第51話



「私は遠くからお堂の様子を見ていました。ちょうど近くに木々が植えられていたので、その木陰から様子を見続けていたんです。かなりの時間が経過しました。俗に言う丑三つ時、午前2時くらいでしょうか。ふと、お堂のところに【赤いワンピース姿の女】が浮かび上がって見えたんです。ですが、私からは少し距離があったせいで……それが幽霊なのか、私と同じような目的で訪れた女性なのかの判別が付きません。ですので、私は……お堂の方へ近づいていきました」


 よくも、まあ……そんな場所に近づいていきますね。アタシだったら、その時点で逃げちゃいます。だって、例えそれが心霊じゃなかったとしても……夜中の2時にそんな所に人がいたら、普通に怖いじゃないですか。


「私は赤い橋の手前まで……様子を伺いながら、ゆっくりと進みました。まだ【赤いワンピースの女】は、そこにいます。もっと近くで見てみたい。私はその一心で橋へと足を踏み出しました。そして橋の半ばを過ぎた時……【赤いワンピースの女】は、こちらに向きを変えたんです。そして……彼女の視線は、私の方に向けられました。その視線からは凄まじい怨嗟を感じます。生者への恨みでしょうか……いや、それ以上の悪意……それは、もう言葉では表すことの出来ない……そんな視線だったんです。そして、彼女は私の方に向け……両の手で払い除けるような動作を繰り返しました。【それ以上来るな】と、伝えていたんでしょう」


 怖っ! アタシの背筋に何か冷たいものが走った気がします。思わず振り返ってみましたが……そこにはソファーの背もたれしかありません。こういう時って、自分の背中とソファーの間に【何かいる】。そんな気持ちになりません? アタシはなるんですよ。だから、その隙間を無くす為にも……アタシはソファーに大きくもたれかかって、話の続きを聞くことにするのでした。




 ━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━




「手で払い除ける動きを繰り返していた【赤いワンピースの女】は、次第に存在が薄くなっていきました。信じられないかもしれませんが、本当に……その姿は透けていったんです。そして……消えてしまいました。余りにも不思議な光景に……私は立ちすくんでいるしか出来ません。しばらくして、ようやく足に力が入るようになったので……私はお堂のところ……【赤いワンピースの女】が消えた場所へと向かいました」


 いやいや……もう帰りましょうよ。十分じゃないですか。アタシはいつしか、膝を抱える姿勢になっていました。はい……怖いんです。


「そして、お堂に辿り着きました。先程まで霊がいた場所が少し寒く感じると言うのは事実みたいですね。その場だけが……空気が違っているんです。肌の表面がピリピリと感じました。そこには間違いなく【何か】がいたのだと……身をもって理解できたんです。今までのオカルト探訪では体験できなかった事態に、私は恐怖を感じたんでしょう。視線が落ちます。すると、気づいたんです。地面に何か落ちていました。それは御札のような大きさの紙です。私はそれを拾うと……表面に書かれていた文字を読んでみました。そこには……」







「と……そう、縦書きで記してあったんです。その文字は真っ赤で……まるで血文字のようでした」


 瀬戸さんは、その紙を具現化して見せてくれました。そこには確かに【941生】と縦書きで、赤く書かれています。アタシは、その紙を手に取って調べてみました。ちょっと高級そうな和紙の触感で……確かに、御札と例えるのがしっくりきますね。それ以外には……特に不審な箇所は見当たりませんでした。


「さあ、それでは……この紙に書かれている文字、その【謎】を考えてみませんか?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る