仮題: a life of the singer singing a song
第55話
みなさんは【古事記】を知っていますか? それは【日本書紀】と共に【記紀】とも呼ばれ、日本最古の歴史書として扱われています。特に【古事記】には、日本の神話がたくさん含まれており……【国生み神話】や【ヤマトタケル】のエピソードは聞いたことのある方も多いのではないでしょうか。ところで、ヤマトタケルを祀る神社は全国各地に建っていますよね。それぞれの土地に何らかの由縁があるという事らしいんですが、その範囲が余りにも広すぎるので、架空の人物とされていたりもします。確かに、その人物が本当に実在したかどうかは……歴史学としては重要でしょう。しかし、私としては……【面白い】話として伝わっているのなら、それはそれでいいのではないかとも思ったりします。はい、私見ですけどね。
本日伺うのは、そんな物語。それは私達の【退屈】を埋める、どんな【面白い】物語なのでしょうか。
━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━
「退屈で死にそう……」
彼ら二人は【久羅下那洲多陀用幣琉】ような状態であった。【久羅下那洲多陀用幣琉】とは【くらげなすただよえる】と読む。【古事記】において、五柱の神が誕生する際に用いられた表現である。意味としては……
彼ら二人は海月のように何かを考えることのないまま、己のデスクの天板上に頭を漂わせていた。たまに動く。だが、そこに意味はない。ちなみに……海月はプランクトンを食料とするのに対し、彼らは【面白い】かつ【謎】を含んだ話を餌としている。いや……餌とすると表現こそしたが、実際にそれを食する訳ではない。ただ……そのような話を前にすると貪欲な食性を見せるのだ。
男性は
女性は
━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━
「僕、思うんだけどさ」
永らくの時が過ぎ、海月……いや、小紫は口を開いた。
「……」
おゆきさんは沈黙をもって返答とする。小紫はそれを受け取ると話を続けた。
「暴走族って【夜露死苦】って書いて【よろしく】って読ませるじゃない」
「……」
「それを万葉仮名でやったらどうなるんだろって思って調べたんだ。そしたらさ……」
「そしたら?」
話の締めを敢えて発しなかった事が功を奏したのだ。海月が釣れた、いや……おゆきさんが釣れた。
「夜露死苦が……【夜漏水来】になるんだよ」
「……」
おゆきさんはキャッチアンドリリースされたかのように海月に戻ると、広い大海原とは真逆の狭いデスクの天板に舞い戻る。そこが彼女の生息地なのであろう。そして……再び言葉を発することはなかった。
待ち人はまだ来ない。
━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━
安っぽいチャイムか入店音か、その音が狭い室内に響き渡ると……海月は勢いよく水面に跳ね上がった。
ようやくにして、彼らの待ち人の到着である。かつて海月だった者は……いそいそと扉の方へ向かうのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます