになくて……」


「気持ちは分かるよ。シランの前では弱音を吐けないだろう?」


彼女には幸せにすると宣言したが、私に出来るだろうか……。その不安が押し寄せてきていた。


「帝国での自分の立場が、これほど憎く思えたことはありません。何かあれば命すら狙われるような立場で、彼女を守ることなんて出来るでしょうか……」


「それでもシランを好いているのだろう?だったら守り抜け。シランに何かあれば、私は承知しないからな」


言葉とは裏腹に優しい声音で笑いながら話す伯爵には、一生敵わないかもしれない。





私が伯爵と出会ったのは、十年以上前だ。私はまだ子供で、公爵の地位には父がいた。

父の古くからの友人だという彼は、お土産を抱えきれないほど持ってくる気の良いおじさん、という印象だった。


父が病で死去した時には真っ先に駆けつけて、私にたくさんのアドバイスをくれた。

帝国の政治に深く関わる立場である以上、彼のような国外の権力者の存在には大変助けれらた。


王族たちが王位継承権でもめ始めた時には、すぐに手を差し伸べてくれた。


「我が家に身を隠すと良い。使用人のふりをしていれば、隠れやすいだろう。ついでに……娘がいるのだが、話し相手になってくれると嬉しい。実は今、落ち込んでいてね」


伯爵の話を聞いて、どんなことであれ役に立ちたいと思った。

シランという娘のために何ができるか思い浮かばなかったが、話を聞くことくらいなら出来ると思ったのだ。


「では私が彼女専属の執事になりますよ。力になれるか分かりませんが、見守ることは出来ます。それに、幼い頃から使用人に紛れて身を隠すことには慣れていますから」


そうしてシランお嬢様の執事となったのだ。





お嬢様は最初、元気がなく眠ってばかりいた。しかし食事が摂れるようになって以降、どんどんと明るくなっていった。

元々の性格に戻ったのだろう。彼女は素直で明るく、使用人達にも好かれていた。


私も彼女の素直さに惹かれていった。帝国では、私に対して媚びへつらう者か、腫れ物に触るように接する者ばかりだった。


その点、彼女は私に屈託なく笑いかけてくれるのだ。この笑顔を壊した者が許せない、この笑顔を守りたい、そう思うようになった。




それからサイモンとかいう男に制裁を下し、彼女を自分のものにした。


伯爵の言うとおり、絶対に守り抜いてやる。





翌日、お嬢様は私と目を合わせると、照れたように顔を伏せていた。そんなところも可愛らしく思えるのは、重症だろうか。


「お嬢様、どうして目を逸らすのですか?せっかく婚約者になったというのに」


「……分かっていて聞くのですね。意地悪だわ。ルイこそ、いつまで私のことをお嬢様と呼ぶの?私は婚約者なのに……」


確かに、いつまでもお嬢様と呼ぶのは良くない。

うつむいたまま顔を赤くしている彼女の頬に手を当て、こちらを向かせる。


「そうでしたね。シラン、大好きですよ」


そう言うと、彼女はますます顔を赤くした。

あぁ、早く帝国に連れて帰りたい。そんなことを思っていると、シランが私のことを抱きしめた。



「私も大好きです、ルイ。これからよろしくお願いしますね」


彼女がいれば、どんな困難も乗り越えられる気がした。





【完】


最後までお読みいただきありがとうございます。

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追放された聖女は半妖精に拾われて優しさに触れる

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浮気されるのも、婚約を破棄されるのも、私が太ったからですって 香木陽灯 @moso_ko

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