第88話




 なかなか答えが思い浮かんできません。例の事件を参考にと言っていたくらいですし、何か関連性があるとは思うんですけど……難しいですね。うーん、さっきの事件のキーワードでも思い出してみましょう。ピアノ線、おかもち、生首、キャノピー。こんな所でしょうか。ここから料理の改良に使えそうなアイデアが出るかと言えば……出ませんね。強いて言えば生首くらいです。


 スープを作る際、豚の頭も入れるとかどうでしょう……なんだか、急に魔女の鍋みたいな雰囲気になってきちゃいましたね。ならばイモリも入れたほうが健康的な……気もします。


 そんなこんな感じで脱線した思考を進めていたら、手元の【癒やし中華】は空になっていました。だって、美味しかったんです。しょうがないですよね。


「さて、両者……食べ終わったみたいだけど、答えはわかったかい?」


 アタシは首を横に振りました。コムさんも同じく首を振っています。


「おやおや、わからなかったのかい。しょうがないねー、まったく。それじゃ……ヒントでも出してあげようか」


 と、笑顔のまま語る一丸さん。


「あの事件の時はさ……ほんと肝が冷えたんだよ。あのバカ娘が殺しをやっちまったんじゃないかってね」


 何度聞いても、最初にそこを心配するのはどうかと思うんですけどね。それにしても……肝が冷えたですか。あ……わかった。


「ひょっとして、肝……ですか?」


 アタシとコムさんは同時に解答を口にしました。要はハモったんですね。


「そうそう。あん肝をペースト状にしてね、そいつをスープに合わせたのさ。肝は栄養も豊富だし【癒やし中華】にはピッタリなんだよね、味の深みも増すしさ。そうしてウチには、新たなメニューとして【冷えた肝の癒やし中華】が加わったんだよ」


 そう言い終わると、豪快に笑う一丸さん。なるほど……肝が冷えるという慣用句、それを実際に味わってみれば……なんとも奥の深い味になるんですね。今回の物語も最初はどうなるものかと思ったのですが……実は、料理同様に奥が深い【謎】だったのかもしれません。


 うん……夏に相応しい【謎】でしょうね。


 そうして……今回の【謎】は美味しく完食されたのでした。




 第10話 『肝を冷やし中華』 了




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