第53話



「彼は言います。『あみだくじって知ってる? ほら、紙に縦線を引いてさ……そこに横棒をランダムに加えていって、当たりが出たらラッキーってヤツだよ。当然、知ってるよね。でもさ……なんで【あみだ】って言うのか知ってる? みんな知らないんだよね。だから教えてあげるよ。【阿弥陀如来】って背後に後光を背負っているんだよ。見たことあるかな? あれが【あみだくじ】の由来なんだって。ああ、ちなみに【くじ】の由来は【串】らしいよ。他にも説があるみたいだけどね』と、笑いながら楽しそうに喋る彼は……狂気に満ちています。私は機嫌を損ねないよう、ひたすら頷きを返すしかできませんでした」


 へー、【あみだくじ】の由来って【後光】だったんですか……それは知りませんでした。それはそうと【後光】って、マンガ表現などでもよく見ますよね……集中線って言うんでしたっけ。やはり、そちらの由来も同じなんでしょうか。


「彼は饒舌に話を続けていきます。『後はさ……【くじ】って言うでしょ。それで【くじ】って音から連想したんだ。発音が【九字】と同じだなって……知ってるかな? 知らないよね、だから説明してあげるよ。【九字護身法】って言うのがあってね。昔から【九字を切る】って言って、手で印を結ぶんだよ。ほら【臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前】って。アニメとかで見たことない?』 私はアニメにはあまり詳しくないので知らなかったんですが、それでも……頷くしかできませんでした」


 アタシ、知ってますよ。歴史物の映画やドラマだったり、忍者のマンガとかでも有名らしいですね。でも……手で印を組むのはできないです。多分、コムさんなら出来るんじゃないんでしょうか。アタシはコムさんの方を見てみます。すると……コムさんの手はゴチャゴチャと動かされていました。知っているみたいですね。多分、中学2年生の時に覚えたんでしょう。


「そうです。今、小紫さんが動かしているように……彼も、その【九字を切る】動きを私に見せてくれました。そして『だからね、それにあやかって……【九字】の【あみだくじ】でチャンスをあげようかなって決めたんだ。ほら、この紙を見てよ』と言うと、ナイフを取り出したのとは別のポケットから、 30 センチ四方の紙を取り出したんです。ちょっと待ってください。具現化させます」


 瀬戸さんは、その紙を具現化させました。アタシ達は、それを覗き込みます。そこには線が後光のように……放射線状に広がっていました。その放射線は九本あります。その外側には一本一本に【臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前】の漢字が一文字づつ割り当てられていました。おそらくは、漢字一文字を選んで中央へと辿っていくのでしょう。そして中央には【当たり】があるのでしょうが……そこにはシールが貼られ、隠されています。当たり前ですよね。最初から答えが見えていては【くじ】にはなりませんし。


「見てのとおり、外側から中央へと進む【あみだくじ】です。彼はこれを見せてから『【あみだくじ】とは言ったけどさ……横線を入れると、せっかくの後光が蜘蛛の巣みたいになっちゃうから止めたんだ。さあ、君はどうするかな? 【九字護身法】の名の通り……護身できたらいいね』と、言いました。そして私にペンを渡してくれたのです。これで……どこを選ぶのかを指し示せと言う意思なんでしょう。私は震える手でそれを受け取りました。次に、もう片方の手には……その【あみだくじ】の紙が渡されたのです。そして、彼は空になった両の手で【九字を切る】動作をして遊んでいました」


 瀬戸さんはそれを言い終えると……大きく息をつきました。まさに一息ついたといった具合です。そして、それは……この物語に一段落が付いた事を意味するのでしょう。瀬戸さんは再び……妖しげな微笑みをたたえていました。


「さあ、ここで問題です。【あみだくじ】の正解……それがわかりますか?」




【イメージ図】




 者   臨  前    陣 

  \  |  |   /  

   \ |  |  /


 列――       ――皆


   /  |    \

  /   |     \

 在    闘      兵       



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