第69話




「それでは【四天王】の二人目を紹介しますね。二人目は八百屋の鳴瀬菜摘なるせなつみさん。【腐女子三大あるある】の【食費を削って本を買う】【気持ち悪い笑いが出る】【待ってを連発する】【一人称が俺】の使い手です。私の家で戦利品鑑賞会を行った時、二人共『待って、待って』しか口にしなかった時を思い出します。そして彼女はデュフフと笑うんですよ」


 なんででしょう。心が痛い。殺してほしいと思うほどですが……もう死んでいます。ここが地獄か。


「ちょっと待って下さい。【三大あるある】と仰っていましたけど、僕には四つあったように聞こえたのですが……」


 アタシが痛んでいる間にも、コムさんは質問を投げかけています。


「三大が四つあってもいいんですよ。知ってます? 世界三大スープは四つあるんですよ。だから【三大あるある】が四つあろうが問題ありません」


 えっと……【トムヤンクン】【ブイヤベース】【ボルシチ】【フカヒレスープ】ですね。それはいいとして……鳴瀬さんですか、はっきり言って、濃い人ですね。しかもこれ、まだ【四天王】の二人目なんですよ。アタシ、別の意味で【待って】と、そう言いたくなってきました。


「次は【四天王】の三人目ですね。三人目は女流棋士の松田歩まつだあゆみさんです。彼女は居飛車、振り飛車の両刀を使いこなし……【攻め】【受け】のどちらも巧みな、オールラウンダー女流棋士なんですよ。ですが……趣味は腐ってます。俗に言う【貴腐人】ですね、ほら……将棋でも棋譜って言うじゃないですか」

  

 アタシ、将棋はよくわからないんですけど……まあ、そういう趣味を持っている事は理解できました。この人も濃いのは間違いないでしょう。


「ちなみにですが、先程の【攻め】【受け】は将棋用語の方ですよ。こっちの界隈での彼女は、専ら【受け】専門ですね。全てのキャラが【受け】に見えると、そう豪語しています」


 ああ、それは……かなり深刻ですね。貴腐人です。間違いありません。


「次は【四天王】の四人目、諸谷泉もろやいずみさん。彼女は不動産ブローカーで、マンスリーマンションを取り扱っていました。そして……それを略せば【ブロマンス】になります。その名の通り、彼女は……【ブロマンス】の愛好家です。そのカップリングは幅広く……【腐女子が好む七大ジャンル】の『幼馴染』『学生』『リーマン』『師弟』『主従』『年の差』『芸能界』『スパダリ』その全てに精通されていました」


 またもや早口に……七大ジャンルを八個挙げています。アタシはツッコミませんよ。あ、ちなみに『スパダリ』はスーパーダーリンの略です。


「ちょっと待って下さい。【七大ジャンル】と仰っていましたけど、僕には八つあったように聞こえたのですが……」


 今日のコムさんは便利ですね。久しぶりに感謝したくなりました。ありがとうございます。


「知ってます? 世に伝わる七不思議って、大抵は隠された八個目があるんです。そして……それを知ると死んでしまうから、八個目が伝わっていないんですよ。だから……【七大】が八個あろうが、ノープロブレムです」


 それ……学校とかで広まってる怪談によくある設定ですよね。でも、その理屈で八個目を認めるのなら、九個目だって可能でしょう。そして永遠に増え続けるのです。きっと801個くらいまで増えるんでしょうね。


「次は【四天王】の五人目、野上博史のがみひろしさん。府警にお務めの腐兄であり……さらに言えば、オネエです。腐兄ってご存知ですか? 男性でありながら私達と趣味を共有しておられる人の事を腐兄と呼ぶんですよ。でも……私は兄よりは弟の方が好きなんです。だって【ショタコン】ですから。だから、私は腐兄という用語よりも【腐弟】という言葉を推していきたいと思っているんですけど、どうでしょうか?」


 知らんがな。


「ちょっと待って下さい。【四天王】と仰っていましたけど、僕には五人いたように聞こえたのですが……」


 今日のコムさんは使い勝手が良いですね。


「知ってます? 龍造寺四天王って五人いるんですよ。ですから……【四天王】は五人以上が存在していても平気なんです」


 三大スープは知ってましたが……龍造寺四天王は知らないですね。でも……流石に龍造寺四天王が【謎】に関連するとは思えませんから、問題ないでしょう。


「さあ、出題はここまでになります。さあ、いったい誰が……隠れ【同担拒否】だったのでしょう。おそらく……その人間が【積み本】に細工をして、私を殺したんです」


 栗原さんは、急にゆったりとした口調になると……アタシ達に【謎】を提示したのでした。



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