ブランコに乗って
因幡寧
第1話
私は今、ブランコに乗っている。
この公園は草がぼーぼーで、なんの手入れもされていない。
ブランコが地面にちかずくたびに、私の足を、草が撫でていく。
風が、心地よかった。
きーこ
きーこ
きーこ
そんな音だけが、誰もいない、私だけがいる空間に響いていた。
遠くから、6時を示す音楽が聞こえる。
高校生にもなって、やることではないとわかっていた。
それでも、なんとなくやりたくなったのだ。
正面から風を受けるのがこんなに気持ちがいいとは思わなかった。
もうすぐ高校二年になるのにいつまでも慣れない学校は、いつの間にか自分に大きなストレスを感じさせていたのかもしれない。
「よっと」
勢いをつけてブランコから飛ぶ。
周りに誰もいないのをいいことに私はきれいに着地したあと、マット運動でよくやるフィニッシュポーズをした。
「よし、帰ろう!」
自分を奮い立たせるために、誰にでもなくそう声に出した。
振り返ると、一匹の猫がこっちをじっと見ていた。
……もしかして、見られてた?
あのよくわからないフィニッシュポーズまで?
そう考えると、だいぶ自分の行動が痛いものに思えてきて、私はその恥ずかしさに悶えた。
けど、見られてたといっても、所詮猫である。
冷静に考えるとそんなに恥ずかしがらなくていいじゃないか!
私は心の中でそう叫んだ。
……とりあえず、もう帰ろう。
いい加減、母親に怒られる。
公園の出口に私は歩いていこうとする。
けど、そんな私の前にさっきの一匹の猫がいた。
そこは、一つしかない出口の前。
別に威嚇されているわけじゃないのに、通さないぞ、という意志が感じられた。
……まあ、気のせいかもしれないのですが。
なんとなく睨み合う私と猫。
というかこれ、睨んでるの私だけですわ。猫、のんきにけずくろいしてますわ。
こうなれば、ダッシュである。よこを通り抜けて、ダッシュである。そしてそのまま家までごー、だ。
まあ、何度もいうけど、猫はのんきにけずくろいしてますし、もしかしたらとおせんぼ自体、勘違いかもしれませんが。
私は、走り出すために構える。
そうすると、猫はけずくろいをやめた。
私には、猫も構えているように見えた。
かまわん! やってやる。やってやるぞお。
私は、妙なテンションのまま走り出す。
そのまま猫の横を通り抜けて車一つ通っていない道路に飛び出す。
よし、何事もなく通り抜けた!
やっぱり、とおせんぼしてたわけじゃなかったのか。
よし、ならこのまま家まで……。
って、ついてきてるついてきてる。
猫、ついてきてるよ。
なんだよこれ、レースかよ。かけっこかよ。
くそぅ。
そっちがその気なら私だって!
その後、謎のレースが家につくまで続き、結局私は猫に手加減された上に負けました。
よく考えればわかるよね。猫に勝てるわけないよね。
あっ、ちなみにその猫、今はうちの飼い猫です。
あのあと、猫との謎レースをしながら帰ってきた私はこっぴどく怒られ、なにがどうなったのかいつの間にか猫を飼うことが決まっていた。
はっきり言おう。もう、訳が分からない。
でもまあ、今の所私は猫に癒やしてもらっているし、結果的によかったかな、なんておもっている。
あの出会いが偶然か必然かはわからないけど、まあ、私はブランコに感謝しようと思う。
私がブランコに乗っていなければ、きっとこの出会いは無かったと思うから。
だから、ブランコさん。ありがとうございました。
今日も私は学校に行く。帰ったら猫となにしようかな、とか思いながら。
ブランコに乗って 因幡寧 @inabanei
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