第16話
まずは、ここまでの話をまとめてみましょうか。言い回しが古かった事もあって確認が必要ですよね。
えっと……大庭二郎政直さんは杉家に生まれて、出来の良いお子さんであったみたいです。そして杉家は嫡男が早くにして亡くなっていた。正妻も亡くなっていて、二郎さんを含め三郎さん以下はお妾さんの子供であり、家督の継承がどうなるかって話でしたね。
「よろしいですか? 『三郎以下』と仰ったと思うのですが【以下】と言うからには、何人おられたのでしょうか?」
コムさんが大庭さんに問い掛けました。
「そうですね……与三郎が末弟となります」
あ……これ、
「なるほど……わかりました。ありがとうございます」
コムさんは回答にお礼を述べていますね。なんでしょう……その回答を聞いたコムさんからは、少し余裕が感じられます。
「大庭さんは兄弟の中でも優れていたと言っていましたけど、どれくらい凄かったんですか?」
コムさんに負けじと
「そうですね、戦国の世ですので戦働きに必要となる、槍術や弓術においては兄弟に負けることはありませんでした。そして父の隠居前の事なのですが、領内で些細な合戦が起こった時のことです。父・兄弟揃って参陣した際、父と拙者のみが騎乗をして戦に臨んだのです。当時の杉の家では馬を用意するにも2匹が限界でして、父は当然のことながら、兄弟を差し置いて拙者が騎乗を許されたのは武士の誉れでありました」
おぉ……すごいですね。親の期待を一身に受けているのがわかります。
「更には拙者、杉の家が仕える殿からの覚えもよく、しばしば城内にて学問の講義を受けることが出来まして……多少なりとも漢籍の知識は得ておりましたし、和歌を詠む事もありました」
実は大庭さんって、実はすごいエリートだったりします? でも……まさか、その人がこっちの世界では健康サンダルを履いているとは思いませんよね。
「話を戻してよろしいでしょうか? 拙者は兄弟と共に父に呼ばれたのです。その際には父も隠居を考える
さあ……事件の予感がしますね。
「その予想は正しく、呼ばれた理由は家督の継承でありました。我ら兄弟は父の前に並んで着座すると深く一礼をしました。そして誰が嫡男となるのか……父の口が開かれ、それを語るのを待ったのです」
その言葉の後に少しの間がある。そして……
「家督が継承されたのは……大庭さんではなかったんですね」
急にコムさんが話に割り込んできました。
「その通りです。家督は他の者へ継承されました。では……いったい誰が継承したと思われますか?」
そう発した大庭さんの顔は……さも稀代の謀略家とでも言わんばかりに、ほくそ笑みを浮かべているのでした。
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