僕が僕であるが為に!!
紙巻 吸煙
プロローグ ー覚醒ー
静寂した家内に雨の音が響き渡り紅く光る月が暗闇に包まれた部屋を微かに照らし、そこに見えた血の海に浮かぶ家族の姿と1人の男の姿。
振り向いた男の口には鋭く尖った1本の犬歯が覗き、赤く光った双眸が家族の亡骸を前に放心状態な少年を捉えた。
暗闇に包まれた男は少年の腹部を腕力に物をいわせ、穿つ。
男は窓ガラスを突き破りその家を後にした。
──即死を免れた少年は緊急搬送され。
「先生、バイタル低下してます。」
「──くっ!! 仕方がない、"あれ"を持ってきなさい」
「ですが"あれ"は……」
「全責任は私が持つ! この子を死なせる訳にはいかないんだ! 急げ!!」
「分かりました」
無事に手術を終え病室のベッドに横たわる少年。
──少年の紅く光る双眸が見開かれた。
「倉元さん、検査の時間ですよ」
一人で病室を訪れた女性の看護師。
看護師は軽く状態のチェックも兼ねて質疑応答をし。
「大丈夫そうですね。何かまた不調がありましたら病院にお越しください」
「ありがとうございます。お世話になりました」
受付に向かい呼ばれるのを椅子に座って待機していた。
待機中テレビから流れてくるニュース。
この町で起きた殺人事件の内容が耳に入ってくる。
その遺体の首筋には"二つの小さな穴"があいており、夜のうちに殺害され遺体は青白い肌をしているとか。
──最近こういった事件多いな。
ニュースを見ながら待っていると受付の人に『
お腹も減ったし何か食べるか。
自宅に着くと護は夕飯の支度を始め、手際よく調理をしていく。
テーブルに並べられた豪勢な食事。
「一人で食べるには少し多すぎたかな? 残ったのはまた明日にでも食べれば良いか」
自身で作った手料理を食べ進めながらふと、事件の事を思い出す。
久しぶりに帰省し泊まる予定だったその日の夜に起きた殺人事件、たまたまコンビニに買い物をしに行っていたせいで先に殺されてしまった両親と妹。
あの時僕も一緒に……。
そんな事を考えながら一筋の涙を零す。
食事を終えると食器を洗い1人静かにソファーに腰をかけ。
さっきから何か喉の調子が悪いのかな?
長くにわたった入院生活、怪我の事もありまともな食事も中々とれずいた。
そんな生活を続けていたせいなのか、幾ら食事をしても満たされない所かなんだか"渇き"を感じる。
──渇きはやがて強くなり増していく。
異様な渇きにこのままじゃ、と駆けだすと洗面台に向かいコップ一杯の水を飲み干すも治まることはなく、直接水道から水をがぶ飲みする。
が、そんな事をしても渇きは満たされない。
おもむろに上げた自身の顔が向かいの鏡に写り。
な、なんだよこれ……。
鏡に写った自分はいつもと違っていた。
双眸は真紅に染まり口からは鋭く尖った犬歯が覗き込む、それはまるであの事件の犯人と似た姿。
その姿に驚き思わず腰を抜かす。
フラフラとリビングに戻ると鋭くなった五感が何だか懐かしくもある匂いと音を微かに感じ取り、誘われるかのようにフード付きのアウターを羽織ると自宅を後にした。
裏路地に続くであろう暗く細い道。
その先から匂う甘くフルーティで芳醇な香りが護の鼻腔を刺激する。
何とも香しい匂いに唾液が溢れ出す。
恐る恐るもその道を進み広場にでると、そこには項垂れた女性の首筋に食らいつくスーツ姿の男性が。
二人の姿があの時の光景と重なる……。
「ちっ、餌に見られちまったか」
この匂いに僕は釣られてきたってことか。
「にしてもお前変わった匂いがするな。何だか混じったてるよな匂いが」
「そ、その女の人は」
「あ?こいつは俺の餌だよ。お前と同じなっ!!」
スーツの男は地を蹴り護へと急接近すると蹴り飛ばし。
「かはっ──。なんでこんな事を」
「うっせぇな。食事を見られたんだ、どうせ死ぬだけの餌が何を聞いても仕方ないだろ」
ぼ、僕はこれで死んじゃうのか──。
でも、また家族に会えるかもしれない、このまま死ねば。
「じゃあな!」
男が護の首筋に噛み付こうとした時。
邪魔をするかのように二本の触手らしきものが地面を破壊し。
微かに視界が捉えた。
赤いパーカーに猫耳の付いたフードを被り、ショートパンツにブーツを履いた少女。
腰の辺りから赤黒い二本の尾を生やし立っていた。
その光景を最後に護の意識は途絶えていった──
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