第97話
さてさて……パスワードを考えてみるとしましょうか。やっぱり【謎解き】の足がかりになるのは、ユーザー名の【ぼたもち】だと思うんですよね。ですが……そもそも【ぼたもち】って何なんでしょう。いや、別に知らないわけじゃないんですけど……アレって【おはぎ】と一緒な存在じゃないかなって思うんですよね。ほら……どちらも餅か餅米をあんこで包んだ物ですし。
「あの……【ぼたもち】と【おはぎ】って何が違うんです?」
聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥の再登場。
「言われてみれば、確かに……何が違うのでしょう」
「えっとね、季節が違うんだよ。【ぼたもち】は牡丹餅って書いて……牡丹の咲く季節の春だと【ぼたもち】って呼ばれるんだ。そして【おはぎ】はお萩と書いて、萩が咲く秋になると呼称が【おはぎ】に変わるみたいなんだ」
へー。なるほど……何だか出世魚みたいですね。しかし、これはいい情報なのかもしれません。二つが同一だとわかった以上……パスワードが【ohagi】の可能が出てきました。ちょっと安直でしょうけどね。
「おゆきさん、最近のパソコンって……パスワードは六文字、もしくは八文字以上だって既定されているんだ。だから……もうちょっと考えた方がいいと思うよ」
うわ! 思っていた事が顔に出ていたみたいですね。コムさんに思考を読み取られていたようです。そういえば
「その通りですな。そのパソコンのパスワードは最低でも六文字が必要です。そして記号も一つ以上、含まれていないといけません」
あまりにも苦戦している
「流石に文字数まで教えては【謎】がつまらなくなってしまいます。さあ、それでは
流石は刑事さん。いつの間にか刑事さんも
━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━
【tabara maaya】……パスワードの基本中の基本は、やはり名前のアルファベット表記ではないでしょうか。うーん、どうでしょうね。流石にこのまま入力して通るとは思えません。そうなると、やはり並べ替えでしょうか。その並べ替えの手法の事は【アナグラム】と呼ばれています。文字を並べ替える事で、全く別の言葉に出来たりするんですよ。そうですね、例えば……。
【abara atm aya】。一応は出来ましたけど、なんでしょうね……これ。アバラ・ATM・アヤ。ATMでお金を下ろしてバラ肉を買ってこいというアヤさんからの指令でしょうか。これ……他にも何か出来ないかなって思ったんですけど、かなり難易度が高くてですね。ほら、【a】の数が半端なく多いんですよ……ってよく見たら【たばらまあや】さんって名前、全部の母音が【あ】の音で構成されているみたいですね。そりゃ、難しいわけですよ。
ん? あれ? 名前が全部【あ】の音という事はですね……あ、ひょっとして、わかったかもしれない。
「これだ……解けた、解けましたよ!」
「素晴らしいですね。私は電話の子機がデスク上にあったので気づいたんですが、今……この場にはありませんでしたからね。難易度も上がっているはずなのに答えに辿り着くとは……素晴らしいです」
そう言うと、拍手で
「じゃあ、今回はおゆきさんに任せるよ」
と、晴れ舞台も譲っていただきました。それでは始めましょう。これが
「それじゃあですね……電話のプッシュボタンを見てみてください。【あ】行の文字が並んでいますよね。左上から並べると……【あかさたなはまやら * わ #】こんな感じですね。これ、今思うとパソコンのテンキーとかと上下が逆になってるんですね。まあ、それはいいとして……【あ】行の文字からは【たなから】の四つの文字が拾えます。これはユーザー名の【ぼたもち】と対応していますね。そして【たなから】を数字に直せば……【4529】です」
頷きながら傾聴している二人。なんだか気分がいいですね。話す側ってのも思ったより楽しいのかもしれません。
「しかし【4529】では……パスワードの文字数としては不適格です。だから考えました。そして気づいたんです。この事件の犯人や被害者達……その名前が【たばらまあや】だって。その名前も全てが【あ】行の音で構成されていました。すると同じようにプッシュボタン入力が可能になるんです。【たばらまあや】、それをボタン入力順に数字化すれば……【46*9718】。濁点入力の際に押さなければならないアスタリスクが、記号が一文字以上必要だという条件を満たしていますよね。と、言うわけで……
「……正解です」
一瞬の静寂の後、
「そして、私はパソコンに【46*9718】と打ち込んだのです。するとパスワード認証は成功し……ディスプレイにはデスクトップ画面が映し出されました」
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