第49話 没落貴族の少女リリーシア


 エミリィのマッサージで地獄から復活した私は、レベルだけで言うと……Sランク冒険者に匹敵する力を得たらしい……けど、全く私には実感がなかった。


 それもそのはずで……私はただ、マリィ様に付いていただけで……トカゲを踏んだだけなのだから……。


 実感なんて、ある訳が無かった。


 でも……ロザリー様は、それでいいって言うから私は気にしない事にした。


 そして、エミリィのおかげで熟睡出来た私は、翌日の学園での授業は無かった。


 二年への編入はまだ先で、一年の授業は受けなくていい事になっていたので……私は急にやる事が無くなってしまったのだった。


 となると……私は、自由時間と言う貴重な時間を手に入れた事になる。


 私は、爵位を貰った事により、王国から給金が出るようになったので、以前のように貧乏では無いのだ。


 久しぶりに、王都の街をぶらついて買い物でもしようかと思って、自由市場を覗いてみたら……私は、気になる女の子を見つけてしまった。


 その女の子は、私と同じくらいの年齢に見えて、綺麗な水色の髪の毛で綺麗な服を着ているのに、藁を敷いた小さな店で、一人で店番をしていた。


 それに、気になったのは……わざと顔に泥を塗って、可愛い顔を汚していたからだった。


 それに並べているのは、とても売れそうも無いものばかりだったから……。


「こんにちわ!何を売っているの?」


「いらっしゃい!リリーの店は、何でも売っているんです!」


 うん、意味が分からなかった。


「何でもって……それじゃ、ここに並べているのは何?」


「これは、カモフラージュのゴミです!」


「え!?」


 良かった!これ下さいって言わなくて良かった!


「何でもって言われても……」


 うーん……私は、何でもの理由を考えた。


 売り物は無いのに……何でも売っていると言う事は……まさか、何でも屋って事?


 こんなに小さいのに、体を売ってるとも考えづらい。


 多分、お手伝いなんかをして生活していると考えられた。


 顔を洗えば綺麗な女の子なのに……。


 綺麗な女の子!?


 ……この子は、貴族の子かもしれない。


 私は、貧乏男爵家にいたから……こう言う貴族の匂いには敏感だった。


「それじゃ……名前を教えてくれる?フルネームで。教えてくれたらお金は払うし、良かったら働いている理由を教えて欲しいんだけど?」


 私がそう言うと……可愛い店員さんは、俯いて泣き始めてしまった。


 え!?私……泣かせる事、言っちゃった!?


 彼女が泣き止むのを待って、泣いた理由を尋ねると……彼女は、元貴族で親はいないらしく……唯一の家族だった姉も、ひと月前に病に倒れて死んでしまったらしい。


 年は私と同じ十二歳で……貴族のままだったら、私と同じクラスになるはずだった子だった。


「リリーシア・ライルネス……リリーの名前です」


 リリーシアと名乗った女の子は、ぼさぼさの水色の髪に青い目でしっかりと私を見つめていた。


「私は、メリッサ・エイシェルト・マリーゼ……これでも、爵位持ちだよ?」


 女爵って言っても、世間一般には知られていないだろうし……。


 私は、爵位持ちって事で説明してみた。


「当主様ですか?なら、リリーを買ってください!お願いします!何でもします!」


 何でもします……か。


 私は、彼女……リリーシアを放っておく事が出来なかった。


「買った!」


「はい!」


 リリーシアは、店を畳んで準備を始めた。


「リリーシアは、どこに住んでるの?」


「案内します!」


 リリーシアの家は、王都の温泉街に面した小さなコンテナのような外見の家だった。


「ここです……狭いですけど、どうぞ?」


「うん……」


 中に入ると……四畳半くらいの狭い部屋に二段ベッドがあって、可愛い服がいっぱいかけてあった。


 部屋は一つしか無く、台所は見当たらない。

 

 ん?部屋の裏手に行く扉を開けると……部屋の奥には、お風呂が沸いていた。


「お風呂?いや、お湯が温かい……温泉?」


「はい、家は狭いですけど……温泉のおかげでいつも綺麗でいられるんです」


「外にも湯船があるけど?」


「そっちは、露天風呂ですよ?」


 う……家は小さいけど……これは、ささやかな贅沢と言えるかもしれない。


 温泉街だからこそ……お風呂だけは、いつも入れる家だった。


 ボサボサの頭は、わざとそうしているのだろう。


 本来なら、もっと綺麗な髪のはずだから。


「入ってもいい?」


「いいですけど……狭いお風呂ですよ?」


 私は、日本の家のお風呂を思い出していた。


 洗い場があって、一人しか入れない湯船……でも、ここには……いつでも入れる露天風呂まであるんだから、一人暮らしにはいいのかもしれない。


 治安さえよければ。


「リリーシアは、魔法は使えるの?」


「もちろん、使えますよ?生活魔法に炎系統と氷魔法が得意です!」


 なるほど……自分の身を守る事は出来るんだ?


 やっぱり……リリーシアは、本来なら魔法学園にいるべき女の子だった。


 リリーシアの荷物は全て私のアイテムボックスにしまって、この小さな家は、休憩所……別荘として使う事にした。


 ベッドもお風呂もあるし……誰かを連れ込む……休憩するには丁度いい。


 それにしても……リリーシアのお姉さんが亡くなったのが一ヶ月前だったのが悔やまれた。


 私だったら、何とか助ける事が出来たかもしれない。


 私が、もっと聖女として成長していれば……リリーシアの家族に、もっと早く気付いていれば……。


 でも、私は……今出来ることをするしか無かった。

 

 温泉に入るのは、後日の楽しみに取っておいて……。


 リリーシアをお持ち帰りした私は、リリーシアに浄化魔法と、念の為……状態異常回復魔法と回復魔法をかけてから、私の家でもあるマリィ様のお屋敷に帰ってきた。


 今日は、私以外は学園に行っているので……エミリィとマリィ様のお姉様に事情を説明すると……リリーシアに食事を出してくれた。


「美味しいです!うう……うう……」


 ろくに食事も出来ていなかったのか……リリーシアは、涙と鼻水を流しながら……マナー良く食事を取っていた。


 やっぱり貴族らしく、お腹は空いていても、食事マナーはしっかりしていた。


「私も、最近この家に来たんだけど、食事はこの国でも最高レベルの美味しさだから!」


「はい……ありがとうごじゃいましゅ!」


 リリーシアの顔は、私も貰い泣きする程、涙でくしゃくしゃになっていた。








 読者様へ


ここまでお読みいただきありがとうございます。


リリーシアは、しっかりしたいい子です?


続きが気になると感じて下さいましたら、

☆☆☆♡にて評価コメント、応援よろしくお願いします。


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