【KAC 猫の手を借りた結果】 シャルの手

風瑠璃

借りるべき手

猫の手を借りたい。

忙しい時によく使われる慣用句で役に立たなくても居てくれた方がマシ。みたいな使い方をすると考えている。

言うことを聞かない猫が必要なほどに忙しい。

普通ならば嬉しい悲鳴だろう。

最近は不景気で、そこまで逼迫して忙しい理由なんて人不足が原因になる。それなら手を増やせよと思ってしまう。

実際に、猫の手を借りた結果なんて見当がついている。

ロクデモナイ結果にしかならない。例え、従順で頭のいい猫だとしてもあんな小さな手を借りたところで忙しさが緩和することはないのだ。



「くっそ忙しい!!」


目が回るような状況に頭を抱えたくなる。バタバタと色々なところを行ったり来たりしながらやるべきことをこなしていく。

引っ越しってこんなに忙しいものなのかとため息をつきたくなる。


仕事が繁忙期になる前に終わらせるつもりだったのに、都合が合わずにあれよあれよと時間が過ぎ去って最悪のバッティングを生み出してしまった。

近くで我関せずといった様子の飼い猫。シャルが大きく欠伸をしながら優雅に尻尾を振る。

時折、足元に擦り寄ってご飯をたかるのでこれも時間を食う要因になっていた。


「ああもう。シャルの手も借りてぇよ」

「にゃ」


手を貸してくれと手のひらを出すと、思いっきり猫パンチされた。その上、顎を差し出して早くかけと言ってくる。

いい身分だなと喉をかいてやれば、ゴロゴロと鳴らした。

癒しであったこいつが邪魔になるとは思わなかった。荷物の三割はシャルのおもちゃだし、自分で片付けろ。なんて言ってやりたい。

いや、実際に片付けの最初に言ってやった。その結果、どこからかトカゲを捕まえてきて俺の前に落としてブンブン尻尾を振っていた。

期待感たっぷりの瞳を向けられて仕方なく撫でてやったが、片付けは一ミリもしてはくれず、逆に集めたおもちゃを咥えて色んなところに投げ捨ててくれた。


猫の手なんて借りようと思っても借りれないということなのだろう。


ため息しか出てこない。


シャルは満足したようで、撫でていた手を捕まえて噛み付いてくるのでポイッと投げ捨て作業に戻る。


早く荷造りしないとと思いつつ、部屋を見渡せば物、物、物。もう日数がそんなにないのに詰め込む作業は終わらず、仕事用のスマホは三十分単位で電話がくる。あーだこーだと指示するも、頭がパンクしてしまいそうだった。


もう、いっその事全部投げ出してしまおうか。


床に倒れ込むと、目の前にシャルがやって来て行儀よく座る。

目と目が合う。もしかしたら、何か力になってくれるのではないだろうか?

そう思わせてくれる力強い瞳に、「助けてくれよ」と声をかけてしまう。数時間前に決めたことなんて宙に捨て去り、情けなくとも救いを求める。


「な〜」


一鳴きしてから背を向けて部屋をかけていく。

これで虫でも捕まえてきたら笑ってやろうと考えていると、尻尾を上機嫌に振りながらシャルが片付けた猫じゃらしを咥えて戻ってくる。


俺の前でそれを落として、「な〜」と再び声を上げる。


やっぱり手伝ってくれるわけじゃないのね。


体を起こし、仕方なく猫じゃらしを振るう。


結論。猫の手を借りようとすれば余計な仕事が増える。大人しく信頼できる人を探すことにしよう。


俺はスマホの電話帳を開いた。


助けてくれると、いいなぁ。

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