第55話 貧民街の少女と貧民街の奇跡


 実は……私は、貧民街には一度も行った事が無かった。


 治安が悪いと言うのもあったし……そもそも貴族が足を踏み入れる場所では無かったから。


 と、言う訳で……貧民街の場所が分からなかった。


「えっと……」


「何処へ行けばいいか、分からないかしら?」


「はい……」


「はぁ……その翼は、何のためにあるかしら?」


 え!?


「ああ!空から見ればいいんだ?」


 あ……でも、飛んでいる所を見られたりしたら?


「空を見上げても、顔は見えないかしら?」


「う……大丈夫かなぁ……」


「心配ないのよ?」


 えええええ……。


 ロザリー様が問題無いと言うので、私はロザリー様と一緒に……翼を広げて、お屋敷の敷地から王都上空まで上昇した。


「高いぃぃぃいい!!」


 私は、高すぎて……下を見る事が出来なかった。


「下を見ないと、貧民街が確認出来ないかしら?」


「下を見るって言ったって……無理ぃ!」


「無理な事は、無いのよ?」


 ロザリー様に言われて……目を開けると……遠くの山に雪が積もっていた、


 あれは……国境の山脈……だったかな?


 下を見ると……あまりにも高すぎて……王都が小さく見えた。


「小さすぎて見えないよ!?」


「あそこかしら?」


 え?分かるの!?


 ロザリー様が指差したそこは……王都の外側にあった。


「外側!?」


 私は、内側しか見ていなかったんだから……分かるはずが無かった。


 ゲームにも、貧民街という描写は無かったし?


 そこは、ラムネちゃんのお墓があった丘の丁度反対側で……丘からは見えなくなっていたらしい。


 王都の外に広がる……街?


 そう……街と呼べるくらいに広い場所に……沢山の人が生活しているようだった。


「あそこに降りるかしら?」


「えええええ!?」


 私達は、貧民街の上を旋回しながら降りていった。


 そして……地上に降り立った時には……既に大勢の人が私達を……口を開けて見ていた。


「見られてるよ!?」


◇◇


 この日、貧民街に二人の女神が降臨した。


 その日は、それまでは……いつもと変わらない日だった。


 空を見た人が、それを見つけなければ。


 遥か上空から、翼を広げた天使……女神様が貧民街の周りを旋回しながら、ゆっくりと降りてくる姿を最初に見つけた人がこう言った。


「天使様だ……」


 そして……次々に空を見る人が連鎖して……。


「女神様じゃ……ああ……」


「女神様が来て下さった……」


 それは……あっという間に人々に伝わり……貧民街のほぼ全ての人が降臨してくる女神様を大きな口を開けて眺めて……拝んでいた。


◇◇


「何よ?……まだ眠いのに……」


 外が騒がしかった。


 雨を凌ぐだけの簡易的なテントは、外の音がよく聞こえる。


 うちが目覚めたのは、外が騒がしかったからだった。


 うち……伯爵令嬢のレーラ・セアライズが、こんなテントに住んでいるのには、訳があった。


 足が悪く、片目の色が違う私は、伯爵家の中でも疎まれていた。


 悪魔付きだとか……嫁には出せないから使えない娘だとか……。


 そして、ある日……私は、旅行先で捨てられた。


 私の歩くのが遅いとかで……そのまま置いていかれてしまったのだった。


 結局、捜索してくれる人もいなくて……。


 私は、見捨てられたと思った。


 それから……私は、必死に生きて来た。


 そして……たどり着いた王都の貧民街で保護された私は、風の噂で……うちの家であったセアライズ伯爵家がお取り潰しになった事を知った。


 セアライズ家は、奴隷の裏取引や、かなり悪どい商売に手を出していたので、自業自得とも言えた。


 私の兄弟達も、奴隷落ちは免れない筈だ。


 うちは、捨てられた事で……奴隷落ちにはならずに済んだ……という事になる。


 皮肉なものだと思った。


 簡易的なテント……うちの家を出ると……人だかりが出来ていた。


 貧民街の中心部に向かって……多くの人が集まって来ていた。


「何なのよ?本当に……」


 その広場の中心は見えなかったけど……翼を広げた天使?女神のようなものが飛んでいるのが見えた。


「天使様?」


「あー!もう!キリがないんだけど!?もっと範囲魔法的なものは無いの?」


「あるかしら?サポートするのよ?」


「お願い!……回復魔法最大!範囲、貧民街全域!ついでに状態異常回復に!浄化魔法!修復魔法追加!!最後に……再生魔法!!!いっけぇえええ!!!」


 姿の見えない何かが、そう叫んだ時だった。


 金色の魔力に街が包まれた。


 そして、私も含めて……優しい力が街と私を包んでいった……。


「ああ……右手が……右手が生えて来たわ!」

「傷が……癒えていくぞ?」

「おばあちゃんが!立ち上がって……元気に!!」

「目が……目が見えるわ!!」

「嘘!?ボロボロになってた服が……元通り綺麗に!?」

「女神様だ!本物の女神様が!降臨なされた!」

「寝たきりのお父さんが元気になったわ!」

「俺の呪いが……呪いが解けた!?」

「ああ、女神様!女神様は、私達を見捨てていなかったのね!」


 私の不自由だった足も……いつの間にか杖がいらないくらいに……え!?


 本当に……普通に歩ける。


 嘘!?治ってる!?


 街中が……女神様の奇跡に湧いていた。


「終わったぁ……女神じゃなくって、聖女の力なんだけど?」


「細かい事は、いいかしら?……あ……いたかしら?眼帯少女、見つけたのよ?」


「見つけるのはいいけど!?目立ちすぎだよ!?」


 空を飛んでいた白い翼の女神様が、うちの方に飛んで来た。


「ふふふ、見つけたかしら?眼帯少女」


「ええ!?うち!?」


 女神様が、うちを見つけてくれた?


 何で?どうして?


「はぁはぁ……見つけたよ?とりあえず……私と一緒に来てくれるかな?」


「は……はぁ……うん」


 うちは、良く分からなかったけど……女神様なら大丈夫だと思って即答した。


「よし!帰ろう!」


 そして……うちは、女神様に抱えられて……空を飛んだ。


「うぇ!?と、飛んでる!?」

 

「しっかり掴まっていてね?私、まだ飛び慣れてないから?」


「え!?嘘!?」


「いくよ!!」


「いやぁあああああああああ!!!」


 こうして……うちは、女神様二人に連れて行かれる事になった。


 多分……貧民街では、女神様の奇跡が起きた事で、今でもお祭り騒ぎになっている事だろう。








 読者様へ


ここまでお読みいただきありがとうございます。


貧民街では、メリッサの存在自体が奇跡です?


続きが気になると感じて下さいましたら、

☆☆☆♡にて評価コメント、応援よろしくお願いします。

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