第2話 母の認知症
母に認知症の予兆が出始めたのは、様々な人の証言を勘案するに今から1年以上前、2020年の終わりごろと推測される。コロナ禍を理由にすでに私は実家への立ち入りを禁止され、電話も母が必要な時にかけるから、勝手にかけてこないでと言われ、かけてくるのを待つだけの日々になっていた。今となってはどうしようもないのだが、あの時強引にでも実家に行っていれば…という思いはいまだに消えない。
母は、太陽のような性格で、と言えば聞こえはいいが、自分の意に沿わない意見には真っ向から反論し受け入れない頑固な性格だった。その分、自己主張も強く叔父叔母の間では、異色の兄弟であった。
家族の中では、私が成人して以降、絶対的な中心人物が母である。そんな母は、もっぱら読書が趣味で、社会学系統の本を中心に様々なジャンルの本を読んでは、私たちに知識を還元するのが日常であった。
そして、もう一つの趣味が家庭菜園。家庭菜園と呼ぶには広すぎる敷地を近所の地主さんから借り、季節の野菜や果物を栽培するのが生きがいになっていた。小さいころから「花より団子」の母は、実のなる樹木を好んで植え、花が咲くと花を楽しむというより、「今年もたくさん食べられるぞ」と思うらしい。
母は認知症・・・冷静になってみると、動揺したり泣いたりと感情的になるんじゃないかと思ったが、事実を知った2022年1月、実家の家族1人1人がとんでもないことになっているがゆえに、一つ一つの事象を真に受け止め処理する気持ちの余裕が全くなかった。
驚くほど涙も出ず、逆に怒りに打ち震えながら、その場の状況を対処するので精一杯だった。
認知症の知識は、四半世紀前に祖母が認知症であったことから、実際に実家でしばらく介護をしたくらいである。当時は認知症を痴呆症と呼んでいたころ。母をきっかけに改めて介護の現場に接すると格段に介護環境が変わっていることに驚いた。
認知症、それは少しづつ症状が現れ、気づいたら後戻りできない悲しい状況になっている。母も性格上、強情なところがあり、歳とってその性格が強くなったのではと思ってしまったのも、発見が遅れてしまった要因の1つかもしれない。
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